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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと極星の実力は如何に2

 闘技場に案内された僕たちは、ヴェインさん、ランガさん、スピカ、ウルミラを正面に準備運動中。

 正直僕とミーシャがそれなりに戦って勝てる相手だ。



 スピカとウルミラは当然だけれど、こうやって対峙してはっきりと理解する。

 極星と呼ばれる人々――弱いというわけではないけれど、どうにもこう、覇気が足りない。



 戦う意欲は感じられる。

 けれど戦いに必要な……そう、ミーシャが得意な戦闘圧、所謂闘争心が並しか感じられない。



 それに関して推測したけれど、多分……。



「それじゃあ始めようか。正直、お手柔らかに。と言いたいところだけれど」



「ミーシャが聞いてはくれませんよ」



「だよね。まあこれでも極星と呼ばれる身、簡単には――」



「神獣拳」



「え?」



 僕が驚くのも束の間、ミーシャを中心に圧倒的な戦闘圧が発生し、まるで暴風雨の中に投げ込まれたほどの闘争心の波に、世界が凍ったように静まり返った。


 否、声すら出せないほどにそこにいる極星2人も、それに連なる者たちも、面白がって観に来ている宵闇の騎士たちも、たった一度の戦闘圧解放によって理解してしまった。



 始まりの合図もなしに、ミーシャの姿が消えた。



「え?」



 ウルミラが声を上げたのも束の間、彼女が顔を上げた先、そこにはすでに聖女と呼ぶにはあまりにも荒々しい信仰(ぼうりょく)の拳。



「――っ! 『集いし星の魂の極光(アストラルフェイト)宵喰(よいぐらい)!』」



 ウルミラに伸びたその拳は、ヴェインさんが使用した星神様の加護によって弾かれた。

 けれど彼が使ったそれは、闇から飛び出てきた魔物の死体のようで、ミーシャの拳を受けて一瞬で塵になった。



 弾かれた衝撃はウルミラたちを通り抜け、観客席に伸びていったのだけれど、事前に僕が張った結界によって客席の皆さんには届くことはなかった。



 呆然とする一同、そしてやっと口を開いた星の聖女様が、僕に目を向けた。



「リョカ説明!」



 僕はクスクスと声を漏らし、手のひらを客席の方に向ける。

 その手はマルエッダさんの隣に控えているアヤメちゃんを指したもので、彼女の手にはマイクらしきものが握られていた。



「ほい、解説を任せられたアヤメよ。今ミーシャがやったのは、信仰を無理くり自己強化に使い、生命力で無理矢理それを押え、リョカ由来の力で無理矢理整えたそいつ独自の強化術だ。スピカ気を付けろ、そいつのそれはお前の強化なんか目じゃないほどの強化の幅だぜ」



 アヤメちゃんの解説を受けて尚、みんな理解が及んでいないようだった。



 そんな風に戸惑っている空気を払拭するように我らの聖女様が大きく口を開いた。



「この国に来てずっと思っていたのよ。どいつもこいつも極星極星って、そんなものがあるせいで誰もがその先にある強さに目をやらない。極星がいれば、極星が一番強い――その末がこの程度だって言うのであれば、あたしはそんなものぶっ壊すわ!」



 ケダモノの聖女の咆哮にも似た怒声に、その場の人々が体を震わせたのがわかる。



 けれど彼女の一声にいの一番に反応したのは、さすがの極星。

 ヴェインさんが剣を構え、切羽詰まったような顔をした。



「ランガ! 今まで俺たちがまみえた強敵は全て忘れろ! 桁が違う、比べようなんてない。天と地ほどの差がある――ランガ、甘かった。これは一方的な戦いだ。あまりにも理不尽な戦いだ! 舐めてかかると、死ぬぞ!」



 ヴェインさんの折れない闘争心に、ミーシャの口角が吊り上がった。

 正直幼馴染にあんな顔をしてほしくはないけれど、楽しんでいるようで何よりである。



 再度ミーシャの姿が消えたけれど、今度はヴェインさんとランガさんが2人で拳を止めた。



 そうして1人と2人による攻防が始まったのを横目に、僕は未だに呆然としているスピカとウルミラに目をやった。



「下がっとく?」



「……私、世界で極星が1番強いと思っていました」



「幻滅した?」



 ウルミラが首を横に振った。



「えっとその、上手く言えないんですが、その……極星じゃなくても、強く、なれるんだ。でも、わからないんです、どうしたらいいのか、どうやったらいいのか」



 ふむ。僕は考え込んだ末に、ミーシャたちに手を向ける。



「難しいこと考えないで突っ込んでみたら?」



「でも――」



「突っ込んでみたら、その脚の震えも収まるかもよ」



 ウルミラが脚に目を落とし、そして震えている膝に手を置いた。



「ちょ、ちょっとリョカ、いくらなんでもそれは」



「スピカも、せっかくだしやれることやったらどうかな? 今ならどんなことになっても僕が何とかするから」



 スピカが一度肩を竦めると、すぐに頬を膨らませた後、大きく息を吸った。



「ああもう! 私は戦うのが専門じゃないんだから! 『信仰こそが我がきせき(リリードロップ)』」



 スピカが放った信仰はヴェインさん、ランガさん、ウルミラに纏わりついた。

 あれが強化の信仰か。聖女のスキルにも色々あるんだなと感心する。



「ウルミラ、行きなさい!」



「はい!」



 剣を構えたウルミラがミーシャに向かって飛び出した。



「『水よ荒れ狂う滝となれ(ラッゼンア・ローレ)』」



 ウルミラが剣先から発生させた水の奔流がミーシャに襲い掛かるけれど、あの程度の水流では意味がない。

 ヴェインさんとランガさんの猛攻を片手間に、腕の一振りで水が消し飛んだ。



「ふあっ!」



 そしてヴェインさんたちを弾き飛ばしたミーシャが振り返ってウルミラに拳を向ける。



「ウルミラ避けろ!」



 けれど今の彼女ではそれは叶わない。

 さてどう動くか。僕は盾を準備しつつ様子を覗う。



 ケダモノの拳が半人前の宵闇の騎士に届く刹那、涙を瞳いっぱいにため込んだウルミラが覚悟を決めたようにその瞳に光を奔らせた。



「た、たくさんの水!」



 ミーシャの拳が届くその時、ウルミラが眼前に大量の水を発生させ、聖女の拳の速度をほんの少し遅めた。

 その際、ウルミラは尻餅をついてしまい、彼女の頭を圧倒的破壊が通り過ぎた。



 そしてウルミラは自身の両手に一瞬眼をやり、大きく息を吸うと、手元から大量の水を射出した。



「あぁぁぁっ!」



 そう叫んで彼女は頭からミーシャに突っ込んでいき、なんとそのケダモノをふらつかせた。



 何とも情けない攻撃。だけれど僕の幼馴染は、我らの聖女様は、ケダモノの聖女様はそれを笑わない。

 否、嗤っている。今この場で唯一攻撃を通したウルミラを敵と認定した。



 彼女の口元に信仰が纏う、奔る。



「42連――竜砲!」



 がおっと吐き出された竜の信仰に、両手足から射出された水の勢いでその場を離脱しようとしたようだけれど、数歩足りない。



 そんなウルミラに星の瞬き。



「ウルミラ、壁! 合わせて! 『聖女が紡ぐ英雄の一歩(リーブアルゴノーツ)』」



「――ッつ。さっきのやつ……『通行止めの水壁(リブル・アルカーレ)』」



 先ほどミーシャの拳を遅くした大量の水の壁、それをリーブアルゴノーツで包んで頑強な盾に変えたのだけれど、そこまでしてなお、ケダモノの咆哮は逸らすので精いっぱいのようだった。



「どんな威力してんのよ!」



「ジュウモンジにぶちかましたのはあれの倍以上ですよ」



「ほんっと頭おかしいわあの暴力聖女!」



 さて、戦闘に参加したスピカとウルミラ、そうなると僕は手持ち無沙汰だ。



 視線をずらすと、ウルミラたちがミーシャの相手をしているために攻めあぐねているヴェインさんとランガさんが見えた。

 少しちょっかいを出すかな。



「お、リョカが動き出すわよ」



「ミーシャさんの実力はこれでもかと見せつけられましたが、やはり彼女、リョカさんはその上をいくのでしょうか?」



「マルエッダいい質問ね。ちなみにミーシャはあんなものじゃないけれど、相手が相手だしな。それでリョカの話か? それなら――」



「リョカさんについてはわたくしが! そうですね、1つ言えることは……星に愛され、夜にも愛されたヴェインさんは、わたくしの信徒に近づけると良いですね」



「……お前やっぱ根に持ってやがんな」



 女神さまたちが楽しそうで何よりです。

 僕の話が出たからか、2人が僕に意識を向けている。



 そんなに意識されると、少し昂ぶりを覚えてしまう。



 僕と彼らの間には緊張の空間が広がっている。

 でもそれはやはり一方通行、僕からは緊張なんてあるわけがない。

 どんな舞台でも可愛く在ろうとしている僕が緊張なんかで台無しにするわけにもいかないからね。



 僕は2人に笑みを浮かべ、指を鳴らした。



「――っ! ボス!」



「え? なに……?」



「おっと出たな殺意なき最速すばらしきまおうおーら



 なんだか妙なニュアンスをアヤメちゃんから覚えたけれど、僕の素晴らしき魔王オーラはなんとか反応出来たランガさんの小剣によって弾かれた。



「あれ、初見だと本当に避けられないようで、ガイルさんとテッカさんも戦いていましたね」



「殺気を全く感じないんだよあれ。しかも恐ろしいのが、あれがあいつの弱攻撃だ。あれすら突破できないのならリョカ攻略は無理だろうな」



「あの、あれはどのスキルですか?」



「第1スキルだ」



 アヤメちゃんの言葉に、ヴェインさんが顔を青ざめた。



 僕はその場から動かずに、何度か指を弾く。

 それをランガさんが本当に紙一重で落としていく。



「すまんランガ、俺はそれを察知できない!」



「ええ、そうでしょうとも。普通ならこの手の殺しの技は、対峙して体が反応するのですが、殺気がないのがこれほど脅威だとは……」



「テッカからも実家に連れて帰れば喜ばれるって言われたよ」



「でしょうね! お館様も技を解禁するわけですよ」



「ランガさんはどう?」



「……」



 まだ踏ん切りがつかないか。

 まあこういうのは無理矢理使わせるものでもないし、もしかしたらテッカ以上に何か思うところがあるのかもしれない。

 でもこれに関してはミーシャの考えに賛成だ。

 技のせいにしたところで結局は何も変わらない。



 ならば。

 僕はランガさんに笑みを向ける。



「喝才・グリッドジャンプ」



「まさか――」



 僕が手を下ろして彼らの死角で指を弾くと、ランガさんが歯を食いしばってヴェインさんの前に躍り出た。

 そして致命傷を避けるように腕と小剣で魔王オーラを防いだみたいだけれど、彼は息を荒げていた。



「ランガ、今のは」



「出のわからない最速、さらにそれをグリッドジャンプで空間転移させ、どこから飛んでくるかもわからない状態です」



「……防げるか?」



「一歩間違えれば腕が、脚が――いや、首が飛びますね」



 僕は2人に満面の笑顔を向けても、彼らは戦き顔を引きつらせる。

 こんな可愛い子を前にしてその表情はない。



「もっとこんな可愛い女の子と踊っているって自覚を持って」



「無茶を言うな! 可愛い女の子の指先から出る物の範疇を超えている!」



「え~、範疇を超えるっていうのは、こういうことじゃ?」



 僕は2人に見えるように手を上げて、無造作にあちこち魔王オーラを放つために指を鳴らし続ける。



「まずい!」



「ク――致し方なしか。如月流飛礫一式・風見鶏」



「おっ」



 テッカとは違う如月流。きっとあの技は個人、もしくは親によって変わる技なのだろう。

 さて、ランガさんはどんな技なのか



 技を放ったランガさんが一切の疑いもなく体を動かした。

 そして彼は一寸の狂いもなく僕の魔王オーラを撃ち落とした。



 なるほど、小さな風をあちこちに飛ばしてレーダー代わりに使ったのか。

 テッカの如月流とは違って攻めの技ではないらしいけれど、技を使った時のランガさん、闘争心が漏れ出ていた。



「さてランガさんは足りない部分を技で補った。ではではこの国の最強の一角の極星さん、あなたは何をしてくれますか?」



 拳を握るヴェインさんを煽るように僕は薄く嗤ってみせる。



 セルネくんやオタクたち、ジンギくんにやるような地力を上げると言う指導ではない。

 ヴェインさんたちには地力はあるのだ、ただ圧倒的に強者との戦闘経験が少なすぎる。



 別に僕もミーシャも自分を強者だと驕りはしないけれど、ヴェインさんたちはあまりにも強いともてはやされ過ぎている。



 ヴェインさんから誘われた戦闘だったけれど、このままではジュウモンジと対峙したらきっと負けてしまうだろう。

 僕たちだって絶対ではない。



 もし彼らが敵と遭遇して負けてしまったら……やはりあまりいい気分にはならない。



 この戦いで、少しでも彼らの生き残る可能性が上がってくれるのなら。そんなことを考えて僕は彼らに手をかざすのだった。

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