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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
17章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、その宵闇に踊る。

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魔王ちゃんと朧に隠れる星

「まあ、これは」



「うん、美味いな」



「ええ、噂の魔王様は本当に何でもこなせるのですね」



「褒めてもおかわりしか出ませんよ」



 遅めの昼食になってしまったけれど、みんな満足しているようで腕によりをかけた甲斐があった。

 僕は隣でガツガツお肉を食べているアヤメちゃんの口元を拭ってやる。



「ん~う~あ~」



「アヤメ、食べ方はミーシャさんを見習うべきですよ」



「本当に静かになるからねぇ」



 黙々と食べているミーシャを横目にルナちゃんと笑っていると、スピカが何か言いたげな目を向けてきた。



「ねえリョカママ」



「スピカまでそう言う?」



「いやだって、はたから見たら完全に親子よ。それでその……」



 スピカがどうにも言い淀んでいるけれど、なんとなく心当たりがある。



「ルナちゃん、フィリアム様はお菓子が好きなんですか?」



「ええ、甘いものは大好物ですよ。ですが特に果物を使ったものは喜ぶはずです、そうですね……以前リョカさんが作ってくれたキラキラしたフルーツが乗った――」



「フルーツタルトですね。ナパージュでコーティングして艶を出した果物のタルトです」



「きっとフィリアムは喜びますよ」



 ルナちゃんが微笑みながらスピカに目を向けた。



「この騒動が片付いたら、聖女様たちを集めてお菓子作り教室でも開こうか?」



 スピカが嬉しそうな顔で何度も頷いた。

 やはりアリシアちゃんとの話を気にしていたらしい。



「スピカさんもアリシアと話したそうですね。あの子、昔からフィリアムにはお姉さんぶっていましたから、色々と助言を受けたのでしょうけれど、深く考えずに言葉通りにしてみればいいのですよ。アリシアもそうですが、あの子たちは基本的にチョロイですから」



「ちょろ……え、ええ、ありがとうルナさん、リョカもありがとうね」



 スピカがとても喜んでいる。

 するとアリシアちゃんの話が出たからか、ヴェインさんが苦笑いを浮かべていた。



「なんですかぁヴェインさん、妹と仲違いした姉が滑稽ですかぁ?」



「そんなこと一言も言っていないですよ!」



「ヴェインさん、何と言うかものすっごい弄られ体質ですね。もっとガツンと言っていいのでは?」



「女神様相手に!」



「このままじゃブリンガーナイトがツッコミ集団という――」



「止めて!」



 顔を手で覆うヴェインさんに僕はクスクスと声を漏らすと、そろそろ。と、ミーシャとアヤメちゃん以外が食事を終えていたから、本題に入ろうと面々を見渡す。



「そういえばスピカ、フィリアム様ってそんなにこっちに来ないの?」



「え? あ、そっか、リョカ知らなかったのね」



「う~ん?」



「この時期……というか、もうすぐでエクリプスエイドが起きた日だそうで、フィリアム様は魔物が発生した日あたりからこちらで過ごしているわよ。私は丁度攫われていた時だったからお迎えできなかったのよね」



 すると、食事をしていたアヤメちゃんが手を止め、ルナちゃんと一緒に首を傾げた。



「2人は知らなかったの?」



「いや聞いたこともないわね。そういやぁ10年前からこの時期になると菓子を取りに来なかったな」



「ええ、確かにいなかった気がします。けれど何も言わずに。ですか」



「ふむ……そういえば、この国って結構時間通りに行事を行ないますよね?」



「そりゃあ月が最たるものだが、星も少なかれ時を司っているからな。時縁人を選定するのはフィムだしな」



「つまり、この国の祭りや行動に関しては一切のブレもない?」



「そりゃあな」



 ということは、まったくズレもなく祭りを行ない。尚且つフィリアム様はこの時期になるとスピカの本拠地に……。



「待ってスピカ、そのフィリアム様がこっちに来た時って僕が君を助けた日だったりしない?」



「え~っと……ああ確かに言われてみればそうね」



「……慰霊碑が壊された日とも同じ?」



 ヴェインさんたちに目を向けると、ランガさんが頷いたのが見えた。



 でもどうして? 女神さまたちに喧嘩を売るのが目的なのだろうか。いや、そうとも思えない。それなら慰霊碑を壊すだけでも達成できる。

 それとやはり引っかかるペヌルティーロでスピカとジュウモンジがいた理由。



 そもそもどうしてジュウモンジはスピカを船で運んでいたのか。それと――。



「最初はスピカを取り戻すのに必死だったくせに、いやにあっさり引き下がったのも気になっているんだよね」



「それは、ミーシャさんが来たからではないですか? あの時ミーシャさんが竜砲ぶっ放した後に引いたように見えましたけれど」



「いやぁ、正直あのおっさん、アストラルフェイト以外にも何か隠し玉があるよ。まあそれを抜きにしても引く場面でもなかったんじゃないかな」



 僕の発言で、全員が思案顔を浮かべてしまった。

 しかしその沈黙を破ったのは意外にも我らの聖女様で、食事に満足したのか、皿を重ねながら手を上げた。



「はいミーシャさん」



「というかあたしが気になったのは、あいつ……なんだったかしら? ウルミラ、ポアルン攫った時にいた奴いるでしょ、なんだったかしら?」



「えっと、ガーランド=ユーステスですか?」



「そうそいつ、あいつなんであの場にいなかったのかしらね?」



「ミーシャと顔合わせしてすぐにいなくなったんだっけ?」



「普通手助けしない? あいつ自身、ボスがいても勝率は半々的なことを言っていたし、大事なら助けるはずじゃない?」



「確かに……というか、スピカの誘拐もそうだけれど、多分計画しているのはガーランドだよね」



「ええ、そのはずです。奴はこと策略にかけては抜きんでているものがありましたから」



「こうも目的がわからないと次の行動が読めないんだよなぁ。次の行動が読めれば先手を打てるんだけれど」



 僕が顔を歪めていると、ヴェインさんが手を上げた。



「今わかっているのは、とにかくスピリカとマルエッダを全力で守るしかないっていうことだね」



「ええ、目的がどうあれ聖女たちを連れ去っているのは確実ですし、現状取れる行動はそれだけ……あとはアルマリアとロイさんとエレノーラに期待するしかないかな」



「リョカさんたちのお連れの方ですよね? ぜプテンのギルドマスターが付いているとはいえ、大丈夫ですか?」



「ああ、それはまず間違いなく大丈夫ですよ。アルマリアも逃げることに特化すれば捕まえることは難しいですし、素の状態のジュウモンジならロイさんで勝てますし」



「君の仲間も随分と恐ろしいね」



「可愛くて優しくて可愛い仲間ですよ」



 けれどどうにも向こうの成果も芳しくない。何度か紙姫守の手紙を受け取ったけれど、すでに見失ってしまったらしく探索中とのことだった。



「やっぱ一度会うしかないか」



「リョカ?」



「ねえスピカ、一度フィリアム様とお会いしたいんだけれど、無理かな?」



 すると、眉を顰めたのはマルエッダさんで目を鋭くして口を開いたのが見えた。



「理由をお聞きしても?」



「……どうにも僕たちが知らないことをジュウモンジたちが知っている節があるんですよね。そしてその知らないことは多分フィリアム様が隠していることだと思います」



「あなたは、今回の件、フィリアム様に責があると?」



「う~ん、責任とかはどうでもいいんですけれどね。今回の件、僕はアリシアちゃんにお願いされてしまったわけですよ」



「死神様、ですか」



「うん、しかもあの子はわざわざ敵対している僕に助けを求めに来た。きっとそれだけフィリアム様のことを大事にしているからだと思います。それに――」



 僕は睨みつけてきているマルエッダさんに笑みを返す。



「せっかく仲良くなったスピカとウルミラがこの騒動に巻き込まれているのに、無関心は貫けないですよ」



「……」



「だからこそ、僕はこの事件を解決するためにあらゆる情報を得ないといけない。それが例え女神様が隠し通したいことだとしても、僕はそれを知らなければならない」



 マルエッダさんがフッと微笑み、頭を下げた。



「不躾なことを言って申し訳ありません」



「いいえ~、僕だってルナちゃんとアヤメちゃんのことを疑っているなんて誰かから言われたら怒りますもん」



「アヤメはしょっちゅうつまみ食いを隠すから疑っても問題ないわよ」



「お前は余計なこと言うな!」



 マルエッダさんが喉を鳴らして笑っていると、スピカが神妙な顔で顔を伏せて頷いていた。



「――はい、わかりました」



「スピカ?」



「リョカ、フィリアム様がお会いになってくれるそうよ」



「神託ですね。わたくしの方でも聞こえてきました」



「それじゃあ決まり。スピカたちの本拠地にいるんだよね?」



「うん。ヴェイン、移動手段を手配してもらってもいいかしら?」



「了解。俺たちもついて行くけれど構わないかな?」



「もちろんです。ただ、ちょっと寄ってほしい場所があるんですけれど」



 多分そこを見ないとばらけたピースが埋まらない。



 とにかく今は何でもいいから情報が欲しい。

 アリシアちゃんが言っていたことも気になるけれど、そこと紐づける欠片がまだ揃っていない。

 そしてそのピースを持っているのは確実に星神様だ。



 僕と会ってくれるということは、ある程度信用を得たのか、それともフィリアム様自身も誰かの手を借りなければならない状況になったからか。

 とにかく僕たちは次の目的が決まったのだった。



 

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