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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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魔王ちゃんと星の謀

「なるほどね、昨夜突然聞こえた泣き声はラムダ様の声だったのね」



「遅い時間だったから驚いたでしょ?」



「そうね、でもいきなり聞こえたから様子を見に行こうとしたけれど、フィリアム様が今はそっとしておいてと神託を下さって、そのまま眠りに着いたわ」



「神託便利だよね、ルナちゃんもお使い頼むと必ず神託で寄り道したこととかを報告してくれるんだよ」



「神託の使い方間違っているわよ」




 僕は今、スピカと2人でレビエンホルンを歩いていて、祭りの準備の手伝いをしている。

 ルナちゃんも連れてこようとしたけれど、スピカから女神様に祭りの準備なんてさせたらポアルンが卒倒すると言われ、手が空いている僕とスピカで行動している。



 ミーシャはルナちゃんとアヤメちゃん、ウルミラを連れてポアルンさんに会いに行った。ミーシャ曰く、ルナちゃんと顔合わせと聖女としての戦い方を水星の聖女様に教えるとかなんとか。

 ちなみにそれを聞いたスピカは僕に逃げてきた。



 アルマリアは、昨夜遅くまでラムダ様と話していたロイさんとエレノーラが起きたら行動を開始するとのことで、宿でのんびりしている。



「スピカと2人っきりは初めてだね。ミーシャと一緒だと大変?」



「大変ではないけれど、あの子私のことを鍛えようとしているのか、拳の振り方を教えてくるのよ」



「護身術は覚えておいて損はないと思うよ。ただでさえこの間攫われたばかりなんだから、1つくらいは目をくらませられる技を持っていた方が良いんじゃない?」



「それならリョカに習うわ。私どうやってもミーシャみたいには出来ないもの」



 僕はクスクスと喉を鳴らし、改めてスピカを見る。

 今日は街を回るということで、さすがに服装を変えている。



 僕も普段着ているルナちゃんがミーシャに渡した服ではなく、気分を変えてステレオタイプな魔法使い衣装セットに身を包んでいる。

 ワイシャツスカート、ソックス、胸元リボン、ローブを羽織り、三角帽子を被っている。この世界では魔法使いに決まった衣装はなく、三角帽子なんて存在すらしていない。



 そんな僕をスピカが見てきた。



「……私もそっちが良い」



「え~、スピカ似合っているよ」



 スピカにはミニスカ、パーカー、ニーソ、ブーツで、なんとなくほんのり修道女っぽい風味のある装飾品を付けており、僕のこだわりはなによりも絶対領域。



「スピカって胸だけじゃなくて太もももほんのり太い――むぐっ」



「リョカ、なにか言った? わけのわからないことを言うのはこの口からしら?」



「……悪かった、悪かったって。でも別に悪く言ったわけじゃないんだよ? 健康的で魅力的に可愛いよって話」



「むぅ」



 頬を膨らませて唇を尖らせたスピカを撫でていると、この街でお馴染みになったブリンガーナイトのギルド員が声を掛けてきた。



「リョカちゃんスピカちゃん、今日は祭りの手伝いをしてくれるんだって? いつもありがとうな」



「いえいえ、せっかくですしお祭り楽しみたいですもん。楽しむためなら協力は惜しみませんよ」



「ええ、せっかくの水星祭だもの、普段は来られないから私も張りきっちゃうわ」



「それならリョカちゃん祭りで唄ってくれよ、おじさんリョカちゃんの歌好きなんだよ」



「本当? それならちょっと歌っちゃおうかなぁ」



 鼻歌を交えながら作業し、街の人たちと交流しながら僕とスピカは祭りの準備をしていく。

 そして陽が赤らんできた頃、周りがボチボチ作業を終わらせて片づけを始めたタイミングで、スピカと街が良く見えるベンチに腰を下ろし、作っておいたクッキーの入った小箱を彼女に差し出した。

 少し遅いおやつタイムである。



「ん、ありがとう。こうやって街の人と一緒に何かやるのも久しぶり」



「というかスピカって、あんまり外に出られない人だったの?」



「そりゃあそうよ、私これでも極星よ? そう簡単に出られないのよ。それに極星はこの国にとっての切り札、一応他では真似できないとっておきがあるんだから、おいそれと外で行動できないわよ」



「アストラルフェイトね、素質の具現化ってところは僕の絶慈と似た箇所があるけれど、それを武装化となると聖剣顕現や聖騎士の武具製造の管轄か」




「……ちょっと待ってリョカ、あなたなんでアストラルフェイトのこと知っているのよ」



「スピカを攫った男が使っていたから僕なりに推測してみただけだよ」



「あの男、リョカに使ったのね。しかもそれを一発で見抜くとか、本当に頭が良く回るわね」



 驚くスピカだったけれど、僕は別のことを考えていた。

 あの誘拐犯と戦った時、星神様とは別の力を最後に使おうとしていたような気がする。確証はないけれど、最後の一撃を貰っていたらスピカを奪い返されていたかもしれない。



「リョカ?」



「ねえスピカ、君が今回のことについて話さないから僕も聞かなかったんだけれどさ、これは極星同士のいざこざって結論付けている?」



「……まあリョカなら大丈夫ね。ええそうよ、私を攫ったあの男は極星――いえ、元極星ね」



「だろうね、結構強かったよ」



「ギルド・『力こそ我らの誉れ(ヘカトンケイル)』の極星、ジュウモンジ=ミカド。ベルギルマ出身で、金色炎の勇者様が倒す前に、あの多手剛腕の怪力魔王とも引き分けたことがある実力者よ」



 テッカに聞いたら彼の素性について聞けるだろうか? 後でアヤメちゃんに頼んでも良いかもしれない。



「10年前のエクリプスエイドの後辺りから素行が悪くなったって聞いているわ。法外な依頼料、依頼人とのいざこざ、フィリアム様の格を落とすような行動の数々、私たち極星は彼と彼のギルドをダンブリングアヴァロンから追放したの」



「つまり、今回の件は他の極星への復讐?」



「私たちはそう見ているわ。リョカたちを巻き込んでしまったのは本当に申し訳なくて――」



「ねえスピカ、どうしてあの、ジュウモンジさんだっけ? あの人は人さらいをしていたの?」



「え? だから私たちへの嫌がらせで」



「嫌がらせで一般の人の人さらいはしないよ。やるんなら極星の家族とかかな」



「それは、まあ」



「そもそもスピカ、君は何で捕まっていたの?」



「何でって、私が聖女としてのお勤め……洗礼の準備をしている最中に人さらいが出たと報告があったのよ」



「ブリンガーナイトとか他のギルドへの救援は?」



「えっと、日中から堂々と人を攫って船に積み込んでいたから、数人のアストラルセイレーンの組員を連れて私が応援に行ったのよ。そもそも私のギルドが治めている街だし、聖女が主体って名目上、他のギルドが手を出しにくい街なのよ」



「そういう時、スピカは外に出て良いの?」



「いいえ、いつもはマルエッダ様の判断を仰ぐのだけれど、その時丁度ヴェインの下に行っていて、私しかいなかったから代理で指示を出したわ」



 僕は考え込む。

 わざわざアストラルセイレーンという、国の中でも重要なポジションのギルドが治める街で堂々と人さらいをした? その時点でだいぶおかしなことなのだけれど、スピカは違和感を持っていない。経験が足りないのだろう。



 そしてその経験を積んだ者が、運悪く不在――そんなわけがあるか。



「それで本当なら私たちが捕まえようとしたのだけれど、人さらいの中にジュウモンジがいたから、隠れていた私たちは撤退をしたの。そして手に負えないから急いでマルエッダ様もいるブリンガーナイト本部に向かおうとした途中で、私は捕まってしまったってわけ」



「……」



「リョカ?」



「スピカ、おかしいと思わなかった?」



「えっと、なにが?」



「ジュウモンジはわざわざ君の前に姿を現したの? ただの人さらいに極星が交じっていたら確実に大事になるのに、隠密も出来ない聖女様しかいないギルド相手に姿を現したんだよ」



「……それは」



「スピカ、ジュウモンジは人さらいが目的だったんじゃない。多分最初から君を攫うことを計画していたんだよ」



「え、でも――」



「最初のペヌルティーロでもちょっと違和感があったんだ、いくらなんでも堂々とし過ぎだって。だからブリンガーナイトが動いていたし、人さらいだってことを印象付けたいとしか思えない行動だった。裏にある本当を隠すために、あくまでも人さらいを演じたんじゃないかな」



「でも、どうして私なんて? 極星だから?」



「スピカ1人捕まえたところで何もならないでしょう。多分前提が間違っている。あれは別に極星への復讐なんて考えてないんじゃないかな」



「それじゃあ一体?」



 僕は少し考えてみる。

 どうしてスピカを捕まえる必要があるのか。

 仮に極星を捕まえたいという理由であるのなら、能力的にも捕まえやすいスピカを選んだのかもしれない。

 けれど正直、ジュウモンジほどの実力があるのなら別の極星を捕まえることも難しくないような気もする。



 じゃあスピカだから捕まったと仮定するのなら、スピカだけにしかないものは何か――。



「聖女?」



「え?」



 そもそも最初にスピカを救出した時、ジュウモンジは彼女を全力で取り返そうとしていた。最初は極星の聖女に多額の金が動くのかとも考えたけれど、よくよく考えたら1つ見落としがあったことを思い出した。



「……リョカには黙っておこうと思ったのだけれど、私が捕らえられていたあの船、サンディリーデに向かう船に偽装されていたのよ。あの国には――」



「パルミラでしょう? 人さらいの組織で様々な国とのコネもある厄介な組織」



「ええ、多分そこで取引されるはずだったのよ。大きな国になると犯罪も増えるからあなたが気にすることでも――」



「そのパルミラさ、僕の友だちが少し前に壊滅させているんだよね。しかも組員全滅って言う結末なんだけれど、あの船、どこに行こうとしていたんだろうね」



 スピカがやっと事態を把握できたのか、思案顔を浮かべる。



「ねえスピカ、今から僕が言う街に覚えってない?」



 僕はもう1つの可能性をひらめいた。

 どうにもコソコソ動いている者がいる。だからこそ、これ(・・)が偶然とは思えなかった。



 僕が幾つかの街の名前を挙げると、スピカが頷いた。



「ええ、だって今リョカが挙げた街、アストラルセイレーンの中でもスキル4以上持っている、ギルド内でも上位聖女にあたる子たちが派遣されている街よ。ここだってポアルンがいるし」



「――」



 まだ紐づけとしては弱い。

 けれど僕は考えるよりも先にスピカを横に抱く。



「ちょ、ちょっとリョカ!」



「マズい。多分ここで狙われているのはそのポアルンさんだ」



「どうしてっ」



「さっき言った街、魔物に襲われている街なんだ。上位聖女が集まっている街にピンポイントで魔物が集まっている。まだ確証もないし、確かなものではないけれど――」



 そうして僕が駆けだして辺りにアガートラームを控えさせたのだけれど、すぐに気が付く。



 足を止め、街の外に目を向ける。



「魔物――」



「え?」



 いつの間にか、レビエンホルンの周辺を魔物が囲んでいた。



「スピカ、ポアルンさんが危ない。この街、魔物に囲まれている」



「そんな、だって魔物は今日までずっとリョカやブリンガーナイトが倒して」



「突然現れたんだ。魔物とジュウモンジとのかかわりはわからないけれど、いくらなんでも出来過ぎている。嫌な予感がする、すぐに行くよ!」



「うん!」



 そうして僕は飛び出すのだけれど、突然耳に鳴る鈴の音――。



「これって」



「鈴?」



「ごめんスピカ、先にこっちに行かせて」



 僕は方向を変え、そのまま飛び出した。



 月が隠れて夜が映える(・・・・・・・・・・)

 僕はこの気配を覚えている。この鈴と同じもの(・・・・・・)を知っている。



 どうしてこのタイミングとも思ったけれど、彼女(・・)が僕に接触してきた。それならば行くしかない。



 僕は夜との再会(・・・・・)に、早足で駆けていくのだった。

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