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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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魔王ちゃんと在りし日の豊穣

「お祭り?」



「ええ、ポアルンが言っていたわ」



「ポアルン?」



 今日の依頼が終わり、みんなと合流して宿屋に戻った僕たちは、それぞれあてがわれた部屋で休んでいたのだけれど、ミーシャとアヤメちゃんが、僕とルナちゃん、そしてクマを脱いだエレノーラと一緒にいる部屋にやってきた。



 そこで今日あった出来事をミーシャから聞いているのだけれど、この街では近くお祭りが開かれるらしい。



「スピカから聞いたのだけれど、アストラルセイレーンに所属する水星祭を取り仕切る聖女らしいわよ」



 少し僕は考え込む。

 聖女ってそんなに多くの人が持てるギフトだろうか? そもそももしやアストラルセイレーンと言うギルドは聖女主体のギルド?

 そうなると、1つ疑問が生まれる。

 聖女はあらかじめ女神様の加護を持っているとこの間聞いた。けれど極星には誰もがなれるわけでは――そこで僕は思い出した。



 ルナちゃんとアヤメちゃんに目を向ける。



「どうかしましたか?」



「フィリアム様の加護、ルナちゃんたちと同じで2種類あるんですね」



 ルナちゃんとアヤメちゃんが揃って顔を逸らした。



「2種類? 加護って種類があるの」



「ほら、セルネくんたちに2人が渡した加護って僕たちと違うでしょ」



「そうなの?」



「ミーシャはそもそも使っていないからね。簡単に言うと、セルネくんたちに渡した所謂一般的な加護は条件下で発動するバフで、僕たちがもらったのはもっと根源……多分女神特権に属する加護だと――」



「リョカ、お前それ余所で言うなよ」



「はい、弁えていますよ」



「バフ?」



 ミーシャが僕の淹れたお茶を口に運んだ後、聞きなれない言葉だったからか聞き返してきた。



「強化術のこと。月神様由来の加護は月の出ている夜に傷つきにくくなる効果、神獣様由来の加護は強敵がいる時にアドレナリン……高揚状態を付与ってところかな」



「へ~、そんな効果があるのね」



「さすがリョカさんです」



「女神の加護が複数種類あるって知られると色々厄介なのよ。だから2人とも黙っておくように。エレノーラとロイも良いわね」



 小型クマになっているロイさんを撫でているエレノーラが可愛く返事をした。



「それで、その口ぶりだとあたしたちにはその女神特権由来の加護が付いているのよね?」



「そうだけれど……まあミーシャは自分で考えな。僕はもうルナちゃんの加護を織り込み済みでスキルを使っているから」



「絶慈にも使われていますよね。ちょっとびっくりしました」



「あれ作るのに丁度良かったので使用しましたよ。ロイさんがクマの側だけしか作れない理由ですね」



 すると、エレノーラに弄ばれていたロイさんがのそっと起き上がった。



『なるほど、どうやっても魂を呼び寄せられないのは、月神様の加護の影響でしたか』



「さすがロイさん、本当にスキルの扱いが上手ですね。ソフィアとオルタくんに指導してほしいくらい」



『あの2人ならば、私が指導するまでもなく高みに到達しますよ』



 友人を褒められてうれしかった僕は気を良くし、ついつい思いついたことを口にしてしまう。



「フィリアム様の加護……極星に与えられる加護、アストラルフェイトはギフトを土台にした素質の武装化ですよね」



「……リョカさ~ん、余所の女神への詮索もバツですよ~」



「一度戦っただけでそこまでわかるのかよお前」



「ガイルが欲しがりそうな加護だったので、ちょっと考えてみました」



「フィリアム、きっと今驚いていると思いますよ。やはり私たちが気になっているのか、暇を見つけては覗いているみたいですし」



 と、なると今も見ていらっしゃると。

 あまりことを急ぐつもりはないけれど、フィリアム様は今の状況をどのくらい把握しているのか。ルナちゃんたちが僕たちを積極的に頼らないということは、女神様が出張るほどのことではないという判断なのだろうけれど、どうにもきな臭い。



 これはただ単純な極星たちのいざこざなのだろうか。

 僕にはもっと大きなものが動いている気がしてならない。



 そんなことを考えていると、アヤメちゃんがウェンチェスター親子を眺めていた。



「アヤメちゃん?」



「あ~うん、その、エレノーラ」



「はい?」



「あ~そのだな」



 アヤメちゃんがどうにも言い淀んでいる。けれどルナちゃんが苦笑いでアヤメちゃんの手を握り、エレノーラとロイさんに体を向けた。



「エレノーラさんはラムダについてアヤメから聞いたのですよね?」



「はい、レベリア公国の女神様だと」



『おや、エレノーラはラムダ様を知らなかったのですか?』



「え、うん、お父様は知っていたの?」



『もちろんです。ラムダ様はレベリアの豊穣を司る女神様で、私が主催していた小麦祭りで人形劇をしていたでしょう? あれで大きな精霊さまを出していたことを覚えているかい』



「ああ、あの精霊さまたちと一緒に人々を見守ってくれているっていう大精霊さま」



『ラムダ様は通称、精霊女王と言って精霊さまたちの長に当たる女神様で、あの人形劇の大精霊さまはラムダ様が人々にお力を貸してくださる際のお姿だと言われていたんだよ』



 さっきミーシャからエレノーラがお祭りを楽しみにしているとの話を聞いた時、生前ロイさんが開いていたお祭りの話を聞いた。

 収穫した小麦をみんなで持ち寄り、その一部を精霊に献上するというお祭りらしく、金色の小麦が精霊たちの力で本物の黄金にも劣らないほど絢爛で、そして美しい景色を作っていたらしい。



 一度見てみたかったな。



『レベリアで質の良い小麦が収穫できるのはラムダ様とそしてレベリアの人々を好いていてくださる精霊さまのおかげ。平民たちに精霊使いが多いのはそういう理由があったんだよ』



「そうだったんだ」



『一応、レベリアは世界最高峰の精霊使いの国とも言われていたのだけれどね』



 ロイさんが苦笑いで言った。

 当時女神様の存在を許さなかった貴族たちは、それと同じようなスピリチュアルな存在である精霊も嫌悪していた。



 言われていた。ロイさんがそう言った。けれどロイさんが魔王になった時にはそうとは呼ばれなくなっていたのだろう。



「で、だ。そのラムダがな、もううっさいのなんのって」



「どうしてです?」



 エレノーラの問いにルナちゃんもアヤメちゃんも困った表情を浮かべた。



「いや日中にさ、エレノーラがラムダにお礼と謝罪をしたいって言っただろう? それを聞いたあいつが嬉しくて泣き出しちまったみたいでさ、さっきテルネにどうにかしてくれと言われたのよ」



「わ、わっそんな、だってエレたちは……」



『ええ、私たちは――いえ私は、ラムダ様に合わせる顔はないので』



 顔を伏せるウェンチェスター親子の手をルナちゃんが握った。



「そんなことを言わないでください。わたくしは当時ラムダが話してくれる小麦祭りとあなたたちの純粋な信仰が本当に大好きでした。でもロイさんが魔王になり祭りもなくなって、今のあなたのようにラムダが伏せってしまった時、わたくしは女神であることを呪いさえしました」



「あん時も大変だったな、ラムダは自分を責めて引きこもり、精霊たちは長を失っててんやわんや。レベリア公国はその後から小麦が育たなくなったのと魔王が生まれたのは貴族たちのせいだと戦争が起きて――」



「アヤメ」



「おっとすまん」



 クマであるにもかかわらず、顔色がどんどんと悪くなっているように見えたロイさんの背を撫でていると、アヤメちゃんが一言謝罪した。



『私は、とんでもないことを仕出かしたのですね。私は魔王になりきれなかったとリョカさんは言ってくれた。けれど、やはり魔王なのですね』



 2人とも深く顔を伏せてしまい、どうにも気まずい空気が流れた。

 するとミーシャが立ち上がったのが見えたけれど、ここはこの聖女様の出番ではないと察し、僕はミーシャを引っ張り寄せる。



「なによ」



「今は駄目。この問題は強引なやり方じゃ解決しないよ」



 幼馴染が膨れたから、僕はミーシャを撫でてやると、ルナちゃんがロイさんとエレノーラに跪くように床に膝をついた。



「ロイ=ウェンチェスター、エレノーラ=ウェンチェスター、どうか、どうかラムダを許してあげてくれませんか?」



『なっ――』



「えっとルナ様、許すも何もエレたちは――」



『そうです! 私は魔王であった時分、ラムダ様のことを頭の隅にも置いていなかった。許されるべき所業ではない。そんな私に、ラムダ様を許せと? むしろ謝罪し罰を受けるのは――』



「ロイ=ウェンチェスター、わたくしはラムダを許してほしいとお願いしています」



『――ッ!』



 ルナちゃんが珍しく強引だな。と、今はロイさんの罪を裁いているのではないと強調する月神様の横顔を見つめていると、エレノーラが小さく息を整えたのが見えた。



「ルナ様」



「はい」



「エレね、エレが死んだとき、誰かを恨むってことはしてなかったの。でも死んだ身でずっとお父様を見ていた時、どうして優しかったお父様がこんなことをしなければならないんだろうって、とってもモヤモヤしていたの」



「……ええ、わかります」



「だからね、エレはその時、どうして女神様は助けてくれないんだろうって」



『エレノーラ、それは――』



「うん、アヤメ様にも言われた通り勝手だと思う。でもエレは、他に助けてくれる存在を知らなかったから、本気でそう思ったの。でもね、こうしてリョカさんとミーシャさん、それにルナ様とアヤメ様に助けてもらって、今は本当に楽しいの。生きていないけれど、この世界にいられて良かったって」



『……』



 エレノーラが目を閉じ、祈るように手を組んだ。



「エレは正直、ラムダ様のことを知らなかったけれど、それでもあのお祭りは大好きでした。金色の小麦に、精霊さまたちの楽しそうな囁き声、一度は女神様を恨んだかもしれないですけれど、エレが一番好きだった時の記憶は、お父様とお母様、ラムダ様と一緒に過ごしたお祭りです」



『……ああ、そうだね。あの時私たちは確かに幸せだった。正直、私はまだ償いきれない罪があります。こんな身の上でラムダ様を許そうなどおこがましいにもほどがある。ですが、もし、もし許されるのであれば、私が罪を償うのを見届けてほしい。それをラムダ様の……豊神様(とよかみさま)からの謝罪と受け取ります』



 ウェンチェスター親子が祈っている。

 ロイさん、本当に高位神官だったことがよくわかる。聖女にも負けず劣らずの信仰を感じる。



 甘やかすだけの僕とは全く違うやり方で、それでも女神様を敬っている。



 そうして厳格な祈りを垣間見た僕だったけれど、ふと妙な気配を覚える。

 それと同時に、ルナちゃんが立ち上がって僕の手を取った。



「ん? は、いやあいつ――」



「アヤメ、行きますよ」



「……まあ今日は良いか」



 アヤメちゃんがミーシャの手を取った瞬間、突然床から植物が芽吹き、そこから花が咲き中から少女が飛び出てきた。



「わぁぁぁぁん! よかっだぁよがっだよぅ!」



 ロイさんとエレノーラに泣きながら飛びついて少女が2人の体に顔を埋めた。

 あれはまさか。



「わっ、わっえっと~?」



『この方はまさか……』



「ロイくんもエレノーラちゃんもごべんねぇ、あたしがぁ、あたしがもっとしっかりしていればぁロイくんもアンジェちゃんもあんあことには――」



 僕はロイさんに視線を投げると、そのまま小さく手を振る。

 きっと話したいこともあるだろう。僕たちは邪魔になってしまう。



 僕はミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんを連れてそっと部屋を出る。

 豊神様――ラムダ様の声は部屋の外まで聞こえており、僕は指を鳴らして魔王オーラとその他スキルの併用で遮音結界を張り、その場から離れる。



「リョカさん、ありがとうございます」



「いいえ。仲直りが出来たようで何よりです」



「仲直りは別に良いんだけれど、あいつ余計なことしねぇだろうな」



「余計なことって例えば何よ?」



「……リョカ、また面倒を背負わせるようで悪いわね」



「いえいえ、これも僕の責任ですから」



 申し訳なさそうなアヤメちゃんを横目に、僕は手を叩く。



「さて、僕たちは寝ようか。今日は良い日だし、景気よくウルミラを着替えさせよう」



「なんで――ああいや、いいんじゃねぇか? 俺はミーシャともう寝る」



「あら、アヤメも一緒に来たらいいのでは?」



「断る! ほらミーシャ行くわよ」



「はいはい」



 早足で逃げていくアヤメちゃんの背を追って、僕とルナちゃんはウルミラの部屋にお邪魔しに行くのだった。

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