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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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聖女ちゃんとその在り方

「へ~っ、そのリョカさんと言う方がこの間のグランドバスラーをたった1人で倒してくださった方ですか。みなが銀色の髪が映えるとても美しい女性だと話していたのですが、スピリカの護衛の方だったのですね」



「そうね、リョカは女の私でも嫉妬するくらいに見た目が良いわね。まあ少し変わった趣向を持っているけれど、気配り上手に料理上手、戦いもさすがA級冒険者と呼ばれるだけはある実力者だわ。正直極星以上の力を持っているわよ」



「極星より、ですか?」



「少なくとも、ヴェインは勝てないと想定しているからブリンガーナイトに絶対に彼女たちと敵対するなと指示を出しているみたいだし」



「ですね、こうして一緒に旅をしてきた私ですけれど、今のブリンガーナイトでリョカさんとミーシャさんを止められる人はいないと思います」



 テーブルに案内されたあたしたちは、ここまでの旅路をポアルンに話しており、彼女が感心したように頷いていた。

 リョカに興味を持ったのか、頻りに銀髪の英雄の話を聞いてきている。



「……ポアルン、リョカのこと気に入ったの?」



「だってこの街を救ってくれた英雄様よ。しかもグランドバスラーの砲撃を防いだあの盾、聖女である私よりもずっと高尚な気配を覚えたわ。さぞ名のある聖騎士様なのよね?」



 スピカもウルミラも揃って顔を逸らした。

 2人の反応にポアルンが首を傾げるけれど、意を決したスピカが口を開いた。



「あのねポアルン、驚かないで聞いてほしいのだけれど、リョカのギフトはその……えっと」



「魔王よ」



「え?」



「魔王、リョカは魔王よ。最速で至った魔王、銀色の魔王って言えば覚えはあるんじゃない?」



 ポアルンの目が点になり、その瞳をゆっくりとスピカたちに向けた。



「……ええ、本当よ。でもリョカは良い魔王よ、街を守ってくれたし、私のことも助けてくれたし」



「魔王に良い悪いもあるわけないでしょ」



「ミーシャお願い、話をややこしくしないで」



「というかフィムの奴は何も説明してないのかよ」



「え、フィム?」



 アヤメが割って入ってきたことで、さらに困惑したような顔のポアルン、一々説明が面倒ねこれ。



「フィリアムのことよ。あの末っ子女神、相変らず意味深なことだけ言って大事なこと言い忘れるんだからな」



「アヤメさん、今あなたが話すともっと大変に……」



「ねえスピリカ、さっきから何気に気にはなっていたけれど、このどうやっても逆らってはいけない可愛らしいお嬢様はどこのどなたかしら?」



「あの、その……驚かないで聞いてね? このアヤメさん――アヤメ様は、その、神獣様なのよ」



「……」



 ポアルンが顔に笑顔を張り付けたまま、手に持ったカップを小刻みに震わせ始めた。



「ちなみにリョカと一緒にいるルナは月神よ。さすがにフィムから聞いているでしょ?」



「あれ、ポアルン?」



 アヤメの言葉を受け、やっと手の震えを止めたポアルンの様子がおかしく、スピカが彼女の目の前で手を振るけれど、どうにも反応がない。



「き、気絶していますね。そりゃあ目の前に女神様が現れて自分が淹れたお茶飲んでいたらびっくりしますよね」



「びっくりどころではないわよ。ポアルンって結構女神様に傾倒しているところがあるから尚更でしょう」



 あたしは立ち上がり、気を失っているポアルンの背後に立つ。



「ちょっと待ってミーシャ何する気」



「起こすのよ。がおっ」



 最小まで抑えた竜砲をポアルンの背後から当てると彼女が浮き上がって壁に激突した。



「ミーシャぁ!」



「はっ! 私は一体――」



「ポアルン様無事でしたぁ!」



 壁に突っ込んだポアルンに駆け寄ってリリードロップを使用するスピカを横目に、あたしはお茶菓子を口に運ぶ。



「本当お前はマイペースね。よその聖女に喧嘩売っても全く動じないんだものね」



「喧嘩なんて売っていないわよ、ただ起こしただけ」



「ミーシャお姉ちゃん、今の起こし方格好良い。エレもやってみたい」



「エレノーラ駄目よ! そこの脳筋聖女は後で説教よ!」



 あたしに周りにはどうして口うるさいのが集まるのかしら。エレノーラを撫でながらそんなことを考えていると、スピカとウルミラ、ポアルンが席に戻った。



「頭は冷えた?」



「肝も冷えましたね」



「それはなにより。別に女神が傍にいようがいなかろうが、人の世であたしたちがやることは変わらないでしょう? 一々驚いていたらきりがないわよ。あんたたちは神獣様なんて言うけれど、アヤメなんて駄々っ子のケモっ子よ」



 アヤメを膝に乗せ、獣の耳を巻き込んで彼女の頭に顎を置く。



「や~め~な~さ~い~よ~」



「ルナも貴族令嬢よりも品の良い可愛いってだけの女の子よ」



「だけって言うなお前。これでも上に戻ればそれなりの仕事してんだよ」



「リョカのクマで事足りるんでしょ?」



「あいつが異常なのよ」



 ぷくぷくと可愛らしく膨れるアヤメを軽く抱きしめ、視線をポアルンに向ける。



「え~っと、女神様がついている魔王なら、その、問題ない、のかしら?」



「そういうことよ。というかこの国の人って女神のことを怖がり過ぎよ、この子たちともっと会話しなさい」



「俺お前との初接触のこと忘れていないからな? 女神の領域に殴りこんできたのは後にも先にもお前だけよ」



「肉体言語は言葉よりも心が伝わるものよ」



「お前俺のこと殺すって言ってたじゃない!」



 あたしは目を逸らしてお茶を口に運んだ。



「まあ、そのフィリアムともちゃんと話した方が良いわよ。女神は人に仇なす者じゃないし、話を聞く限り甘えん坊だと思うから寂しがらせないようになさい」



「これはミーシャの言う通りだな。フィムの奴はルナに憧れている面があるから頑張って女神の仕事をこなそうとするけれど、実際は甘えたくて仕方がないはずよ。近くにいるお前たちが汲んであげなさい」



「え? アヤメ様、エレも抱っこしていいんですか?」



「良いわよ、あなたもこっちに来なさい」



「何でお前が勝手に決めるのよ」



 アヤメとエレノーラの2人を膝に乗せて頭を撫でる。

 そんなあたしを見ていたグエングリッダーの3人が呆然としていたけれど、ポアルンが小さく笑い声を漏らし、スピカに目をやった。



「スピリカ、あなた大変な旅路を歩んできたのね」



「ええ本当に。でも貴重な体験もしたし何より楽しいし、フィリアム様への報告が待ち遠しいわ」



「うん、こんなに明るいスピリカを見たのは久々だもん。最近は聖女の仕事でろくに休んでもいなかったんでしょ」



「あ~……ええ、苦ではないのだけれどやっぱり忙しかったわね」



 ポアルンがクスクスと笑い、あたしに向き直った。



「聖女ミーシャ=グリムガント様、噂に違わぬ剛の聖女様――私の友人をここまで守ってくださりありがとうございます。少し口うるさいところもありますが、どうかこれからも彼女をよろしくお願いいたします」



「ええ任せなさい。でもあんたもあたしを頼りなさい、スピカも激務ならあんたもそう変わらないでしょう。息抜きくらいなら付き合ってあげるわ」



「はい、それじゃあたくさんお仕事を回しましょうかね」



「それで空いた時間をお茶会に当てなさい。次はリョカとルナも連れてくるわ」



 嬉しそうに微笑むポアルンを見て、あたしも満足して頷く。



「あ、あの、私もルナ様とアヤメ様を撫でたり抱っこしたりしても」



「良いに決まっているでしょう。ほらこっちに来てアヤメを撫でたらいいわ」



「お前だから勝手に――」



 あたしの言葉にポアルンが早足でやって来て、アヤメに頬ずりまでして撫で始めたのを横目に、あたしは残っているお茶菓子を食べ始める。



 女神への接し方はそれぞれだけれど、やはり退屈でいるよりはこうして一緒に茶を飲みあう方がこの子たちは合っているのではないかと最近では思うようになった。

 もちろん畏怖の念を持つのは間違っていないはずだけれど、もうあたしには出来そうもない。



 そんなことを考えながら、あたしは人々と女神の在り方について想いを馳せるのだった。

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