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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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魔王ちゃんと血冠魔王とその臣下

「あら?」



「ルナちゃんどうかした?」



「いえ、エレノーラさんもエクストラコードが使えるのですね」



「あ~……向こうでクマ脱いじゃったか」



「クマって脱げるんですか~?」



 魔物たちをあらかた片づけたところで、僕たちはおやつ休憩をとっていた。

 地べたにレジャーシートを敷き、今朝作った焼き菓子とお茶を囲んで僕たちはのんびりしていた。



「エレノーラはね。ロイさんも魂半分戻ってくれば多分同じこと出来るよ」



『……いえ、あれは私の罪です。金輪際、こちらに戻すことはないでしょう』



「でも、魂半分だけだと大分弱体化しちゃってるでしょ?」



『ええ、ですが多少弱くなったところで、あなたに仇なす者を倒すのには事足ります。それとも、私では力不足ですか?』



 本当このクマ、見た目愛くるしいのに格好いいセリフを吐き出すなぁ。

 奥様がいるにもかかわらず女性に囲まれていたというのも頷ける。



「ううん、とっても頼りにしています。というか僕本当ロイさんに勝てたよね。竜よりも強いし、ガイルたちが戦ったヤマトよりも強いよね」



『あの時の私は、欲に完全に囚われていましたからね。自分のことしか考えられない者に、戦場など見渡せるはずもありません。今考えれば、リョカさんが私の血思体をあの貫通力のある絶気で貫かれた時、本体ではなく分体を凝血体で強化し、私は隠れていればよかったのですけれどね』



「それやられていたら負けていたなぁ」



 フッと笑うロイさんに、僕は苦笑いを浮かべると、隣のアルマリアが鼻で笑った。



「魂戻してもらった方が良いんじゃないの~? これから先、あなたがいつまでも調子に乗れるわけじゃないし~」



『……ああ、あなたは確かにリョカさんに仇を成すことがないので敵ではないですが、弱体化して尚且つ魔王のスキルを使わなくても勝てますから、まったく勘定に入れていませんでしたよ』



「あ~?」



『先ほどの勝負はリョカさんの参入でなあなあになりましたが、決着を付けてもいいのですよ? まああなたが泣いて降参したくないのであれば別に構わないのですが』



「……ちょっと付き合ってあげるよ。私も片手間だけれどね」



 本当に仲良いなこの2人。

 とはいえ、今はロイさんに聞きたいこともあるから少し勝負は預けてもらおう。

 僕はアルマリアの口に焼き菓子を放り込むと、手を叩く。



「はいはい、ちょっと待って」



「む~」



『すみません』



「別に怒っていないよ。ロイさんはアルマリアにやるように僕にも接してもいいんだから、もう少し我が儘を言ってよね」



 どこか困ったような雰囲気のロイさんにウインクを向けるけれど、あまり効果はないようだ。僕も彼からすると小娘の部類なのだけれど、どうにもロイさんの言う恩というものが大きいらしい。



 気にしなくてもいいのだけれど、きっと気にする人だから今のロイさんがあるわけで、まだまだじっくりやっていこうと僕は肩を竦める。



「ああそうだ、ロイさんはエクストラコードって知っていた?」



『いえ、私もカナデ嬢に聞くまでは聞いたこともありませんでした。確かに、私が今まで出会った魔王もそうでしたが、リョカさんを除き、家臣を得ようと考える者すらいなかった』



「他の魔王のことは知らないけれど、どうあっても1人だと大変じゃない? 部下はいた方が良いと思うけれど」



『部下がいる魔王はいましたよ。しかしそれは脅していたり、弱みを握っていたり、力で服従させたりと碌な方法ではありませんでした』



「ロイさんの言う通りです。今――ここ数百年、魔王に共感する人もいなければ、魔王に自ら力を貸そうとする人は……いえ、ロイさんにはいましたよね?」



 と、ルナちゃんがロイさんに言うのだけれど、本人は覚えがないのか首を傾げる。



「ゲンジですよ。彼、好きであなたの下にいましたよ」



『……ああ、ゲンジ、ですか。あれは哀れな男でした。奇妙な友情、みたいなものは確かにありましたね』



 ルイス=バング、フェルミナ=イグリースの仲間で、ロイさんに破れたルイスを殺したのがゲンジ=アキサメ、鍵師と正体不明のギフトを使う、昔の英雄だ。



『ルイスが私を倒しに来た時、私はまだリョカさんたちと出会った時ほど凶行に及んでいなかった。勇者が攻めてきた時は生き残る戦いをしていたので挙って来る勇者たちは倒して突き返していたのです』



「ルイスさんを殺そうとしていなかったの?」



『正直に言うと、あの時の私では不可能でした。ルイス=バング、光の勇者……彼がどう思っているかは知りませんが、私が戦った勇者で最も強かったのは彼です。しかし私が何とかルイスに勝ち、彼らが撤退していく様を見届けている時に、ゲンジが凶行に及んだ』



 ゲンジ=アキサメ、僕は一度も言葉を交わしていないけれど、相当な闇を抱えていたらしい。



『私との戦いですでに傷ついていたルイスは成す術もなくゲンジに殺されて、ゲンジは私に言ったのです。勇者の首を手土産に、俺を配下に加えろと』



「あのジジイ、耄碌しているとは思っていたけれど~、もう最初から狂ってた感じだね~」



『そんな浅い感情だけにとどまらないのがゲンジ=アキサメですよ。あれと戦ったあなたならわかると思いますが、あれはフェルミナに囚われていた。稀代の大聖女、傾国の麗人、女神に愛されし唯一無二――正直あの場で最も恐ろしかったのは、絶望に溺れたルイスでも、狂気に飲まれたゲンジでもなく、あの場面ですらゲンジにも憐れみを向けていたフェルミナ=イグリースです』



 ロイさんが珍しく顔を逸らして、当時のことを思い出したくもないのか軽く頭を振っていた。

 ルナちゃんの手前あまり突っ込んだことを聞くつもりはないけれど、一体どのような人だったのかと思案すると、ロイさんが話を戻すとゲンジのことを話してくれる。



『彼とは長い付き合いでしたから、それなりに理解……推測することは出来たのですが、やはり底が見えないです。ですが、私はこのことに関しては、ゲンジだけではなく、ルイスも道を外していたのならそんなに変わらない道を歩んでいたのではないかと思います』



「……流石ですね。あの2人に関しては、多分あなたの推測は間違っていないです。フェルミナに関しては、聖女に、寄り過ぎてしまったからですね」



 どこか寂しそうなルナちゃんに、ロイさんが近づき、手からポンという音を鳴らして小さなクマのぬいぐるみを召喚した。

 随分器用なことするな。あれ、僕の絶慈の側だけを真似て生成している。



「ありがとうございます。ロイさん、今は本当に素敵ですよ」



『これからもそう努めていきます。クマの身ではありますが、微力ながら女神様の力になれればと思います』



 微笑むルナちゃんと丁寧に頭を下げるクマの構図、とても写真にして残したい絶景であるけれど、その横から悪戯っ子な小さな魔女が顔を出した。



「え~、もしかしてルイスさんたちのごたごたの時、あなた一切関わっていないどころか周りから無視されていたの~? 魔王なのに? 勇者倒した魔王なのに――」



『……』



「あぁぁぁっ!」



 ロイさんに頭を握られたアルマリアが可愛らしく叫んでいる。

 本当にこの子たちは。



「それで結局、ゲンジさんはエクストラコードを使っていたの?」



『いえ、まったく覚えはないですね。あれのギフトは鍵師と揺蕩う影法師ディメンジョンシャドーの2つでしたが、それ以外は』



 まったく聞き覚えのないギフト、ルナちゃんに目を向けると首を傾げている。



「ディメンジョンシャドー?」



『ええ、私の下に来てから解放されたギフトだったのですが、なにかおかしなことでも?』



「……正直、わたくしも全てのギフトを把握しているわけではないのですが、少なくともディメンジョンシャドーのスキルに、影がスキルを使用できるというスキルはなかったはずですよ」



『なんですかその理から外れたようなスキルは』



「ゲンジさんが使っていたってミーシャが言っていたよ。影が門を開いて同時召喚をするって」



 揃って首を傾げていると、ルナちゃんが手を叩き、アルマリアの頭に触れた。



「見た方が早いですね」



 ルナちゃんが僕の膝に乗り、片手でアルマリアを、もう片方でロイさんに触れた。



 そして目に映ったのはミーシャとガイル、テッカとアルマリアがゲンジさんと戦っている光景で、確かに鍵師の門を複数開いていた。

 そしてゲンジが『揺らぎ真似る者(エンプルアルコーン)』というスキルを使用した。



 ルナちゃんがその映像を止めると、首を横に振る。



「これですね。こんなスキル、わたくしは見たこともなければ聞いたこともありません」



「これがそのエクストラコードだったんですか~? すっごい厄介なスキルだったんですけれど~、あなた由来のスキルだったんですね……謝罪して」



『嫌ですよ』



 小動物のように吼えるアルマリアに、ロイさんが小さなクマを何体もけしかけている光景を見ていると、そのロイさんが考え込んだのが見えた。



『しかし、エレノーラにエクストラコードですか』



「うん、正直あの子を戦わせたくないし、あんまり強力なスキルを所持するのは反対なんだけれど、でもあの子どんなスキルなのか教えてくれないんだよなぁ」



『そうなのですか? 私から聞いておきましょうか?』



「いやそれがさ、お父様に反対されるから嫌って言われて」



『私に?』



「それとちょっとズルいし、僕にも悪いから言いたくないと」



 僕とロイさんで頭を捻っていると、優雅にお菓子を口に運んでいたルナちゃんがお茶を飲んだ後、クスクスと喉を鳴らした。



「エレノーラさんは、きっと守られるだけなのは嫌なのでしょうね」



「でも、あの子はまだ小さいし」



「彼女は、謙虚な信徒であり信義に厚いロイ=ウェンチェスターの娘ですよ。父であるあなたがリョカさんやわたくしに誠心誠意努めてくれている背中を見ているのです」



『……』



「エレノーラさんは素直でとてもいい子です。心配するのはわかります、あの子を部屋に閉じ込めておきたいほど可愛らしい子なのもわかります。ですが、どうか彼女の決意と優しさを無碍にするようなことはしないであげてくださいね」



 僕とロイさんは顔を見合わせ、小さく顔を伏せた。

 これはルナちゃんの言う通りだ、エレノーラもロイさんと同じく、散々僕に感謝していると話していた。

 礼を言われることではないと僕が言っても、この2人はそうではない。どんなことでも尽くしてくれようとする。

 それなら僕は、どのような力を得ようとも彼女を信頼し、誤った力の使い方をしないように導くべきではないだろうか。



『……そうですね、エレノーラはとても強い子です。世で恐れられていた血冠魔王に、一言いいたいがためにギフトを得た自慢の娘です』



「だねぇ、大事大事しているだけじゃあの子にとってもよくないものね」



 僕はロイさんと頷き合い、エレノーラが自分から話してくれるまで聞かないことを決めた。



 そうしていると、やはり出てきたか。と、アルマリアがニマニマしながらロイさんを見ていた。



「あ~わかるわかる。うちの父さんもそうだけれど、父親って本当に娘の気持ちをわかってくれないんだよね――ふわぁぁぁっ」



『……』



 クマの手でロイさんがアルマリアの頭にアイアンクローを極めたけれど、これに関しては僕もちょっとイラッとして彼女の首筋に極小素晴らしき魔王オーラを何度も当てる。



「リョカさんまでなんでぇ!」



 アルマリアがくすぐったそうに身をよじっている光景を横目に、僕はのんびりとした時間を過ごすのだった。

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