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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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聖女ちゃんと水星の聖女ちゃん

 スピカの案内で、あたしたちは街の端にある小奇麗な屋敷に訪れていた。



 星の聖女が門番に話をつけ、門を開けてもらって中に入ろうとしたけれど、門番の1人があたしが通り過ぎる際肩を跳ねさせ、武器に手をかけたのが横目に見えた。



「ん~?」



「あっ、この子はこれが正常なんです。別に敵意があるわけではなく、ただ常に殺気撒き散らしているだけです」



「……スピカ、あんたとはあとでゆっくり話さなければならないみたいね」



「ミーシャさん、お城とかで普通に呼び止められそうですよね」



「遠目からでも誰かを殺しに来ているのかってくらい殺気ばら撒いてるからなこの不良聖女」



「ミーシャお姉ちゃん格好良いよ。エレどうやってもそういうこと出来ないから憧れちゃうよ」



 あたしがエレノーラの頭を撫でようとすると、スピカが彼女を引き寄せて抱き締めて半目で睨んできた。



「駄目よエレノーラ、ミーシャを真似ることはリョカたち以上に駄目。誰これ構わず喧嘩を売るようになってしまったらきっと大変な人生を歩むわよ」



「この屋敷に竜砲ぶっ放そうかしら」



「これを期に日頃の行いを改めなさいよ。そうすりゃあ少しはまともな人間になれるでしょう」



 ついにまともな人間という最低値を設定されてしまった気がする。この間までは聖女だったのに、あたしが何をしたというのか。



「ほら、突っ立ってないで行くわよ」



 さっさと進んでいくスピカにため息を吐いたけれど、あたしは一度振り返り首を傾げる。



「ミーシャお姉ちゃん?」



「……ええ、今行くわ」



 少しの違和感を覚えつつ、あたしはスピカの背を追って屋敷に入る。



 屋敷に入ってすぐ、誰かが階段を勢いよく下ってきた。敵かと身構えたけれど、その誰かはスピカに飛びつき、星の聖女に抱き着いた。



「スピリカ!」



「ポアルン――ぐぇ」



 ポアルンと呼ばれた涙目の彼女がスピリカを強く抱きしめており、あたしとアヤメは顔を合わせて首を傾げる。



「ちょ、ちょっとポアルン、いくらなんでも熱烈過ぎるわ」



「だ、だって連れ去られたって」



 そう言えばスピカは誘拐されていたのだったわ。きっと彼女はたくさん心配して、それが行動に出てしまったのね。

 とはいえ、置いてけぼりになっているからいい加減話を進めてほしいのだけれど。と、あたしはスピカの隣に並ぶ。



「あら、この方々は」



「ああ、今私を護衛してくれている人たちよ。こっちのウルミラはブリンガーナイトの人で、こっちの可愛い子はエレノーラ、それで――」



「ミーシャ=グリムガントよ、こっちはアヤメ」



「ミーシャさん? それって」



 ポアルンが突然瞳を輝かせてあたしの手を握ってきた。



「サンディリーデの暴力聖女――むぐぐ」



「ポアルン、あなた知っていることでもむやみやたらと口に出すのは良くないわ。それが事実だとしても、相手を傷つけることがあるのよ」



 なるほど、中々に素直な子のようね。

 あたしはポアルンの頭を一度撫で、辺りを見渡す。



 およそ祭りの準備をしているのか、屋敷の中には様々な道具が散乱していた。



「これ、祭りで使う道具?」



「うん~、ミーシャさん意外と優しいのね」



「聖女だもの、敵じゃなければ優しくするわ」



「聖女は敵じゃなくて味方を見るべきよ。どうしてあなたは想定に敵が常にいるのよ」



「敵を知らなきゃぶん殴れないでしょ」



「噂通りの獰猛さですね」



「褒めても何もでないわよ」



「あ、それ褒められているって認識なのね」



 スピカの呆れ顔を横目に、ウルミラがアヤメに小声で話しかけたのが見える。



「す、すごいです、聖女様が3人も集まっているなんてめったに見られる光景じゃないですよ」



「あ~、そういやぁミーシャとずっと一緒だったから忘れていたけれど、普通聖女って一般の人の目にはあまり触れないんだったか」



「そうですそうです、私なんてスピカさんもポアルン様もいつも遠目でしか見たことなかったですし」



「ミーシャなんて大抵冒険者ギルドに行けば、おっさんたちと殴り合っているか、黙々と飯食っているかだからな。まあ気軽に会いに行ける分、人々の生活に寄り添っちゃいるが、手段がな」



「聖女様って、基本的に国の重要な位置にいるおかげか、少しでも襲われる危険を減らそうと表には出ないようになっているんですよね。やっぱり補助ギフト持ちだと……あれ、ミーシャさんも社会的地位高いはず」



「こいつがそんじゃそこらの有象無象にやられるわけないでしょ」



 アヤメが失礼なことを言っているけれど、あたしはそれを無視して、トテトテと物珍しそうに祭りの道具に近づいて行ったエレノーラの傍に行く。



「お祭りがあるんだね」



「祭りは好き?」



「うん、エレがいた場所でもお父様が中心になって豊穣祭を開いていたんだよ。まあ貴族から大分反感を買っていたけれど、それでも女神様を慕う平民の方々と集まって、金色の小麦をみんなで分け合って……楽しかったなぁ」



 遠くを見つめるエレノーラを撫でていると、アヤメたちが近づいてきた。



「ああ、あれな。ラムダがいつも自慢しに来ていたわよ。この祭りは小さくはあるけれど、どこにも負けない最も純粋で気高く綺麗な祭りだと」



「ラムダ様?」



「ああ、レベリア公国……今はル・ラムダだったか、そこの管轄の女神だ。ロイのこと、ルナ以上に気に病んでいた女神だな」



「……一度お会いして、ちゃんとお礼と謝罪をしなきゃ」



「そうしてやれ、きっと喜ぶ」



 スピカもウルミラも、エレノーラが見つめる先を一度見ては顔を伏せ、妙な空気になった。

 しかし事情を知らないポアルンがしきりに首を傾げており、あたしは彼女に目を向ける。



「なんでもないわ、こっちの話」



「う~ん、ちょっと疎外感……っと、お客様を立たせっぱなしなのはよくないですね。お茶を淹れますので、こちらへどうぞ」



「ええ、ありがとう」



「スピリカ、せっかくだしここまでの旅路のお話、聞かせてちょうだい」



「良いわよ、楽しい道中だったし退屈させないと思うわ」



 上品に笑うポアルンの背を追ってあたしたちは移動した。



 聖女3人という珍しい集まりではあるけれど、あたしもあたし以外の聖女がどのように戦うのかを知りたかったし、せっかくだから2人の聖女としての何たるかに耳を傾けてみようと思う。



 そんなことを考えて、あたしはお茶会の申し出を快く受けるのだった。

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