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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
16章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、湖の街で夜と再会する。

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魔王ちゃんと失くしたくないもの

「どこの国行っても依頼って言うのは変わらないね。誰かが困っていたらそれに手を貸す冒険者」



「そうですね~、でもこういう討伐依頼はブリンガーナイトだから受けられるって感じですね~」



 僕たちは今、レビエンホルン滞在3日目、ちょくちょくと来ていた魔物の群れを退治して今日やっと魔物の数が落ち着いてきたところだった。



 僕とルナちゃん、アルマリアとロイさんの4人で最後の追い込みをかけるために街の外に出ている。



「ところで、珍しい組み合わせですよね~。まあリョカさんとルナさんは大歓迎ですけれど~どうしてその似非神官がいるんですか~。あっ、喋れないんでしたかぁ~」



 大きくなっているロイさんクマの頬をペチペチとしているアルマリアに、僕はため息を吐いて指を鳴らす。



『相変わらず小生意気なお嬢さんですね。もう少し年相応な言動を心掛けた方が良い』



「……年寄りは説教臭くて嫌ですね~。というかリョカさん、エレノーラさんの姿がないのですけど~」



「エレノーラはクマそのものが彼女になっているからね、やりようはいくらでもあるよ」




「また妙なことをしたんですか~?」



「そんなに変なことではないよ。ロイさんでは出来ないけれど、あの子は全部で僕に協力してくれているからね。それにせっかくこんな素敵な街に来たんだし、年頃なあの子には楽しんでほしいから」




『心遣い、ありがとうございます。エレノーラが昨日からとても喜んでいました』



「ううん、僕あの子に言っちゃったから――世界はとっても優しいって、だからせめて僕の傍にいる間は、なるべく優しい場所にいさせてあげたいだけだよ」



 深く頭を下げたロイさんの肩を叩き、僕は大きく伸びをする。

 するとアルマリアがロイさんの顔に自分の顔を近づけ、悪そうな顔をした。



「あなたが出来ないことを、リョカさんがやってくれているんですね~」



『……』



「ふわぁっ! このクマやり返してきましたぁ!」



 アルマリアとロイさんが取っ組みあっているのを横目に、僕はルナちゃんに目を向ける。



「何だかんだ仲は良いのではないでしょうか?」



「世界一有名なネコとネズミみたいなね。まああれで有能だから別に放っておいてもいいんだけれど、エレノーラが2人にはもっと仲良くしてほしいって言っていてね」



「それは……断れないですね」



「のんびりやりますけれどね。しっかし、妙な時期に魔物が増えていますよね」



「リョカさんもそう思いますか?」



「一応、僕なりに魔物が増えた原因を調べているんですけれど、どうにも魔物が増えている場所が点々とあるらしいんですよ」



「点々、ですか?」



「僕たちがいるここ、それとスピカの本拠地、全部で6か所ほど魔物の大群が確認されているらしいです」



 僕は薬巻に火をつけ、片手間に素晴らしき魔王オーラを弾き、魔物を倒す。



 この情報はブリンガーナイトで集められた情報らしく、信憑性も高いだろう。

 けれどなぜ? 理由を考えてみるけれど、もしかして理由もなく、ただ単純に魔物が暴れているだけかもしれない。



「正直魔物に関してはアヤメに一任しているので、あの子がわからなければお手上げですね」



「でもアヤメちゃん数年仕事しなくても良いって言っていませんでした?」



「まあ、管理と言っても同一種類が増えすぎたらアヤメの加護を持った方を向かわせるという程度のもので、あの子自身が厳しく管理しているわけではないのですよ」



「数が数ですもんね。誰か手伝ってくれる女神様とかいないのですか?」



「そういう時、基本的にはわたくしかテルネ……魔物に関してはフィリアムとアリシアですね」



「まさかのアリシアちゃん。そう言えばあの子って今女神様の仕事って」



「全くしていないですよ。アリシアの仕事を引き継いでいるのはテルネと、これもフィリアムですね」



「フィリアム様ってアリシアちゃんとよく一緒にいられるんですか?」



「今はどうかわかりませんが、アリシアが一番仲の良かったのがフィリアムですよ。生まれが近いのと、2人とも妹属性ですから」



 俄然フィリアム様に会うのが楽しみになってきた。

 きっと可愛らしい女神様なんだろうな。



 しかしアリシアちゃんとお友だちなんだ。

 どうしてわざわざあの死神様はお友だちを強調しているのだろうか。

 そんなことが頭を過ぎり、僕はルナちゃんを見る。



「……昔は、アリシアとフィリアム、そしてテッドの3人がいつも一緒だったのですけれどね」



「あの、そのテッド様というのは、エクリプスエイドを起こした女神様ですよね? その女神様はどうなったのですか?」



 ルナちゃんは顔を伏せ、首を横に振った。



「エクリプスエイドは大量の人々が犠牲になりました。本来女神は人に害を成してはいけません、ましてその命を奪うなどあってはならないのです。けれどテッドはそれをしてしまった。だからフィリアムは彼女を討つために女神特権を申請したのです」



 ルナちゃんははっきりとは言わなかったけれど、つまりそのテッド様と言う女神様はフィリアム様の手によって――辛かっただろうな。どんな理由であれ、友だちをその手にかけた。



 ミーシャやカナデ、ソフィアにオタク、セルネくん、ジンギくん、ランファちゃん、ウルミラとスピカ――僕はこの世界に来てたくさんの友だちが出来た。

 もし、僕がみんなのうちの誰かを殺さなければならなくなったら……想像するだけで胸が苦しくなってくる。



 こんな感情、私は持ったこともなかったな。

 友など生きる上で邪魔にしかならない。何故1人で生きていけるのに、誰かに関わらなければならない。君たちは揃って言う。みんなで協力すれば出来ないことはない。勝てないものはない。私に無様に負けた君たちが常日頃口ずさんでいた絵空事。



 本当、性格悪いなぁ。



 思い出したくもないことを思い出して、僕は強く薬巻の煙を吸い込む。



「リョカさん?」



「……ああうん。ねえルナちゃん、フィリアム様は抱きしめたり撫でたりしても大丈夫な方ですか?」



「ええ、きっと喜ぶと思いますよ」



「そっか――ならたくさんのお菓子も用意して、甘やかす準備をしないとですね」



「スピカさんが卒倒しそうですね」



「スピカもまとめて甘やかしますよ。さてと……」



 僕は未だにぎゃんぎゃん騒いでいるアルマリアに目を向ける。



「ほら2人ともいつまでやってんのさ、仲良くしろとは言わないけれど、もうちょっと大人として振る舞ってよね」



「う~だってリョカさん、このクマ神官がぁ」



『……ついムキになってしまいました』



「じゃれてるだけだから別に良いよ。でも僕は結構2人とも頼りにしているんだから、あんまり恥ずかしい姿を見せないでねってだけ」



 僕は2人の間に入り、その頭を撫でる。

 アルマリアはいつも通り頭を手に押し付けてくるけれど、ロイさんはやはり気恥ずかしそうだった。



「さっ、とっとと魔物を倒しちゃおうか。この3人でならこの辺りの魔物なんて瞬殺でしょ?」



「うん! 余裕ですよ~。今日の晩御飯をかけても良いですよ!」



『おや、勝負事ですか? 女神様に仕える身としてはあまり褒められたことではありませんが、今日は乗ってあげましょう。あとで泣きべそをかかせてあげますよ』



「言ってろ~。今夜はエレノーラさんを抱っこして寝るので、1人寂しく枕を濡らせばいいよ」



 ロイさんとエレノーラは常に僕の傍に置いているのだけれど、まあいいかと片方は血の中に潜り、片方は亜空間に消えて行った様を横目に、僕はあちこちにアガートラームを飛ばす。



 僕は薬巻を携帯灰皿に仕舞いこみ、ルナちゃんと手を繋ぐ。



「それじゃあ行きましょうか」



「はい。ちなみにリョカさん、この勝負はどちらが勝つと?」



「僕の1人勝ちですよ、今日はアルマリアもエレノーラもロイさんも僕の寝具になってもらいます」



「わぁ、素敵です。わたくしもご一緒しても?」



「もちろんです」



 一度は気分が沈んでしまったけれど、それは楽しい出来事で上書きしてしまおう。

 きっとなるようになるのだ、なんせ僕は魔王で、どんな理不尽にだって可愛さで乗り越えよう。



 とりあえず今は、圧倒的手数で魔物を狩り尽くしていこうと、僕は魔剣からあちこちに光線を放つのだった。

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