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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
15章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、グエングリッダー膝栗毛

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魔王ちゃんと到着、湖の街

 ほとんど傷は癒えているはずだけれど、一応確認のために街の外で戦っていた人たちを並ばせ、怪我の具合をチェックしていると、スピカが何か言いたげに僕を見ていた。



「そんな可愛らしく見つめられちゃうと、僕としては夜這いをかけずにはいられないんだけれど」



「リョカ! あなたは聖女になるべきよ。だってさっきの、あれはもう――」



 僕はスピカの唇を指で塞ぐと、並んでいた人たちに笑みを向け、全員の確認を終えたことを告げる。そしてお礼を言ってくれる人たちに手を振りながら、木の幹に移動して腰を下ろす。



「スピカ、僕は魔王だよ」



「でも……」



「それに聖女様ならもういるでしょ。世界最強の聖女様が隣にいるんだ、僕がなる必要はないよ」



「むぅ。あなたはミーシャに甘過ぎだわ、そんなのだから好き勝手するのよ」



 隣で胸を張る幼馴染に僕はクスクスと声を鳴らし、膝に乗ってきたルナちゃんを撫でる。



「わたくしの盾、とても綺麗でした」



「綺麗とかの話じゃないわよ。月光を受けて強化されて、しかも相手の放った力を癒しに変えるとか、聖女の1から5までのスキル全部詰め込んだような性能しているじゃない」



 呆れるアヤメちゃんに、ルナちゃんが嬉しそうにしていた。

 するとスピカがハッとしたように顔を上げ、ルナちゃんに詰め寄った。



「そ、そうだ! ルナさん、多分リョカの第2ギフトの決定権ってルナさんですよね? もう決めているのですか?」



「おいスピカ、それを人が女神に聞くんじゃないわよ」



「だってぇ……」



 第2ギフトか。そういえば女神様に決定権があり、尚且つ彼女たちが気に入った相手のギフトを選定するんだったかな。

 僕の第2ギフトか……正直深く考えていない。

 というかルナちゃん選ぶの大変なんじゃないだろうか。



 思案顔を浮かべていたルナちゃんが、首を横に振る。



「良いですよアヤメ」



「あ? お前もう決めてんのか?」



「では――」



 スピカが身を乗り出してルナちゃんから放たれる言葉に、期待しているような目を向けていた。



「いえ、決めていません」



「ど、どうしてですか?」



「スピカさん、リョカさんって現在誰よりもスキルの数が多いのですよ」



「はい? え、スキルって大体5から6ほどですよね? 確かにリョカは喝才でたくさんのスキルが使えますが、それは誰かが近くに……いえ、ちょっとリョカ、なんでここにいない誰かのスキルを使っているの? 聖騎士のギフト持ちなんて見たところ誰もいないわよね」



 僕は絶慈・僕を愛して歌えや踊れアンリミテッドディーバを使用する。

 そして出てきたガイルクマに盾を出させた。



「……いやいや、あなたまさか、そのぬいぐるみからも?」



 僕が頷くと、スピカだけでなくウルミラもその場で崩れ落ちるように膝を折り、地に頭をつけた。

 どういう感情だろうか?



「そりゃあそうですよ、よくよく考えたら魔剣とかいうのも聖剣顕現から出来ているのに、近くに勇者様なんていなかったですし」



「しかもリョカさん、素質だけで8割……存在するほとんどのギフトに適性があるので、今100以上のスキルを使えますよね?」



「使えますね。正直ギフトを貰っても運用方法は変わらないので、どう考えても持て余します」



「ですよね」



「この魔王マジで性質が悪いわね。素質があり過ぎるのと、すでに使えるスキルが多いのでこんなに選定が大変なら、俺はあんたに加護を与えなくて良かったわ」



「ところでアヤメ、あたしのギフトは?」



「お前はまず、聖女のギフトを極めてくれない? というかミーシャも困ったことになっているのよね」



「ミーシャさんは困りごとだらけだと思いますけれど~」



「いやいや、そんな呑気な事態じゃないのよ。聖女の第5スキルって完全に補助スキルなんだけれど、こいつ補助スキル習得する才能まったくないんだわ。経験値はおよそ足りているのに、第5スキル習得する気配が一切ないのよ」



「さすがミーシャさんですね~、第4スキルだけで聖女として仕上がっているということでしょうか~」



「こんな仕上がり却下よ却下! というかあなた第4までしか使えなかったの」



「なに、文句ある?」



「いやないけれど……いや、聖女のスキルは基本的に補助ですよ?」



「あっ、ですよね。私今、補助スキルを覚える才能がどうとか言っていたのにすっごく違和感ありましたよ」



 ホッとしているウルミラと首を傾げているミーシャ。

 けれどこれでミーシャにギフトが発現しないのは困る。ただでさえ向こう見ずに戦うのだ、少しくらい自分の身を守る術を持ってほしい。



「あ~ほらミーシャ、みんなを守る結界って思うからきっと駄目なんだよ。自分の身を守ることだけ考えれば――」



「聖女なんだからみんなを守りなさいよ」



 スピカからの厳しい言葉に、僕は顔を逸らした。

 しかし肝心のミーシャがピンときていない。



「自分を、守る……?」



「おいゴリラ、その攻撃力極振り思考は止めろ」



「これは、あれですね。『聖女が紡ぐ英雄の一歩(リーブアルゴノーツ)』と圧倒的に相性が悪い感じですね。自分を守ることも考えられないのに、盾を思い描くことなんて出来ませんから」



「というか聖騎士のスキル軒並み覚えられないわねこれ」



 全員で呆れていると、ふと風の色が変わった。

 これは――僕はルナちゃんを膝から下ろし、立ち上がって迎える。



「こんばんわ。僕たちはそれなりに役に立ちましたか?」



『……ええ、まずはお礼を。レビエンホルンの街とブリンガーナイトの者たちを守っていただき、ありがとうございました』



 風の人が出てきて、僕に礼を言うとスピカに体を向けた。



「なるほど、私を守らせながらリョカたちに街道の魔物退治、それとレビエンホルンのグランドバスラーを討伐させようとこの道を選ばせたのね」



『スピリカ様を危険にさらしてしまったことは――』



「私のことは良いの! あなたたちが今するのは、危険な道でも最優先で私を守ってくれたリョカとミーシャ、アルマリアに礼を言うことでしょ」



「スピカ、あまり責めないの。ブリンガーナイトだって、別の選択肢があったのならそれを選んだはずだよ。彼らは今切れる最良の選択をしただけで、そこを責めるのは理不尽だよ」



「でも……」



「ありがとうスピカ、でも僕たちが強いのはよくわかったでしょう? これで気兼ねなく人助けしながら道中を進めるよ」



 スピカが控えめな上目遣いで見上げてきたから、僕は彼女を抱きしめて頭を撫でる。



「さて、それでどうだったかな? 極星ギルドからしたら力を持ち過ぎだと怖がらせちゃったかな?」



『いえ、頼もしい限りです。しかしまさかグランドバスラーを単騎撃破とは、いやはや素晴らしい戦闘力です。私も、そして我らの極星も見習いたいと』



「それはなにより。それでちょっとお願いがあるんだけれどいいかな?」



『ええ、なんなりと』



「僕たちこれでもか弱い女の子集団でして」



『……え? え、ええ』



「ここまで歩きっぱなしで、このままだと足が太くなってしまいます。ですので、少しの間この美しい街に滞在したいのですけれど、よろしいですか?」



 思案するように会話の間をとった風の人が、小さく頷いた。



『極星に確認したところ、期限は設けていないので、のんびりと本部まで来てくれれば良いとのことです』



「……厄介ごとですか?」



『本当に目敏い方ですね。いえ、ですがこちらは私たちで何とかします』



 期限が設けられていないのなら、スピカをブリンガーナイトの極星自ら迎えに来ればいいだけの話。しかしそれをしない。出来ない理由がある。

 それが何であるかはわからないけれど、彼らが大丈夫と話しているのだ、それを信じよう。



「引き続き、街道の魔物は退治していきますからそこは心配しないでください」



『重ねてありがとうございます。では……ウルミラ、この道中しっかりと学びなさい。彼女たちとの旅は、良い経験になるはずだ』



「はい、しっかりと強くなって本部に帰ります」



『ああ、期待している。スピリカ様、どうか、どうか無茶をしないように』



「わかっています、それと次からはスピカと呼びなさい。どこで誰が聞いているかわからないのですから、そこは気を遣って」



 そして風の気配が薄くなると、街の方からやってきたブリンガーナイトの人たちが手を振っていた。



『みなには話を通してあるので使ってやってください。では、私はこれで』



 そう言って風の気配が完全に離れて行った。



 僕はみんなに向き直ると、小さく肩を竦めた。



「というわけで、暫くはこの街に滞在するよ。依頼を受けたり街を観光したり、とにかくゆっくりしようか」



 頷くみんなに僕は満足し、僕たちを案内してくれるだろうブリンガーナイトの一員に手を振り返した。

 ここまで休みもなく歩いてきたんだ、このくらいの休暇ならとっても問題ないだろう。



 色々とまだまだ落ち着けない状況だけれどそんなこと知らん。

 せっかく綺麗な街に来て、なにもせずに通過するなど勿体ない。もちろんスピカには護衛をつけるけれど、それ以外では目一杯楽しんでやろう。



 僕は久々の大きな街に心躍るのだった。

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