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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
15章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、グエングリッダー膝栗毛

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魔王ちゃんと月光の癒し

「うむ……ウルミラ、スピカ、これはグエングリッダーでは日常茶飯事なのかな?」



「そんなわけないでしょ。というかこれって一体」



「レビエンホルンって湖の上にある街なので、水を飲みに来る小型の魔物が現れることはありますけれど、これは――」



 街道の魔物を倒しながら進んできた僕たちは、ついに1つ目のチェックポイントである湖の街・レビエンホルンに月が昇る時間帯に辿り着いた。



 けれど道を進んで目に映ったのは、広大な湖の上に立つ美しい街ではなく、その入り口で超大型魔物と戦闘を繰り広げている人々だった。



「あれは~」



「この間倒した奴ね、名前は――」



「いやミーシャあなた今、グランドバスラー倒したって言った?」



 セルネくんたちと一緒にミーシャが倒した超大型魔物がこの湖の街を襲っていた。

 しかし、この魔物って……。



「おかしいわね、グランドバスラーはこの国にはいないわよ。餌になる山も少ないし、そもそも産まれる場所から離れているもの」



「ですね、わたくしたちの目を掻い潜ってグエングリッダーに持ってきた者がいるのでしょうか?」



「それこそシラヌイじゃねぇと無理だろ。少なくとも、シラヌイが関わっている様子はないわよ」



 ルナちゃんとアヤメちゃんが考え込んでしまったけれど、今はどうして現れたか考えるよりもしなければならないことがある。



「考えは後にしましょう。あれ、なんとかしないと街を踏みつぶしちゃいますよ」



「そ、そうでした! ブリンガーナイトとして私も頑張らないと――」



 ウルミラが先陣切って飛び出そうとしたけれど、グランドバスラーと戦っていた1人が駆けて来た。



「ウルミラか! それじゃあその人たちが」



「へ?」



 首を傾げるウルミラに、僕が前に出て駆け付けた冒険者――およそブリンガーナイトの一員に話を聞く。



「状況はどうなっていますか?」



「……数日前、山が突然動き出したとの報告を受け、ブリンガーナイトが討伐の任務を受けたのですが、まさかグランドバスラーとは思わず、後手後手となりここまで侵入を許してしまいました」



「なるほど。ところで上からは僕たちのことをなんて聞いてますか?」



「えっと、ウルミラが援軍を連れてきてくれるからそれまで持ちこたえろ。彼女が連れてくる銀髪の女性の指示を絶対厳守、何があっても彼女らと敵対するなと」



 ふむ。

 僕は唇に指を添えて思案する。

 魔王であることは伝えていない。まあそれは当然であるけれど、ある程度絶対的に強いと伝えてくれているのがわかり、それなら力をセーブする必要もないか。



「それで、あの……」



「僕はリョカだよ。全員の自己紹介はとりあえず後にするから、全員下がって」



「ぜ、全員ですか?」



「巻き込まれたい?」



 ブリンガーナイトの彼が僕の顔を見て顔色を青くし、首を横に振った。少しだけ威圧したけれど、正直近くにいられると巻き込んでしまう。



 彼がすぐに駆け出して行き、戦闘している者たちに声を掛けて回り始めた。



 それを見ていると、ミーシャが指の骨を鳴らし始めたから、僕は幼馴染の手を握って下に下げる。



「ミーシャは休んでな。ここに来るまで大分休ませてもらったし、僕が出るよ」



「……わかったわ」



「ちょ、ちょっとミーシャ! リョカ、あれはグランドバスラーよ、大きさだけじゃなく、内包された強大な力も脅威で」



「スピカ、大丈夫だよ。別に無理してるわけじゃないし、ああいうデカブツは僕1人でやる方が楽なんだよ」



 心配げなスピカを撫でてやる。

 本当に優しい子だ。だからこそもう魔王の僕を心配させないために、ここいらで力を見せておく必要がある。

 この子の顔を曇らせるのは本意じゃないし、僕を心配するより、もっと別にその優しさを向けてほしい。



 ブリンガーナイトやその他の人々が下がり始めたけれど、納得が出来ていないのか数人が僕を訝しんでいた。



 人々の視線が僕に釘付けになっているのがわかる。



 戦っていた人たちの中には血を流している者、肩を借りなければ歩けない者、少し街から離れた場所で治療を受けている者――みんな、本当によく頑張ったんだな。



 ギルドの矜持、誰かの助けになりたい、お金のため、様々な理由があるだろうけれど、ここで戦っている人たちは、レビエンホルンの人々にとっての英雄だ。



 だから僕はこの人たちを称えたい。



 英雄へと贈る讃歌を今すぐにでも歌にしたい。



 ウルミラとスピカが僕を見て息を呑んだ。



 現闇で楽器を生成して、そこに魔王オーラを当てる。

 音が繋がり音楽になり、僕は彼らへと歌を唄う。



 怪我をしている者たちの傷は次々と治っていき、それと同時に僕は周囲にアガートラームを生成する。



 誰もが僕に夢中になっている。



 そして間奏に入ったところで、グランドバスラーへ指を向ける。



「グリッドジャンプ」



「え――」



 誰もが驚愕の顔を浮かべた。



 僕のグリッドジャンプは超大型魔物を空へと放り出し、街を踏みつぶすほどの巨体が湖の街に影を落とした。



 けれどさすが長く生きている魔物、グランドバスラーが街に口を向け、明らかに何かを吐き出そうとしていた。



「マズい、長年ため込んだ力を解き放つ気だわ。全員避難を――」



月に身捧ぐ絶対守護(カノンルーナアイギス)、月の出る夜に、僕から奪えると思うなよ」



 月の光を受けた盾がグランドバスラーが放った強大なエネルギーを受けて、月のような柔らかな光を放ちさらに人々を癒していく。



 心に差した陰も、痛みに震える闇も、何もかもを包むような守護の光。それは僕が知っている何よりも優しい、温かく柔らかな信仰。




「ウソ、こんなの、魔王ではなく……」



 強大なエネルギーを防ぎ切った盾は姿を消し、夜空には宙に浮かぶ超大型魔物。



 僕は唄いながらグランドバスラーにアガートラームを差し向け、銀色の光線を次々と射出し、魔物を穿っていく。



「さて、そろそろ溜まってきたしこれで終わりにしようか」



 弱ってきているグランドバスラーに、僕は指を鳴らす。

 大きく溜められた素晴らしき魔王オーラは、巨大な刃となって魔物を切り裂き、真っ二つにする。



 すでに絶命している。けれどあんな巨体が半分でも街に落ちたら被害が大きくなる。

 だからすでに街の傍に配置していたガイルクマが、その手に金色の炎を纏わせて待機していた。



 僕が後ろ手で街に向かって指を鳴らすと同時に、湖の街から極大な火柱が上がる。



 魔物の血も体も、その何もかもを塵へと変えて月を臨む空まで伸びていき、街を明るく彩っていく。



 火柱が上がり、僕は唄い終えると同時に踵を当て鳴らし、クルリと回って人々に笑顔を向ける。



「可愛いリョカちゃんが助けに来ましたよ。握手会もサイン会も開くから、良かったら僕を愛してくださいね」



 ウインクする僕は、災害になり得る超大型魔物を退けたのだった。

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