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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
15章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、グエングリッダー膝栗毛

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聖女ちゃんと不器用な魔王ちゃん

「うん、魔物が多いと聞いていたけれど、やっぱり街道だとあまり出ないわね」



「そうですね、村を出てから最初の群れでほとんど倒しちゃった感じですかね」



「……」



 のんびりと構えている2人、まあスピカは護衛対象だし、ウルミラは案内役だ。わざわざ戦わせる必要もない。

 けれども……あたしはリョカに目を向ける。



 2人の話を聞きながら笑顔で相槌を打っているけれど、少し、ほんの少しだけ顔色が悪い。



 魔物が出ない。

 そんなわけはない。

 あたしの見立てでは、すでに数百を超える魔物が辺りをうろついていた。



 スピカとウルミラがこの数に物怖じしなかったわけではない。



 あたしはため息を吐いて、魔剣をひっきりなしにあちこちに飛ばしている幼馴染に目をやる。



「リョカさんって、本当にこういう時何も言いませんよね~」



「その方が効率が良いからでしょ。それと余計な心配をさせないため。アホよね」



 コソと話しかけてきたアルマリアに返事をして、拳に信仰を込める。



「リョカ、もういい替わるわ」



「う~ん?」



 ぼやっとした声で返事をする魔王様の頭を軽く一度はたき、辺りを見渡すと、首を傾げたスピカとウルミラが傍に寄ってきた。



「ミーシャ?」



「あんたたちは楽にしていなさい。スピカを守るのがあたしたちの仕事だし、ウルミラは無事にあたしたちを案内するのが仕事よ」



 そうあたしが言うと、2人がハッとしたように周囲に意識を向けた。そしてスピカがリョカに詰め寄り、頬を膨らませて睨み始めた。



「え~っと」



「……私は確かに護衛対象よ。でも無理をして守ってくれている人を気遣う権利まで奪わないで」



 スピカがリョカに触れ、リリードロップを使用、あたしの幼馴染の体力を回復させた。



「癖でね、つい」



「あなた、本当に1人で何でもできるのね」



「え?」



「生活面でも、戦闘面でも、精神面でも、1人でどうにでも出来るから誰かを頼るという選択肢が最初から浮かばない。きっと実績と経験からその判断が下されているんでしょうけれど、そういう人って一度何かに惹かれるとそれにのめり込んじゃうんだから、お酒とか絶対飲まないようにしなさいよ」



「う……」



 覚えがあるのか、リョカがばつの悪そうに顔を逸らした。

 あたしの知る限り、何かにのめり込んでは……いや、1つあったか。

 そうして呆れていると、ルナがおかしそうに笑い、リョカの腰に手を添えた。



「だ、そうですよ」



「……以後気を付けます」



「はい。きっとリョカさんの考えはとても尊いもので成り立っているのでしょうけれど、でもやっていることは前と変わっていないのですよ。厳しいか優しいかの違い――誰かの心を読むのは至難の業です、だからってそれを決めつけてはいけませんよ」



「ルナが説教するのは珍しいわね。なら俺からも1つ――リョカ、人間ってのは堕落に殺される。お前が良かれと思ってやったことで牙も爪も削がれちまう。今日は大丈夫だったって幸運を女神に祈るより、今日大丈夫だったのはリョカと出会わせてくれたことだと、縁を女神に祈る方が人間弱くならねぇんだよ」



 女神2人の有り難い言葉に、リョカがうんうん唸りながら顔を空に向けた。そして諦めたように盛大なため息を吐くと、あたしとアルマリアに目線をくれた。



「ミーシャ、アルマリア、お願い。ウルミラとスピカはこっち――」



 しかし星の聖女も、宵闇の騎士も、リョカが思っているより弱くはない。

 2人がジッとリョカを見つめており、魔王様もさすがに2人の視線にはたじたじな様だった。



「わかった、わかったから」



 リョカが肩を竦めると、スピカとウルミラを抱きしめた。



「まあそんなに強い魔物はいないはずだけれど、気を付けてね」



「ええ、任せて」



「というか私は護衛対象じゃないですよ! もっと頼ってくださいね!」



 飛び出していったスピカとウルミラに、リョカの腰からロイとエレノーラが飛び出して彼女たちについて行った。



 そしてリョカは辺りに散らしていた幾つかの魔剣を周囲に纏い、そのまま疲れたように息を吐いていた。



「おうママ、お前こっちに来てから気を遣い過ぎだぞ」



「考えることが多いので、そっちがどうにもおざなりになっちゃうんですよね」



「働き過ぎですよ。と、いうわけですので、構ってくださいな」



 ルナが両腕を広げてリョカに抱っこの要求をした。

 あたしの魔王様は、月の女神様を抱き上げ、神獣様の手を引いた。



「それじゃあちょっと行ってくるわ。アヤメとルナのこと、お願いね」



「うい、ミーシャとアルマリアも気を付けてね」



 リョカに小さく手を振り返し、あたしもアルマリアも魔物退治のために駆け出した。



「リョカさん、絶対に一度は無茶しますよね~」



「本当に。でも今回のは堪えたんじゃない?」



「スピカさん、芯の強い聖女ですね~」



「親しみもあるしね、あれで闘争心がもっとあれば完璧な聖女なのだけれど、それが課題ね」



「あ、スピカさんにそれは必要ないですよ~」



 聖女に必須なものだと思うけれど、どうにもアルマリアにとってはそうでもないらしい。



 と、定期的に発病するリョカの持病に対処してあたしたちは今日も今日とて魔物たちを狩っていくのだった。

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