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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
15章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、グエングリッダー膝栗毛

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魔王ちゃんと担ぐ宵闇の騎士星

「む~」



「スピカいつまで膨れてるのさ」



「だって……」



 翌日、村から出た僕たちだったけれど、スピカが村を出てから街道を進んでいる現在までずっと不貞腐れている。

 理由はわからなくないけれど、そんな可愛い顔でプリプリされていると正直僕がもたない。さっきから彼女に着せたい服のデザインが頭を埋め尽くしている。



「あんたスピカも好きよね?」



「顔が良い」



「リョカさん真面目な時との差がひどいですよね」



「あれでまだ抑えている方ですよ~、多分今のゴタゴタがなくなったらスピカさんを1日中着せ替え人形にするんじゃないですかね~」



「よっしゃぁ! 星の聖女、魔王は任せたわよ!」



「イヤですよ! 私アヤメさんが夜中着せ替え人形にされているところ目撃していますからね!」



「わたくしは一体どちらにお着替えを手渡せばいいのでしょうか?」



「魔王と女神様の2人組が凶悪すぎる!」



 ちなみに2人とも逃がすつもりはないし、ああやって大袈裟にツッコミを入れているウルミラの服もすでに数着完成している。



 そうしてガヤガヤとしている面々を横目に、僕は村を出た時のことを思い出す。

 渾身的に村人の傷を癒していたスピカよりも、魔物を一掃したミーシャがひどく感謝されていた。



 星の聖女様的に聖女らしくないやり方に納得がいっていないのだろうけれど、問題は何故それほどまでに退治した方が感謝されているのか。である。

 村長さんに話を聞いたところ、ここ十年迷い込んだ1体2体の魔物はいたらしいけれど、あそこまで大規模な群れは見たこともなかったらしい。



 それ故に魔物の脅威に晒されたこともなかった村人たちが本当に恐怖していたとのことで、傷を治してくれたことも感謝しているけれど、何よりも一瞬で魔物の脅威を払ってくれたミーシャには誰もが感謝している。との話だった。



 この国には適合していない魔物の発生、あり得ない量、大人しくしていた魔物の突然の活性化。



 きな臭い。



 まだ何があるかわからないし、判断材料があまりにも少ない。

 けれど村長さんが、僕たちが湖の街に行くと話したら、今あそこには行かない方が良いと忠告を受けた。



 風の噂で、湖の街に大量の魔物が集まっており、ギルドもその対応に追われて街道の魔物を処理出来ていないらしい。

 村長さんはそう話してくれたけれど、僕は感謝を告げ、幾つかの聖女の力が込められた布を渡して出発した。



 そんあことがあって僕たちは街道を進んでいるのだけれど。

……僕はウルミラに目を向ける。



「ねえウルミラ、今回のルート――行程を提案してくれたのってウルミラだよね? 目的地に着くのはこの道しかないの?」



「へ? いえ、そんなことはないですよ。この道筋の方が比較的安全なのと、塗装されているので歩きやすいです」



「それが理由でこの行程?」



「いえ、今回はギルドからの指示ですよ」



「なるほど」



 やってくれたなブリンガーナイト。

 確かに僕たちはスピカの護衛を受けた。

 けれどその行程が危険な道であるのは一体どういうことだろうか。



 と、まあここまで推測したけれど、別にこれで気を悪くしたとかはない。むしろ的確な判断だろう。

 スピカを護衛出来て、尚且つ街道の人手不足を補えるだけの戦力がここには揃っている。



 ギルドとしては棚から牡丹餅。

 ヴェイン=ローガストという人物はギルドマスターとしてやり手なようだ。



「担がれましたね~」



「アルマリアだって同じ状況だったら同じことしたでしょ?」



「そりゃあそうですよ~、1人は大規模戦闘での実績があり、もう片方は1対1でも最強、使わない手はないですね~」



 僕とアルマリアの会話に、ウルミラとスピカが首を傾げていた。

 2人とも本当に人が良いのだろう。善意の行動を誰かの手の平ではないと微塵も疑っていない。



「ブリンガーナイトの極星は凄い人だなって話」



「おおっ! そうなんですよ、ヴェインさんはすごいんですよ! 私ヴェインさんに憧れてブリンガーナイトに入りましたし」



「へぇ、あんたが極星になりたいっていうのもそれが影響?」



「はい! 私とウルチルは星の流れが止まった日(エクリプスエイド)で両親を亡くしたんですけれど、その時に助けてくれたのがヴェインさんだったんですよ」



「エクリプスエイド?」



「……ミーシャ、授業でやったでしょ。そういえばあれはグエングリッダーだったね」



「あの時、フィリアムが初めて女神特権を使用したんですよ。普段大人しい子なのですけれど、あの時は本当に心を傷めていて、見ているこちらが辛くなりましたよ」



「あれなぁ、正体不明の大型魔物が国を脅かしたんだよな。しかもその魔物、初動では女神すら把握できていない謎の生物だったのよ」



「そんなことありえるんですか?」



「リョカがそういうことしたら同じようになるかもしれんが、この時は別でな。結局フィムの奴がテッドの大馬鹿を――」



「アヤメ」



「あっ」



 口を手で塞いだアヤメちゃんが僕に視線を向けてくる。

 知られたらマズいことなのだろう。僕は笑顔を返す。



 彼女が言うテッドなる人物、しかも女神特権まで使われるほど……多分女神様だろう。そこで前に神獣様が話していたことに合点がいく。



「ああ、だからアヤメちゃんが魔物の管理をしているんだ。管理していた人を追いだしたか、何かして回ってきて――」



「リョカさ~ん」



「おっと失礼、お口チャックですね」



 女神様と僕とミーシャ以外の面々が目を点にしているけれど、この話をこれ以上するのはあまりよろしくないだろう。

 僕は話をウルミラに戻すために彼女に目を向ける。



「確か10年前だよね。となるとウルミラはその時7歳、ウルチルくんは5歳か。大変だったね」



「はい。でも色々な方……特にスピカさんの前の聖女様が本当によくしてくれて、今でも尊敬しているんですよ」



「マルエッダ様、今は私の教育係だよ。厳しいけれど本当に優しい方で、聖女としての力も未だに衰えていないわ」



 聖女として衰えていないという言葉に、ミーシャがすっと体に力を込めた。



「戦う相手じゃない。反応すんな」



「……えっと、ウルミラ私と同じ境遇だったのね」



「ほぇ? となるとスピカさんも」



「ええ、私もエクリプスエイドで家族を失ってマルエッダ様に助けられたのよ。そういえばマルエッダ様が、ヴェインはその時からブリンガーナイトの基盤を作っていたと話していたわね」



「やっぱりやり手だねぇ。およそ歳の近い我らの金色炎も見習ってほしいよ」



「いやいや、リョカはそう言うけれど、金色炎の勇者様って凄いのよ」



「そういえばリョカさんたちはあのガイル=グレッグさんと知り合いなんですよね。いいなぁ」



「酒飲みのおっさんやぞ」



「基本的に戦闘狂で、真っ直ぐ行ってぶん殴るが信条ですからね~。だからリョカさんにも負けるんですよね~」



「え、リョカさんガイルさんとも戦ったんですか?」



「うん、でもまぁ本気出されていないしなぁ。ロイさんどうなの、本気のガイルは強かった?」



 腰のクマを揺らすと、ワンテンポおいて文字が目に浮かんだ。



『ええ、攻撃を受けたら一瞬で炭になりそうだったので、分体に頑張ってもらいましたよ』



「二度とあの戦法は使わないでくださいね~」



『いやはや、まさかあれだけ暴れ回って、挙句の果てにパーフェクトサテラを使っても気が付かない間抜けがいるとは思わなかったので』



「あ?」



『反応なさらない方が良い。星の聖女様とウルミラさんにもばれますよ』



 アルマリアとロイさんがバチバチしている光景に苦笑いを浮かべつつ、僕はグエングリッダーの2人にガイルのことを話す。



「とまぁ、火力はあるんだけれどね、戦略面がやや劣っているからロイさんみたいな頭のいい相手には弱いんだよ」



「ガイルの火力とはいつか真正面から殴り合いたいわね。結局あたし戦えなかったし」



「ガイルさんも残念がっていましたよ~。でもテッカさんが再戦に燃えているので、まずはそちらから相手をしては?」



「あいつはやり難いのよね、絶影を使われたら追いきれないし」



「……いや、勇者様と真正面から戦ってどうするのよ? テッカさんというのは風斬り様よね」



「そうそう、最近ではミーシャの面倒も見てくれて本当に気の利くナイスガイだよ」



「ないすがい? まあなんにしても羨ましいわ。私もいつかお会いしてみたいものよ」



「この騒動が終わったら2人ともサンディリーデに遊びにおいでよ、歓迎するよ」



 2人の喜ぶ顔に、いつかの未来、2人を王都の実家にでも呼んでもてなしたい。きっと楽しい日になるだろう。

 とはいえ、まだまだ問題が山積みグエングリッダー。全てを解決する必要はないだろうけれど、せっかくこの国で新たな友人が出来たことで、この国に住むウルミラとスピカの力になってあげたい。



 そんなことを考えて僕は前を向く。



 そしてミーシャとアルマリアと僕の3人が戦闘態勢に移行する。



「さて、道中にも魔物が大量だ。せっかくだし近くの村に被害が出ないよう倒しながら進もうか」



 ウルミラとスピカが顔を見合わせた後、嬉しそうに頷き、僕たちは魔物を排除しながら行程を進んでいくのだった。

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