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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
15章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、グエングリッダー膝栗毛

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星の聖女ちゃんとケダモノの聖女ちゃん

「……」



「……」



 私、星の聖女です。今まで生きてきてこんなに気まずいと感じたことはなかった。



 正直、他国の魔王様より、他国の聖女様の方が何を考えているのかわからない。

 彼女のことは女神様――フィリアム様から少しだけ聞いた。

 最初は面白い聖女様がいるという話だったけれど、次第にフィリアム様の声色は引き攣ったものに変わっていき、最終的に我らの女神様は少しだけ真面目な声でおっしゃった。



 あれは災害だ。もしくは天災かもしれない。



 どうして聖女にそんな評価が下されるのか、私には理解出来なかった。



 私はチラと隣で不機嫌そうな顔で手を組んで立っている聖女に目を向ける。



 な、何か話した方が良いのだろうか。

 そんなことを考えながら、私はフニと触れた手の感触でこの沈黙を紛らわそうとさらにこねる。



「ふみゅ、にゅ……スピカさんくすぐったいですよ~」



「へ? あ――も、申し訳ありません!」



 私がこねていたのは月神様の頬で、すぐに飛び退いて頭を下げる。



「いいえ。わたくしほっぺを撫でられるのも好きなのですよ。もっとやってください」



「えっと」



 畏れ多い。

 彼女は女神様の中でも最高権力を持っており、フィリアム様も月神様はいつも優しいと話していたほどだ。

 そんな月神様の頬を撫でるなんて、あまりにも――と、私が葛藤していると、隣の聖女が手を伸ばしたのが見える。



 そして彼女はそのまま月神様を抱き上げた。



「きゃぁ」



「本当に懐っこい子ね。アヤメもあんた程とは言わなくても、もう少し愛嬌があればいいのだけれど」



「あれで一応、誇り高き獣の長ですから」



「いつあたしの長になったのよ。ジブリッドとしてうちにいる以上、もう少し可愛げがあるべきだわ」



「大分こちらの生活にも慣れてきてはいるのですよ、ミーシャさんのおかげです」



「慣れてきたのならもう少ししっかりしてほしいわ。目を離すとすぐにどこかに行こうとするし、気になるとまっしぐらだし」



 月神様が愉快そうに笑っている。

 本来、女神様と人が対等になることはない。けれどミーシャ=グリムガントという聖女は、女神様も人も関係なく、常に変わることのない不動の在り方。



 聖女として、それはどうなのだろう。と、私が首を傾げていると、ミーシャが月神様を私に押し付けてきた。



「ほら、ルナは抱っこされると喜ぶのよ」



「で、でも」



「あんた女神が喜ぶことをしたいのか、あんたの理想を押し付けたいのかどっちかになさい」



 言葉に詰まってしまう。

 月神様は私を見上げて、どうにも期待した眼を向けてきている。つまり抱っこしてほしいのだろう。

 意を決して月神様――ルナさんをミーシャさんから受け取る。



 やはり暖かい。

 フィリアム様を抱き上げても、これだけの幸福感を覚えるだろうか。



「フィリアムはもっとやわっこいですよ」



「え? あっとその」



「スピカさん、そうやって委縮されるととってもからかいがいがあって楽し……ではなく、女神冥利に尽きますが、そもそも上下を作ったのは人です。その上も下もあってスピカさんが苦しんでしまうのなら、わたくしはミーシャさん位に気安い方が嬉しいのですよ」



 やはり敵わない。

 この可愛らしくも全てを見守る女神様は、私などとうに理解されているのだ。



 しかしそんな女神様が私の耳元で口を開き、そよ風にも似た息遣いで囁いた。



「ミーシャさんってぶっきら棒ですけれど、あなたが肩ひじ張っていたからこうやって機会を作ってくれたのですよ」



「……そうなのですか?」



「はい、彼女は苛烈で戦うことが大好きで、どんな勇者にも劣らないほど激しい意思を持っていますが、それでも弱き者や救いを求めた者にはとにかく優しいのですよ」



 ルナさんは少し彼女に甘いのではないだろうか。

 チラとミーシャを覗くと、相変らず不遜な顔で佇んでいた。

 やはり私に気を遣ってくれたとは思えなかった。



 そうやって頭を悩ませていると、村人たちがゾロゾロとやってきた。



 私たちは今、村での救護活動を行なっている。

 魔物が増えてきて村が大変だという話を聞いて、リョカとウルミラが魔物を倒しに行ってくれた。

 私たちはその魔物が増えた影響で怪我をした人を癒そうとし、怪我人を連れてくるように村長さんにお願いして待っていたところだった。



 それで聖女である私とミーシャが村にとどまっているのだけれど、ミーシャは癒しの術が一切使えないらしく、何故ここにいるのかわからない。



「すみません旅の人。この村は年寄りが多く、薬を買いに行くのも一苦労で」



「お気になさらないでください。この村に立ち寄ったのも星神様のお導き、燦然たる星のように人と人の縁を繋ぐかの如く、あなた方の喜びがいつか自分へと返ってくることを信じていますので」



「おお、なんと信心深いお嬢さんだ。まるで聖女様のようです」



 私は村人に笑みを返し、傷ついた人々1人ずつに奇跡を行使する。

 とはいえ、リョカの言う通り、聖女として目立ってしまうとこの先の行程に不具合が生じてしまうため、出来るだけ聖女とバレないよう一般的な回復ギフトであるプリーストを倣い、小さめの回復を意識する。



 とはいえ、私自身あまり回復は得意ではなく、上位の聖女に比べると見劣りするような実力しかないけれど、切り傷などの軽傷であればどうにかできる。

 神経を使うけれど、この人たちが喜んでくれるのなら、この程度の苦痛なんでもない。



「いやはや、随分と奇抜な格好をしたお嬢さんが来たと思っていたけれど、こんなにいい子だったとはねぇ」



「え、ええ、その、趣味で」



 おばあちゃんが感心したように言うから、私はそう答えるしかなく両手で目を覆ってしまう。けれどおばあちゃんは怪しんだ素振りも見せず、若い子の流行には乗れなくてね。なんて笑ってくれている。



「……」



 私が恥ずかしい思いをしていると、ミーシャがずっと眼前を見つめていた。



「ミーシャ?」



「……ねえ、この村っていつもこれだけの魔物がいるの?」



 ミーシャの問いに、村長が首を横に振った。



「え? いえ、魔物なんてこの村に来ること自体稀ですよ。特に魔物が好むような食料があるわけでも、そもそもこの村は街道沿いなので、普段からギルドの人々に退治されているはずです」



「ふ~ん」



 ミーシャからどうにも不穏な……いや、何故か体が震えてくる感覚がする。

 他の村人たちもそうなのか、額に脂汗を流している。



「スピカ、あんたのそのやり方も多分間違っていない。でも、それじゃあ救えない」



「……どういう意味?」



「勇者は人々の希望、じゃあ聖女は? 人々にとって聖女は何かしら」



「それは――」



 改めて尋ねられて、私は言葉に詰まってしまう。

 人々にとって聖女は何か。誰かの助けになることが当たり前で、そんなこと考えたこともなかった。

 でも、彼女は、天災と評されるミーシャ=グリムガントにはそれが見えているのだろうか。



「聖女は救いよ。あんたがやったように痛みから救うのも当然含まれる。けれどあたしはもっと根本的なものから救いたいだけよ」



 ミーシャが大きく息を吸った。



 そこで私は気が付く。

 村の反対側にある林からたくさんの足音――魔物が大量に村に向かってきている。

 リョカたちは街道沿いの魔物を退治しに行っており、今はいない。

 せめてここの村人たちだけでも……そう行動しようとした瞬間、それが顕著に私の体を震わせた。



 ミーシャの口から今まで覚えたこともない圧倒的な量の信仰、大聖女すら上回るほどの女神様へ向けられた祈り――けれどその信仰は、あまりにも、あまりにも清廉さとは程遠く、尊さを微塵も覚えないほどに体を貫く暴力。



「27連・竜砲――流星群」



 がおっ! と上空に吐き出された信仰の塊が、空で弾けてまるで流れ星のように地上へと降り注ぐ。

 私の目に映るのは天災。最早抗いようにないその力に、私は目を奪われた。



 信仰は次々と地上に降りて魔物を貫いていき、眼前の魔物たちが命を散らしていく。



「平和になったわ」



「……え、あの、え?」



 呆然とする私と、大口を開けたまま動きを止めてしまっている村人、そんな状態でミーシャは勝ち誇った笑みを向けてきた。



「戦いは全てあたしが受け持つわ。そうすれば、痛みに苦しむ人はいなくなるでしょう?」



 そんな無茶苦茶を、彼女はあっけらかんと言い放つのだった。



 やはり、私はこの聖女様がわからない。

 どうして、聖女がこれだけの破壊力を有しているのか。きっと考えても無駄なことに、私は頭を抱えるのだった。

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