魔王ちゃんと魔物への違和感
「ウルミラ、そっちに行ったよ!」
「はい! 『集えどこかの水』」
ウルミラを中心に水球が生成され、彼女の周りをふわふわと浮かんでいる。
彼女のギフトは『繋がり契る水壺』わかりやすく水を扱うギフトで、紋章型の扱いやすいスキル構成になっていたはずだ。
そしてウルミラは幾つもいる魔物に向かって飛び込み、魔物本体ではなく、魔物の傍で浮かんでいる水球に剣を入れた。
水球は弾けて棘となり、魔物を突き刺していく。
あ~ね。うん、良く戦えていると思う。
ウルミラはまだ長くブリンガーナイトにいないと話していたけれど、それでも支部長を任せられるほどだ、それなりの強さとカリスマやその他があるのだろう。
僕は一度息を吐き、目の前で無秩序に飛び出してきた小型の魔物たちに指を構える。
「喝才・アレッツェンシャンパーニ」
このスキルは少量の水を生成し、それを操るという単純なスキルだ。だから彼女のように大袈裟な動作をせず、シンプルな動きで運用する方が理に適っている。
僕はビー玉ほどの大きさの水球を指の傍に発生させ、それを魔物の眉間に向かって弾いた。
そうやって片手間に魔物の息の根を止めていると、ウルミラが涙目で僕に近寄ってきて袖を引っ張ってきた。
「なにか?」
「……せめて別のスキルでお願いします」
「だ~め。ウルミラのスキル運用にケチつける気はなかったんだけれど、ちょっと非効率すぎる。そういう運用したいのならもっと剣の腕がなきゃだよ」
シュンとうな垂れるウルミラを撫でながら、僕は辺りを見渡す。
僕たちは今、目的地の行程にある村に立ち寄っており、今夜はそこで宿をとる予定だったのだけれど、どうにも村の人々が困っており手を貸している。
本来ならギルドに依頼し、その後で調査なり解決なりという手順を踏むべきであるけれど、星の聖女様と宵闇の騎士様が持ち前のお人よしを発動させ、こうして協力している。
目的があって動いているはずなのだけれど、どうにも聖女様も騎士様も人が良すぎる。この調子で行くと目的地に辿り着くのにどれだけかかるのか。
とはいえ、僕たちは別にこういう行動を嫌っているわけではなくむしろ大歓迎であるけれど、ただ誰かの助けになるだけよりこうしてスピカとウルミラを指導する時間を作る機会になると、僕とミーシャがそれぞれに着くことになった。
「アルマリアの方はっと」
僕と同行しているアルマリアがグリッドジャンプで戻ってきた。
「おかえり」
「ただいまです~、やっぱり多いですね~。ウルミラさん、グエングリッダーでは常日頃からこんなに魔物がいるんですか?」
「……いえ、この数は異常ですね。確かにブリンガーナイトでも魔物討伐が増えていると聞いていましたけれど、こんなにだったんだ」
村の困りごと、最近魔物の数が増えていて村から出るのも困難になっているというもので、こうして数を減らしている。
「繁殖期とかそういうわけでもないっぽいよね。アヤメちゃん、これについてなにかあります?」
「……いや、なんだこれ? わけのわからん生態系が出来てる」
「と、いいますと?」
「お前らが今倒した奴、ヘイルロッド――暑い地の魔物だ。ここ、そんなに暑い国じゃねぇだろ」
僕は倒した魔物をジッと観察する。そしてナイフで腹を割いてみると、小型ながら大きな胃袋で、胃を切り裂くと水分ばかりが出てきた。それとラクダのようなコブがあった。
「なるほど、確かに暑い場所の生き物っぽいですね」
「わかるんですか?」
「聞いたことがあるんだけれど、暑い場所の動物はこのコブに蓄えられた栄養とエネルギー……脂肪、それと水分をたくさん胃の中にため込んで少しずつ消費するらしい」
「相変わらず博識ね。そうよ、そいつらはそんな風に進化しているわ」
「でも、この国そんなに気温は変わらないですよ? いつも安定して穏やかな気候です」
「そうなんだよなぁ。なんでこんなところにこんな魔物がいるんだか」
首を傾げる面々に、僕も思考する。
誰かが放して生態系を壊しているのだろうか? それにしたって数が多いけれど、どうにもよくわからない思惑が働いている気がしてならない。
「まああんまり深く考えてもしょうがないから、とりあえず数を減らすよ。ウルミラ、あんまりゆっくりやってると、僕が全部倒しちゃうよ――アガートラーム」
魔剣で魔物たちを穿っていくと、目をシイタケにしたウルミラが飛びついてきた。
「ぴゃぁなにそれぇ! 格好良い!」
「……君はたまに男子中学生みたいな反応をするよね」
苦笑いでウルミラを撫で、僕は目線の先を指差す。
「ほらほら手を動かす。第1スキルは使いやすさが長所なところがあるんだから、もっと簡単にね」
「は~い!」
色々と考えなければならないことがあるけれど、今はアルマリアのお父さんを捜すこと、スピカを無事に送り届けること、さらにあの極星のこととイベントてんこ盛りだ。
正直、別のことに手を伸ばしている暇はないけれど……まあなるようになるだろう。
それに、こういう一歩がきっと僕を可愛くしてくれる。
時間が出来たらこっちでもアイドル活動をしよう。そんなことを考えて、僕はウルミラに戦い方を指導する。
こうして、僕たちは暫くの間、魔物を対峙していくのだった。




