勇者のおっさん、因縁を見極める。
「いやいや、さすがっすガイルさん」
「あ~?」
3人組の学生が出て行った扉を見ながら俺は相槌を打つ。
なるほどどうして、中々にやりやがる。
「テッカ。追えるか?」
「……無理だ。あの娘、俺に気が付くどころか牽制までした」
パーティーメンバーのテッカ=キサラギが指差した個所には、鋭利な刃物で切り裂かれたような跡があり、俺すらも気が付かない攻撃方法を持っていることに、笑いがこぼれる。
「おめぇ良かったな。あのまま続けていたら真っ二つにはならんかもしれないが、その腕2本程度なら持って行かれていたぜ」
「は?」
「マナ、あの嬢ちゃんたち、学園から来たんだよな?」
「え、ええ、でも私、もっと怖い人が来ると思っていてびっくりしちゃった」
ギルドの受付のマナ=ルーデッヒはあの娘たち――その中の1人、銀髪を頭の側面で結っていた少女のことを知っていた。
銀髪の娘は、ここに入った時から他の2人を庇いつつ周囲を警戒していた。少なくとも学生が行なえる技術ではない。
最初、また学生が送られてくるのかとげんなりしたが、なるほどうして納得がいった。同時に、あれが噂の。とも合点がいく。
そもそも、あれらは最初からそうであったということはない。
それとして目覚め、それとして覚醒する。最初からその素質を持っている者など俺は聞いたことがない。
だがあの嬢ちゃんは違った。持って生まれた。
「なるほど、あれが噂の――未だかつて誰もなしえなかった。最速で至った魔王か」
「えっ!」
「はい、成人の儀式で、魔王の素質がある人なんて私も聞いたことがなかったので、どんな人かと思っていましたが、可愛らしいお嬢さんでしたね」
「あれが可愛いねぇ……テッカ、お前は勝てるか?」
「まだ情報が足りないから何とも言えないが、俺よりも早い攻撃手段を持っているのは確かだ。反応も出来ない攻撃は初めてだ。どの魔王も使ってこなかった」
「だな。今まで出会ったどの魔王より、強いかはともかくやり手だぜありゃあ」
驚いているマナと青い顔をしている喧嘩を吹っかけた若造。
俺は若造の肩を叩いてやる。
「誰これ構わず喧嘩なんて吹っかけんなよ。この世界にはお前さんより上てな奴なんてわんさかいるぜ」
「ガイルさんが認めるほどですか。冒険者ランクで言うとどの程度ですかね?」
「主観でしかないが、あの銀髪の嬢ちゃんだけならC以上B以下ってところだな。他に何ができるかはわかんねぇが、それだけの実力はあると思うぜ」
ギルド内が静かに騒然とする。
「テッカ、面白そうだし、ちょっと様子を見に行ってみねぇか?」
「俺は構わないが、気取られないか?」
「大丈夫だ、まだまだひよっこどもに後れなぞとらねぇよ」
面白い、面白くはあるが、やはり脅威だろう。
俺はそれほど真面目な勇者ではないが、それでも一応は勇者だ。もしあれが世界に仇を成すというのであれば、俺は喜んで剣を振るってやろう。
まあ建前ではあるがな。
俺はテッカと連れ立ってあの学生3人を追いかけることを決めた。
さてさて、あの嬢ちゃんは一体どのような魔王なのか。
最近では覚えなかった戦いへの快楽に、俺は体を震わせた。




