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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
14章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのギルド。

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魔王ちゃんと臣下宣言

「さてと、やっと手足が伸ばせるわけだけれど……ルナちゃん、アヤメちゃん、さっきのミーシャについての説明を求めても良いかな?」



 ウルチルくんに宿へ案内された僕たちは、荷物を整頓し、お茶を淹れた後それぞれが部屋でのんびりしている。その最中に、僕は女神様2柱に尋ねる。



「あ~……ミーシャ、もうなんともないか?」



「ええ、さっきはなんだか暴れたくて仕方なかったわ」



「いつものことでは~?」



 アルマリアに握り拳を見せるミーシャを横目に、僕は先ほどの状況を思い出す。

 確かに普段から暴れたがる聖女様だけれど、それでもある程度は抑制してくれていた。そもそもの話、ミーシャは自分より圧倒的に弱い相手に信仰を込めはしない。



「リョカさんはもう気が付いていると思うのですが、あの時、ミーシャさんはアヤメとクオンから信仰が流れ込んでいました(・・・・・・・・・)



「ちょい待ち。流れ込んでいた? 信仰って女神様が信者に与えるものだよね?」



「おいリョカ、お前は毎日祈りを捧げてくれているが、そこの不良聖女が最後に祈ったのはいつだ」



「え……あれ? そういえば最近一緒に祈ってないような」



「大教会使えるのに祈りなんて必要ないでしょ」



「聖女って自覚して! え、待って、じゃあミーシャってもうお祈りなしで信仰溜められるの?」



「それもあるのですが」



 ルナちゃんが言い淀んでおり、アヤメちゃんがため息を吐いた。



「神核の話はしたよな?」



「えっと、女神様が別の力を信仰に変えるための……あれ? ミーシャの持っている神核って」



「俺とクオンのだ。つまり今のミーシャは闘争心と自尊心が尽きない限り信仰が途切れることがない状態だ」



 僕は顔を引きつらせる。

 この聖女、気が付いたらほぼ半永久的に戦えるようになっていた。



 いや、ミーシャの信仰具合については理解した。

 でもそれが暴れ出すこととどうかかわってくるのだろうか。



「でだ、ここからが本題なんだが、神核っつうのはそれぞれの力を信仰に変えてくれるんだが、その感情が表に出やすくなる。女神の信仰が途切れたらことだろう? だから神核っつうのは女神の一番強い感情を引き出せるようにできているんだ。そんなもん人が使えば当然制御不能に陥るってわけだ」



「はい、しかもミーシャさんは特にアヤメとクオンの神核と相性がいいのか、自分の感情どころか、神格元である女神から信仰が流れ出ていってしまっている状態です」



「さっきクオンから連絡が来て、勝手に信仰が流れ出ているから何とかしてって言われたわよ」



「面倒ね」



「君のことだよ幼馴染よ」



「しかも、まさか女神2人から一遍に信仰が流れるなんて今まで起きたこともないので、反応が遅れてしまいました」



「前代未聞っちゃあそうなんだが、ミーシャの場合、信仰に変わらず溢れ出た感情が心を蝕んでいたようだぜ。どんだけ闘争心と自尊心を持ってるんだお前は」



 なるほど。2人の話でミーシャの暴走についてはよくわかった。

 だが1つ、気になっていることがある。

 それはその暴走の止め方なのだけれど、あの時ミーシャにルナちゃんが触れ、月神様由来の信仰に代わったことで暴走が止まった。つまり――。



「え? つまりミーシャ、君に救済心は一切ないってことかい?」



「なんでよ?」



「え、だってルナちゃん由来の信仰に代わった瞬間、収まったんでしょ? ルナちゃんの信仰って救済心からなるわけだから、それが少ないから暴走することがないってことでしょ?」



 アヤメちゃんが顔を逸らしたけれど、ルナちゃんが勢いよく首を横に振った。



「い、いえ! ミーシャさんはわたくしの神核を持っていないのでそれ以上暴走しなかっただけです」



 可愛らしく胸を張るルナちゃんに、ミーシャが手を差し出した。



「やってみるわ」



「あいえその、さ、さすがに最高神を吸収しちゃうと女神たちがすっ飛んできますので」



 目を逸らすルナちゃんにミーシャが肩を竦めた。

 そしておもむろにペンダントに触れると息を吐く。



「一個ずつなら問題ないでしょ」



 そう言ったミーシャのペンダントが牙の形になった。



「は? お前今何やった?」



「あんたの神核引きずり出しただけよ」



 アヤメちゃんが女神ネコと化した。

 宇宙のことを考えるネコ顔、流行っているのだろうか。



「き、切り替えは女神だけにしか出来ないはずですけれど」



「神核はあたしの中に入っているでしょう? だから掴んで前に出せばできるわよ」



 ルナちゃんが首を傾げて僕に抱き着いてきた。お手上げらしい。



 ミーシャは本当にとんでもない聖女様だなと僕が苦笑いを浮かべていると、アヤメちゃんが僕を見て思案顔を浮かべてため息を吐いた。

 こればかりは僕のせいではないだろう。



「これ多分あれだな」



「だと思います……エクストラコード」



「リョカ、十中八九お前の責任だぞ」



「え、なんでですか?」



「カナデが話していたエクストラコード、覚えているか?」



「ええ、でも僕そんなの知らないですよ」



 カナデが話していた時もそうだったけれど、そんなもの聞いたこともなければ、僕はなにもしていない。けれど女神さまたちは僕の責任だと言う。世知辛い。



「リョカさん、エクストラコードというのは、魔王のスキルの1つです」



「使ったこともないですよ」



「ああ、自分で使用するスキルじゃないからな。というか、そう考えるとミーシャの異常さはエクストラコード由来だな」



「ですね、最初期から使用していたと思われます」



「え? へ?」



「エクストラコードっつうのは臣下宣言、つまり魔王が配下に与えるスキルだ」



「もう何百年も使われていないスキルだったので、存在を忘れていました。今の魔王が信頼関係を築いた配下を持つことは稀なので、使用されていなかったのですよ」



 2人の話を纏めると、エクストラコードというのは魔王のスキルで、信頼関係のある配下に魔王がスキルを与えると言うぶっ壊れスキルらしい。



「カナデもわけわからないことしていたからな」



「因果を切り貼りするスキル、世界をも操るスキル……恐ろしい技でした」



「え、僕知らないけれど。と言うかカナデってスキル無効化では?」



「女神由来のな。それに状態異常でもないし、魔王の管轄スキルだから通ったんだろう」



 まるで実感がない。

 ルナちゃんとアヤメちゃん曰く、僕由来のスキルが発動してミーシャを超強化しているらしい。



「ミーシャそのスキル使ってみてよ」



「わからないわよ。意識したこともないし、やれって言われても身に覚えもないもの」



「カナデはヘリオトオーブっつてたな。まったく聞き覚えのないスキルだな」



「多分、リョカさん由来なのでこの世界の理の外側の力だと思います。わたくしたちが関与できない超級スキル、ミーシャさん、使い方を誤らないでくださいね」



「ん。とりあえず使いこなせるようにしておくわ」



 身に覚えのないスキルに、僕は頭が痛くなる。

 ま~たなんかやっちゃいましたか。と、おどけてみたいけれど、こればかりは理不尽ではないだろうか。本当に僕は知らないのである。



 しかし好感度の高い家来か。

 ふと僕はお茶を飲む手を止める。



 ミーシャとカナデ、付き合いの長さから2人はそうなってもおかしくはない。

 けれど僕はもう1人、その条件に満たしているものを思い出す。



 僕はチラリと腰に掛かっているクマに目をやる。



 しかし彼女は僕を見上げただけで何もなく、安堵の息を吐く。

 やはり考え過ぎかと安心するのだけれど、それは突然、確かな実態(・・)を伴って僕の腰に抱き着いてきた(・・・・・・・)



「え?」



 ふわふわ髪のくせっ毛の美少女が、ウインクをしながら舌をベッと出して僕に抱き着いていた。



「リョカ?」



「あ、いえ、その……」



 保留! この件おいおい考えていこう。

 すでに可愛らしい美少女の姿はなくなっており、僕は頭を掻く。



「つまりリョカさんとずっとくっ付いていれば私でも強くなれるんですね~。ぎゅ~」



 アルマリアの誘惑に負けそうになりながらも、僕はただ、俺は悪くねぇと心で唱え続けるのだった。

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