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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
14章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのギルド。

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魔王ちゃんと宵闇の騎士団

「えっと……つまりあなた方は、サンディリーデのA級冒険者で、彼女――ぜプテン冒険者ギルドのギルドマスター、アルマリアさんのお父様を探しにここまで来たと」



「はい、のんびりと旅行気分でここまで来ました」



「……旅行気分でギルドの支店を1つ潰したんですか?」



「本当に、申し訳ない」



 ジトっと見てくるウルミラさんに頭を下げて謝罪すると、当のミーシャは胸を張っており、頭を引っ叩く。



「あの、本当に彼女は」



「はい~、正真正銘の聖女ですよ~」



「あの、聖女ってもっとこう、慈しみとか、癒しとか」



「一切使えませんね。さっき見た通り、この聖女様、圧倒的暴力を司っている故」



「バーサーカーではなく!」



 頭を抱えるウルミラさんに苦笑いを返しつつ、僕はお茶を淹れて持って来てくれたウルチルくんにお礼を言い、先ほどの非礼を詫びる。



「ウルチルくんもごめんね? うちの幼馴染が、怖い思いをさせちゃったね」



「い、いえ! 自分も不用意に突っ込んで武器を構えてしまいましたし、お互い様です」



「ウルチルくんはいい子だねぇ」



 僕が彼の頭を撫でていると、ウルミラさんが僕を見て思案顔を浮かべていた。

 何か頼みたいことがあるのだろうかと彼女に視線を返すと、肩を竦ませた彼女が口を開いた。



「あの、リョカさん、上位冒険者のあなたに頼みたいことがあるのですが、よろしいでしょうか? 目的があってこの国に来たこともわかっているのですが、その」



 僕はアルマリアに目配せすると、彼女が頷いてくれたために、ウルミラさんの言葉に耳を傾ける。

 しかし我らの聖女様が嫌そうな顔をした。



「イヤよ面倒くさい」



「ミーシャ……多分君のせいなんだけれど」



 首を傾げるミーシャに、体を震わせたウルミラさんが開け放たれた応接室の扉からギルドのエントランスを指差す。

 そこにはそれぞれが体を治療しており、突然襲った災害に体を、声を震わせていた。



「動ける人間がいなくなったんですよぉ! 今私たちはある組織を追っているのですが、この戦力では正直、調査することも……」



 顔を伏せるウルミラさんがあまりにも不憫で、僕はつい彼女を撫でてしまう。



「さっきの人さらいですよね?」



「はい、彼らは……多分ギルドです」



「ギルドが人さらいなんてするんですか?」



「ああ、グエングリッダーはギルドを簡単に作ることが出来る分、犯罪組織の隠れ蓑にされるって聞いたことがあります」



「アルマリアさんの言う通りです、この国ではギルドを作るのに複雑な手続きは必要ありません。でも上位ギルドになってしまえば、それだけで信頼されてしまうので――」



「疑われることもなく、犯罪組織を隠せると」



 まあその辺りの事情は事前の情報である程度は聞いていた。

 この国でもジブリッド商会は活動しており、お父様に頼んでグエングリッダーの情勢はそこそこ頭に入っている。



「だからこそA級ギルドの……しかも『13の円卓を囲む極星ダンブリングアヴァロン』のブリンガーナイトが出張っているわけね」



「ダンブリングアヴァロン?」



「通称、極星ギルド。極星と呼ばれる12人(・・・)のギルドマスターがいるギルドの集まりだね」



「はい、女神様の加護を受けた12人が国のために、ギルドのために話し合う場、それがダンブリングアヴァロンです」



 僕はチラとルナちゃんを見る。

 するとアヤメちゃんが袖を引っ張ってきたために、僕は彼女に顔を寄せる。



「星の女神、フィムの加護を受けた12人だな」



「フィリアムは女神にしては珍しくのんびり系の女神で、その12人以外に加護を渡すことはありません。でも加護の数が少ないので、それだけ強力な力を授けることが出来ます」



「なるほど」



 耳打ちをしてきたルナちゃんとアヤメちゃんを撫で、僕はアルマリアに目を向ける。

 この旅の目的はアルフォースさんを捜すことだ。僕の一存でウルミラさんの頼みを聞くわけにはいかない。



「ねえアルマリア」



「父の方は大丈夫ですよ~。それに今の状況って、私が望んでいたことなんですよね~」



「というと?」



「ギルドマスターとしてではなく、こうやって冒険者できているので~、1つは目的が叶っているんですよ~」



 僕は目を細めてアルマリアの肩を抱き寄せる。

 今まで頑張ってきた分、今日からの時間がさらに掛け替えのないものになってくれれば、僕はそんなことを願って彼女を撫でてやる。



 するとそれを見ていたウルミラさんが何か言いたそうにしていた。

 僕が視線を返すと、彼女が焦ったように顔を赤らめた。



「あ、ご、ごめんなさい。その、リョカさんって、素敵な人ですよね」



「ん、ありがとう。というわけで、僕たちも急いでいるわけでもないし、ウルミラさんたち……ブリンガーナイトに協力するよ」



「本当ですか!」



「ミーシャもそれでいいね?」



「あんたが決めたのならいいわよ。で、とりあえずこの町の人さらいを全滅させればいいの?」



「ちょ、ちょっと待ってください。まだ奴らの拠点がわからないので――」



「リョカ、あんたさっき外でこっちを覗っていた1人逃がしたでしょ。エレノーラ?」



「さすがに目敏いね。うん、現在追跡中だよ。どこで何をしていたのか、バッチリ記憶してる」



「え?」



「良かったわね、えっと――ウルミラ、リョカはその人さらい、どこで集まっているかわかるそうよ」



 驚くセイバー姉弟に、僕はウインクする。



「あの、リョカさんのギフトって、聖騎士ですよね?」



「さあ、どうだったかにゃ?」



 僕ははぐらかして立ち上がる。

 本当は今すぐに追ってもいいのだけれど、正直ここに着いたばかりで落ち着きたい。



「それでねウルミラさん、僕たちまだここに着いたばかりだから、宿で少し休みたいわけですよ。今は追っている奴にも動きはないし、宿を紹介してもらえると嬉しいなぁって」



「……わかりました、こちらで宿を用意します。ウルチル、皆さんを案内してあげて」



「はい! それでは皆さん、ブリンガーナイトのギルド員が使う宿がありますので、そちらに案内します」



「ありがとうウルチルくん、あとでお駄賃を上げよう」



「こ、子どもじゃないですよ」



 僕はクスクスと喉を鳴らし、ルナちゃんとアヤメちゃんの手を取って先行するウルチルくんについて行く。

 けれど1度振り返り、ウルミラさんに声を掛ける。



「ああそうだ、どうにもこの町にある拠点の1つを放棄したみたいで、そこにも数人囚われているから助けてあげて」



 僕は紙にその場所を書き、それを彼女に紙姫守を使って投げる。



「……紙姫守。リョカさん、あなたは」



「それじゃあまたあとでね」



 人差し指を唇に沿えて、色っぽく見えるようウルミラさんにウインクして足を進ませる。



 まだ彼女たちに魔王であることは伏せていたいけれど、悪い子たちではないし、ある程度信頼を勝ち取ってから事情を話しても遅くはないだろう。

 今僕たちは目的があって行動している。わざわざ藪を突く理由もないだろう。



 ついて早々ごたごたしたけれど、やっと腰を落ち着けられることに僕は安堵の息を吐くのだった。

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