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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
14章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのギルド。

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魔王ちゃんと暴走聖女ちゃん

 ウルミラさんに連れられ、僕たちは港に戻って来ていた。

 彼女に報告に来た人の話では、港のオープンテラスの喫茶で子ども連れの旅行者に目を付けた奴らがいたらしい。



 その報告で僕は嫌な予感がしていた。



 いたかな? 人さらいがカモにしそうな旅行者、少なくとも僕の目には映らなかった。1人を除いて。



 そしてウルミラさんたちと港に戻ると、そこでは可愛らしいケモ耳の女の子を連れた見覚えのある女の子を中心に、人々が泡を吹いてぶっ倒れている光景があった。



「え? なにこれ」



「あ、あれぇ? さっきまで女の子を無理矢理連れ去ろうとしていたのですが」



 馬鹿め、そいつは聖女だ。

 なんて厄介な存在に声を掛けたのか。



 僕はミーシャの一番近くで伸びている数人の男たちを憐れんだ。



「もしかして、彼女が?」



「ええ、連れ去られそうになっていた女の子です。しかし一体、この状況は」



 僕が頭を抱えていると、ミーシャとアヤメちゃんが僕たちに気が付いた。

 そうして2人が僕たちに近づいてきたけれど、僕はすぐに指を構えた。



 ミーシャも気が付いたのか、アヤメちゃんを前に出して庇うように立ち位置を変えた。



 僕はすかさず指を鳴らし、ここから約100メートル離れている対象に素晴らしき魔王オーラを弾いた。



「遅い――」



「え?」



 魔王オーラによって腕と脚を落とされた男が建物の屋上から落下したのが見えた。



「この距離で……すぐに捕まえてきてください!」



「は、はい!」



「足も落としたから逃げられないと思うよ」



 僕はため息を吐き、薬巻に火を点した。



「あなたは、一体?」



 ウルミラさんの問いに答えあぐねていると、ミーシャが肩を竦ませてやってきた。



「喧しい町ねここは」



「静かになってよかったね。でも周り巻き込み過ぎ」



「しょうがないじゃない、鬱陶しかったんですもの」



「アヤメ、あなたが付いていながら」



「いや無理だから。どうやってミーシャを止めろって言うのよ」



 ミーシャの頭に一度げんこつを落とすと、ウルミラさんが驚いた顔で僕たちを見ていた。説明がさらに面倒になった。早くアルマリア戻ってきてくれないだろうか。



「お、お知合いですか?」



「僕の旅の連れ。それで、もういって良いかな? 宿探さなくちゃならなくて」



「だ、駄目ですよ! これだけの騒ぎが起きたんです、私たちには調査の義務がありますので――」



「誰こいつ?」



 ミーシャがウルミラさんに近づき、一瞬だけ圧を込めた視線を放った。



「っつ!」



「へぇ」



 歯を食いしばり我らの聖女様の威圧を耐えたウルミラさんにミーシャが目を細めた。もちろん親愛的な意味ではない。面白れぇ女。的な意味である。



「と、とにかく、我々と一緒に来てください。抵抗するのであれば」



「あんたの部下含めて全員ブッ飛ばしてやるけれど?」



「……お願いします。我々ではあなた方に勝てそうにありません、私たちのために、どうか言う通りにしてください」



「素直な子ね。良いわ、リョカ、付き合ってあげましょう」



「主導権の得方が蛮族過ぎる。ウルミラさんごめんね、言う通りにするからそう固まらずにね」



 息を吐いて肩から力を抜いたウルミラさんに、先ほど落ちた男を回収しに行った人が戻ってきて報告を始めた。



「わかりました。では、お2人は……えっと」



「ミーシャよ。こっちの小さいのはアヤメ」



「リョカです。こちらはルナちゃんです」



 僕たちの紹介に、アヤメちゃんがミーシャの腰裏から会釈し、ルナちゃんはカーテシーで応えた。



「それでは、ブリンガーナイトの支部に案内します。ウルチル、先に戻って準備しておいて」



「はい、姉さん」



 ウルチルくんが僕たちに頭を下げて駆けていった。

 アルマリアに伝言を残しておきたかったけれど……僕は紙に居場所を書き、折り鶴を作って紙姫守を使用して飛ばした。



 そしてウルミラさんの案内で、僕たちは立派な建物の前に訪れた。

 ぜプテンのギルドよりしっかりとした建物で、さすがA級ギルドなのだろう。



 中に通されると、ギルド員から物珍しそうに見られているのがわかる。



「この中で一番強いのは?」



「戦いに来たんじゃないぞぅ」



「ごめんなさい、ミーシャさんより強い人はいないです」



「やってみなければわからないわ。ちょっと圧を――」



「止めなさい。というかあんたもう少し大人しくしていなさい」



 舌打ちするミーシャを撫でて宥め、僕たちは応接室に案内された。



「えっとまず、状況について聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」



「うん良いよ。僕たちは宿を探している途中、ツケられていることに気が付いたから路地裏で対処しようとした」



「声を掛けられたから睨んだ」



「あ、はい。え~……っと、リョカさんに関しては私たちも見ていたので問題はないです。それでミーシャさん、出来れば町中でのスキル使用は」



「使っていないわよ」



「え?」



「使っていないわ」



 ウルミラさんがミーシャを驚いた顔で指差し、僕に助けを求めるような視線を向けてきた。



「うん、ごめんねウルミラさん、彼女に威圧するスキルはないんだ」



「す、すみません、出来ればギフトが何なのか教えていただければ――」



「聖女よ」



「ああ、聖女……え?」



 懐かしいなこのやり取り。

 冒険者になりたての頃、何度今の彼女みたいな顔を向けられたのか。



「冗談ですよね?」



「どうしてあたしがあんたに嘘吐かなければならないのよ」



「残念ながら真実です。もう1人の連れが僕たちの身元を証明してくれるのですが」



 まあ時期ここに来るだろう。

 僕はウルミラさんが淹れてくれたお茶を口に運ぶのだけれど、どうにも部屋の外が騒がしくなった。

 僕はアガートラームにエレノーラを入れて、グリッドジャンプで外に飛ばす。



「なんでしょうか?」



「さっきの奴らの仲間が暴れているみたいです。あの特徴的な刺青が掘ってありますね」



「え、なんで見えて――」



「あたしの出番ね」



「座ってろぉ聖女」



 しかしミーシャは僕の言うことも聞かずにスタスタと歩いて行き、扉を開け放った。



 そこではギルド員と刺青の人たちが乱闘騒ぎを起こしており、どうにも物騒な雰囲気だった。

 彼らの声に耳を傾けると、やれ仲間を返せだの、やれ横暴だだの、学生運動でもやってるのかというほどの稚拙な内容が飛び交っていた。



 僕がお茶を飲んで一息吐くと、ルナちゃんが袖を引っ張ってきた。



「ミーシャさんを止めなくても?」



「止まらんでしょう」



「……おいリョカ、あの馬鹿口から吐くぞ」



「え?」



「11連――竜砲!」



 がおっと放たれた竜の信仰は、刺青の人たちだけではなく、ブリンガーナイトのギルド員もろとも外へとブッ飛ばした。



 ブリンガーナイトペヌルティーロ支部の建物を半壊させたミーシャは満足げに胸を張っている。



「うん、平和になったわ」



 瓦礫と化したギルドの入り口を見て、ウルミラさんが宇宙を感じた猫の如く顔で呆然としていた。



「せい……じょ?」



 驚いているウルミラさんは尤もだけれど、どうにもミーシャの様子がおかしい。確かに無茶苦茶する子ではあるけれど、ここまでではなかった。僕が首を傾げていると、入り口に誰かが駆けてきた。




「姉さん! 今何かすごいものがギルドから――って何これ!」



「あ~?」



「ッ! あ、あなたがこれを」



 ウルチルくんがミーシャに剣を構えた。

 ヤバい、どういうわけかミーシャが感情を操作できていない。そんな彼女に剣なんて向けたら……嫌な予感に僕は駆けだした。



「あんた、あたしに剣を向けるということは、それなりの覚悟が出来ているのでしょうね」



 ミーシャの拳が禍々しく輝く。

 その拳を見ただけでウルチルくんが肩を跳ねさせた。



「は? おいクオン、それ本当か!」



 すると突然、アヤメちゃんが叫んだ。

 クオンさんの名、つまり今の異常事態はそういうことなのだろう。



 ミーシャの拳がウルチルくんに向けられた。

 あんなの喰らって耐えられる感じではない。下手したらあの子、消し飛んでしまう。



 僕はミーシャに魔王オーラを放とうとしたけれど、その前に探知に引っかかった気配が1つ。



「ぶっ飛びなさい――」



「あ……」



「グリッドジャンプ!」



 ウルチルくんをグリッドジャンプで救出したアルマリアに一瞥を投げ、僕は瞬時にミーシャの両手に手をかざす。



「シールドオブグローリー、カノンルーナ・アイギス!」



「あぁんっ!」



 ミーシャがヤバいほどの殺気を僕に向けてきたけれど、僕の陰からルナちゃんが飛び出した。



「アヤメ! 信仰の主導権、今はわたくしが得ますよ!」



「頼む!」



 ルナちゃんがミーシャに触れたところ、淡い光が幼馴染を覆った。

 それで気が付いたのだけれど、ミーシャのペンダントの形が変わっている。



 ペンダントが牙と翼のモチーフになっていた。あれはもしや、アヤメちゃんとクオンさんの両方の信仰を得ていたというのだろうか。



 しかしルナちゃんに触れられ、ペンダントが三日月型と変わったことで、ミーシャがカクンと動きを止めた。



「……? 頭痛い」



 呆けているミーシャに近づき、僕は頭や体を撫でる。



「なによ?」



「なにじゃないなにじゃ。変な感じはしない?」



「変な感じだらけね。どうにも抑えがきかなかったわ」



「ついて早々何をやっているんですか~」



「いやうん、ごめんねアルマリア、僕も整理したいから落ち着きたいんだけれど」



 僕はチラリとウルミラさんに目をやる。

 彼女はわなわなと体を震わせており、最近みたペタンと女の子座りをするウルミラさんが大粒の涙を携えた。



「何なんですかぁあなたたちはぁ!」



 ギルド崩壊している現状、僕たちが悪いのは間違いないし、言い逃れも出来ないため、彼女が泣き止むのを待つしかない。



 新天地に到着1時間未満、この旅も荒れるだろうことを予感し、僕は盛大にため息を吐くのだった。

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