魔王ちゃんと新天地での第一発!
「新天地ぃ!」
「です!」
僕とルナちゃんはハイテンションで船から飛び出て、潮風を一身に浴びながら大きく伸びをした。
僕たちがいるのは、サンディリーデから船で1週間ほどにある港町・ペヌルティーロ、ここはグエングリッダーと呼ばれる国に属している町で、国の入り口の1つとなっている。
そして僕たちはもちろん海路でここまで来た。つまり船だ。
僕とルナちゃんは死にそうな顔でアルマリアに肩を貸してもらっているミーシャとアヤメちゃんを見た。
「アヤメちゃんも船ダメなんだもんなぁ」
「もったいないですよね、こんなに楽しかったのに」
「……俺は走った方が速いのよ」
「……ええ、海割って歩いた方が絶対に良いわ。どうして船なんて乗るのよ」
「ちゃんと他国に渡るよって言ったでしょ。サンディリーデからじゃ陸路がないって授業でもやったんだから、てっきり心構えが出来ているかと」
気だるげなミーシャを横目に、僕は2人の面倒を見てくれたアルマリアに礼を言う。
「アルマリアもありがとうね。もう2人は放っておいても大丈夫だからこっちにおいで」
「はい。それでリョカさん、グエングリッダーに来たということは」
「うん、こっちのギルドで情報収集するよ。グエングリッダー――ギルド大国、何よりもギルドに重きを置き、血も過去の栄光も意味もなさない完全な実力主義。アルフォースさんがいるかはわからないけれど、手掛かりはあるんじゃないかな」
「なるほど、確かにここなら父さんの情報もあるかも」
船の中で色々と話をするつもりだったのだけれど、ミーシャとアヤメちゃんがあの様子だったから、船を降りてから具体的な話をしようと僕たちは旅の行程はおろか、カナデが話していたことについてまだルナちゃんたちに聞けていない。
「さて、とりあえず入国と今日の宿探しをしちゃおうか」
「ですね。あ、入国の方は私が。こういう時、ギルドマスターだと楽なんですよ」
「それじゃあお願いするね。ミーシャたちはそこの店で待っていて、僕とルナちゃんで宿を探してくるよ」
僕はルナちゃんと手を繋ぐと、ミーシャとアヤメちゃん、アルマリアに手を振って町を歩き出す。
ゼプテンよりも活気がありさすが国の玄関、海を渡ってきた人々が見渡す限りいて、忙しなく往来を行き交っている。
僕はとりあえず、手を繋いでいるルナちゃんにはぐれない様に注意を促し、港からすぐにある市場に足を運んだ。
あちこちから食べ物の焼ける匂いが上がっており、どうにもお腹が鳴りそうになる。
けれど今探しているのは宿屋だ。
これだけ人が多いと宿の数も多いはずだけれど、この町、もしかしてそれなりに広いのではないだろうか。
グリッドジャンプで上空に飛ぼうかと考えたけれど、妙な気配を背後から覚え、僕たちは路地裏へと足を進ませる。
「リョカさん、やり過ぎは駄目ですよ?」
「ええ、ミーシャよりは加減が上手いので大丈夫ですよ」
路地裏に入ると、正面と背後から特徴的な刺青が掘られた男たちがやってきた。
明らかに親切で道を塞いでいるわけではなさそうで僕はうな垂れる。
「悪いなお嬢さん、おじさんたちちょっと懐が寂しくてな、身なりも見てくれも良いあんたなら大層金を持っているんじゃねぇかと思って声を掛けたんだが、良かったらお恵みを頂けないか」
笑いをこらえるように言い放つ男たちに僕はため息を吐く。
金をやって解決するならそれでもいいのだけれど、それだけでは終わらない空気感にどう動こうか思案する。
僕が指を鳴らそうとすると、また知らない気配が魔王オーラに引っかかる。
「そこまでだ!」
「これ以上の狼藉は見過ごせません!」
男たちが突然現れた男女に目を奪われた隙に、僕は指を鳴らし、正面と背後の2人、この状況を見ているおよそ男たちに仲間4人を切り刻む。
「最近人を攫って売りつけている奴らはお前たちだな?」
「私たちはあなた方を調べるようにギルドから遣わされた――え?」
2人が長々と喋っている最中、正面と背後の男たちから血が噴き出す。
「な、なに――?」
「ああごめんごめん、隙だらけだったからつい。そっちのお仲間はもう動けないってさ」
僕が声を発すると同時に、男たちの仲間だろう面々が血まみれで降ってきたり倒れたりと、助けに来てくれた2人と男2人が息を呑んだ。
「相手は選びな。首を落とさない優しさは持っているけれど、敵の四肢を刻んで港に並べるくらいの怖さは持っているつもりだよ」
男たちが青い顔をしながら僕を見つめており、彼らに笑顔を返してあげる。
「もう行っても良いかな?」
「あ~えっと」
「す、少し待っていてください!」
女の子の方が声を上げて、男たちを縛り付けた。
路地を出てルナちゃんを撫でていると、数人がやって来て僕たちを襲った男たちが連れて行かれた。
その後に助けてくれた男女が来て、僕たちに頭を下げる。
「ご協力、感謝します」
「私は、ギルド・『宵闇の騎士団』のウルミラ=セイバー」
「ウルチル=セイバーです」
ウルミラと名乗った彼女が握手のために手を差し出してきたけれど、僕は彼女と手を交互に見て思案する。
ブリンガーナイト――この国では、ギルドがたくさんある。私の世界で言うゲームなどのクランみたいなもので、それぞれにギルドマスターがいる。
そして彼女が所属しているギルド、お父様からの情報が正しければ、このギルドはA級ギルドと呼ばれる上位のギルドで、ミーシャならまだしも、魔王の僕が接触するのはよろしくない。
首を傾げるウルミラに僕は笑顔を向け、手を振る。
「それでは、僕たちは急いでいるので」
「ま、待って――」
「ウルミラ様!」
すると、彼女たちの仲間らしき人が息を切らせて駆け込んできた。
「奴らまた旅行者を!」
「え? もう、今日はなんでこんなに活発なのよ!」
どうにも騒がしくなってきた。
僕は彼女に一度だけ頭を下げると、ルナちゃんを連れてその場から去ろうとした。
けれど腕を引っ張られ、その場でつんのめる。
「あなたも一緒に来てください!」
「え――」
僕はウルミラに引っ張られ、引きずられていく。
ルナちゃんと顔を見合わせ、ついて早々また面倒に巻き込まれたな。と、うな垂れるしかないのであった。




