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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。

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魔王ちゃん、本物に出会う

「到着っ」



 あれから、特に事故もなければ事件もなく、3人無事ゼプテンに辿り着いた。

 最初だったから徒歩で来たけれど、これくらいなら次来るときは馬車でも良いかもしれない。それか、いっそのことこっちで部屋でも借りようか。そんなことを思案しながら僕は改めて貿易都市・ゼプテンを見渡す。



 海に面した大きな街で、プリムティスよりも活気のある街。

 僕的には馴染みのある街で、お父様――というより、ジブリッドはここでも店を出しており、きっと店に行けばそれなりの対応が受けられるだろうけれど、今はする必要はないかな。



「先にご飯にする? それとも依頼だけ受けちゃう?」



「冒険者ギルドに行ってみたいわ」



「果敢な聖女様だことで。まあいいか、ソフィアちゃんもそれでいい?」



「はい、お2人に従います」



 ソフィアちゃんの頭を一撫でした後、僕たちは冒険者ギルドに向かって歩き出す。

 そうして歩いていると、少し周囲の視線が気になってくる。一応、学園生としてここに来たわけだからもちろん制服着用なのだけれど、それがかえって目立っているのだろう。



「この制服、可愛いけれどやっぱり目立つね」



「そう? 結構地味じゃない」



 見た目の話をしているわけではないのだけれど、ミーシャはこの制服が地味だと思っているらしい。

 まあ華やかな制服ではないけれど、僕は気に入っている。

 それに制服さえ着ていれば、過剰でなければアレンジ自由というのもポイントが高い。



 しかしこの制服、見れば見るほどあれだね。所謂軍服ワンピース、青を下地に白のレースやリボンなど、きっちりしている割に可愛いが散りばめられている良い制服だ。



「まあやっぱり良い印象は持たれていない感じかな」



「学園は基本的に貴族主導ですからね」



「次からは私服で来た方が良いかもね。こんな格好してたら目を付けられちゃうよ」



 辺りを見渡すと、案の定下卑た顔をした者たちが目に映り、僕は広く展開していた魔王オーラを指先に戻した。



「正面から来るのならぶん殴ってやるわ」



「そんな優しい人ばかりではな~い。頼むから変な問題起こさないでよね」



 返事をしないミーシャに若干の不安を覚えながら僕たちはついに冒険者ギルドに辿り着き、ギルドの建物の前で足を止めた。



「それじゃあ行くよ」



「ええ、かかってきなさい」



「ミーシャさん、別に戦いに行くわけではないですよ」



 ギルドの扉を開くと、そこには豪快に騒ぎ立てる者たちと受付の人と依頼を受けている人たちでわかれている空間があった。



「わあ混沌としてるなぁ」



 飲み屋と兼業しているのか、数々のテーブルにジョッキと料理が並んでおり冒険者たちが騒いでいた。

 そして入り口から正面に向かっていくと受付の職員らしき人がカウンターテーブルの奥で忙しなくしており、さらに右手には掲示板のようなものが見え、そこには依頼書だろう書類がいくつも張られていた。



「とりあえず受付だね。ミーシャ、は大丈夫だね。ソフィアちゃんは大丈夫?」



「は、はぃ~。ちょっと熱気が、あぅ」



「どいつをぶん殴ればいいのかしら?」



 僕は頭を抱え、2人の手を取ると受付へと足を進める。



「すみません、今良いですか?」



 カウンターテーブルの向かいにいる職員に声を掛けると、1人のお姉さんが人柄の良さそうな顔でやって来てくれた。



「はい、承ります。依頼の申請でしょうか?」



「いいえ。僕たちは聖グレゴリーゼ学園から、こちらの冒険者ギルドで依頼を受けるために来たのですが」



「えっ――」



 受付のお姉さんが驚いた顔を浮かべて僕たちの顔を見回していた。

 何か想定外でもあっただろうか。と、お姉さんの動向を見ようとしたけれど、僕は瞬時に指先に牽制のためのオーラではなく、殺傷能力があるレベルまでオーラを引き上げ、振り返る。

 きっと僕の目は濁っているだろう。



「おいおいおい、お嬢ちゃんたち、ここは貴族どもの遊び場じゃねぇんだぞ~」



 ヒックと明らかに泥酔状態の男が絡んできた。

 僕はミーシャとソフィアを下がらせ、男と一対一の状態にする。



「あ~、おい……てめぇおい、あ~、ここはてめぇらが~入り込んで良い場所じゃぁ、ねぇ――わかってんのかぁ!」



 ただの酔っ払いならばよかったが、手を上げてくるのならこちらもそれなりの対応をしなければならない。

 僕は指を鳴らす構えを取った――が、頭に警鐘が鳴る。すぐに2人を抱えて飛び退いた。



「おいおいそのくらいにしておけ。この子たちに手を出せば、それこそ貴族の思うつぼだぜ」



「――っ! ガイルさん」



「……」



 ミーシャが首を傾げているけれど、ソフィアがその男を見て驚いた顔を浮かべている。

 殴られそうになった時、巨漢の男が泥酔の男の腕を掴み、僕たちから引き離した。



「悪かったな嬢ちゃんたち、ここはそれなりに治安も悪いが、酔っぱらってなけりゃあこんなことはねぇんだよ。いつでも酔っ払いがいる場所ではあるけどな」



 懐っこい顔のおっさんがウインクをしながらそう言ったけれど、僕はどこまでも冷静に、そして気取られないようにオーラを小さくしていく。



「いいえ、わたくしも自身の立場を弁えずに、無遠慮に縄張りに入り込んでしまい申し訳ありませんわ。依頼を受けたらすぐに出て行きますので、どうかそれまでわたくしどもを目の保養にでもしてくださいませ」



 ミーシャがスキルを発動させようとするのを手を無理矢理引っ張り制し、受付で僕たちが受けるだろう依頼書を受け取り、そのまま早足で出口へと歩んでいく。



「――」



「――」



 巨漢の男とすれ違いざま、刹那にぶつけられた男の圧を魔王オーラで押し返し、ついでに無遠慮にこちらを覗いていたおよそ彼の仲間だろう者に向かって、僕は気取られないように指を鳴らした。



 そしてギルドを出た僕は大きく息を吐いた。



「あんたどうしたのよ」



 事態を把握していないミーシャを羨ましく思いながら、さっさとこの場所から離れるために早足で歩き出す。



 あれが本物。学園で見たそれとは何もかもが異なり、きっと実力も向けられる栄光も文字通り桁が違うのだろう。

 正直会いたくはなかったけれど、どうかどうか、あれが絶対魔王殺す主義でないことを僕は祈るしかない。



「あれが、勇者かぁ」



 げんなりとした僕から発せられる思った以上に力のない呟きは、風へと溶けるように空へと消えて行くのだった。

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