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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
13章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、女神ちゃんたちと日常を歩く。

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魔王ちゃんと新天地に向けて鳴らす福音

「よし、準備は終了。ミーシャとルナちゃん、アヤメちゃん、忘れ物はない?」



「ん。必要なものはトイボックスに入れたし、ないのならどこかで調達すればいいでしょ」



「俺も……うん、特にないわね」



「こう旅に出ると、どうにもたくさんの物を持って行きたくなりますけれど、わたくしちゃんと我慢しました」



 アルマリアたちの戦闘訓練が終わって数日間後、僕たちは旅の準備を終え、アルマリアのお父さんであるアルフォース=ノインツさんを探しに行くために今日の早朝に旅立つ。



「えっとその、お手数おかけします」



「いいえ~、アルマリアが元気になるのなら僕も嬉しいし、それにせっかくだし僕ものんびりしたいと思っていたから、アルマリアも骨休めの旅行だと考えて気楽にいこうよ」



「リョカさん……」



 僕はアルマリアを撫で、見送りに来てくれた面々に目を向ける。



「そんじゃあアルマリアのこと頼むな」



「うん、ガイルも皆のことお願いね」



「おう、お前たちが帰ってきた時にびっくりするくらい強くしとくぜ」



「ほどほどに……いや、好きなように扱いてあげて。ガイルの指導に折れるような子たちじゃないからね」



「そういうこった」



 僕はガイルと拳を打ち合わすと、テッカに目を向ける。



「本当にお前たちだけで大丈夫か? 親父さんの居場所はわからなかったのだろう? それなら数で――」



「テッカ心配し過ぎ。でもありがとう」



「む、そうだな。お前たちも子どもでは……いや、若干2名ほど子どもが交じっているが、お前たちなら大丈夫だろう。ミーシャ、アルマリア、ちゃんとリョカの言うことを聞くんだぞ」



「あたしたちを名指しした理由を詳しく問い詰めたいんだけれど」



「そうだそうだ、テッカさんいっつも大人ぶりますけれど、それただのおっさんのお節介ですからね!」



「……リョカ、アヤメ様、ルナ様、くれぐれもあの馬鹿たちを頼む」



「テッカは本当に真面目よね」



「アヤメもどちらかと言うとあちら側ですよ?」



「え、なんで俺今貶されたの?」



「しっかりリョカさんの言うこと聞きましょうね」




 抱き着いてきたアヤメちゃんを撫でながら、僕は幾つかのアイテムを持って来てくれたヘリオス先生からそれらを受け取った。



「先生もありがとうございます。それとまた長い間学園を空けることになってしまってすみません」



「生徒がそんなことを気にしなくても良い。やるべきことがあり、尚且つ君が決めたことなのだろう? それならば教師としては、胸を張って旅立つ君たちを見送るべきだろう」



「本当に、先生にはお世話になりっぱなしです。レシピも幾つかおいて行くので、僕が不在の間、お父様と商売してください」



「ああ、こちらもいつも助かっているよ。まあ1つ懸念事項があるとすれば、ミーシャ=グリムガント、アヤメ=ジブリッドの両名の勉強を見てあげられないことだろうか? 2人とも、戻ってきた時にテストをするから予習復習を忘れないように」



「げっ、予習復習って、授業ほとんど覚えていないのだけれど」



「そう言うと思ったので、こちらを作っておきました」



 アヤメちゃんとミーシャに、先生が本を渡した。

 あれはまさか。と、僕はそれを開いてみると、そこにはおよそ1期生が習うであろうギフトとスキルについて記入されており、どこからどこまでがいつまでの範囲なのか付箋まで張ってあった。



 けれど驚くべきはそこだけではないのだけれど、ミーシャが小さく膨れている。



「……あたし、そこまで心配されるほど頭悪くないですよ」



「入学したての頃はリョカ=ジブリッドと並び優秀であったが、戦いをこなすにつれて知識よりも感覚を優先しているのが目立つ。学園は知識を学ぶ場だ、そこを忘れないように」



「むぅ」



 図星を突かれたからか、ミーシャが不貞腐れたように顔を伏せた。

 自覚している分マシではあるけれど、2人の勉強を僕が見ることを決めていると、苦笑いのお父様が近づいてきた。



「2人とも元々賢いのだからそんなに悲観することはない。ただ学園には学園のやり方があり、そこに通っている以上、そこに倣うべきだ。その上で自分の道をしっかりと歩いて行けばいい」



「お父様」



「ん、リョカ、頼まれていた情報、仕入れてきたぞ」



「ありがとう。やっぱお父様に頼んで正解だった。ああそれと、出来上がったんだね、あれ」



「ああ、お前とヘリオス殿のおかげで、本を量産(・・)出来そうだ」



 ヘリオス先生がミーシャたちに渡した本は驚くべきことに手書きではない。僕と先生の共同開発で、所謂コピー機能付きプリンターをやっと作りあげたのである。

 これで前から計画していたギルドにジブリッド商会の商品を宣伝でき、尚且つ僕がモデルを務める道具紹介の雑誌もギルドに置くことが出来る。



 そして僕はお父様から幾つかの書類を受け取り、礼を言うと、僕とミーシャの2人をお父様が抱き締めてきた。



「こういう機会じゃないとさせてくれないからな。もう少し家族には甘えてくれ」



「うん……」



「ルナとアヤメもこっちに」



 お父様がルナちゃんとアヤメちゃんを手招きし、2人を優しく抱きしめると女神さまたちがくすぐったそうに、しかし嬉しそうに身をよじっていた。



「えへへ、貴重な経験です」



「……まあ、悪くは、ないわね」



 そしてお父様は僕の腰に掛かっている2人のクマに目線を合わせ、頭を下げた。



「ロイ殿、エレノーラ、跳ねっ返りの娘たちですが、どうかよろしくお願いします」



 お父様にはロイさんたちのことは話してある。けれどお父様はそうかと2人を受け入れてくれた。



 頷く2人にお父様は満足げだった。



「ロイ殿ともいずれ、談笑を交えた食事でもしたい。帰ってきた時に場を設けるからよろしく頼むなリョカ」



「うん、良かったら仲良くしてあげて」



 そうして僕たちがそろそろ出発の準備をしていると、小さく声が聞こえてためにそちらに目を向けると、ソフィアとカナデ、セルネくんが走ってきた。



「間に合った」



「ですね、良かったです」



「もぅ、カナデちゃんが寝坊したからだよぅ」



「う~、本当にすまんかったですわ」



「おやみんな揃って。おはよう」



「うん、おはようリョカ。本当は俺も行きたいなぁって思うんだけれど」



「一緒に行く? 僕はそれでも良いよ」



 けれどセルネくんは首を横に振った。



「いや、ここでガイルさんに鍛えてもらうよ。それにミーシャとガイルさんにルイス様の話を聞いてさ、俺もリョカに頼ってばかりじゃ駄目だって。だから、ちゃんと約束した通り、俺も強くなってここで待っているよ」



 僕はどうにも胸が締め付けられるような感覚に陥る。

 所謂キュンとしたという感情で、セルネくんを抱きしめる。



「わ、わっ――むぅ、リョカって俺のこと子ども扱いしているよね」



「そんなことないですよ。可愛い可愛い勇者様だと思っているよ」



 膨れるセルネくんを愛おしく感じながらも、お父様が凄い顔をしてセルネくんを見ていることに目を背けつつ離れ、僕はソフィアに目を向ける。



「次に会った時はどれだけ成長しているのかなぁ」



「そんな、私なんてまだまだですよ。でも、ええ――リョカさんとミーシャさんと並んで歩くことは忘れていないので、それに近づけるように頑張ります」



「本当に真面目だね。そんなソフィアに朗報だよ」



「朗報ですか?」



「ある女神様とアポとっておいたから近い内にお会いすると思うんだけれど、粗相のないようにね」



「え? えっと、はい?」



「ソフィアさん、ソフィアさん、テルネは厭味ったらしいので無視しても全然かまわないですよ。月神様がいるから大丈夫ですって突き返してください」



「こらこらルナちゃん、テルネちゃん真面目でいい子だったじゃない。それに決めるのはソフィアなんだからそんなこと言っちゃ駄目ですよ」



「むぅ」



「えっと、テルネさまと言うと、知識と静寂の?」



「うん、不死者騒動でソフィアに関心を持ったみたいで、会いに行きたいって言っていたよ。真面目だけれど優しい女神様だから良くしてあげて。ソフィアの異界にも興味津々だから説明してあげると良いよ」



「……わかりました。テルネさまが訪ねられた際にはしっかりともてなしたいと思います」



「うんうん、よろしくね」



 そして僕は先ほどから抱き着きたそうにしているカナデに目を向けると、彼女がすっ飛んできた。



「リョカぁ!」



「はいはい、カナデは今日も可愛いね。朝早くなのに頑張って起きてくれてありがとうね」



 抱き着いてきたカナデを受け止め、頭や喉を撫でてあげる。

 カナデが気持ち良さそうに喉を鳴らしたために、プリマが羨ましそうにしているから、僕は小さな獣を抱き上げ、彼女も撫でてやる。



「あたしも行きたいけれど……キサラギの人が駄目だって。お前はとにかく技を安定させることと、もっと心を成長させろって」



「流石テッカ。カナデちゃんとテッカの言うこと聞くんだよ。彼ならちゃんとカナデを見てくれるから、きっともっと可愛くなれるし、何よりも」



 僕はテッカに一度目をやり、少し思案する。

 けれどいつかは考えなければならないことだし、何よりも彼女にはそれを知ってほしい。



「カナデの昔のことも知れるかもしれない。向き合う必要はないかもだけれど……でも、カナデも知りたいでしょう?」



「……うん、やっぱり目を逸らしてばかりじゃいられないかなって。お頭のエクストラコードもあるし、そろそろ本格的にあたしもあたしのことを知らなきゃって」



「なんだって?」



 今カナデが聞き覚えのない言葉を放った。

 しかしルナちゃんとアヤメちゃんは覚えがあるのか、ハッとしたような顔を浮かべた。



「エクストラコードって確か」



「ええ、もう長い間使われていないので忘れていましたけれど、臣下宣言(エクストラコード)ですか。もしかしてシラヌイって」



「ああ、魔王か」



 僕が意味もわからずに首を傾げていると、カナデがミーシャにも飛びついた。



「ミーシャもエクストラコード使っていたよね、あたしと一緒」



「知らないけど?」



「ほら、風を蹴っていたし、光も殴ったんでしょ? あれ、ミーシャのエクストラコードだよ。ミーシャの場合はこの世界の理から外れているらしいから、女神でも把握できない理外の力を使えるけれど、強力だから気を付けてね」



「ああ、あれってそうだったのね。カナデやるじゃない」



「うん! あたしは2人の友だちだし、2人のこと大好きだから!」



 ミーシャがカナデを撫でているのを横目に、もう少し話を聞いていたかったけれど、そろそろ時間を押しており、この話は女神さまたちに確認するとして、僕は全員を順番に見た。



「さって、名残惜しいけれどそろそろ行かないとね」



「別に今生の別れでもないんだし、こんなに仰々しくする必要もなかったんじゃないの?」



「良いじゃないミーシャ、僕は見送りに来てくれたことが嬉しいよ」



「まあ、あたしも嫌ではないけれど、どうせ数か月でしょう?」



「学生の数か月は長いんだよ。あっという間に卒業なんだから時間を大切にしようね」



「リョカさんミーシャさん、私のためにそんな貴重な時間を使わせて本当にごめんなさい」



「貴重だからアルマリアにその時間を割くんだよ。それとも、僕たちじゃ力不足だったかな?」



 アルマリアが首を横に振り、僕たちにくっ付いてきた。



 可愛らしいギルドマスターが涙を拭って顔を上げたから、僕たちはみんなに向き直る。



「それじゃあ、いってきます」



「いってくるわ」



 僕とミーシャは手を振り、みんなとの別れを噛みしめて一歩を踏み出す。



 打ち鳴らす踵は福音――この一歩を踏みしめて、僕たちは新たな場所を目指すのだった。

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