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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
13章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、女神ちゃんたちと日常を歩く。

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魔王ちゃんと駄々っ子を懲らしめるパパ(元魔王)

「いや、駄目に決まってるでしょ」



「なんでよ」



「今回はランファちゃんとジンギくんがこれからも戦い続けるために、上位の戦闘を体験させることが目的なの。これを決めた時、2人の殻を破ろうと考えてたけれど、もうそれは必要ないみたいだしね」



 ランファちゃんとジンギくんの下に行ったミーシャが、戻ってきて突然自分も入ってアルマリアを泣かすとか言いだしたから、僕はそれを拒否した。



 すでに2人は戦い続ける理由を得た。

 ランファちゃんは戦いの心意気、ジンギくんは次に喧嘩をするという約束。

 僕たちが何かしなくても2人は強くなっていくだろう。



 それ故に今回の戦いは、とにかく上位の戦闘に慣れることを目的にしてもらいたい。ミーシャが言うように勝つことを目的としているわけではない。そもそも2人ではアルマリアに勝てない。



 いや、僕の幼馴染が言わんとしていることもわかる。

 現に舞台に立っているアルマリアが安堵の息を吐いており、上級冒険者としての在り方として如何なものか。



「ここいらで一発へし折った方が良いわよあのギルドマスター」



「それを僕らがやる必要ないでしょ。放っておいてもガイルとテッカがやってくれるだろうし、僕たちが口を出すことじゃない」



 膨れるミーシャを撫でていると、近くで話を聞いていたガイルとテッカが近づいてきて、僕と同じように聖女様の頭をぽんぽんと撫でた。



「まあそういうこった。確かに最近のあいつは良いとこなにもねぇけどな、それなりに頑張ってはいるんだよ」



「……本当? マナから聞いたけれど、強くなるための練習をするって言って仕事そっちのけで出て行ったと思ったら、飲み屋で寝ているからどうにかしてほしいって苦情が何件も来たって聞いたけれど?」



 ガイルとテッカがミーシャから顔を逸らした。

 アルマリア自身、ギルドマスターの自覚はある。僕たちが血冠魔王と戦った時やこの間の不死者襲撃でも冒険者の安否をずっと気にしていた。

 心意気は間違いなくある。けれど最近の彼女はどうにも甘えたがりな面が顕著に出ているような気がする。



「あの、横から失礼します――」



 すると話を聞いていたルナちゃんが手を上げた。

 僕たちが彼女に視線を移すと、同時に舞台の方でも動きがあった。



 ランファちゃんとジンギくんVSアルマリアとの戦いが始まった。



 ジンギくんが前に出てランファちゃんを守ろうとしたけれど、そこは空を超える者。前衛後衛など関係なしに、容赦なく2人の隙を突いていく。



「確かに、最近の彼女は決して褒められる大人の行動をしていません。けれどアルマリアさんも複雑なのです」



「そうなの?」



「ええ。ガイルさんとテッカさんは彼女と10年ほどの付き合いですよね」



「あ? ああ、成人する前に、勇者だって言うだけで俺に突っかかってきて以来だな。テッカは俺たちがヤマトを倒してからだから、そんなもんだな」



「だな。あの時も魔王を倒した俺たちに大分突っかかってきたな」



「突っかかってきた? どうしてまた」



「自分も魔王を倒すんだぁっていやに息巻いていてよ、ギルドマスターになるまで、俺たちは大体の依頼は一緒にこなしたな」



「ん~ぅ?」



 僕は首を傾げる。

 今でもそういう好戦的な行動を見ることはある。けれどなんていうか、昔の彼女はもう少し、こう……。



「負けず嫌いなんですよ。彼女はガイルさんとテッカさんと同じく、生粋の戦士です。けれど最近はリョカさんに負け続け、リョカさんに仕事を取られ、リョカさんに――」



「わかったわかりました、僕が悪かったです」



「あ~、そういやぁコジュウロウにも負けたって認識だったなあいつ」



「負け続けているな」



 ルナちゃんが首を横に振ると、同じく話を聞いていたアヤメちゃんが欠伸をしながら話に混じってきた。



「一度の敗北なら人間いくらでも立ち直れる。その負けを研究して次に生かそうとする。でもアルマリアはそれがおっつかなくなるくらい最近では負けが込んでるんだよ。そりゃあもう、負けることを悔しいと思えなくなるくらいな」



「しかも同期のガイルさんとテッカさんが着々と名を上げている中、アルマリアさんは名を上げることも出来ず燻り、最近ではギルドマスターという役割すら果たせずに、後続からは追い抜かれる。いじけてしまうのも無理はないかと」



「あああと、その後続との差を自覚しちまってるなありゃあ。どうせ頑張ってもなんて思ってんじゃねぇか?」



 あ~。と、今女神さまたちの話を聞いていた全員が、舞台のアルマリアに生暖かい目を向けた。

 そしてその声が聞こえていたのか、件のギルドマスターが体を震わせ、顔を真っ赤にしていた。



「あ、あのアルマリアさん? えっとその、わたくしたちは気にしていませんから、ぜひギルドマスター・アルマリア=ノインツ様のお力を、若輩のわたくしたちにお見せくださいませ」



「そのだな、あっちの面々はその、遠慮とかそういうのをどっかに置いてきちまってるだけで、そんな風に思っている奴は稀――おいルナ! アヤメ! そう言うのは思ってても言うんじゃねぇ!」



 ジンギくんのフォローの叫びに、全員が顔を逸らした。

 傷つけてしまっただろうかと彼女の顔をちらと覗くと、体を震わせて顔を伏せているアルマリアの手に大槌が握られた。



 そして「フフフ」と、どうにも怪しい笑いを浮かべ、手をかざした。



「神装・鏡哭」



 アルマリアの背後に、人型の何かが現れ、それの指先が光り出す。



「ちょっとアルマリア、それは――」



「何でこんなに辱められなきゃならないんですかぁ! もう良いです、とりあえずこの2人を速攻でやっつけて、学生全員をブッ飛ばします!」



「規模がちいせぇこと言いだしたぞあいつ」



「落ち着けアルマリア、セルネたちはともかく、学生にはリョカとミーシャ、カナデも含まれているぞ!」



 煽ってんのか落ち着けたいのかわからないガイルとテッカを呆れつつ、僕は一部の結界を解いてランファちゃんとジンギくんのサポートに入ろうとした。



 けれど光線が2人に伸び、僕が危ないと声を荒げるけれど――。



「頑強凱武――いってぇぇ! なんだこれ」



 1つはジンギくんのスキルで防げたけれど、今彼が作り出した普通の金属ではアルマリアの最終スキルは防げない。



 ランファちゃんにあの光線を受ける術はなく、タップを踏むようにそれを躱していくのだけれど、やはり限界があり、彼女に光が伸びた刹那、僕は腰に違和感を覚えた。



「ふはははぁ! これがギルドマスターですよ!」



 アルマリア自身、ランファちゃんに光線が伸びていることに気が付いていない。



 そしてランファちゃんを貫こうと光が奔った。かに見えたけれど、それは赤交じりのどす黒い壁(・・・・・・・・・・)に阻まれた。



「ふぇ?」



『……ああ情けない、これがギルドマスターという立場の者の戦いか。恥を知りなさい』



 その()は確かに僕たちの目に映っている(・・・・・・・)



「な、な……」



「ロイさん」



『ランファ=イルミーゼ嬢、お怪我は?』



「い、いえ、あなたのおかげで」



『それは良かった。そちらのジンギ=セブンスターくん、君も大丈夫かな』



「あ、ああ――っと、あんたがロイさんか。この間はお嬢様を助けてくれてありがとう」



『いや、彼女が生きる道標をつかみ取っただけだ、私はただそれに寄り添っただけさ』



 神官服のクマが、何か格好良いこと言いながら丸い手でアルマリアを指す。



『ギルドマスターともあろうものが、己のギルドに属する者を、しかも利己的な理由で傷つけようとするなどあってはならないことだ。少し頭を冷やしなさい』



「あ、あなたにだけは言われたくないですよ!」



 まあ尤もである。

 とはいえ、こんなたくさんの目がある中でロイさんが暴れるとなると、問題になりそうで、僕は戻るように言おうとしたけれど、もう1体のクマ、エレノーラが首を横に振った。



『あのね、お父様怒っているみたいで、このままやらせてあげてくれませんか?』



「う~ん、でもなぁ」



「いいじゃない。()のあいつは思うところがあったんでしょ? あんたはあれを連れてきたんだから、その変化を受け入れるべきだわ」



「むぅ……」



 僕はチラリとガイルとテッカに目を向ける。



「良いんじゃねぇか? 少なくともあの嬢ちゃんの前でロイはやらかさねぇだろ」



「ああ、今のロイから悪意は感じられない。俺たちも一度負けた身だ、お手並み拝見といこうか」



 最早アルマリアのことより、ロイさんの戦いを目の前で見たいという状態になっている2人に呆れつつ、僕は小さく手を上げた。



「本当は僕がサポートしようと思ってたんだけれど……ロイさん、お願いします」



『お任せあれ、私の恩人。この駄々っ子には、少しお仕置きが必要なようだ』



 血思体のクマがたくさん顕れ、ロイさんが戦闘体勢に入った。



 思わぬ助太刀が入り、この戦いの行方もわからなくなったけれど、みんながみんな納得する終わり方をしてくれと切に願うのだった。

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