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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
13章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、女神ちゃんたちと日常を歩く。

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勇者くんと超大型魔物

「うあぁぁぁぁぁっ! 死ぬ! 死んじゃうってば!」



「情けない声を出すんじゃないわよ。たかがでかいのに追われているだけでしょ」



「み、ミーシャ様! これはヤバいですぜい! グランドバスラー、竜種に最も近いとされる古代の超大型魔物ですぜい!」



「竜ならリョカが倒したでしょ。さっさと倒すわよ」



「無理! 無理だから! カナデぇ! 何で剣構えてんの!」



「いけますわ」



「行けないからねカナデ嬢! お願いだから大人しくしててよ!」



「お前らもう諦めて冷静になりなさいよ。俺は諦めたわ」



「アヤメ様、ここは我らを導いてはくれぬでござるか?」



「無理無理、あの不良聖女が俺の言うこと聞くはずないじゃない」



「カナデちゃんせめてプリマを下ろしてよぅ!」



 俺たちは今、ミーシャが受けた依頼に同行しているのだけれど、依頼内容はそれほど難しいものではなかった。はずだった。

 けれどミーシャが選んだ依頼にまともなものがあるはずなかったのである。



 最初の依頼内容は定期的に山が揺れており、そこから魔物が降りてきて迷惑しているという内容で、降りてきた魔物の討伐と、出来れば揺れの原因の調査である。



 受付のマナさんや他の冒険者もこの程度の依頼ならBランク相当だろうと話していたけれど、ミーシャがこの依頼を受けると言ってきかなかった。その時点で疑うべきだった。



 今現在、俺たちはタクトが説明してくれたグランドバスラーという魔物から逃げている。



 ミーシャは聖剣を使った俺の背に腕を組んで乗っており、タクトはカナデのお尻を正面に小脇に抱えて、オルタは移動速度が上がる逸話のある宝石をアルバトスカインに使ってアヤメ様と肩に乗っており、クレインは脚力強化して走っている。



 そしてなぜ逃げているかというと、その揺れている山というのが件の魔物だったというだけで、小型の魔物を退治している時、ミーシャがおもむろに山を殴ったことで、大人しくしていたグランドバスラーが怒りだしたというわけである。



「タクト、あいつについての情報」



「へ? あ、ああえっと……グランドバスラーはとにかく長生きな4足歩行の魔物で、長く蓄積された力はある時は竜をも超えるって言われてますぜい。けれど竜種とは根底から違うから人でも倒せると言われてますぜい」



「補足しとくな。確かに竜ほど固くもねぇし奴らのようにギフトは使わねぇ(・・・・・・・・)、人でも倒せるというのはあながち間違っちゃいねぇ。A級を保有する国が策を用いて。だがな」



「俺たちは国じゃないですよ! もうダメだぁ終わったぁ!」



「つまり。倒せるのね?」



「話聞いてた?」



「セルネ、敵はそっちじゃないわ」



「いやだから――ぐぇっ」



 背に乗るミーシャに無理矢理方向転換させられ、俺の体はグランドバスラーに向けられた。

 さらに聖女様に腹を軽く蹴られてしまい、俺はつい走り出してしまう。



「無理無理無理! 潰されるって!」



 追ってくるグランドバスラーに向かっていく俺。大きさに違いがあり過ぎる。こんなの倒せるわけがない。



 ああ、まだ勇者として何も名を上げていないのに、こんなところで終わってしまうのか。

 せめてリョカがいる場所で死にたかった。



 俺が諦めていると、背に乗る聖女様が眩い橙色……否、禍々しいまで色が重なり塗りつぶされた漆黒の拳を構えた。

 嘘だろうこの聖女、この体格差で正面から拳を構えるとかどうかしている。



 超巨大な魔物が俺たちを踏みつぶそうかという刹那、世界を救いに導く本来なら高潔なその人が口を開いた。



「五月蠅い」



『――ッ!』



 その一言に、グランドバスラーが足を踏ん張り、なんと減速した。

 心なしか、超大型魔物が息を呑んだようにも見えた。



 急に減速したために踏ん張った足から大地が抉れ、砂煙が巻き上がって俺に近づいてきたグランドバスラーに、我らの聖女様が拳を振り上げた。



「31連――」



 超大型の魔物の顔面に、ミーシャが拳を放った。

 聖女の信仰が衝撃となって辺りに奔っていくのを、俺は踏ん張って耐える。



 グランドバスラーが悲鳴のような大声を発しながら額から血を噴き出し、痛みに前足を上げて立ち上がった。



「ひっくり返すわよ」



「え!」



「さっさと攻撃なさい」



「ああもう! 知らないからね!」



 俺の背からミーシャが飛び降り、俺は口に咥えた聖剣を崩して大きな剣へと変えて駆け出す。

 するとカナデも俺と合わせるように並走しており、2人でグランドバスラーへと攻撃を繰り出す。



「我が進むのは炎の道、駆けろ駆けろ、駆けろ! コンコンコン、世界にもたらすは災禍の行方! ワールドオーダー――表不知火・爆砕恋華、打神楽!」



「うぉぉ! もっとデカく、もっと大きく! 『魂爆発破(こんばくはっぱ)』」



 勇者の第3スキル、身体能力、信仰を急上昇させたうえで体中を物凄い痛みが襲うというスキルだ。

 上位勇者はこのスキルに頼らないと聞くけれど、無理、こんなのを相手にしていたら頼らざるを得ない。



 カナデが爆炎で燃やした個所を、俺は大きくなった剣で切り裂く。



 グランドバスラーが少し後ろに傾いたけれど、倒れるまでまだまだ。



 俺たちの攻撃が終わると、オルタ、タクト、クレインが駆け出したのが横目に映った。



「やるよ2人とも! 発破・天凱――五久門・腕力強化!」



「ビーストレイブ・ジャイアントオーグナー。タイラントバッシュ・ワイルドバッシャー! エンブリオユニオン!」



「タクト、クレイン! これを殴るでござるよ! 『天涯の宝石結晶(エルダープリムス)』・絶閃衝石(ぜっせんしょうせき)



 タクトとクレインの正面に、人の顔より大きな六角形の宝石が現れた。

 オルタの指示通り、2人がそれを殴った。



 宝石は強く輝き出し、まるでタクトとクレインの攻撃を幾重にも強化したかのように2人の攻撃の面影を残して、グランドバスラーへと射出された。



「絶閃衝石は衝撃を一度だけ吸収し、数倍にして返す逸話の宝石でござる! 2人の拳、受けるでござるよ」



 宝石の結晶がグランドバスラーへと触れた瞬間、轟音を響かせ、超大型魔物の体が傾いた。



 やったと俺が喜びに握り拳を作るけれど、なんとグランドバスラーが歯を食いしばり、寸でのところで耐えてしまった。



 まずい。と、俺がカナデを連れて逃げようとすると、聞き覚えのある声が聞こえた。



「まったく、少し目を離すととんでもないことに関わっているなあの馬鹿は!」



「まずは報告してほしかったですねぇ。というかグランドバスラーとか、報酬どうすればいいのでしょ~」



 俺の頬に風が奔ったかと思うと、グランドバスラーの後ろ脚から血飛沫が上がった。



 そしてそれと同時に、人型が発する光線を次々と大槌に当てて光を放っている武器を振りかざす小さな影。



「如月流疾風四式――影一閃」



「センスガンズ・インパクト!」



 テッカさんによって足を切り裂かれ、自重を支えきれなくなったグランドバスラーが倒れ掛かると同時に、アルマリアさんの超強撃よって大型の魔物がそのままひっくり返った。



「あんたたちよくやったわ。あとは任せなさい」



 そう言ってミーシャが空を駆けた。

 空を駆けた? え? どうしてあの聖女様は空を飛んでいるのだろうか?



「なにさも当然のように宙に上がっているんだあいつは?」



「というか、風を足場? にしているっぽいですね」



「どんなスキルだ」



「なにあれ知らん、こわ」



 アヤメ様が知らない何かが発動しているらしい。

 しかし抱えていたカナデが何か考え込んでおり、俺は目を向ける。



「そりゃあ当然か。あたしにも使えるんだから、当然ミーシャもエクストラコード(・・・・・・・・)使えるよね」



「え、カナデどういう――」



 カナデに確認しようとしたけれど、上空にいるミーシャの闘気が赤くなり、さらに大教会を使用したのか、信仰の波がここまで押し寄せる。



「79連――」



 最早空間が歪んで見える暴力の極光に、俺たちは目を覆った。




「しっ、ねぇ!」



 空を蹴った(・・・・・)ミーシャがものすごい勢いでグランドバスラーへと突撃していき、あの巨体を拳で貫いていった。



 空を覆うほどの血液の雨に俺たちは呆然としながら、ただ我らの聖女様が屍から這い上がってくるのを眺めているのだった。

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