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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
13章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、女神ちゃんたちと日常を歩く。

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魔王ちゃんとある日の討伐

「ぬあぁぁっ! こんなの聞いてないよぉ!」



「ほらほら、口だけじゃなくて手も動かしましょう。ジンギくん、ちゃんとタンク……前衛が機能していないとマナさんとランファちゃんが危険な目に遭うよ」



「うんなこと言われたって――だぁクソ! 頑強凱武!」



 体を鋼鉄化させたジンギくんが敵性の大型魔物の攻撃を一身に引き受ける。



 マナさんが受けたのは討伐依頼で、内容は最近小型の魔物が街道に集まっておりどうにかしてほしいというものだった。

 報告されていた魔物は弱いものばかりで、ギルドとしても初級冒険者に任せても良いという判断だったのだけれど、その調査をした冒険者の質があまりよろしくなかったのだろう。



 いや、そもそも上位の冒険者のほとんどがこの間の不死者討伐で出た被害の復興に当たっていたり、あの時の高額報酬で暫く仕事から離れるという選択をしたり、力を持った冒険者が現場を離れていたことが問題で、ギルドもそこまで手が回っていなかった。



 つまり――そんな小型の魔物が街道にも出てきてしまう理由(・・)をしっかりと調査してなかった。

 その結果、こうして小型魔物を餌にしていた大型魔物が初級冒険者を襲うという現状に繋がってしまったわけだ。



「ギルドの怠慢だよこれ!」



「そうですね、あとで資料にして纏めましょうね」



 街道に立つ木のそばにレジャーシートをひき、木陰で伸びをする僕をマナさんが睨みつけてくる。

 もちろん手を貸すつもりはない。



 そもそもあの大型魔物、確かに初級冒険者では退治することは難しい。

 確かCランク相当のルンドキーパーと呼ばれる魔物で、一つ目の怪物で手には巨大な棍棒を持った半裸の人型魔物――つうこんのいちげきを放ってきそうな見た目のモンスターである。



 けれど正直、このメンバーならCランク程度どうにでもなるだろう。



「さってそれじゃルナちゃん、ここは景色も良いですし、お昼にしましょうか」



「はい。朝卵をたくさん使っているのが見えたので、ずっと楽しみにしていました」



「ルナちゃんは卵好きですよね。僕も結構好きなのでよく使いますけれど、やっぱりこうやって喜んでもらえると嬉しいですね――」



「手伝えとは言いませんけれど、せめて見ていてくださいですわ!」



「おや、魔剣でこっちに小型魔物が来ないように牽制しているんだけれど、それをそっちのけでランファちゃんを見ていろと? しょうがないなぁランファちゃんも見せたがりなんだから」



「わたくしが悪かったですわ! そこで大人しくしてろ!」



「まっ、お口が悪くなっておりますわイルミーゼ様。攻撃の要はイルミーゼ様なのですから、手を動かさないと終わらないですわよ~」



 可愛らしく睨んでくるランファちゃんを横目に、僕は辺りに意識を伸ばす。

 それなりの量の小型魔物がこの戦いを見ており、一部は錯乱して戦闘域に飛び出してしまいそうな気配もあった。

 それらすべてに対応するためにアガートラームを生成してあちこちで監視の目を光らせる。

 これならあの子たちはあの大型だけに意識を向けられるだろう。



「ほんっと、意地が悪い魔王ですわ。ルミナスハート!」



 細剣に光を纏わせ、その光を突きと同時に射出する。

 本来のルミナスハートなら幾つもの光を放ち牽制するという面が強いスキルであるけれど、ランファちゃんはその光を一点に集め、貫通力のある攻撃に使っているようだ。



 一筋の光がルンドキーパーの肩を貫いたけれど……人に使うのであれば致命傷になり得る攻撃、しかし如何せん体の大きさが違い過ぎる。

 ただ肩をあんな細い光で貫いたところで大したダメージにはならないだろう。



 さて、どのように動くのやら。



「ジンギ、肩を借りますわ」



「は――?」



「プリンシパルフルール!」



 ばら撒かれた光の種子が、ジンギくんの肩を使って飛び上がったランファちゃんを中心に、ルンドキーパーの肩を頂点にして三角柱の形に伸びていき、5つの点に彼女が細剣でルミナスハートを放った。



 光の三角柱はルンドキーパーをバチバチと音を鳴らして傷つけ、魔物の肩から血液が噴き出した。



「これでも決定打になりませんか」



「ランファちゃん」



 僕は空と大地を指差す。

 すると彼女は少し思案顔を浮かべて頷いた。



「なるほど。ジンギ、マナさん、補助を頼みますわ」



 ランファちゃんが駆け出し、小回りを利かせてルンドキーパーの足元にある死角を的確に細剣で刺しながら走り回る。



 鬱陶しそうにしている魔物がランファちゃんに棍棒を振るうと、彼女の前にジンギくんが出てきて、それを鋼鉄化した体で防ぐ。



「おっと通さねぇぞ。お前程度じゃ傷1つ付かねぇよ」



紙交恢々(しこうかいかい)、かしこみかしこみ申します。我が怨敵を縛る無限の一連、常世に伸びて敵を捕まえたまえ――『縛界(ばっかい)紙魂祷永鎖(しこんじゅえいさ)』」



 棍棒を受け止められ動きを止めたルンドキーパーの腕や足に、先ほど渡した人型の紙が次々と纏わりつき、それは鎖のように繋がり、完全に魔物の動きを固定した。



 紙とは言え、スキルによって強度を上げ、尚且つあの数だ。大型魔物といえ簡単に引き千切ることは出来ないだろう。



 魔物の動きが止まったことで、ジンギくんが飛び退き、代わりに細剣を構えたランファちゃんが前に出てきた。

 すでに彼女の第2スキルは設置されており、魔物にとって所謂詰みということだろう。



「これで終わりですわ」



 ランファちゃんが細剣を中段から上段に振り上げ、それと同時にルンドキーパーの股下から先ほど彼女が見せた三角柱の光が魔物を貫き、振り返ったランファちゃんが後ろ手で剣を振り下ろすと、今度は上空から魔物の脳天を貫いた。



 上下ともに光に貫かれた魔物は命を終わらせた。

 僕は膝の上でサンドイッチを食べているルナちゃんを脇に下ろし、マナさん、ランファちゃん、ジンギくんの下へ足を進ませる。



「お見事、3人とも出来ることを出来たみたいだね」



「あなたならもっと早く倒せたでしょうに」



「まあ指鳴らして首スパーンですわ」



 遠くでもう一対のルンドキーパーが飛び出てきたから、僕は指を鳴らし、素晴らしき魔王オーラで左右に真っ二つにした。



「ね?」



「……追いつけるとは思ってはいないが、もう少し気持ちよく終わらせてくれよ」



「駄目。僕も別に、ランファちゃんとマナさんみたく終わっても気を抜かないならこんなこと言わないけれど、魔物を倒した瞬間スキル解いちゃうような子がいるなら、まだ満点を上げられないかな」



「すんませんっした!」



 1人だけすぐに気を抜いたジンギくんをジトっと眺めると、彼はすぐに頭を下げた。

 絶体絶命な状況に慣れちゃっているのか、どうにもそれ以外だと身に力が入らないらしい。



「ジンギくんはとにかく数をこなして、あらゆる状況を危機的状況にしなきゃね」



「ああ、わかってはいるんだけどな」



「ジンギが戦いを挑んだ相手って2回は聖女で、3回目がバイツロンドさんですわよね」



「……戦歴が凄まじいよね。ジンギくん、良く生きてたね」



 マナさんが感心したように言うけれど、当のジンギくんは顔を逸らして引き攣った顔を浮かべていた。



 しかも厄介なことに、ミーシャもそうなのだけれど、話を聞く限りバイツロンドさんも、トラウマレベルで心と脳にその圧倒的な戦闘圧を刻みつけるタイプなために、ジンギくんはどうしてもその時の状況と比べてしまうのだろう。



「さって、依頼の処理しちゃおうか。これから数日間は僕が一緒にいるから、冒険者の資格をとって、依頼に慣れつつ自信をつけようね」



「ウっす。よろしく頼む」



「出来れば、穏便な依頼で済ましたいですわ」



「私も付き合うからね。リョカちゃんから色々学ばせてもらうよ」



 それぞれの言葉を聞き、僕は木陰のレジャーシートを指差す。

 満腹になったのか、木漏れ日に照らされてスヤスヤと寝息を立てているルナちゃんを横目に、僕は口を開く。



「さっ、お昼にしようか」



 ピクニックしてんのかという光景に、ランファちゃんが肩を竦めたけれど、今はまだこのくらいの緩さでも良いだろう。

 それにここにいる3人ならそれぞれに切り替えが出来るだろうし、抜いておくところはとことんまで抜いて行こうと思う。

 これだけ緩い空気であると、ミーシャの方のオタクセたちが際立って不憫に感じるけれど、それはそれ。

 僕はルナちゃんの頭を優しく持ち上げて膝に乗せるのだった。

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