魔王ちゃんと初めての冒険者見習い
「リョカちゃん本当にありがと~。他の人に頼んでも良かったんだけれど、マスターとオルタくんが絶対にリョカちゃんと一緒の方が良いって」
「頼りにされて僕も嬉しいですよ。でもオルタくんと2人っきりで行ってもいいんじゃないですか?」
僕の言葉に、マナさんが顔を赤らめながら膨れた。
とはいえ、マナさんもオルタくんも後衛タイプの支援型のギフトであるし、2人きりとなるともう少し実力が必要になるだろう。
僕たちは今、昨日話していた通りマナさんとランファちゃん、ジンギくんとルナちゃんとで依頼を受けて学園の外に出て指定されている場所まで徒歩で進んでいる。
「えっと、ランファちゃんとジンギくん、だよね? 2人も付き合ってくれてありがとうね」
「いえ、わたくしたちの方こそお礼を言うべきですわ。まだ冒険者でもないわたくしたちを同行させてくださりありがとうございます」
「っス。まだひよっこもひよっこだからな。正直足を引っ張るだろうしな」
「それは私もだよ。私ギルドにはいたけれど、依頼を受けたこともないただの受付だからね」
「でも、オルタが随分褒めてたぜ? 本当は気合で相手の攻撃を受けようとしていたけれど、マナさんのおかげで助かったって」
「ふ、ふ~ん……」
髪をいじいじしながらニヤケそうな顔を押さえ込んでいる様に、ルナちゃんとランファちゃんが興味深そうにマナさんを見ている。
やはり女の子、この手の話が好物なのだろう。
「オルタリヴァ=ヴァイスですか。わたくし、彼については最近ジンギとセルネ様からよくお話を聞くようになったのですけれど、戦闘技術が高いそうですわね」
「オルタはそれだけじゃないぞ。一緒にいる奴を一歩後ろから見守ってくれて、何かあるとさっと動いてくれる。なんというか、テッカさんみたいな感じだな」
「副官気質だよね。率先して前には出ないけれど、必要とあれば躊躇なく動いてくれる子」
「そうそう、オルタくんってみんなを引っ張る魅力もあるけれど、それを常時表に出すわけじゃないのよ。戦っている時本当に――」
「格好良かったですか?」
「……何かなリョカちゃん?」
ジト目を向けてくるマナさんに僕はニヤケ面を返し、僕の家臣なんですよ~。と煽ってみる。
「意地が悪いですわよ。そういうことをからかうのは良くないと思いますわ」
「いやだってさぁ、僕の周り、色めきだっているのセルネくんとクレインくんだけなんだもん。女の子の淡い心からでしか摂取できない可愛さもあるんだよ」
「セルネ様はともかく、クレイン=デルマもですか?」
「クレインはソフィア大好きだからな」
「あ~……そういえばよく一緒にいましたわね。でもあの子、自分の幸せよりカルタスのことを考えるから、進展しないでしょうね」
「この間クレインくんがA級2人と100以上の不死者に大立ち回りしていた時は良い感じだったんだけれどね」
「話には聞いたけれど、とんでもねぇ戦いをしてたんだなあいつ」
「道具を渡した僕が言えることじゃないけれど、ランファちゃんとジンギくんは自分を犠牲にしてでもって戦い方はしちゃ駄目だよ。クレインくんあと数秒ソフィアが遅れていたら死んでいたんだから」
「オルタくんもたくさん血を流していたから、あの時は本当に気が気じゃなかったよ」
「タクトもだな。痛くねぇなんて言いながらバイツロンドの爺さんの拳と何度もぶつかってたからな」
彼らの戦いを間近で見て、それぞれ思うところがあるのか、マナさんとジンギくんが顔を伏せた。
するとルナちゃんが小さく笑っており、僕は目を向ける。
「オタクさんたち、こんなに誰かから想ってもらえているのに、今頃どうなっているかと考えると、どうにも笑ってしまいますね。それともリョカさん、ミーシャさんに彼らを預けたのはお説教込ですか?」
僕はルナちゃんに苦笑いを返し、人差し指を自分の口に沿えてウインクする。
「セルネさんはとばっちりですね」
「セルネくんは強い子だから大丈夫だよ。それにオタクたちが傷ついて一番気を病んでいたのは彼だからね」
「あなた、本当に色々考えて動いているのですわね」
「一応主だからね。あの子たちが立派に、そして自分の道を進めるようにどんな協力も惜しまないよ。もちろん、間違っていたら谷底に落とすような厳しさも見せるけれどね」
「マスターもよく、リョカちゃんから学べることが多いって。出来ればギルド運営を任せたいって言っていたからたくさん仕事押し付けておいたよ」
「あの子も甘えっ子根性抜けない時がありますよね。そこが可愛いからいいんだけれど」
強い面も持っているけれど、基本的に見た目相応な性格のギルドマスターを思い出しながら僕とマナさんは顔を見合わせて笑う。
終始和やかな空気感で行程を進んでいるけれど、誰1人周囲を探索していないのは少し問題かなと。もっともこのメンバーで探知するとしたらマナさんなのだけれど、どうにもやり方がわかっていないようだった。
ジンギくんも探知できなくないだろうけれど、あの子の場合、身の危険を覚えた時に力を発揮するタイプだから、こうして僕が一緒にいるとどうにも気が緩んでしまっているようだった。
ふむ、少し僕も先生らしく振る舞ってみようか。
僕はアルマリアくまのトイボックスから折り紙で折られたそれぞれの入った袋を取り出し、マナさんに手渡す。
「これは?」
「この間ツルの折り方教えたでしょ? それと似たようなものですよ。紙姫守の戦術の幅が広がると思いますよ」
「わ~、あのツルっていうのでも相当役に立ったのに、まだまだあるんだ」
「ええ――さて、新米冒険者さんたち、ここまで徒歩で来ているけれど、道中楽しいことばかりではない。野盗が現れたり、想定していない脅威が現れたり。さて、それで君たちはもしかしてそんなイレギュラー……想定外を全部対応するのかな? あの時察知していたら気が付けた~っていうことも想像しないようだし、もしかして余裕だったのかなぁ?」
ニヤニヤと面々に笑みを向けると、全員がさっと顔を逸らした。
少し意地悪く言い過ぎたかなと、僕は丸三角四角で構成されたような人型を紙を切って形作ったものを何枚も取り出し、それを宙に放る。
「紙気来々、かしこみかしこみ申します。気は紙、紙は風、地、生きとし生きる生にしがみつけ。『傀解・紙天画空』」
僕が放った紙の人型があちこちへと飛んでいき、そこら中に張り付いた。
紙天画空は紙姫神の第1スキルで、紙に意味を持たせて操作する基本スキルだ。
僕は今投げた紙に人のような五感を意味づけた。
その紙たちの感覚が僕と共有され、この辺りの情報を教えてくれる。
「ランファちゃんとジンギくんは探知向きのギフトじゃないからね、お姉さんの出番かな~って考えていたんだけれど?」
「うっ、精進します。けれど当り前のように紙姫守も使うんだもんなぁリョカちゃん。しかも私より上手だし」
「魔王だからね。今投げた人型の紙は異常があったら五感を通して伝えてくれるから探知に便利だよ」
「うん、やってみるよ」
マナさんが人型の紙を取り出して僕がやったようにスキルを発動させた。けれど操作がまだまだで、どうにも手こずりそうだった。
僕はマナさんが持っていた依頼書を彼女から受け取り、それをランファちゃんとジンギくんに渡す。
「マナさんが頑張っている間暇だろうし、依頼書をよく読んでおきな。もし気になったこと、違和感があったらちゃんとみんなで共有するように」
みんなの返事に満足し、僕は近くにあった岩に、ルナちゃんを抱き上げて腰を下ろす。
「リョカさん先生みたいです」
「こうして預かっているから、やるんなら徹底的にね。まああんまり緊張する空気ばかり作ってもしょうがないし、今日はのんびり行こうよ」
「ですね。リョカさんが朝から作っていたお弁当早く食べたいです」
「食べるのに良い景色が見つかったらそこで食べましょうね」
喜ぶルナちゃんを横目に、集中して事に当たっている3人に心の中でエールを送る。
今日が初依頼だ、出来ればみんなが自分の出来ることを見つけられることを祈り、持って来ておいた焼き菓子をルナちゃんと一緒に口に運ぶのだった。




