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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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魔王ちゃんと祝勝会

「あ~つっかれたなぁもう」



「お疲れ」



 竜を打ち倒した後、僕は宣言通りライブを開き、戦ってくれた人、頑張って生き延びてくれた人を労うために歌を唄った。

 昨夜からぶっ通しで騒いでいたためにお昼くらいに限界が来てひと眠りしたのだけれど、冒険者たちが竜を食いたいと騒ぎ出したために、夕方に僕は起きて調理を開始し、大勢に竜の肉を振る舞い、また宴が始まったところで机に突っ伏している。という状況だ。



「功労者をもう少し労われよなぁ」



「そうね、あんたなんだかんだずっと動き回っていたものね」



「そうだよ、壊れた建物の修復や怪我人の治癒、ギルドと学園に詳細報告……なんでソフィアとランファちゃん以外誰も手伝ってくれないん?」



「出来ないからよ」



「そう……」



 僕の周りには本当に脳筋しかいないのかとうな垂れていると、酒の入った木のグラスを片手にガイルとテッカ、アルマリアがやってきた。



「おう、楽しくやってっか?」



「僕は疲れてるんだ、騒ぐ元気があるのが羨ましいよ」



「まあそう言うなって、ああやって騒いではいるが、全員お前には感謝してんだぜ」



「感謝って、発端は僕が蒔いた種だしなぁ」



「お前の責任ではないだろう。それにこう言っては何だが、俺たちの成長の機会も訪れたからな、その点でも感謝している」



「二度目のヤマト戦はどうだった?」



「どうもこうもない。カナデがいなければ負けていた」



 テッカがカナデの話題を出すと、近くで騒いでいたカナデがひょっこりと顔を出してきた。僕が彼女を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らした。



「呼んだ?」



「テッカがカナデが凄かったってさ」



「当然ですわ!」



「そういやぁおめぇ、テッカから聞いたんだが、わけわからん技を発動したそうじゃねぇか。今度俺とサシ? でやるか」



「負けないですわ――わぷ」



「もぅカナデちゃん! 戦いは暫く禁止ぃ! あんな怪我したのにどうしてまた怪我するようなことするのよぅ!」



 プリマが頬をぷっくりとさせてカナデの顔に張り付いた。

 僕はプリマをカナデから離すとカナデと同じように頭を撫でてやる。



「カナデ、あんまりプリマに心配かけちゃ駄目だよ。今回も相当無茶したらしいじゃん」



 カナデが照れたように頭を掻いた。

 褒めてはいない。



「俺が付いていながらカナデには無茶をさせてしまったからな。正直申し訳ない」



「あんた本当に背負わなくても良い苦労を背負うわね。無事だったんだから気にしなければ良いでしょう」



 ミーシャが言うことでもないけれど、これには同意だ。



「そうですわ、キサラギの人のおかげでルナとアヤメも守れましたわ。感謝感謝ですわ!」



「ほんっとう、俺がいないのによくヤマトに勝ったよ。流石俺の相棒だ」



 ガイルとテッカが2人揃って拳をつき合わせた。

 男の友情って、見ててこう、こみ上げてくるものがあるな。私が通らなかった道であるからか、余計に尊いものに思えてしまう。



 すると、それを横で見ていたアルマリアが膨れていた。



「2人は良いですよねぇ。私ももっと目立ちたかったです~」



「おめぇなんもしてなかったってマナから聞いたけど?」



「失敬な! ちゃんと戦いましたよ!」



 アルマリアがプリプリとしていると、オルタくんとマナさんがやってきた。



「ガイル殿、アルマリア殿がいなかったら拙者たちが危なかったでござるから、それくらいで」



「おうオルタ、コジュウロウを単騎でやっつけたそうじゃねぇか。中々強かっただろ?」



「ええ。ですが拙者1人で勝ったわけではござらんよ。マナとアルマリア殿がいなければどうなっていたことか」



「マナが前線に出るのは珍しいな。相当危なかったのか?」



「危ないなんてものじゃないですよ! あんな大きくなったA級冒険者なんて脅威以外の何物でもないんだから」



「オルタくんありがとうね。君も相当無茶していたけれど、無事でよかった」



「いえいえ、拙者などクレインたちに比べればまだまだ恵まれていたでござるよ」



 あ~、確かにと僕は苦笑いを浮かべる。

 セルネくんたちの戦いは視ていないけれど、彼らの相手も相当な使い手だったと後から聞いた。

 彼らの話をしたからか、セルネくんとタクトくん、ジンギくんがやってきた。



「俺たちの話?」



「ああ、セルネたちには苦労をかけたという話でござるよ」



「1人でギルドに残ってA級をやっつけちまう方が苦労だと思うですぜい。本当にすまんかった」



「オルタリヴァ、俺からも謝罪を。俺の所為で面倒をかけた、すまん」



「良いでござるよ。そのおかげで、掛け替えのないものを得ることが出来たのでござろう? なら言うことはないでござるよ」



「オルタリヴァ、お前も良い奴だな」



 ニッと笑ってみせるオルタくんに、タクトくんもジンギくんも笑みを返して酒を呷った。



 するとタクトくんとジンギくんが思い出したかのようにガイルたちに向き直った。



「っとそうだ、3人に伝言が」



「俺たちに?」



「そうですぜい。バイツロンド爺さんとパルミールからで」



「ジジイは未だ現役。よろしく言っておいてくれと」



「パルミールは次は正面から勝つと、アルマリアさんに言っといてくれって言われたですぜい」



 2人からの伝言を聞き、ガイルたちは呆れたように乾いた笑いを浮かべた。

 僕はその2人と面識はないけれど、どうにも凄い人らしい。



 この話を聞いた時、ミーシャが戦いたそうな顔をしていた。



「あの爺さん、不死になっても変わんねぇなぁ」



「まったくだ。正直ヤマトより強いからなあの爺さん」



 それを聞いたセルネくんたちが揃って「え?」と声を上げた。

 魔王より強い老人を相手にしていたことを理解したのか、3人それぞれ顔を青くした。



「お前ら本当よく生き残ったな。しかもタクトとジンギは真っ向からあの爺さんの拳を受けたんだろ? やるじゃねぇか」



「若い頃のガイルは受け止められずにブッ飛ばされたぞ。俺は逃げた」



「報告を聞いた時、私ももうダメかと思いましたよ~。パルミールはともかく、バイツロンド爺相手だとギルド総動員でも厳しいものがありますから~」



 わなわなと震えている3人の頭を撫でていると、ソフィアとクレインくん、ランファちゃんがやってきた。



「あなたの周りはいつも騒がしいですわね」



「ランファちゃん抱っこしてあげるからこっちおいで」



「はっ倒しますわよ」



 フラれてしまった。僕はわざとらしく肩を落としていると、ジンギくんが安心したような顔でランファちゃんを見ており、それに気が付いた彼が近づいてきて耳打ちを1つ。



「お嬢様のこと、頼むな」



「うん、これからもたくさん構うよ」



「ジンギ、なんですの?」



「い~や別に。そういやぁランファも大分活躍したそうじゃないか。学園連中が祭り上げてたぞ」



「ただ前に立っていただけですわよ。それに結局助けられてしまいましたし」



「リョカか?」



「うんにゃ、僕は指示出してないよ」



「ああそうでしたわ。エレノーラさんとロイさんに改めてお礼を――」



「ロイだぁ? そりゃあおめぇ、神官服のクマか?」



「え? ええ、わたくしたちを守ってリョカさんのいる学園まで運んでくれたらしくて」



 ガイル、テッカ、アルマリアが複雑な表情で顔を見合わせており、ランファちゃんは首を傾げていた。

 3人の反応は当然だけれど、ランファちゃんの前では格好良い神官でいさせてあげてほしい。



 すると事情も知っているソフィアがクスクスと笑い、間に入ってきた。



「ランファさんったら、本当にお2人に感謝しているんですよ」



「ソフィア!」



 ランファちゃんが照れ顔を浮かべてソフィアの口を塞いだ。

 一応既婚者だということを教えておいた方が良いだろうかと悩んでいると、テッカがソフィアを見ていた。



「ソフィア、神獣様が言っていたんだが、お前の最終スキルは神をも殺せるそうなのだが、何をやったんだお前?」



「え?」



 ランファちゃんがソフィアから手を離し、引き気味に彼女を見ていた。



「そ、そうなのですか? 知りませんでした」



「知らずに使っているのかお前は。とんでもない奴だな」



「あ~あれね。というかソフィア、ちゃんとクレインくんに感謝しなよ?」



「はい、反省しています」



 シュンとソフィアが顔を伏せると、クレインくんが苦笑いで場を宥めた。



「いえいえ、俺が勝手にやったことですし、ソフィアさんは悪くないですから」



「そうは言ってもねクレインくん、君たぶん一番死に近かったんだよ? 感覚強化は第3スキル以上で使っちゃ駄目。約束して」



 クレインくんが頷いてくれて、僕は安心するとソフィアに目を向ける。



「ソフィアもちゃんと話した? 君の最終スキルは敵を強化する(・・・・・・)ものだって」



「はい、クレインさんには終わった後にちゃんと説明して、謝罪もしました」



「敵を強化? なんだってそんなことを」



 ガイルがソフィアに問いかける。

 彼女の鍵師の最終スキル、それは天道に属するものだろう。



 だからこそ、先に快楽(・・)を与えなければならない。

 ようは飴と鞭の召喚なのだろう。



「えっと、私の最終スキルは敵を強化し、その強化に酔えば酔うほど体を溶かしてしまうというものでして」



「こっわっ! なんだそのヤバいスキルは」



「神獣様が、相手に死を付与したうえで殺すヤバいスキルだと話していた。それと死神様が自分以上の死を付与出来ているともな」



「……女神さま以上の死を与えるですか~。ソフィアさん、とりあえずAランクの冒険者になっておきますか? テッカさんが戦ってくれると思いますよ」



「おい、俺に押し付けるな」



「いえいえ、私なんてまだまだですから。それにまだ皆さんには勝てないですから」



「お前が勝つっつうことは俺たちの誰かが死んじまうってことなんじゃねぇか?」



「さ、流石に死に直結するスキルは使いませんよ」



 謙虚なソフィアにガイルたちが頭を抱えた。

 強力なスキルを使えるソフィアだけれど、籠城戦や彼女を守ってくれる人がいる場合に限っては本当に強い。

 僕は彼女の腰に掛かっているソフィアくまに目を向ける。



「しかもクマを渡してあるから常に二重召喚可能になったからなぁ」



「お前なんてものを渡してんだよ。ゲンジよりやべぇじゃねぇか」



「まあそのくらいはね。それにソフィアの最終スキルの強化の上がり具合って結構多いんだよ。多分ロイさんのアークブリューナクより強化の幅が広い」



「超強化じゃねぇか。クレインよく勝ったな、A級もいたんだろ?」



「いえ、俺が勝ったわけではないので」



「ソフィアがあと少し遅かったら、君廃人どころか頭破裂していたんだよ? 見ていた僕ですら察知できないほどの反応速度していたんだから。というかあれは最早予知だよ、ゼロ秒台の反応速度なんて予知以外の何物でもない」



「ほう」



「反応すんなスピード狂。多分テッカもあれには捉えられるよ」



 テッカのもの欲しそうな視線にクレインくんがたじたじと顔を逸らした。



 何はともあれ、みんなが無事で本当に良かった。

 僕は騒いでいる面々を横目に、静かに竜の肉を喰らっているミーシャに目を向ける。



「ミーシャもよく頑張ったね」



「大して何もしてないわよ」



「光の勇者を倒しておいて何もしてねぇはねぇだろ」



「あたしも竜と戦いたかったわ。あの勇者ならあんたでも倒せていたでしょ」



「無理だな、そもそも攻撃が通らねぇ。というかお前は何で殴れてたんだよ」



「知らないわよ」



「女神さまたちも驚いていたぞ、どうして触れられないものを殴ることが出来るんだあの聖女はと」



「何でって、敵だからでしょ?」



「……何を言ってんだお前は?」



「まあミーシャのとんでも戦闘は今に始まったことでもないから」



 僕が幼馴染をフォローすると、テッカがため息を吐いて僕を指差す。



「とんでもないのはお前もだリョカ、なんだあの巨大なクマは」



「いや、でっかくてみんなから見てもらえてズルいなぁって思って思いついた」



「いや本当、何言ってんだお前たちは」



 周りを見渡すと、みんなガイルたちに同意なのか呆れたような視線を向けてきていた。



 僕が苦笑いを返すと、突然耳に鈴の鳴るような音が聞こえ、振り返る。



「ん? えっと、それじゃあ僕は用事が出来たからちょっと行ってくるね」



 僕は逃げるようにみんなの視線を躱して席を立つと、ミーシャも立ち上がって僕と並び、音のする方へと歩みを進めたのだった。

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