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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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勇者のおっさん、光を託されて

「そうか、君は聖女だったのか」



「見ればわかるでしょ、聖女以外のなんだと思ったのよ?」



 ハハハ。と笑いを溢すルイス=バング、下半身は消え失せ、上半身だけで俺たちと会話をしている。稀代の光の勇者は、今消えようとしていた。



「僕はいつも、聖女様に助けてもらっているな」



「あら良いことじゃない、聖女を味方につけた奴が世界をとれるのよ」



「勇者に何させようとしてんだよ。ああいや、今聖女様が付いてんのは最強の魔王様だったか」



「恐ろしくて震えるような2人組だ」



「まったくだ、どっちも手が付けられなくてしょうがねぇ」



「苦労しているね」



 力なく微笑む勇者に、俺は顔を伏せてしまった。



「……金色炎の勇者。君は本当に、勇者然としているね」



「どうだかな、いつの間にか後輩に迫られているし、魔王にはいつも先手を打たれてばかりだ」



「それでも君は、勇者として戦うことを止めないのだろう?」



「当り前だ。どれだけの強敵がいようとも、俺が勇者としてここに立っている以上、戦い続けてやるさ」



 ルイスが息を吐き、空を見上げている。

 あの瞳に何が映っていて、何を思っているのか俺には判断できなかったが、最後の最後に、俺は確かに勇者と対峙した。



「そういえば、2人の名前を聞いていなかった」



「ガイル=グレックだ」



「ミーシャ=グリムガントよ。あんたはちゃんとあたしの名前覚えておきなさいよ。あんたの仲間のジジイはずっとあたしをフェルミナ=イグリースと勘違いしていたわよ」



「ゲンジが……そうか、あの大馬鹿、最後の最後まで僕とそりを合わせないつもりだな」



 ルイスが心底可笑しそうに笑い、空へと手を伸ばした。



「ついぞ叶わなかったけれど、死後であるなら酒を飲み交わすことも出来るだろう。あの馬鹿に酒持って殴り込みでも行こうかな」



「今度、あんたの墓に上等な酒でも持って行ってやるよ」



「楽しみにしているよ、ありがとう……。聖女・ミーシャ=グリムガント」



「なによ」



 ルイスの体が砂へと変わり解けていく。



「僕たちは死神様によって不死者にされた。僕やヤマト、ここにいる大半の不死者は死神様が無理矢理魂を引っ張ってきて不死の存在へと変えられた。ほとんどが死から這い上がってきた者たちだ」



「そうみたいね」



 ルイスが躊躇したように口をつぐんだ。

 けれどミーシャはジッと彼を見つめ、その言葉を待つ。



「お願いを、しても良いだろうか? 都合の良い話なのは分かっている。僕は君たちに害を成し、挙句の果てにとんでもない過ちを犯した。だから――」



「良いわよ、言ってみなさい」



「……確かに、君はフェルミナに似ているかもしれない」



「おいおいこんな暴力聖女、後にも先にもこいつだけにしてほしいんだが」



「僕もゲンジも、フェルミナに殴られたことなんてないよ。でも、意思の強さが、聖女足らしめる在り方の強さは、2人とも群を抜いている」



「これでもうちっと言うこと聞きゃあ文句ねぇんだがな」



「随分な跳ねっ返りのようだ。それで話の続きなんだけれど、僕たちは死後、不死者へと変えられた。さっき君が言っていたように、不死者だろうと殴り続けていれば、僕たちは魂が殺されることはないけれど、この世界を生きる資格はなくなる。不死者だけれど、再生するわけじゃないからね」



「体が耐えられないんだな」



「うん、だから死んでも生き続ける。けれど、古い体を使っている代償なのか、僕たちは二度とこの世界の地を踏むことは出来ない。なんて言ったって生きているんだ、死神様でも死なない魂をどうにかすることなんて出来ないよ」



 魂は生き続けるが、体は朽ち果てるからただ見えない存在として彷徨うしかないということなのだろう。

 ルイスはそう話しながらも、瞳に強い意志を携えてミーシャの目を見つめた。



「けれど、フェルミナは違う。彼女は生きている」



「……」



「フェルミナは月神様の聖女だったから、死神様が奪い取った。けれど女神に人は殺せない。だからフェルミナは生きながらに不死を与えられ、今までずっと生き続けているんだ」



 ルイスの言うこともわかる。

 けれどそんなこと、月神様も承知の上だろう。その上で彼女が解放されていないのは、月神様でもどうにも出来ないことだからではないだろうか。



「頼む聖女・ミーシャ=グリムガント、フェルミナを――」



「待て待て、月神様でも出来なかったことを、あんたはこの小娘に頼むのか?」



「……わかっている。フェルミナを縛っている不死は、月神様でも解くことが出来ない。僕は月神様がそれを失敗した時に居合わせていたから、神々ですらどうにか出来ないことなんだと思う」



「なら」



「でも、でも僕は――」



「良いわよ。任せなさい」



「おいミーシャ!」



「ルナが出来ないだけでしょ? あたしに出来ないことかなんてわからないじゃない。いえ、必ずできるわ。ガイル、あんたの目の前にいるのが何か言ってみなさい」



「……聖女」



「ええそうよ。救いを求める声を掬い上げるのは神でも勇者でもないわ、聖女よ。そいつがあたしの手を掴んだ、ならあたしは必ずその声に応える。それが聖女よ」



 ミーシャのめちゃくちゃとも言える宣言に、ルイスの顔が涙で歪んだ。



「ああ、そうか。ありがとう、聖女・ミーシャ=グリムガント、君は、フェルミナ以上の大聖女なのかもしれない」



「当然でしょ。あたしは女神すらぶん殴る聖女よ」



「それを売りにするんじゃねぇよ。ったく、本当に困った聖女様だよ」



「……金色炎の勇者、ガイル=グレック、君にも面倒をかけたね」



「まったくだ。それにミーシャにとられちまって、俺あんたとまともに戦ってねぇんだがな」



「まだまだ後輩に負けるつもりはないよ」



 確かに、さっきの戦いを見て俺では攻撃すら届きそうもなかった。

 悔しい話だが、本気になった光の勇者に俺は勝てないだろう。だからこそ惜しいことをした。俺がミーシャほど誰かを動かせる存在だったのなら、勇者としてルイスと拳を交えることが出来たかもしれなかった。



 俺はため息を吐き、少しだけ落ち込む。

 するとルイスが消えかかっている手を伸ばしてきた。



「……金色炎の勇者、手を」



「は? こうか――」



 ルイスに手を握られ、俺は首を傾げる。

 だがすぐに彼の手から光が流れてきて、俺の左手に光がまとわりつく。



「僕はもう勇者じゃないけれど、僕が背負った光はやはり勇者が背負うべきなんだ。どうか、一緒に背負ってあげてくれないかな」



「……いいのか?」



「うん、魂だけの存在になると、その力の動かし方も解くわかる。だからそれは僕が背負った光、僕の勇者としての魂。どうか、君を勇者として輝かせる一端となることを願って」



 ルイスの姿が薄れていく、サラサラと砂がこぼれ、もうこの場所にいられないことを予感した。



「ああ、そろそろお別れだ。金色炎の勇者・ガイル=グレック、聖女・ミーシャ=グリムガント、最後に君たちと出会えて本当に良かった。僕はもう退場するけれど、どうか、どうかみんなの(きぼう)と、僕の(ねがい)を――頼んだよ」



 ルイスはそう言って、砂となって空へと舞い上がった。



 俺は固く握り拳を作り、空を仰ぐ。



「あんたも随分重い物を背負ったわね」



「お前も随分面倒な約束引き受けたじゃねぇか」



「聖女に不可能はないわ」



「勇者に持ち上げられないものはねぇんだよ」



 俺とミーシャは互いに笑い合い、互いの拳を打ち付ける。



「さって、そろそろ鬱憤溜まってる魔王様の手伝いでもしに行くか」



「そうね、あの子ここまでほとんど暴れてないものね、最後だけいいとこどりはさせないわ」



 勇者と聖女、並んで魔王の下へと歩みを進ませるのだった。

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