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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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聖女ちゃんと光を背負った勇者

「何故、何故!」



「知らないわよ」



 スパーンと小気味良い音を鳴らしながら男が飛んでいった。



 さっきからピカピカと鬱陶しく、目が痛くなってきた。

 ガイルから聞いたわけではないけれど、この男はルイス=バングだろう。



 フラフラと立ち上がるルイスを横目に、あたしは空に入ったヒビとそこから出てこようとしている、リョカ曰くでっかいトカゲに目を向ける。



 さっきリョカがアリシアに話していたことを思い出し、ジッとトカゲに目をやる。



「確かに、美味しそうね」



「……なんだって?」



 ルイスが驚き戦いたような顔であたしを見てきた。



「何って、今リョカが言っていたでしょ。竜を喰らう、いいじゃない。しっかりあたし好みの味付けをしてもらうわよ」



「竜だぞ!」



「だから何よ。竜だからってあたしが喰らってはいけない理由になるって言うの?」



「何を言っているんだ君は! 竜だぞ? 存在そのものが災厄、しかも死神様に不死を与えられて死なない。そんな存在が出てきたんだぞ! さっさと逃げるか、あの魔王を――」



「ふんっ!」



 ルイスがごちゃごちゃと喧しく、あまりにも耳ざわりだったからとりあえず殴っておいた。

 吹っ飛んでいった勇者が、瞳を潤ませながらあたしを見つめてくる。



「死なないのなら殺してほしいと懇願されるまで殴るだけよ。そして喰らう。というかあんたさっきから無理だの出来ないだの、そうすれば解決するだの、戦うって選択肢がないのは何でよ?」



「何でって……無理だからに――」



「そうね、あんたには無理ね。まあ別に逃げるのも諦めるのも良いのよ。でもあんたあたしたちの敵でしょ? どうしてこっち側(・・・・)に立っている体で口出しているのよ」



「それは」



「あたしが聞いたのは、こっち側ですらないあんたが、例え妄想だとしてもこちらに立って戦う選択も出来ないのに、どうして口を出してんのって聞いてんのよ」



 さっきから聞いていれば、こいつは敵なのに味方面して無理だとか逃げろとか言ってくる。そんなことをこの勇者に言われる筋合いもなければ、一体あたしたちの何を知っているというのかと苛立ちもわいてきた。



「あんた、もしかしてまだ勇者(つよいやつ)でいるつもり? 戦うことをとっくに止めたあんたが、それを名乗れるわけないでしょうが」



「……」



「あたし、あんたの仲間を倒したわ。何か勘違いをずっとしている耄碌ジジイだったけれど、あのジジイの方があんたよりマシね。あいつは間違っていたけれど、ずっと自分の行ないを受け止めていたし、自分の言葉を疑いもしていなかった」



 でも目の前のこいつは違う。

 信じていない。何よりも、自分のことを。



「あたしはあんたのことなんて知らないわ。でもわかることはある。あんた、勇者になる選択も、勇者としての行ないも、全部全部自分以外が決めたとか思っているでしょ?」



 あたしは圧を込める。

 この目の前の弱者が普通にムカつく。

 あたしが知っている勇者は、あたしが拳を振るってきた勇者は――。



「あんた勇者舐めてるでしょ。誰かの選択だけで名乗れるほど勇者は甘くないわよ!」



 あたしの戦闘圧に、ルイスが膝をついた。



「あたしが知っている勇者は、あたしに殴られても、また殴られても、次殴られても、それでも勇者として戦い続けてるのよ! 誰かに選んでもらった道で、戦い続けられる奴なんているわけないでしょ!」



「……おめぇ殴ってばっかじゃねぇか」



「殴ることしか出来ないわ!」



 隣のガイルが頭を抱えた。けれど一度あたしの頭に手を乗せたかと思うと、ルイスに向き直り、彼を憐れむような視線を向けた。



「なあルイス=バング、あんたはどうして、勇者やってんだよ」



「それは、それはフェルミナが!」



「あたしはフェルミナ=イグリースのことは知らないけれどね、それが聖女だって言うのならよくわかるわ。聖女が、うんなもん押し付けるわけないでしょ」



「――っ」



「よく思い出しなさい。あんたは本当に、フェルミナ=イグリースに言われて勇者になったの?」



 ルイスが顔を伏せた。

 こいつらがどんな道を歩んで、こんな結末になったのかは知らない。

 でも、光の勇者(・・・・)と呼ばれる過程が、自分以外の選択だけでもたらされたとは到底思えない。

 勇者は人々の希望だ。

 生きとし生きる者の希望を一身に背負った者が、そんな脆い曖昧なものであるはずがない。



「答えなさい! あんたはなに!」



「私は――僕は……そうだ、聖女と共に、いや、光を一身に背負う勇者! フェルミナは僕に勇者になるきっかけをくれた。弱かった僕を勇者だと認めてくれた。だから僕は、強くなろうと、みんなの(きぼう)になろうと!」



 ルイスの周囲を光が奔る。

 老人どもが自慢げに話していた最も絢爛な勇者。眩いまでの勇者としての在り方。



「僕は光の勇者、ルイス=バング。人々の期待も、希望も、願いも、何もかもをこの体で背負った勇者!」



「――」



「どんな表情だよそれ?」



「あたし、今どんな顔してる?」



「殺し合いを前に檻に入れられたケダモノが、檻を開けてもらった時みてぇなツラしてんな」



「正解よ」



 あたしは歩みを進め、ルイスに拳を構える。



「あんたはそこにいるべきじゃないわ。でも、あんたはそこに縛られているわ」



「……ああ、情けない話だけれど、僕はもう死んでいるからね。死神様の呪縛から逃れることは出来ない」



「ええ、なら願いなさい! あたしは敵だろうとも女神だろうとも、勇者だろうとも魔王だろうとも誰の手だって取ってあげるわ!」



「頼もしいな。それなら――僕を、この地獄から解放してくれ」



 瞬間、ルイスの体が光となって辺り一面に奔る。



 その光の筋の一片、それが剣へと変わりあたしを切り裂こうと振り抜かれた。



 あたしは神獣拳を使用し、体に赤い気を纏わせると、力任せに地面を叩く。

 地面も風も何もかもが宙へと舞い上がり、衝撃が世界を揺らすのだけれど、それらすべてを光となって躱したルイスがあたしの背後をとった。



「――」



 あたしは振り返ってルイスの剣を思い切り殴る。



「っつ! 君、本当に強いね。勇者にならないか? 君ほどの実力者なら、きっとたくさんの光を背負える」



「冗談、あたしは今のギフトに満足しているのよ」



「それは残念、だ! 聖剣発輝・瞬光白羅(しゅんこうはくら)。確かに、それほど強いギフト、僕は見たこともないよ」



 ルイスの聖剣から光が溢れる。

 その光は次第に大きくなり、辺りに光線をばら撒く。



 ルイスはその光線に次々と移動していき、あたしは彼を見失ってしまう。



 光線が届くまでの刹那、あたしは目を瞑り息を吐き、その光線が射程範囲に入った瞬間、光を思い切り殴って地へと落とす。



「光すら殴るか。あまり時間もないし、さっさと全力を出させてもらうよ」



 光線を陽動に、光の速さであたしに攻撃を仕掛けてくるルイス。初速だけならテッカの天神を上回り、厄介さなら絶影よりも上だろう。



 これが光の勇者。



 あたしは嗤いがこぼれるのを押さえられない。

 これだけの強者、ここで終わってしまうのがもったいない。



 けれど、これは救いを求める声。

 終わらせなければならない。



 人々の光を背負い続けている子の勇者を、あんなクソガキの下にいさせ続けるわけにはいかない。



「これは僕が背負ってきた全てだ! 逃げるもよし、避けるもよし! けれどもし正面から受けるというのなら覚悟してほしい。この光の勇者が生前背負い続けた光、軽くはないよ!」



 全ての光があたしの正面で集まり、ルイスが現れて剣を地に刺す。



「希望をその剣に、光をこの胸に。顕現せよ、あらゆる絶望を払う全ての願い――これが僕の全力だ! 神気一魂!」



 光が集まって巨大な剣を持つ騎士に形作られる。

 その騎士の姿をした光が、あたしに大剣を振るう。



「ええ、重いわね。でも――」



 あたしはありったけの信仰を拳に込める。

 10連、20連、30連――まだ足りない。



「ルイス=バング、光の勇者! 見事よ。そんなあんただから、あたしを刻みなさい、あたしを忘れるな! アルティニアチェイン! 47連――」



「アルティニアチェイン……まさか、彼女は」



 大教会を使用し、47連まで信仰を込める。

 まだいける。



「53、59、65――72連! ぶちかませ!」



「ああ……そうか、僕はまた、聖女に」



 あたしが放った拳圧(しんこう)は、ルイスの聖剣をぶち抜き、さらに空へと伸びていき、アリシアがやったという空のヒビにまで届き、竜の胴から翼をぶち抜いて行き、さらにわらわらと湧いていた不死者たちを消し飛ばした。



 そして信仰の塊は爆発的に広がり、辺りを白く染めてこの戦いの終わりを告げたのだった。

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