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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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月の女神ちゃんと最カワの魔王様

「――っ!」



「おいおいマジか」



 アヤメとアリシアが顔を青くしている。

 当然でしょう、(わたくし)も同じ感情を抱いている。



「神獣様? 月神様?」



 横になっているカナデさんを治療しているテッカさんが首を傾げて私たちに目をくれた。



「なによあれ……そっちのシラヌイもだけれど、ソフィア=カルタス、化け物じゃない」



「ソフィア? 神獣様、ソフィアに何か?」



「何かも何も、あの子の最終スキル、神も余裕で殺すぜ。条件やその他はあるみたいだけれど、発動すれば俺たちはおろか、あんなもの防げる奴は存在しないわね」



 異世界の怪物、リョカさんの世界の存在があれほどの力を持っているとは。私は驚くのですが、それと同時に安堵する。

 あれほどの力を、彼女が手にして本当に良かった。きっとソフィアさんは誤らない。



「それほどですか?」



「俺的にはクレインの働きを大いに評価したいけれど、ソフィアの存在に目を瞑ることが出来ない程度にはヤバいわ。強制液状化、死を与えて殺している分、そこの陰険女神より性質悪いわよ」



「……ウィルソン=ファンスレターがどうしてあんな状態だったのかやっとわかったよ~。どうりでウチの不死を弾くわけだ。女神より強力な死を、あのソフィア=カルタスは人に付与できる」



 私が女神特権を使い、尚且つ全力で抵抗すればあの死を取り除けるのかもしれませんが、殺すまでの時間が短すぎるために、きっと無意味でしょう。



「あ~もう! あの魔王周辺本当おかしいでしょぅ! 世界の均衡が崩れたどころの話じゃない。ルナ姉さま、もう少し考えて加護を与えてよねぇ」



「――」



 私は顔を引きつらせる。

 あなたがそれを言うのですか。

 私は早足でアリシアの傍に寄り、思い切り頬をぶつ。



「いったぁ!」



「はっ、つい」



「お姉さまがぶったぁ!」



 瞳に涙を携え、批判するような視線を向けてきたアリシアに、私はつい思いやってしまう。



「あ、あの、アリシア? 大丈夫ですか――」



「お姉さまのバカバカバカ! もう知らないもん! ここまでコケにされて、ウチももう怒ったもん! 絶望しろ、恐れ戦け」



 アリシアが何かの紋章を宙に映し出し、何事かをしているようですが、私はジッとこちらを見てくるアヤメの視線に耐え切れず、顔を逸らす。



「何やってんのお前?」



「いえ、あのその……」



「気持ちはわからんでもないが、今姉妹喧嘩に発展させんの止めてくれない」



「申し訳ないです」



 私が反省していると、勝気な表情を浮かべたアリシアが塔の外を指差す。



「まさかウチが、これっぽちの戦力しか持っていないと本気で思っているの! 絶対に絶対に、あの魔王はウチのものにするんだから!」



「……戦力の逐次投下は負けフラグってリョカが言ってたぞ」



「うるさいうるさい! それに今回の戦闘で厄介になる、範囲攻撃が強力な金色炎もルイスが釘付けに……え? なんで聖女が――」



「あ~? いつの間にあの不良聖女移動したんだ? というか、あいつ光の勇者を殴ってね?」



「……殴っていますね。ルイスは聖剣が発動したらほぼ攻撃が当たらないはずなのですが」



「光体化するからな、光に物理はきかねぇ。はずなんだけどなぁ」



「またかミーシャ」



「おいテッカ、お前も見てみろよ」



 アヤメがテッカさんの体に触れ、ミーシャさんとルイスの戦いを見せ始めた。



「ボッコボコにしてますね」



「ああ、ていうかあいつちょっと泣いてね?」



「……ルイスは、フェルミナがいないと何も出来ない勇者でしたから。精神面もあまり強いとは言えなかったので」



「ガイルが申し訳なさそうな顔で縮こまっているな」



 私たちがルイスを不憫に思っていると、先ほどからアリシアが指差していた空にヒビが入った。



「もう、もう! なんなのよもう! シラヌイは意味わからないし! ソフィア=カルタスはあり得ないし! 聖女はわけわからないし! もういい、もうこんな場所壊してあげる!」



 子どもっぽく地団太を踏むアリシアに、昔を思い出して少し和んでいると、そのヒビからとんでもない存在が流れてきた。



「……おいおい陰険女神、そりゃあやりすぎじゃねぇのか?」



「アリシア」



「もう知らないんだから! クオン(・・・)のところからかっさらって来たんだよ~! さてさて人々諸君、いつまでも余裕面でいられるかなぁ」



 ヒビを破って出てきたのは、さらに大量の不死者と、巨大な翼を持つ竜――人の世ではすでに何百年と観測されていない災い。

 恐れ畏怖する信仰の対象。



 そんなものを、あの子は呼び寄せてしまった。



「まさか、竜、か?」



「か、カナデちゃん起きて! 早く逃げなきゃ――」



 テッカさんもプリマさんも、あの存在には恐怖しているようで、私はアリシアを睨みつける。



「そんな顔したって遅いんだから! あれを解き放ってほしくないのなら、魔王をここに連れてくるんだね」



 アリシアが勝気で無邪気な顔で言い放った。

 あれに対して女神特権を使うべきなのだろう。

 私が塔を飛び出そうとすると、それは私とテッカさんの腰に掛かっているリョカさん風に言うなら、トランシーバーから全てを払いのけるような明るい声が響いた。



『でっかいトカゲだぁ!』



「え?」



『あ、あ~聞こえますかぁ?』



「は、はい聞こえています」



『じゃあルナちゃん、それそのままにしておいてねぇ――アリシアちゃん聞こえる?』



「……なに、命乞いする気になった?」



『あれって美味しいの?』



「は?」



『いやいや、ドラゴンって美味しいって聞くじゃない? だからあれも美味しいのかなって』



「な、なにいってんの~、世界を脅かす災害だよ――」



『うん、魔王もね。でも僕的にはあれもゲテモノに分類されると思うんだよねぇ。アイドル志望としてはさぁ、ああいうゲテモノにも慣れておいた方が良いと思ってさ』



「何が言いたいの」



『うんにゃ、だってアリシアちゃんあのとかげの飼い主でしょ? だから一応許可貰っとかなきゃって』



 私はつい、喉を鳴らして笑ってしまう。

 ああそうだ、この魔王様は、リョカ=ジブリッドという人は、こういう人だった。

 私は女神特権を解く。



『ねえアリシアちゃん、あれ、食っていいよね』



「――」



 顔を真っ赤にして歯を鳴らすアリシアを横目に、私はアヤメと目を合わせる。



『ねぇねぇクソガキ、僕がわからせてあげるよ。でも、今から逃げる準備をしておけば、僕があれを喰らっている間に逃げられるかもだけれどね』



「馬鹿にしてっ!」



『自覚あったんだぁ。まあそれはまたの機会ってことで。さてさてこれを聞いている皆々様方! あんなトカゲ、恐れるものでもない! 今日はみんなでドラゴンバーベキューだ! 僕のライブと一緒にお楽しみにねぇ!』



 方々から聞こえる彼女を賛美……いえ、神々をたたえる声にも似た熱狂の嵐。

 この世界に来た時と変わらない狂気にも似たその感情は、今では誰よりも愛を向けられ、誰よりも愛しているように私には見える。



「俺的にはもうちっと畏れてほしいのだけれどね」



『アヤメちゃんにはクッソ可愛いカラフルな服を今作ってもらってるから!』



 うな垂れるアヤメの頭をポンポンと撫で、私はトランシーバーに向かって口を開く。



「リョカさん、それは女神も、夢中になれるものですか?」



『もちろんですよ、ちゃんと見ていってくださいね』



「はい、楽しみにしています」



 トランシーバーが切れ、リョカさんとの連絡を終えた私はアリシアに向き直る。



「アリシア、あなたが狙った魔王様は、強いですよ」



「……」



 顔を赤くして頬を膨らます様に、私はつい笑ってしまう。もちろん馬鹿にした意図はなく、幼い頃の彼女を思い出した故であるけれど、あの子はそう受け取っていないらしく、完全にへそを曲げてしまったみたいだった。



 そんなアリシアを横目に、私はこの戦いの結末を見届けることを覚悟したのでした。

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