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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。
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聖女ちゃん、冒険の始まりに胸を躍らせる

「それじゃあリョカ、出発するわよ」



「まだもう1人来てないから。なんでそんなにやる気満々なのさ」



 それはやる気にもなる。あたしはリョカと違って街の外に出る機会があまりなかったし、そもそもこうして学園に通えるのも、癪ではあるけれど幼馴染のおかげである部分が大きい。

 そんなか弱く箱入りだったあたしが冒険者ギルドに興奮しないわけがない。



「ついに合法的に人が殴れるのね」



「その冒険者への認識を改めないなら今後僕はミーシャを連れて行かないからね」



 淡々と荷物の確認をしているリョカに、あたしはイラッとする。

 一発頭を殴っておけば少しは気分も上がるかしら。と、彼女の頭部に拳を近づける。



「待ってミーシャ、悪かったからその拳を下ろして」



「頭に?」



「殴んないでって言ってんの。あのね、一応ミーシャはご令嬢でしょ? そこいらの有象無象に後れをとるつもりはないけれど、それでも絶対じゃない。だから準備を入念して少しでも危険から遠ざかるようにしなきゃ」



「そういうものなの?」



「うん、どれだけ優れた冒険者でも勇者でも、ちょっとした事故で取り返しのつかないことになっちゃうことだってある。僕らはまだ、外のことをほとんど知らないんだから慎重になろう?」



「むぅ」



 そんな真剣な表情をされたらあたしは何も言えなくなる。

 でももう少しだけ――。



「ほい、準備出来た。ミーシャミーシャっ、今日行く街にはね、ミーシャの好きな果物をたくさん使ったケーキが美味しいお店もあるみたいだよ。終わったら行こうよ」



 懐っこい笑顔でそう言う幼馴染に、あたしも顔を綻ばせる。



「それは良いけれど、次からはあたしにも準備を手伝わせなさいよ」



「うんっ。おや?」



 リョカがあたしの背後に目をやった。やっともう1人が来たのかなと振り返るとそこには大きな眼鏡をかけた小柄な女生徒がいて、どこかで見たことがある彼女に首を傾げる。



「お2人は本当に仲が良いのですね。羨ましいです」



「えっとあなたは」



「初めまして聖女ミーシャ=グリムガント様、私は――」



「ミーシャで良いわよ」



「では、ミーシャさん。と。この間はありがとうございました」



「この間……?」



「ソフィア=カルタスさんだよ。ミーシャも一緒にいたでしょう」



 名前を聞いてやっと思い出した。この間スキル暴走させた本人で、そしてもう1つ厄介なことを思い出してしまい、あたしは彼女に手を差し出す。



「こういう場合も、形式上はやらなくちゃいけないのかしらね? いつも父がお世話になっていますわ。これからも、良き関係でいたいですわね」



「あ、あはは」



 引き攣った顔のソフィアだけれど、何も変なことは言っていないはず。そうしているとリョカが耳元に口を近づけてきた。



「どういう関係?」



「父さんの友人よ。そこそこに古い間柄みたいだけれど、まああたしには関係ないわ」



「おじさんが友人って言うほどって、結構な大物では?」



「でもここに本人はいないわ」



「はい、私も父のことは抜きにしていただけると助かります」



 多少の地位があると、それを抜いて考えさせることは難しい。だけれどまあ、今はあたしとリョカしかいないし、構わないでしょう。



「それならちゃんとリョカの言うことは聞きなさい。あたしは初めてだから助言を求められても何も言えないわ」



「わかりました。リョカさん、よろしくお願いします」



「ああうん、それはいいんだけどさ。ソフィアちゃんさ、つい先日スキルを暴走させていませんでしたか?」



「え? はい」



「……どうして冒険者ギルドへ?」



「えっと、私はリョカさんとミーシャさんと一緒出来れば良かったのですけれど、そうしたらヘリオス先生がその」



 ソフィアを言い淀んでいたけれど、ヘリオス先生ったらいい先生ではあるけれどそこそこに厄介なのよね。

 きっと何か理由があって彼女を同行させるのでしょう。



「枷がある方が危険なことはしない。と」



「ああにゃろめぇ。まあうん、でも了解だよ」



 なるほど。危険因子を取り入れることで行動に制限をかけるのね。

 あたしはげんなりしているリョカの袖を引っ張り、彼女を元気付ける。



「ああうん大丈夫、別に手間でもないからね。さってそれじゃあ元気出していこうか」



「空元気じゃない?」



「あ、あの、ご迷惑をかけて本当にすみません」



「いやいや、常に万全の状況であるはずがない。別にソフィアちゃんのことを足手まといだとも思わないし、せっかくだから道中とか依頼中にスキルを制御できるようにしよう。何が出てきても僕たちなら対処できるからね」



 ウインクを投げたリョカに、ソフィアが本当に感激したように目を見開いた。



「そんな余裕があるのね」



「余裕は勝手に生まれるるものじゃなくて自分から持つものだよ。正直急いでいるわけじゃないし、ゆっくり街に行きながら冒険者のいろはに想いを馳せよう」



 いろはとは何かわからなかったけれど、きっと道中にリョカが話すことだろうし、あたしはとりあえず頷き、彼女が準備していた荷物の半分を背負った。



「だそうよソフィア、今さら言っても始まらないし、あたしたちと一緒に行きたかったんでしょう? じゃあ行くわよ」



「あ、はいっ」



「こらこら、僕より先に行くんじゃないよ」



「ならあたしより早く歩きなさい」



 リョカの忠告通り、はしゃぎ過ぎには注意したいけれど、やはり胸のときめきは収まらない。

 そして何よりも、新たなことに挑戦できる楽しみはこれ以上にないほどあたしを喜ばせてくれる。

 だからこそ、あたしは2人の手を取って先頭を進む。



「はしゃいでるなぁ」



 そんなリョカの声に、あたしは胸を張って答える。



「当然でしょっ、外に出る楽しみをあたしに教えた方が悪い」



「はいはい、これからも付き合いますよ」



「ええ、そうしてちょうだい」



 そう言ってあたしは上機嫌に、冒険者ギルドのある街、交易都市・ゼプテンへ向かって歩き出すのだった。

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