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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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勇者のおっさんとやっと現れた規格外

「ん?」



 どのくらい奴を睨みつけていただろうか。無限にも思えるこの時間の中、光の勇者・ルイス=バングが俺から視線を外した。



「ヤマトが負けた?」



「あんだと?」



 俺はルイスの視線を追い、その方角に意識を向ける。

 しかし何も感じず首を傾げるのだが、ふとハッとなり、思い切り振り返る。



 ルイスが不思議そうに俺を見るけれど、背後には何もおらず安堵の息を吐く。



 しかしテッカはヤマトを倒したのかと安心すると同時に、俺は何をやっているのかと拳を握る。



「君たちは強いな」



「嫌味か?」



「そんなつもりはないよ。でも、どうしてそこまで戦う? 相手はあの月神様の妹さまだ。人がどれだけ抗ったところで結果は目に見えている。それにもし君たちが人々を守りたいというのなら……いや、そもそも彼女は魔王だ、君はそれを喜ぶべきで、さっさと彼女を死神様に――」



「おい、それ以上を口にするのなら、俺は多分お前を殺すぞ」



 今の一瞬、俺は確かに殺意を抱けた。

 勇者である俺がおかしな話だが、例え女神だろうともあの銀色の魔王様をくれてやるのにこれほどの拒否反応が出る。

 本当に可笑しな魔王様だと俺は頬を緩める。



「……君をそれほどまで夢中にさせる魔王か。彼女はどんな人だ?」



「面白い奴だよ。次は倒す」



「負けたのか?」



「負けてねぇよ。まだ本気でやったことねぇだけだし」



「変わった集まりだ。そもそもどうして魔王にこれだけの人が手を貸す? どうして相手が女神様なのに恐れない?」



 勇者として尤もな疑問である。

 俺は少し考え込むが、この戦いの前にリョカが月神様の道具で全員に話ていたことを思い出す。



「可愛さを知る者は絶望しないらしいぞ」



「……本気か?」



「ああ本気だ。リョカは本当に可笑しな奴でな、あいつが人々にもたらすのは本当にそれだけだ。可愛い自分を見てだの、可愛い自分を愛せだの、可愛ければなんだって出来ると思ってやがる」



「……」



「あまりにも馬鹿らしいと思うだろ? でもな、勇者の希望でも、魔王の絶望でも、聖女の慈しみでも、どれにも劣らないほど、リョカの力は強大だ。なんせあんた曰く勇者の鑑でもある俺が、夢中になっちまうんだ。あいつの可愛いは、女神すら追い払っちまうよ」



 ルイスが呆然としている。

 気持ちはわからなくもないが、あいつはそれだけを心に据えてここまで来ている。

 誰よりも可愛く在り、そしてその可愛さを他に知ってもらうことで生きる糧にしている。



 可愛さを知った俺たちも、その可愛さを知っているからまた次の可愛さを得たいがために生きようとする。



 あいつは希望じゃない。言葉にするのなら、あいつそのものが生への執着だ。あいつがいるから生きようと、今日を頑張りたいと思える。



「わかんねぇだろうな。お前はそれを諦めた」



「――」



 ルイスが下唇を噛んで押し黙る。

 こいつにもこいつの理由がある。けれどそれを通させるわけにはいかない。



 けれど、結局俺は目の前の弱者を倒すまでには至らない。



「……?」



 俺は振り返る。

 何か違和感を覚える。何だと首を傾げると、それ(・・)が4足歩行の魔物らしき怪物に乗って歩んできた。



 異界の魔物に乗るそれは、腕を組んで体を揺らしており、いつ見ても不遜な顔を崩さない彼女がチラリと近くにいる不死者の集団に目を向けた。



「誰だ?」



 ルイスがそう呟いた。

 途端、俺の額から汗が溢れ出た。



 それ――魔王の絶望とも、勇者の希望とも、聖女の慈しみとも、リョカの可愛さともまったく違う圧倒的暴力の気配。



 現代最強と名乗っても差支えない我らが聖女様――ミーシャ=グリムガントが気だるげに息を吐くと、指に溜めた生命力、イルミナグロウ……そんな可愛げも慈しみもない神だまをなんの感情も覚えていない風に不死者に放った。



 不死者たちは一瞬で消し飛んでいき、そんな彼女と俺は目が合った。

 ミーシャは乗っている化け物の横っ腹に足を入れると俺の方まで歩んできた。



「あんた何やってんのよ?」



「あ、いや――」



 ミーシャの視線がルイスに向けられた。



「ふ~ん」



 ミーシャが化け物から降りると同時に、その化け物に手を触れた。その瞬間、化け物が「ぴっ」と鳴き声を上げて砂に変わり、生命力を持って行かれたのだと理解する。



「な、なんだ彼女は」



 聖女絶対主義(ルイス=バング)になんと説明しようと考え込んでいると、ミーシャが俺の隣に並んだ。



「あいつ、弱者?」



「ああいや」



「実力の方じゃないわ。弱いからあんたが倒せないんでしょ?」



「……ああ、すまん」



「良いわよ別に。むしろあんたが勇者で良かったわ、そうでなければ勇者なんて務まらないでしょ」



 そう薄く笑って言うミーシャだったが、途端に姿を消し、ルイスの顔面に拳を構えた。



「っ! 聖剣顕現・エトワールフェルミナ――」



 ルイスの体が光の粒子へと変わる。

 あの状態では攻撃が届かない。そう、届かないはずなのである。



「ふんっ!」



「はがっ!」



 顔面をへこまされたルイスが成す術もなく飛んでいった。



「立ちなさい弱者(ゆうしゃ)、あたしならあんたを殺せるわ。せいぜい生にしがみつきなさい。それが残された時間を有意義に使える唯一の手段よ」



 圧倒的力を携えて言い放つ聖女に、俺もルイスもただ体を震わせるのだった。

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