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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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月の女神ちゃんと東の国の怪物たち

「……あれは」



「ルナ、どうかしましたの?」



「え、ええ、まさか彼がアリシアの手に落ちているなんて思いもよらなくて」



「狂仁っつったか? あいつあれだろ? 結構長くここで冒険者やってるっつう」



「……アヤメ、それだけですか?」



「は?」



「まあいいです。彼については後日どうにかします」



 タクトさんと戦っていた彼、バイツロンド=ルクシュ――正直、彼とタクトさんが戦いを始めた時、肝が冷えた。

 (わたくし)は頭を抱えるけれど、結果的に何もなかったために、頭を切り替えて眼前を睨みつける。



「あっれ? ルナ姉さまもあのお爺ちゃんのこと知ってるの? もしかして掘り出し物だったのかなぁ」



「……ああ、あなたは知りませんよね。方々に喧嘩を売っていることを自覚した方が良いですよ」



 私たちは隠されていた塔を上り、最上階にある広間で椅子に腰を下ろしてフェルミナを侍らせているアリシアと対峙していた。



「さって追い詰めたぜ陰気女神、ここでやられてくれると助かるんだがな」



「だからぁ、アヤメちゃんには無理だって言ってるでしょ」



 アヤメが特権を発動させようとしたところで、アリシアがふっと戦闘の気配を消した。



「と、言いたいところだけれど、さすがのうちも2人の特権を相手にしてられないから、戦いはあっちに任せちゃうね」



「なにを――」



 アリシアが私たちの背後を指差した瞬間、突然壁が崩れ何者かが吹き飛んできた。



「がぁ!」



「キサラギの人?」



 私たちを通り過ぎて飛んでいった人影に、カナデさんが声を掛けた。



「テッカぁ! こんなもんじゃねぇよなぁおい!」



「ヤマト=ウルシマ」



 最悪のタイミングで、最悪の人物が出てきた。

 私とアヤメは膝立ちしているテッカさんに駆け寄り、リョカさんから預かっていた聖女の力が込められた布と傷薬で彼を応急手当てする。



「神獣様、月神様、すみません。誘いこまれました」



 アリシアがヤマトに指示を出していたのだろう。私はアリシアに視線を向けた。



「2人の特権って結構広範囲だもんね、これだけ人数がいればおいそれと使えないんじゃないかなぁ。だってその特権ってウチに対してだけでしょ?」



 私とアヤメは揃って舌打ちをする。

 アリシアの言う通り、私たちの特権は1対1向きの特権ではない。フェルミナ1人であるのならカナデさんに何とかしてもらおうとしていたけれど、そこにヤマトまで入ってきてしまうと手が回らない。



「お~お~、女神までいんじゃねぇかおい。テッカをやったらさくっとやっちまうかねおい!」



「ヤマトてめぇ、誰の収める国で産まれたと思ってんのよ」



「ハっ! ただの喧嘩好きの獣が大口叩いてんじゃねぇぞおい、おりゃあこの拳で殺せるのなら何だっていいんだよオイ! まずはてめぇだテッカ!」



「くっ――」



 テッカさんが私とアヤメを庇うように腕を広げ、ヤマトを迎撃しようとする。

 しかし、私たちとヤマトとの間に炎の花が咲く。



「我が授かるは蒼炎の刻印、コンコンコン、打ち砕け! 我が拳に災禍の福音! アリスオーダー・表不知火――割砕爆印(かっさいばくいん)



 迫る幾つもの腕を瞬時に払いのけ、カナデさんがヤマトの腕の付け根に精霊術の刻印を打ち付ける。



「なに――」



 ヤマトが驚きの声を上げると同時に、彼の腕が蒼い爆炎を上げた。



「ついでにもう1個ですわ。表不知火――打出模様!」



 がら空きになったヤマトの腹部にカナデさんが拳をくっ付かないように添えた。

 そして次の瞬間、ほんの一コマもない距離にも関わらず、大きく腰を回したカナデさんの拳がヤマトを穿ち、彼を吹き飛ばした。



 私たちの目の前に立つカナデさんが両手を腰に当て、勝気な表情で口を開いた。



「キサラギの人は自分で何とかできるから何もしないけれど、ルナとアヤメに手を出すんならあたしが許さないんだから!」



 カナデさんの言葉に、肩を竦めたテッカさんが立ち上がり、2度ほど自身の頬を叩いた。気合を入れたのでしょう、すっきりした顔をしているように見えます。



「すまんカナデ、次は遅れをとらん」



「当然です、次ついて来られないようだったら置いて行っちゃうからね!」



 勝気に構えるカナデさんにテッカさんが微笑んだ。

 すると飛んでいったヤマトが体を起こし、引き攣った顔を浮かべている。



「シラヌイ、だぁ?」



「カナデ=シラヌイよ、覚えておきなさいなおっさん!」



「ああ、そういえば、お前はシラヌイが恐ろしいのだったな。いの一番に潰しに行くほどだ、幼いころから、余程心に刻まれていたのだろうな。悪いことをするとシラヌイが来るぞ。とな」



「カナデちゃんヨーカイみたいだよぅ」



「よーかい?」



「神獣様が言ってたんだけれど、何処かの世界の都合の良い化け物だってさ」



 カナデさんが複雑そうな顔をしてプリマさんを抱き上げた。

 そしてヤマトを見て1度首を傾げる。



「さっきから思っていたんだけれど、あなたあたしと会ったことあるよね?」



「は――? よくわかんねぇがおい、俺様は今、キサラギとシラヌイを相手にしなきゃなんねぇのかよ死神さんよ」



「うん、勝てるよね?」



 アリシアが笑いながらも、明らかに威圧しながら言った。ようは、必ず勝てということなのだろうけれど、女神が、ましてや死を司る神が、いくら不死者といえ人間にあれだけの横暴を通そうとしている。これは許されることではない。

 私は彼女を睨みつける。



「ウチのお友だちを、ウチがどう使おうと勝手でしょぉ」



「本当、腹立つ陰気女神ね。そんなんだから友の1人も出来ないことにいい加減気付きなさいよ」



「あっれぇ? アヤメちゃんもしかしてうちを慕う者がこれだけ多くて嫉妬しちゃってるぅ?」




 アヤメがため息を吐き、アリシアから完全に視線を外してテッカさんとカナデさんに目を向けた。彼女は完全に、彼らの戦いを観戦する姿勢になってしまった。



「どうせアリシアは動けねぇ。それならゆっくりと若い魔王と勇者の剣、そして今期の殺人鬼の名を持つ阿呆の戦いでも見ていようぜ」



「でも」



「どっちみち俺たちは手を出せねぇよ。それなら、今は見守るしかないでしょ」



「はい……」



 私は、アヤメの言う通りに、テッカさんとカナデさん、プリマさんを見守ることにしたのでした。

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