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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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健康優良児くんとA級冒険者(不死者)さんたち1

「ビーストレイブ・ジャイアントオーグナー!」



「小僧、このわしと殴り合う気か? 身の程は弁えるもんじゃ――」



「うっせぇ! てめぇの拳なんぞ重くもなけりゃあ痛くもねぇ!」



 2人の拳がぶつかり合い、衝撃が周囲のあらゆるを吹き飛ばそうとあちこちに奔った。



 タクトの拳が老人の拳を受けて血を噴き出し、大柄な老人がニヤケ顔を浮かべたけれど、脚を軸に体を回したタクトがジャイアントオーグナーを解いた。



「ビーストレイブ……リックスナッチ!」



 極太の鞭のような長くしなる腕に切り替えたタクトが回転ざまに老人の顔面に鞭となった拳を叩きこんだ。



「むぐっ!」



 巨体を宙に浮かせ、老人が吹き飛んでいった。



「だから、痛くねぇって言ったですぜい!」



 拳から血を流しながら力強く握ったタクトが鼻を鳴らして老人を見て嗤った。



「バイツロンド!」



「よそ見できる余裕があるほど、俺は弱く見えるか?」



「くっ、この――こんこんと燻る大火の盟友、その契りを以って我らが怨敵を燃やし尽くせ! ファーストオーダー」



 セルネの姿が炎で視えなくなる。

 女性が勝ち誇った顔を浮かべたけれど、バイツロンドと呼ばれた老人が体を起こしてすぐに視線を上に挙げて口を開いた。



「パルミール上じゃ!」



「え――」



 上空から周囲に剣を幾つも携えているセルネがパルミールと呼ばれた女性を斬りつけた。



「きゃぁぁっ!」



 セルネが体勢を立て直してタクトと横並びになる。



 俺はそんな2人を横目に、リョカ様から頂いた聖女の力が込められた布をジンギに巻き、怪我の治療をする。



「あっちに入らなくても良いのか?」



「まずは君の治療が先」



「……すまん」



「随分丸くなったじゃん、リョカ様とミーシャ様に絞られた結果かな?」



「夢見が悪くなったよったく」



 俺がセルネとタクトに視線を向けると、パルミールが忌々し気に舌打ちをしたのが見えた。



「クソ、こんな奴らがいるなんて聞いていない」



 バイツロンドがチラリと先ほどまで光が上がっていた箇所に目をやり、深々とため息を吐いた。



「まったく、割に合わんのう」



 心底厄介そうにセルネとタクトを見た後、俺にも視線を向けてきたバイツロンドが頭を掻き、パルミールに手招きした。



「パルミール、お前さんはあっちの魔物化した小僧をやれ。わしはこっちの小僧をやる」



「どう考えても相性最悪でしょう。あっちの坊やはあたしに詠唱させてくれないでしょうが」



「気合で何とかせい。久々に面白い喧嘩(・・)ができそうじゃわい」



「この戦闘狂が。あんたに付き合うあたしの身にもなりなさいよ」



 言いながらもパルミールが体に巻き付けられていた長い布を広げて口を開く。



「どくどくと溢れる水蝕の盟友、その契りを以って我に力を示せ! アリスオーダー・ペルヌニンフィ」



 パルミールの持っていた布の性質が水に変わり、それをセルネとタクトの間に叩き込んだ。

 元々布であるとは思えないほどの破壊力で、セルネたちはそれを飛び退いて躱したのだけれど、上手く分断されてしまった。



「セルネ!」



「タクト、俺は大丈夫だ。だからお前は――」



「小僧! わしをその気にさせたんじゃ、一撃で折れてくれるなよ! センスバーサーカー!」



 血管が浮き上がった太い腕をバイツロンドがタクトに向けて放った。



「ビーストレイブ・ジャイアントオーグナー!」



 腕を巨大化させてバイツロンドの拳を受け止めたタクトだったけれど、明らかに老人の力が上回っており、タクトが押されている。



「ガァァァァッ!」



 バイツロンドが咆哮を上げ、タクトの両腕を弾いて腹を無防備にすると、そのままタクトの腹部へと連撃をくらわせる。



「――」



 しかしタクトは一歩も引かない。

 攻撃を受けながらもしっかりと大地に足をつけ、ただの気合だけでバイツロンドからの攻撃を耐える。



 そんなタクトが巨大な手の指で器用にも彼の肩から掛かっているポーチを指で弾き、中身を宙へと飛ばした。



「む」



 いくつか出てきた中身の中から、タクトはリョカ様からもらったチュウシャキなる道具を口で掴んだ。

 ガイルさんとの戦いで使用したあの道具だ。



「タクト、短期決戦で終わらせられる相手じゃ――」



 俺の忠告を聞くつもりもないのか、タクトは口で掴んだチュウシャキを腕に刺した。



「う、アガ……グガァァっ!」



 タクトがバイツロンドに飛び掛かり、その首に大きく口を開いて噛みついた。



「ガッ!」



 バイツロンドが肩を一撫ですると、張り付いているタクトを歯を剥き出しにして嗤う。



「がァぁッ!」



 瞬時に後退したタクトの脚が姿を変えた。

 筋肉質の脚で、あれは確か以前俺たちで退治した魔物、ワイルドバッシャーという4足歩行の魔物だったけれど、奴から放たれる蹴りは岩をも砕き、随分と倒すのに苦労した魔物だった。



 そしてその魔物をタイラントバッシュで使用しても4足歩行になるわけではなく、力のある脚だけが出てくるようだった。



 タクトはワイルドバッシャーの脚をバイツロンドの顔面目掛けて放った。



「タイラントギガース!」



 バーサーカーの第2スキル、センスバーサーカーによって全体を強化しながらさらに部位強化が出来るスキル。このギフトが他と違うのはバーサーカーは1から6までのスキルを順番に使うギフトで、次々と身体強化がされていくのだけれど、結果どんどん理性がなくなっていく厄介な仕様となっている。



 そうして理性を失くしつつある2匹のケダモノたちが笑い声を上げながら殴り合いを始めた。



「あいつら頭おかしいでしょ」



「同意したいところだが片方は俺の友なんでね、言及は控えさせてもらうよ」



「あんたもあんなのじゃないでしょうね?」



 パルミールが水を振るいながらもセルネを近づけさせないようにしていたが、どうにも彼女はやる気がないのか、渋々という風に相手をしているようだった。



 こうして、およそA級冒険者と学園の勇者、その剣との戦いが始まったのだった。

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