魔王ちゃんとやるべきこと
「へ~やるじゃん」
「今の光線、オルタ?」
「うん、ほとんど1人でA級に勝っちゃったよ」
僕は屋上で、あちこちに放っているアガートラームの1つに入っているエレノーラを通して、ギルド周辺を見ていた。
ジンギくんがピンチだったから幾つかの魔剣を向かわせていたけれど、セルネくんたちが先にカバーに入ったのと、彼らなら大丈夫だろうと信用し、その場を後にした。
そしてついでにアルマリアの様子を見ようとしていたところ、ギルド周辺で不死者の動きがあり、今度こそ手伝おうとしたけれど、オルタくんとマナさんの活躍により、またしても出番がなくなった。
「A級冒険者をですか? オルタさん凄いですね」
「相性の良しあしもあったけれど、随分頑張っていたよ。銃も上手く使えていたようだし、何より何より」
「またあいつらになんか渡したの?」
「いやオルタくんだけ。以前から自衛できる武器が欲しいってお願いされていて、この間完成させていたんだよ。ガイルとの戦いにはギリギリ間に合わなかったけれど、最終調整も済んでやっと渡せた」
銃の使用感も、扱い方も今日しか練習できなかったはずなのにそれなりの動きになっていたけれど、やはりオタクセの中でオルタくんは頭1つ戦闘センスが高い。
ガイルとの戦いの時もそうだったけれど、とにかく戦術の幅が広い。
「どんな武器?」
「宝石の持つ力を射出する武器だよ。使用回数が決まっちゃっているのと、精密機械だから壊れやすいっていうのを除けば結構強い武器」
「あいつらとも1回やりあっておこうかしら」
「もうちょっと待ってあげて」
今ミーシャと戦っても彼らは全力を出し切れず、ギャグ時空のような負け方をするだろう。
と、僕がミーシャを宥めているとソフィアが顔を伏せたのが見えた。
まあ気持ちはわからないでもない。それにソフィアは一応納得してくれたけれど、まだまだ自分が強者だとは思っていないのだろう。
だからこそ、ここでジッとしていることに耐えられない。
「心配?」
「……はい。ここでこうしてのんびりしている間にも、みなさんが危険な目に遭っていると思うとどうしても」
ソフィアはそう言うけれど、あれほどの魔獣を出してのんびりできている方が異常で、きっと労力に合っていないと罪悪感を持ってしまったのだろう。
僕は少し考える。
確かに彼女をここで遊ばせておくのももったいない気はする。
「わかりました。ソフィアさ、ここを離れて周りを見ておいで」
「いいんですか?」
「本当ならソフィアがやられちゃうリスクを負いたくはないんだけれど、正直相手の戦力が充実し過ぎていてね、A級を倒せる人が前に出てくれるのは大賛成」
まさかあんなにA級冒険者が湧いて出てくるとは思っておらず、アリシアちゃんの戦力を低く見積もり過ぎていた。
これは少し手痛い。
まああと、ソフィアの鍵師の素質を低く見積もり過ぎていたというのもある。
「それとねソフィア、本来の予定ならこれだけ多くの魔獣を召喚したソフィアは動けなくなるんじゃないかと思ってたの。だからこうしてここで安全に守っていこうとしていたんだけれど、その必要はなかったようだね」
「あ~……なるほど、そういうことでしたか」
「うん、だから自信持って行ってきな。ソフィアはこれだけの魔獣を従えて尚、最前線で戦うだけの余裕がある。これは凄いことだよ」
「はいっ」
元気よく返事をしたソフィアの頭を撫で、ミーシャ補充用の馬のような魔獣一体に現闇で武器を装着する。
「出来るだけ移動しながら戦うようにね。ソフィアは前線で戦うタイプじゃないんだから無理はしないように」
「わかりました。それでは行ってきます」
そう言ってソフィアは駆けだして行き、馬に乗ったまま屋上から飛び降りていった。
一応、鞍と手綱も付けておいたし、ソフィアの召喚獣だから落ちることはないと思うけれど、やはり心配ではある。
僕はアガートラームを1つ彼女に付けてやった。
そうして彼女を見送ると、ミーシャが立ち上がった。
「暇なの?」
「暇ね」
「そう、じゃあしょうがない。出るんならそれなりに戦果を挙げてよね」
「ん。手あたり次第ブッ飛ばしてくるわ」
そう言ってミーシャが一番近くにいた獣の首を掴んで背中に乗り、顎で前方を指す。
獣が震えて驚いたような顔をしていたけれど、聖女に睨まれて肩を跳ねさせた後、飛び出していった。
鍵師じゃなくても言うことを聞くんだと新たな発見をしたところで、僕はため息を吐く。
1人で全体を見渡すのは正直しんどいけれど、ミーシャもソフィアもそれぞれにやることがある。もちろん僕の指示ではなく、彼女ら自身の心の在り様の話だ。
今僕はこうして司令塔みたいなことをしているけれど、別にそんな役割買った覚えもなければ、立候補したわけでもない。
だからこそ、僕はみんなにはみんなが出来るそれぞれをしてもらいたい。
「僕も、やるべきことをしないと」
アガートラームをさらに追加する。
頭が痛くなってきたけれど、これくらいでへこたれるわけにはいかない。
どうにも僕は、この街がそれほど大事らしい。
こんな気持ちになったのはこの世界で初めてだろう。
住む場所なんて雨風をしのげて、仕事が出来るのならそれでよかった。愛着なんてあったものでもないし、例え明日に住んでいた街が滅んだとしても何も感じなかっただろう。
でも今は違う。
ここは僕の第2の故郷だ。
一緒に学ぶ仲間たちに、先生方、ギルドの先輩冒険者方、ここに住む優しい人々――なに1つ欠けさせない。
「うっし! やったるぞ~!」
僕は気合を入れ、再度全体に目を散りばめていくのだった。




