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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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月の女神ちゃんと女神特権

「……」



「ルナ、どうかしたんですの?」



 (わたくし)とアヤメ、そしてカナデさんの3人でアリシアがいるだろう場所まで歩いている。

 正直、あの子のことは放っておいて皆さんを助けに行きたいところではありますが、まさかヤマト=ウルシマまで持ち出してくるなんて、あの子は一体何を考えているのでしょうか。



「まああの2人なら大丈夫だろ。とはいえ、まさかヤマトとルイスが揃って出てくるとはな」



「誰ですの?」



「ガイルさんとテッカさん、前にヤマトを倒したことがあるとはいえ、やはり厳しいのでは? 今回はルイスもいますし、厳しい戦いになると思いますよ」



「リョカが助けに入っただろうが。お前は少し過保護過ぎだ」



「ですが――」



「ねぇねぇ、それって誰ですの~」



「カナデちゃん、シッ! 今大事な話をしているっぽいんだからお口閉じてようよぅ」



 カナデさんが頬を膨らませてアヤメを抱っこし始めたことで、私は肩に込められた力をフッと抜いた。



「いえ、そうですね。今私たちがやるべきことはアリシアをリョカさんたちに近づけないこと。ここで迷っている場合ではありませんね」



「そういうことよ。さっさとあの陰気女神を見つけっぞ」



「ええ。それとカナデさん、ありがとうございます――カナデさん?」



 彼女が私の状態を察してくれたのではないでしょうけれど、それでもお礼を言いたくカナデさんに目をやるのですが、カナデさんが突然口を閉じ空を睨みつけていた。



「やっぱシラヌイはやり難いなぁ。一体どんな構造してるんだか」



「アリシア」



 カナデさんの視線の先にアリシアが現れ、相変らず耳をつくような声でケタケタと笑っていた。



「も~ルナ姉さま、まさかシラヌイを連れてくるなんて聞いてないよ~。これもあの魔王様の指示? 本当厄介だよねぇ」



「出てきやがったな陰気女神、そろそろ決着つけてやろうと思ってわざわざ出向いてやったわよ」



「アヤメちゃんがウチを? 一体何の冗談?」



「……冗談ではありません。もうそんな軽口に付き合う段階は過ぎていますから」



 アリシアを睨みつけ、私はその特権(・・)を使用する。

 夜が震え、月からは雫がこぼれる。



 月から零れた雫が私に降り注ぎ、私の衣服を彩っていく。



「『女神特権(ユニークコマンド)世界を愛し治める者(リトルクイーン)』」



 リョカさんからもらった服は形を変え、絢爛なドレスへと変わり、胸当てや金属のブーツが無骨ですが、昔に考えたにしては威厳のある装備で、手には大剣を握っている。



「ありゃ特権? そんなに現世に関わっても良いの~、あとで他の女神から怒られるよ~」



「いいえ、現世には関わっていません。この特権はあくまでもあなたに対するものです。リョカさんたちのおかげで不死者相手に出張る必要もありませんから、他の女神たちの同意も得られました」



「あちゃ~、前回やり過ぎたからかなぁ。まあいいや、ここでお姉さまたちと遊んであげても良いけれど、ウチにもやることがあるからまたあとでね」



「待ってアリシア――」



 アリシアが後退すると水面が揺れたかのように空間が蠢き、彼女の姿が消えた。

 私は鼻の頭を押さえてため息を吐き、アヤメと顔を見合わせてアリシアが消えた付近まで足を進める。



「これは……あいつ、こんなところに拠点を作ってやがったか」



 アヤメが呆れたように言い、何もないように見える空間に拳を打ち込んだ。

 すると、アヤメが殴りつけた箇所にひびが入り、そのまま空間が割れて中から塔が現れた。



「ここ、学校が目と鼻の先なのですが、まったく気が付きませんでした」



「というか事前に作っていた感があるな。あいつあちこちに拠点を持っているんじゃない?」



 私は塔を見上げて握り拳を作る。



 きっと私は戦わなくてはならない。血を分けた、と人間と同じようには言えませんが、今日戦うのは妹。

 緊張しているのか、握った手が痛い。



 私が体を強張らせていると、隣からにゅっとカナデさんが顔を出した。



「わ、わ――」



「ルナそれ可愛いですわ!」



「え? ああ、女神特権ですか。これは女神の戦闘形態ですよ、よほどのことがない限り使用してはいけないのですが、今回はアリシアが原因ですから、他の女神からも許可を貰えました」



「ほえ~」



「……カナデちゃん? これ実はすっごいことだって理解してるぅ? 女神特権なんて数百年に1回見られるか見られないかだよぅ」



「ええ、数百年に1回、女神はそれだけの回数しか、現世に力を貸すことが出来ないのです」



 プリマさんの言葉に、私の顔が伏せていくのがわかる。

 いくら強大な力を持っていようとも、それを発揮できる機会がないのであれば力になんの意味もない。



 もっと、もっと早くに女神が動いていればあるいは。そんな自己嫌悪に浸っていると、カナデさんが首を傾げ、私の頭を撫でる。



「う~ん? だからわたくしたち――リョカやミーシャ、ソフィアやオタクセ、ガイルやアルマリア、キサラギの人が頑張って何とかしようとしているんですわよね?」



「え?」



 なんでもないようにカナデさんが言い放ち、私は彼女の姿を追うのだけれど、すでに興味が逸れたのか、カナデさんはアヤメに詰め寄って行った。



「アヤメも、アヤメも出来るんですの?」



「は? そりゃあ俺も女神だから当然――」



「見せて、見せて! 見せてですわぁ!」



「あ、圧が強い! ええい! 鬱陶しい離れなさい!」



 アヤメの頬に自分の頬を擦り付けるカナデさんが何だか可笑しく、私は噴き出して笑ってしまう。



「ルナも笑ってる方が良いですわ。わたくしもリョカにそう言われましたし、わたくしとルナは、笑っていても可愛い同盟ですわ! ほらっ、に~」



 私はクスクスと声を漏らし、カナデさんの言うような笑顔を浮かべる。

 もしかしてリョカさんはこれを見越してカナデさんをこちらに付けてくれたのではないでしょうか。

 後ろ向きになりがちな私に配慮して――いえ、今それを考えてしまうのは野暮ったいことです。



「ええ、では笑顔を忘れずに、私たちも乗り込みましょう」



「りょ~かい。何があっても、2人はわたくしが守ってあげるですわ!」



「はい、期待していますよカナデさん」



「ったく、どんな心持ちで敵陣に乗り込む気よまったく」



「肩ひじ張っているよりもいいのではないですか? それにこの方が、女神らしくはないですか?」



「お前、ちょっとリョカに似てきたんじゃない?」



 それはとても嬉しい変化ではないでしょうか。私はアヤメの手を掴み、そのままアリシアのいる塔に乗り込むのでした。

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