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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
2章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、冒険者ギルドにて仕事を受ける。
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魔王ちゃん、社会奉仕に勤しみたくない。

「社会奉仕証明?」



「ええ、この学園に今期入学した学生たちが、どれだけ社会に貢献できるのかを示さなければならない。貴族様や上級民族の方々からのお恵みの上で成り立っている学園なので当然でしょう」



 イカタコの化け物を討伐してから幾日か経った頃、僕とミーシャはヘリオス先生に呼ばれ、そんな話を聞かされていた。



「……本音は?」



「学園に所属する限り、評価を下すのは外部ではなく、個人と個人が評価を貰いたい相手だ。外部が推薦したのを正当化するための証明など一体何の意味があると思うかね?」



 つまり、お貴族様は自分が推薦した子たちが活躍する様を以って、周りに威厳をばら撒きたいということなのだろう。

 そんなことに付き合ってやる理由もないけれど、先生が言っていたように金を出しているのもそれらなのだろう。所謂スポンサー。



 それで僕たちが呼ばれたのか。僕たち2人とも自由にやらせてもらっているからなぁ。



「それで先生、あたしたちがここに呼ばれたこととそれになんの繋がりがあるのかしら?」



「ヒント、僕とミーシャの社会的地位」



「ああなるほど。学園側からすれば大した影響もなく、それでいて成績もそこそこ優秀なあたしたちに話が回ってきたってことなのね」



「素晴らしいよミーシャ=グリムガント。話が早くて大変に助かる」



「うちのお父様も、ミーシャのパパも、それなりの繋がりがあるから何かあったとしても周りは文句言えないし、僕たちが活躍したとして2人を褒めたたえるだけで済む。うん、実に良い案だと思います」



「ああその通りだ」



「でもそれは普通のギフトを持っていたらですよ。生憎ながら僕は魔王で、ミーシャは聖女です。貴族連中とは折り合いが悪くないですか?」



 魔王は当然ながら、教会への力が強くなる聖女は貴族とは折り合いが悪い。だからこそそれを取り入ろうと僕が儀式をやった時には貴族が挙って現れた。

 しかしヘリオス先生はそんなことわかっているという風に、悪人顔を浮かべた。ああなるほど、承知の上で。



「……嫌がらせ目的ですか?」



「人聞きの悪いことを言うじゃないかリョカ=ジブリッド、私はただ生徒に正当な評価を与えたいだけだよ」



「まああたしはどんな理由があっても良いけれど、それで先生? あたしたちは一体何をしたらいいのかしら」



「ああそうだった、それが最も重要だった。実はこの茶番で最も評価されるのが冒険者ギルドでの依頼を達成することでね」



「そうなんですか? だって貴族連中って冒険者を毛嫌いしてませんでしたっけ?」



 全員が全員そうではないのは当然だけれど、貴族たちは冒険者たちが粗暴で金に汚く、存在そのものを不潔だというイメージを持っている。

 そのために貴族たちの中には冒険者ギルドを潰そうとしている輩もいるとか。



「その通り。だが、だからこそそこにねじ込みたい。貴族連中はね、冒険者などの仕事は学生でも出来ると、貴族でも出来ることだと証明したいらしい」



「……あまり関わりたくなかったから関わってきませんでしたけれど、馬鹿じゃないですか?」



「私もそう思う」



「父さんに言っておきましょうか? ある程度なら融通も利きますし」



「いや、グリムガントが動くとややこしくなるから止めな」



「それはいつかのためにとっておくよミーシャ=グリムガント。そういう事情もあるからか、冒険者ギルドもこの社会見学に不信感を抱いていてね、正直関わってほしくないそうだ。だが学園側としても冒険者ギルドに行ってもらわなければ貴族どもに示しが付かない」



 ああなるほど、やっと僕たちが呼ばれた本当の理由に合点がいった。



「先生良かったですね、僕たちが都合よくて」



「ああまったくだ。これで君たちが活躍してくれれば、少しは奴らの勝手もおさまるだろう。それにこの時期に冒険者ギルドで活躍できる生徒など限りがある。そういう意味もあって2人に頼みたいのだが、お願いできないか?」



 僕は少し考え込んでみる。

 特に考えなければならないのは、やる気満々にシャドーボクシングをしているご令嬢系聖女様のことで、依頼の難易度を気にするのは当然のことだが、この猪のようなゴリラ聖女が真っ当に仕事を受け、真っ当に終えることができるのだろうか。

 正直2人きりだと不安で仕方がない。



「そういえばリョカ、あんたは確かジークランスさんに無理言ってしょっちゅう冒険者たちの仕事について行っていたわよね?」



「んぁ? うん、お父様の護衛を引き受けている冒険者さんと一緒に依頼がどんなものか見に行ったり手伝ったりしていたけれど」



「ほう、それは心強い。つまり君は冒険者には理解があると?」



「まあ、お世話になっていますし。でもその、心配事もあるというか」



 チラリとミーシャを覗くと彼女は首を傾げるだけで、能天気な幼馴染にため息を吐いた。



「いや、それなりに優秀な生徒をもう1人つける予定だ」



「え、面倒なことを押し付けようとしてません?」



「いいやまさか、それに君たちと一緒に行動したいと申し出たのは彼女だからね。くれぐれもよろしく頼むよ。ミーシャ=グリムガント、君も少しは節度を持って行動したまえ」



「? はい」



 すでに決定事項であることに、僕は肩を落とさずにはいられなかった。

 ギルドへの出発日時やその他必要な物を先生に確認し、僕たちは教員室から出て行くのだけれど、今のところ僕にだけ負担がかかっている現状に、社会奉仕なんてクソだと思わずにはいられなかったのだった。

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