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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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勇者のおっさん、過去の幻影を照らす

「ったく、とんだ魔王様だな」



「まったくだ。それとあの紋章は何だ? リョカの奴、またどうしようもないことをソフィアに吹き込んだな」



「だろうな、あんなデカイ紋章今まで見たこともない。そりゃあ1000体も化け物が召喚されるわけだ」



「あの3人だけで街など簡単に落とせるな。もしそうなったらガイル、お前はどうする?」



「勝てない(いくさ)はしたくねぇなぁ。強いつもりでここまで生きてきたが、まだまだ世界は広いなぁテッカ」



「ああ――ガイル、俺たちもここで殻をもう1つ破るぞ」



「だな、これ以上魔王の好き勝手にさせられねぇしな」



 周囲にいる数人の冒険者たちに視線を向けながら、俺とテッカは拳と拳を打ち付ける。



 現在、俺たちはリョカに言われ、不死者たちと最も近い場所で待機している。

 ゼプテン冒険者ギルドの俺たち以外の精鋭を数人アルマリアから借り、こうして最前線で敵を持っているのが現状なのだが、リョカ曰く、雑魚っぽい不死者はそれほど倒さなくても良いらしい。



「しっかし、本当に雑魚は任せても良いのかねぇ」



「見たままだろう。それに」



 テッカが首を少し回し、背後に気をやったのがわかり、俺もテッカの背後に体を曲げて目を移す。

 するとソフィアが出したらしき魔獣が武器を装着して走ってきており、俺は周りの冒険者たちと同様にげんなりとした顔をする。



「あれ現闇か? そういやぁさっきリョカが武装した異界の魔獣がどうとか言ってたな」



「雑魚はあれに任せても問題ないのだろう。俺たちは俺たちの仕事をするぞ」



「え~っとあれか、強い奴……リョカ曰くねーむど? えーす? か、それを倒せばいいんだろう?」



「ああ、出来ればウイルソンに出てきてもらいたいな。前に戦った時は少し油断したが、次は瞬殺してやる、手を出すなよ?」



「はいはいわかってるよ。おいお前らぁ、ウイルソンが出てきても手ぇ出すなってよ。お前らは当初の予定通り適当に雑魚を散らしておけ――」



 和やかな空気など然う然う継続するはずもなく、よくよく考えなくてもここは戦場のど真ん中で先頭だ。

 振り返る猶予などない。誰が攻撃をしてきたのかなど考えるだけ無駄だ。

 俺は瞬時に聖騎士のスキルを発動させる。



「カノンアダマント!」



 冒険者たちへの攻撃を防いだが、ただの一撃で盾にひびが入り、俺は顔を歪める。

 だが、視界外から伸びてきたもう1つの腕(・・・・・・)に驚愕する。今盾を殴った手と同じ手(・・・・・)が伸びてきた。



 俺はこの攻撃を知っている。



 伸びてきた拳をテッカが短剣で防いだ。



「おいおい……テッカ、まだウイルソンをお前1人でやるつもりか?」



「馬鹿を言っている場合か。クソ、聞いていないぞ」



 俺もテッカも、あまりにも重いこの攻撃を繰り出した奴を知っている。

 眼前で歯を剥き出しにして嗤っているこの男を、俺たちは最大の戦闘圧で迎える。



「ガイルぅ! テッカぁ! 久しぶりだなおい! 俺様のことをまさか忘れたわけねぇよなぁおい!」



 忘れるわけもない。

 忘れられないからこそ、体が強張る。

 不死者を従える女神、まさかこんな化け物まで引っ張ってくるとは夢にも思っていなかった。



 聖剣顕現――俺はファイナリティヴォルカントを生成し、その男に瞬時に殴りかかる。

 テッカも同じなのか、真っ先に影喰の絶影を使用した。



「ヤマト!」



 多手剛腕の怪力魔王、ヤマト=ウルシマがそこにはいた。



 ヤマトの攻撃を逸らしたテッカがすぐに冒険者たちに振り返る。



「お前たち下がれ! 不死者とは言え魔王だ、お前たちの手に負える相手じゃない! リョカに連絡をとって指示を仰げ! 俺たちはもうお前たちに構っていられない!」



 テッカの指示で迅速に撤退準備を始める冒険者たち、流石に場慣れしているが動揺が大きいのか額から脂汗を流している。

 彼らの撤退を支援しようとすると、ヤマトの背後から誰かが出てきた。



「……聖剣顕現――『最愛の聖女(エトワールフェルミナ)』」



 全身を覆う鎧、光を纏う長剣。まさに子どもの頃から誰もが思い描く勇者の姿をしたそれが、本来なら守らなければならないそれに、光を放つ。

 奴こそは、聖女と共にある勇者、ルイス=バング。



「何をやってんだおめぇは!」



 俺は奥歯を噛みしめ、無理矢理体勢を変えて冒険者たちに放たれた光の一閃を爆炎で相殺した。



 まさに悪夢だった。

 10年前にベルギルマを恐怖に陥れた魔王と、60年ほど前の最良の勇者にして人々の希望を一身に受けた光の勇者。

 その2人が今、現在を生きる勇者の目の前で牙を剥いている。



「冗談だろう」



「夢なら今すぐに目覚めたいところだが、残念ながら現実らしい」



 2人の圧に飲まれそうになるが、俺もテッカも背後にいる守るべき人々を前に逃げ出すわけにはいかない。

 だがどうするべきか。正直後ろの冒険者を抱えたまま戦える相手ではない。守りながら戦うのは自殺行為だ。



 テッカも同じ考えなのか、ヤマトとルイスに意識を向けながらも背後を気にしているようだった。



「まさか、勇者と魔王が隣り合わせで俺たちにけん(・・)を向けてくるとはな」



「ああクソ、駄目だなやっぱり。ロイ=ウェンチェスターとの戦いで何を学んだんだよ」



「また油断したな」



 額から流れる汗を拭うこともせずに俺たちは小さく笑う。



 すると背後にいた冒険者たちが突然声を上げた。

 俺とテッカは声だけを聴く。



 冒険者たちは自分たちのことは気にするなと吼える。冒険者になってから覚悟は出来ていた。勇者の足手まといになる程度の命など惜しくない。



 そんなことを、震えた声で言い放った。



 俺とテッカは顔を伏せる。



 ヤマトのニヤケ面が鼻に突くが、俺たちは同時に顔を上げる。



「俺たちの足手まといになる程度の命だぁ?」



「そうか、それなら俺たちがやることは変わらないな」



「ああ、俺たちよりも弱いんじゃあ、俺たちが守るしかねぇよな」



 振り返ると冒険者たちが握り拳を作り、泣きそうな顔になっている。



「走れ! 勇者が弱きものを見捨てるわけねぇだろうが!」



「――っ」



 ルイスの肩が跳ねた。思うところがあるのだろうが、今あれに構っていられる余裕はない。

 俺はただ、全力で守るべきを守るだけだ。



 多手剛腕の怪力魔王――現闇で作り上げた腕を駆使して、絶気を纏っている魔王で、その怪力には俺たちも苦戦した。

 そんなヤマトが拳で地面を叩くと同時に高く飛び上がり、その拳を駆けだした冒険者目掛けた。



「させると思うか!」



 テッカが飛び上がり、空中でヤマトを迎え撃つ。

 そして俺は飛び出し、金色炎を纏わせた手甲をルイスに放った。



「燃え尽きろ!」



「……」



 聖剣がルイスを捉えて奴に一撃をお見舞いしようとしたが、ルイスが肩から力を抜いて目を閉じた。

 俺は驚くが、このまま攻撃を止めるわけにはいかずそのまま振り抜いた。のだが、光になった(・・・・・)ルイスに届くことはなく、光が俺を通り過ぎて冒険者たちの傍で止まった。



「ここで散れ」



「なにっ!」



 光となったルイスが冒険者たちの傍で実体に戻り、剣を彼らに向けた。



「クソ――」



「ガイル!」



「よそ見してんなよテッカおい!」



「しまっ――」



 一本の腕によって空中から地面に叩きつけられたテッカ。

 だが俺もテッカもすぐに体勢を立て直しヤマトとルイスに向かって飛び出す。



「「止まれぇ!」」



「終わりだぜおい!」



 勇者と魔王の容赦ない殺意が冒険者に届く刹那、奴らの頭上を銀色(・・)が覆った。



 多数の球体がヤマトとルイスに向け一斉に銀色の光線を放ち、球体から生えた闇の腕が2人を追い払った。



「あれは、アガートラーム」



 ヤマトとルイスが光線を避けながら忌々し気にアガートラームを睨みつけた。



「おいおいおい、これがあの」



「最速で至った魔王か」



 驚いているヤマトとルイスを横目に映していると、月神様から貰った道具から声が聞こえる。



『遅くなってごめん! ガイル、テッカ、状況は!』



「助かったリョカ! 現在俺たちはルイス=バング、それと」



「多手剛腕の怪力魔王と接敵中だ!」



『OK把握。道は僕が作るから2人は思い切りやっちゃって! 誰も死なせたりなんかしないから2人は安心して戦いな!』



 俺とテッカは顔を見合わせる。

 まさか、魔王の声が聞こえることにこんなにも安堵するとは。



「おいテッカ、俺たちも魔王と並んでけんを振っていたな」



「ああそうだったな。敵にしたらどれほども恐ろしいが、こうして後ろにいると、これほど心強いとはな」



 駆けだした冒険者にルイスがまた光となって追おうとしたが、アガートラームから闇の腕が伸びてルイスを捕まえた。

 そしてヤマトにはとんでもない数の光線が射出され、動きを制限させた。



 冒険者たちが俺たちの戦闘域を脱出したのを確認して、俺はスイッチグロウを使用し火力を上げてルイスに聖剣をぶち当てる。



「もう一歩も後ろにはいかせねぇ! 金色炎を舐めんな!」



 またしても光になって逃げようとするルイスに、俺は地面に向かってファイナリティヴォルカントを当てる。



 巨大な爆発は俺の体も焼くが、構うものかとそのまま振り抜いて行く。



「これは――」



 実体に戻ったルイスが爆炎から回避行動をとった。

 俺は飛び出してその顔面に拳をぶち込む。



「現役勇者舐めんな!」



 金色炎を叩き込み、ルイスがぶっ飛び転がっていく。



「やるぜテッカ! こいつらは俺たちが押えっぞ!」



「当然だ、勇者一行が敵から退くわけないだろう!」



 俺たちは嗤い、再度その魔王と勇者(たおすべきてき)に構え、戦闘圧を全身に纏うのだった。

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