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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
12章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜を刺し穿ち朝を迎えたい。

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魔王ちゃんと茜色と黒の境界

「あ~、どこかゆっくりと旅行に行きたい。温泉に入ってゆったりして、火照った体にキンキンに冷えたサイダーを流し込みたい」



「良いですね、保養地でしたらやはりベルギルマですよ。温泉を引いている宿屋が並んだ行楽街などもありますし、食事も美味しいですよ」



「魔物、倒し甲斐のあるやつはいるのかしら?」



「ミーシャぁ、もっと女の子っぽい話しようよ。せっかくこうして女子高生が3人も集まっているんだ、僕はかしましくキャッキャウフフしたいんだよ」



「かしましく、ね……眼前に迫る真っ黒な集団がなければあたしも乗ってあげたわよ」



 平和な光景が目の前に広がっていても絶対に乗らないのに。と、僕は息を吐き、ミーシャが顎で指した方角に目を向ける。



 茜色が闇へと化粧を施し始め、徐々に徐々に世界が黒に染められていく時刻、黄昏時のぼんやりとした空気など忘れてしまったかのように慌ただしくピリついた空気感の中で、僕たちは夜と共に世界を塗り潰そうとする一団を眼前に控えていた。



 不死者の大行進。

 数にすると10万ほどいるだろうか。この街の人口よりも多い。そんな数の不死者たちがプリムティスを目指していた。

 一体アリシアちゃんはあの数の不死者をどこから集めたのか。コツコツと大昔からため込んでいたにしろ、高が可愛い魔王と聖女のためだけに放出する戦力ではないと思う。



 不死者といっても、それは人だけではなく、魔物の不死者もここからでもわかるほど多くいる。

 昔――フェルミナさんを襲った時に街を1つ潰したという話だったし、その時の人も全て不死者になっているのだろう。



 数に対してはそれで納得することにした。



「不死者かぁ。ミーシャ何とかできない?」



「今からあれらに突っ込んでいいって言うのなら何とかしてみせるわよ? さっきテッカに釘を刺されたけれど、聖女は後ろで支援に徹しろですって。魔物の大群だろうが人の大群だろうが、不死者の大群だろうが、聖女の価値(・・・・・)って変わらない(・・・・・・・)のよね。もっと何かしらの付加価値が欲しかったわ」



「……不死者に特攻のない聖女がいるなんて思ってもみなかったんだよなぁ」



「は? うんなもんあるわけないでしょ。どうして聖女が不死者に強いと思えるのよ」



 そうこの世界、不死者は不浄なものではない。

 聖なる光が弱点だとか、生者を好んでいるとか、そんな事実は1個もない。



 死体が動き出せば、それは魔物というカテゴリーに変わり、魂を侵されていようとも、それは女神、または世界の気まぐれだと討伐対象にされるだけ。

 綺麗汚いの話ではなく、その事象が事実と認識されているだけなのである。



 そもそも人が蘇れば奇跡なのだ、不浄なもののわけがない。



 よって聖女の力だろうが不死者を追い返すことは出来ず、個人の能力に依存する形となっている。



「いやまあ知ってたから作戦にそんな要素を入れてはいないけれどね」



 でも聖女のなんか不思議な光で次々と不死者が昇天していく聖女無双を見たかった。



 と、僕が遠い目をしていると、隣に座っているソフィアが不安げな瞳を向けてきた。



「あの、私もここにいていいのでしょうか? というか本当に私たちだけであの数を?」



「全部ではないけれど、8割は消し飛ばそうと思っているよ」



「それは、ほぼすべてでは?」



 僕は二コリとソフィアに笑みを向ける。



 僕とミーシャ、ソフィア、この3人で一期生の学園校舎の屋上におり、そこで椅子に座って談笑中なのだけれど、他のメンバーは僕が指示した場所で待機中である。



 ソフィアは、自分がここにいても役に立たないと思っているのかもしれないが、むしろこういう大規模戦闘にこそソフィアの鍵師としての力が発揮される。



 僕は眼鏡をかけたクマをソフィアの隣に控えさせた。



「これは」



「さてソフィア、君の本領発揮だ。安全圏からのスキル運用が一番理に適っていると思わない?」



「それは、そうですけれど。このぬいぐるみさんは?」



「ソフィアくまだよ。まあまあ、とりあえずスキルを使っていこうか。あ、使うのは第2スキルでお願いね、あれが一番数出せるでしょ?」



 不安そうな顔はそのままに、ソフィアが頷いてくれ、彼女が鍵師のスキルを使用するために紋章を足元に生成した。

 すると、普段はソフィアを中心に20メートルほどの紋章であったにもかかわらず、今回は100メートルほどの紋章が学園上空を覆った。



「え、あれ? なんか大きくなっているような?」



「僕の絶慈ってさ、引っ張ってきた人の魂を核にしているから、反映されるのは()じゃなくて素質(・・)なんだよ。だからソフィアが成長すればこのくらい()が大きくなるってことだよ」



 それがこれだけ大きな紋章を作り出せた理由。

 けれど、素質があるからといって彼女がスキルを使っただけで何故紋章が大きくなるかの説明がまだなために、どうにもソフィアが納得していない。



「あ、あの? それはそちらのぬいぐるみさんの話ですよね? 今スキルを使ったのは私ですよ」



「これは僕の推測なんだけれどね、鍵師っていうのは世界の扉を開いて召喚するギフトでしょ? じゃあ同じ世界の大小それぞれの扉の同じ鍵を持っているものが2人いた場合、どうなるか考えたことある?」



「どうって――」



「当然、大きな方の扉を開く鍵にもなるよね。だって同じ鍵だもん。あああと、多分だけれど、スキル2つまでなら同時で使えると思うよ」



「……なるほど、把握しました。それじゃあ行きます。六門の弐、(かいな)に縋る畜生たち、救いも忘れたその心、我が為に駒として動け。ゲートオブドゥオ」



 ソフィアが紋章を開けると、そこから次々と動物たちが召喚された。



「いやぁ圧巻圧巻。しかしソフィアは相変わらず物分かりが良くて助かるよ。この説明だけで何の疑いも持たずにすぐに実行してくれるからね」



「騙されることはないと思うけれど、少しは気を付けなさいよ?」



「リョカさんとミーシャさんを信じていますから。知らない方には、ある程度警戒はしていますよ」



「それならいいわ。でもたまにはリョカに逆らってもいいのよ、行き過ぎた甘やかしは阿呆を調子に乗らせるだけだわ。で、その阿呆は一体何をしているのよ?」



 失礼な聖女様をジト目で睨んだ後、僕は学園のあちこちに現闇を設置した。



「ソフィア、動物たちを現闇の上に通して」



「わかりました」



 現闇の上を通った動物たちに、闇で出来た武器が装着されていく。



「兵には武器もなくちゃねぇ」



「大量の武装された召喚獣とか悪夢みたいね」



「頼りになるでしょ? ああそれとソフィア、負担になるようなことばかり言って悪いけれど、100体ほど生命力の多い動物をこの屋上に残してくれない?」



「はい良いですけれど、どうするのですか?」



「え~っと」



 召喚主であるソフィアを目の前にして言いにくいことであり、僕が答えあぐねていると、ミーシャが隣で不死者大行進に神だまを連射した。



 そして生命力を打ち切った辺りで、ソフィアが寄越してくれた動物にフォーチェンギフトを使用した。



「……なるほど」



「こんな使い方をしてごめんね」



「いいえ、お役に立てるのならどのようなことでも」



「まあ僕は正しい意味で向こう(・・・)にとっての魔王だからね! 畜生道を潰す気で消費しちゃおう!」



 首を傾げる2人に再度笑みを向けて僕は立ち上がって屋上の端まで移動する。



 そしてルナちゃんに渡された小型の手鏡を口元に持って行き、大きく息を吸う。



「僕の第2の故郷であるプリムティスを守るために集まった皆々様方! 開戦の時は近い、けれど臆することはない! 今この街に1000を超える武装した異界の魔獣が解き放たれた! それと回復手段を得た聖女も解き放たれた!」



 連絡用にとルナちゃんが渡してくれた近距離用の連絡手段、トランシーバーのようなもので、一定範囲に神託と同じ原理で声を届けられる道具らしい。

 僕はそれを使い、それぞれの配置についているみんなに声を届ける。



「ちなみにリョカちゃんはここから応援しま~す! 可愛い僕に応援されるんだから普段より増し増しな戦闘力になるよね! だから――」



 苦笑いとヤジが聞こえてきそうな予感がしたけれど、僕は間髪入れずに言葉を発する。



「だから、可愛い僕の応援で絶対に負けさせないし、可愛い魔王(アイドル)の僕は誰も殺させない。全員で帰ってきた時に、僕のとびっきりのライブを開いてあげるよ!」



 この手鏡では声しか届かない。けれど僕は、みんながいるだろう方角にとびっきりの笑顔を向ける。



「僕の可愛さを生きる糧にしろ! 僕の可愛さを死の枷に変えろ! 可愛さを魂に刻めない後悔なんてさせるもんか!」



 後ろでミーシャとソフィアが笑っている。



 こんなところで終わらせない。

 僕は大量のアガートラームを生成する。



「不死者と我らの女神(てき)に目に物を見せてやれ! 可愛さを知る僕たちに絶望など訪れないことを見せつけてやれ!」



 あちこちから咆哮にも似た歓声が上がった。



 夜との戦いが始まる。

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