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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
11章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜に出会う。

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魔王ちゃんと夜へと挑む者たち

「……私が帰った後にまた面倒なことになっていたんですね~」



「うん、だから協力してほしくて」



 翌日、僕たち――ミーシャとガイルとテッカ、ルナちゃんとアヤメちゃんに加え、オタクセとソフィア、カナデとプリマ、それとヘリオス先生とお父様がゼプテン冒険者ギルドのアルマリアの部屋に集まっていた。



「魔王の次は女神さまか。リョカ、お前は俺の右鼓膜をどうにかするつもりか?」



「だから事前に連絡入れたでしょ? 話を通さずにまた無茶したらお父様泣くでしょ」



「ああ泣くぞ、だから無茶はするな。俺は戦えないが、それ以外のことなら何だって手を貸してやる」



「ん、ありがとう。お父様大好き」



 ウインクをして言うと、お父様が呆れたように僕の脳天に拳を軽く落としてきた。



 そんなやり取りを見ていたからか、ルナちゃんが顔を伏せた。



「ジークランスさん、ごめんなさい。わたくしがもっとしっかりしていれば、リョカさんとミーシャさんを危険な目に遭わせることは」



「いえいえ、私の愛娘たちの頑張りで月神様の助けになるのなら、これほど名誉なことはありません。ですからお顔を上げてください、我々はどれだけ厳しい状況に陥ろうともあなたへの感謝を忘れることはありません」



 お父様の言葉に、ルナちゃんが泣きそうになったけれど、彼女はグッと耐え、お父様に笑みを向けた。



「さすがリョカとミーシャを育てただけある。俺にはジークランスが聖人に見えてきた」



「国を代表する大商人がここまでの仁徳を持っていると、何だか安心するな」



「ガイル殿にテッカ殿、どれだけ褒めても、私からはジブリッドが抱えている戦闘用の道具しか出てきませんよ」



 どことなく嬉しそうなお父様に僕が笑っていると、ソフィアが小さく手を上げたのが見えた。



「えっと、話はわかりました。それで私たちは一体どうすればいいのでしょうか? それと聞いただけではどの程度の規模かわからないので、そこの説明も欲しいです」



「ソフィアはちゃんと建設的な話をしてくれるから助かるわ。どこかの聖女は見習ってほしいわねまったく」



「話を聞かない聖女とか最悪ね、あんた良かったわねあたしが聖女になって」



 アヤメちゃんが苦虫を噛み潰したような顔をミーシャに向けていると、ルナちゃんが苦笑いで口を開いた。



「敵の規模についてですけれど、隠してもしょうがないので正直に言います。以前フェルミナを襲った時は10万……それ以上いたかもしれませんが、この街の人口よりも間違いなく多いです」



「おいおい、それやべぇなんてもんじゃなくないか?」



 ガイルの言葉にみんなが顔を伏せている中、僕は小さく手を上げた。



「ルナちゃん、そっちについてはどうにでもなるからいいんだけれど、僕が心配なのはアリシアちゃんがAランク以上の冒険者を使役できることなんだけれど、あの子が差し向ける固有のエース格についての情報はない?」



「……お前今、街を覆うほどの不死者をどうにでも出来ると言ったのか?」



「え? ああうん、10万だろうが100万だろうが、不死者くらいなら僕とミーシャとソフィアで足りるよ」



「え! 私も?」



 お父様があんぐりと口を開けっぱなしにいている中、ソフィアも名指しで呼ばれたことに驚き、首を傾げていた。



「そりゃあ僕の本領は大規模戦闘だし、ソフィアだって手駒なら多いし、ミーシャはゴリ押せるしで妥当だと思うけれど?」



 全員の視線が僕とミーシャ、そしてソフィアに向けられる中、思案顔のテッカが頷いた。



「確かに、その3名ならよほどのことがない限り不死者程度に遅れは取らない。か。では俺たちはどう動く?」



「だからネームドの情報が欲しいわけよ」



 僕がルナちゃんに目を向けると、驚いた顔からハッとなり、すぐに情報を思い出そうとしているのか考え込んだ。



「え~……っと、フェルミナは確実にいますし、ウィルソンもいますよね。あと――」



「フェルミナと同じような状態の奴なら、Aランク冒険者相当が数人と、あとあいつがいるな」



 アヤメちゃんが顔を伏せた。

 そんなに厄介な敵がいるのかと身構えたのだけれど、ルナちゃんもアヤメちゃんと同じく、悲しそうに顔を伏せたために、どうやら実力以外に面倒な要素があると察せられた。



「ええ、いるでしょうね。フェルミナを陥れたほとんどの要素――ルイス=バング」



「またかよ」



「どうやら俺たちは、ルイス=バングの勇者一行と何かと縁があるようだな」



 そういえばガイルとテッカ、アルマリアとミーシャはルイス=バングの仲間であったゲンジ=アキサメと戦闘をしていた。

 僕がそんなことを思い出していると、腰のクマが横腹をつついてきたために、僕はもう一体のクマからアークボイスを使用してもらい、彼の言葉を視る。



「えっと? 底抜けなお人好しで人権派であったルイスが不死者になるとは思えない? あれはただの人好きの大馬鹿?」



「……お前が言うなと言った方が良いのかしら? まあその疑問は尤もね。ええそうよ、ルイスは脅されて不死者になったようなものだもの」



「フェルミナを人質にとられていますからね、彼に拒否権はありません」



「一時代を築いた勇者が敵にいるのか、それは随分と厄介ですね」



「とはいえ、不死者だから多少は現役時代よりは弱体化しているけれどね」



「そうなんですか?」



「ああ、確かに不死者は体のネジが外れていて色々と無茶できる。けれど頭が腐ってるからな、思考が現役時代に比べるとおざなりなんだよ」



 つまり、単純行動しか出来ないということなんだろうか? それならばまだ付け入る隙がある。と、僕が安堵の息を吐くとルナちゃんがアヤメちゃんを小突いた。



「アヤメ、アリシアは不死を付与しているのですよ? 元々体の損傷が激しかったならともかく、フェルミナやルイスはその限りではないでしょう」



「あれそうだったっけ? ルイスの体ってそのままだったんだっけか?」



「え? ゲンジは随分と綺麗にルイスを殺したから、遺体の損傷はそれほどなかった? いつの間にか死体が消えていたのは女神が持って行ったからでしたか? ああ気が付かなかったんだ」



「おいもうそいつこっちに出して話に加えろよ! さっきからコソコソしやがって!」



「まあまあアヤメ。ですが、ええそうです、そのせいで損傷のないルイスは現役時代そのままの実力でいると思います」



 どこか棘のある視線をクマに向けるルナちゃんを宥めつつ、事情を知らない数人に愛想笑いを浮かべて返し、僕は肩を竦ませる。するとヘリオス先生が手を上げた。



「ところでリョカ=ジブリッド、この街に住む人々についてなのだが」



「うん、それについては先生とアルマリア、それとお父様にお願いしたくて」



「私もですかぁ~?」



「うん、というか冒険者ギルドに出張ってもらいたいんだよ。駄目かな?」



「え~っと、私的には構わないんですけれど、良いんですか? 学園に冒険者が関与すると色々と面倒に――」



「ああ、それが狙いですか。これで学園は表でも裏でもギルドとかかわりが持てることになる。しかし、いくら不死者が攻めてくるとは言え、動機として説得力がないですね。なんといってもまだ攻めてくるかもしれないという不明瞭なものですから」



「うん、そこは任せて――」



「ゼプテン冒険者ギルドギルドマスター、アルマリア=ノインツ殿、どうやら娘たちが住む学園に何やら不穏な噂があるようで、是非冒険者の皆様に護衛をしてもらいたいのですがよろしいでしょうか? 依頼料は参加した冒険者全員にお支払いします。報酬はこれで良いでしょうか? それと出来ればでよろしいのですが、娘たちは大層学園が気に入っており、追加報酬も出すので、街を守っていただきたいです。此度の依頼、依頼主はわたくし、ジークランス=ジブリッド、それと……レッヘンバッハ=グリムガントの2人です」



 お父様の突然の宣言に、アルマリアが口を半開きにしており、お父様の視線を受けてブンブンと首を縦に振った。



「これで良いんだなリョカ?」



「さっすがお父様、僕まだ何も説明してなかったのに準備が早いね」



「何年お前の父親やっていると思っているんだ。それとミーシャ、グリムガントの名も使わせてもらうぞ」



「ええ、おじさんにならいくらでも」



「それと伝言だ、レッヘンバッハがたまには顔を見せに来いだと」



「ん。そうね、今度王都にでも散歩しに行くとでも伝えておいてください」



「ああ伝えておこう」



 お父様から書類を渡されたアルマリアがわなわなとしており、それを覗き込んだガイルとテッカが苦笑いを浮かべた。



「おいおい、いくら娘が絡んでいるとはいえ、これはちと破格過ぎないか?」



「俺たちですらこの額を貰うのは稀だぞ」



「いえいえ、私どもも何も慈善活動をしているわけではありませんから、それなりの見返りは期待していますよ。これで冒険者の皆様にはジブリッドが冒険者寄りの商家だと理解してもらえるでしょうし、これから冒険者を目指そうとする新成人にも道具が売りやすくなりますね」



 そう言って微笑むお父様をガイルとテッカ、アルマリアが呆れていた。



 彼らを横目に、僕はオタクセに目を向ける。



「それでオタクセには――」



「住民の避難の護衛をアルマリアさんたちと一緒にやればいいんだよね?」



「腕が鳴るでござるな」



「ですぜい。あっしたちにとっちゃあ初めての大きな仕事ですぜい、気合入れていくですぜい」



「頑張ってみんなで守ろう。まだまだ足りないところも多いけれど、みんなとなら」



 僕が口にするよりも先に自分がやるべきことを自覚してくれたオタクたちを撫で、最後にセルネくんを撫でると、彼は相変わらず感情表現バグっているのかというように尻尾と耳を出してフリフリと振っていた。



 そんなセルネくんの肩をお父様が突然ポンと叩き、振り向いたセルネくんを今まで見たこともないようなあからさまな笑顔で迎えていた。



「セルネくん……いや、ルーデル様だったか? 終わったら少し私と話さないか?」



「……はい」



 プルプルと震えてお父様から目を逸らすセルネくんに満足しながら、僕は改めて面々に目を向ける。

 するとカナデが自分を指差して首を傾げており、僕は手招く。



「カナデにはルナちゃんとアヤメちゃんを護衛してもらいたいんだよ」



 近づいてきたカナデを撫でていると、ルナちゃんが心配気な顔を僕に向けてきた。



「おいリョカ、お前の傍にカナデを控えてなくても良いのかよ? 俺たちならある程度は大丈夫よ」



「ある程度は。でしょ? それに僕の心配については、ルナちゃんとアヤメちゃんが何とかしてくれるんですよね?」



「――。はい、リョカさんとミーシャさんにアリシアを近づけさせません」



「それなら大丈夫。カナデ、ルナちゃんとアヤメちゃんは、世界にとっても、僕にとってとても大事な方たちだから、しっかり守ってあげて」



「任せろですわ! わたくし、未だに何が起きるのかよくわかっていないですけれど、ルナとアヤメはわたくしも大好きですわ! だから何が何でも守って見せますわ!」



「状況くらい把握してよぅ、これじゃあリョカお姉さまを安心させられないよぅ。だからプリマがしっかりするんだから、カナデちゃんは頑張って体張ってよねぇ」



 カナデとプリマに関しては本当に心配はしていない。

 この2人、確かにまだ幼い部分はあるけれど、それでも芯を通った強い意識は本当に頼りになるし、一昨日のようなことはカナデには多分もう起きないだろう。



「さって、とりあえず街に避難警報を――」



 と、僕が街に避難勧告をどう出そうか切りだそうとすると、アルマリアの部屋の扉が乱暴に開け放たれた。



「マスター! リョカちゃんの指示通りに放っていた偵察隊からの連絡で、凄い数の不死者が街に向かって進軍していると!」



「マナ、少し落ち着きなさい。リョカさん」



「うん、マナさんそいつらはあとどれくらいでここまで来そう?」



「えっと、多分今夜にはここまでくると思うって」



「そう、大分早いね。僕の準備間に合うかな」



 僕は一度深呼吸をするとミーシャと目を合わす。



「まさか、あたしの魔王様がビビったなんて言わないわよね?」



 僕は火を点した薬巻を深く吸い、好戦的な表情の幼馴染に視線を返す。



「ありゃ、まさか魔王がいないだけで動けなくなる僕の聖女様じゃないよね?」



 僕たちは互いに好戦的に嗤う。

 そして2人揃って拳を出し、まるで福音を鳴らすかのように拳を打ち鳴らす。



「僕の世界を侵す理不尽に容赦なんて必要ない」



「あたしを敵だと笑う大馬鹿に情けなんて必要ないわ」



「たとえそれが」



「女神だろうが何だろうが」



 炎を纏う勇者が笑う。風を切る剣が笑う。空間を駆る幼子が笑う。異界からの暴力を振るう少女が微笑む。獣を携える純真な少女が胸を張る。若い勇者とその剣と盾が苦笑いを浮かべる。



「「完膚なきまでにブッ飛ばす」」



 世界を見守る月神様が、世界の戦いを愉しむ神獣様が女神らしく戦い勇む者たちに祝福を鳴らす。



魔王(ぼく)を――」



聖女(あたし)を――」



「「舐めたことを後悔させてやる!」」



 魔王と聖女のかけた発破に、勇者も友人も、全員が声を上げるのだった。

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