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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
11章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、夜に出会う。

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魔王ちゃんと死が香る夜の女神ちゃん

「で、結局ランファちゃんを気絶させたまま部屋に返したの?」



「起きなかったんだもの、しょうがないじゃない」



「もう、ジンギくんもランファちゃんもまだまだ力がないんだから、無理させちゃ駄目だよ」



 僕はジンギくんとの特訓の後彼と別れ、ミーシャとアヤメちゃんを回収しにルナちゃんと散歩がてら2人に会いに行ったのだけれど、そこでテッカから今日起きたことを聞き、暗くなってきたから解散という流れを経て、今4人で帰路についている。

 ちなみに、僕たちが合流した時には、オタクセとソフィアはランファちゃんを連れて帰った後だった。



「しかし、闘争心に質量を持たせる。ですか。ミーシャさん、一体どうやったのですか?」



「わからないわよ、シラヌイがやっていたようなことをやってみたらなんか出来たわ」



「またミーシャはよくわからないことを。新しいスキルでも覚えたんじゃない?」



「いや、そんな感じではないわよ。俺が知ってる聖女の第5スキルは確か――」



「『聖女が紡ぐ英雄の一歩(リーブアルゴノーツ)』ですね。あらゆる悪意、毒や呪いを防ぐ膜を生成する防御スキルです」



「つっかえないスキルね」



「いや超有用スキルだから。むしろ僕が欲しいよ」



 攻撃のことしか考えていない幼馴染にげんなりしていると、同じく肩を落とす現在この問題しかない聖女の女神様であるアヤメちゃん。



「聖女らしくないところを気に入ってはいるが、女神ですら把握できない何かまで求めてないわよ。この聖女、扱いに困るわ」



「あんたが勝手にあたしに加護を与えているんでしょうが、文句言われる筋合いはないわよ」



 色々とミーシャの新たな何かを検証してみたいところだったけれど、この聖女様の奇行は今に始まったことではなく、これ以上問いただしてもそもそも幼馴染が理解しておらず、僕たちはこの話を切り上げ、晩ご飯のリクエストを各々から聞きながら寮へと足を進めていく。



 ふと、僕の脚は噴水の前で止まる。

 思い出の場所、と呼べるほど大きな出来事があったわけではないかもしれないけれど、僕はここでルナちゃんと再会した。



 隣にいたミーシャも足を止め、僕と並んで歩みを進めている女神2柱の背中に目をやる。



「んぅ? リョカさん――」



 振り返った2人に僕たちは笑みを返そうとする。

 けれど、自然にその悪意(・・)によって体を戦闘態勢に移行させた。



「月のない良い夜だよね。初めまして、()の魔王さん、規格外の聖女さん」



 悪とは無縁の純粋な声。まるで周りに敵など何もないことを確信している無遠慮で無垢な声。それはまさに子どものように、夜には似合わない可憐な声が耳に届いた。



「アリシア!」



 ルナちゃんの怒声にも近い叫び声に、僕とミーシャは揃って拳に最速を込める。



「ああ、ルナ姉さまとアヤメちゃんはちょっと下がっていてね。フェルミナ」



 どこかルナちゃんに似た容姿の黒髪の美少女、その子が手に持った鈴を鳴らすとルナちゃんとアヤメちゃんの目の前に、顔をベールで覆い隠した長身の女性が立ちふさがった。



 どこかウェディングドレスのような服を着た彼女は立派な杖を構えて、ルナちゃんとアヤメちゃんに構えを向けた。



 フェルミナ、フェルミナといったのかあの幼女は。



「フェルミナ退いてください! お願い、お願いよぅ……」



「馬鹿ルナ! すでに死を纏った魂(・・・・・・)に何言っても無駄だ! さっさとこいつを退かすぞ!」



 目の前の女性に躊躇しているルナちゃんと戦闘圧を纏って排除しようとするアヤメちゃん。



 僕とミーシャは状況を理解出来ていないけれど、それでも目の前にいる黒髪の幼女が女神さまたちを苦しめているのはわかる。



 ミーシャは神獣拳を、僕は魔剣を取り出し、その子と対峙する。



 けれどアリシアと呼ばれた彼女が再度鈴を鳴らすと、目の前に突然それが現れた。



 人という形は保っているけれど、どう見ても何かに溶かされたような半液体と化したゲル状の人間。目もあり、口もあり、耳もあり……あまり長く見ていたくない部類の怪物。



「何だか無念そうに漂っていたから連れてきちゃったけれど、体の方は修復不可能だったからそのまま魂入れちゃったんだよね~」



 そんなことを軽く言ってのけるアリシア――ルナちゃんを姉さまと呼んでいるあたり、彼女はきっと。



「ミーシャ、逃げる?」



「冗談。ルナが泣いているじゃない、あのクソガキ、ブッ飛ばすわよ」



「駄目! リョカさんとミーシャさん、早く逃げて――」



「わぁ、ウチが女神だと知っても逃げないんだ~。まあいいよ、ウチに戦闘能力はないし、やっちゃえ――ウィルソン=ファンスレター」



 聞き覚えのある名前、ソフィアが倒したA級冒険者か。



 ゲル状の体をしたウィルソンの口元が妖しく歪む。



「『不可視の最弱(エアーエアー)』」



 ゲル状の手を口元に運び、息を吐き出したウィルソン。その瞬間、僕は指を鳴らしミーシャの前方すぐに魔王オーラを放った。



 耳を掠る破裂音、魔王オーラが不可視のそれを弾いた。



 攻撃を防がれたからか、ウィルソンが舌打ちをして両手で大きな輪っかを作り、そこに息を吹きかける。



「『噴き出す不可視(ゲイルコンプレッサー)』」



 僕とミーシャは揃って飛び上がり、見えないけれど確かに覚えた脅威を避ける。僕たちの予想通り、今しがたいた場所に軽自動車ほどの大きさの窪みが出来た。



「空気圧――」



 空気を操るギフト、確か『漂う不可視の脅威(センスフォルト)』というギフトで、パタモンごっこが出来るといつか喝才で使用しようと思っていたギフトだ。



「リョカさん駄目!」



「え――」



 ルナちゃんの声に、僕は瞬時に辺りを見渡す。

 ニヤケ顔を浮かべるウィルソンと、正面で僕に指を指すアリシア。



「つ~かまえった」



 すでに飛び上がって回避行動はとれない。

 アリシアの指から、僕はあり得ないほどの警鐘を頭に鳴らす。



 ヤバい、避けられない。あれは当たっては駄目だと心が告げている。アルマリアのスキルとはケタ違いの警告を鳴らしてくれている。



「魔王さんゲット――」



「アリシア!」



 理不尽を確信するその攻撃に、僕は目を瞑った。



 今度ばかりは駄目かもしれない。



 そんな諦めが頭を過ぎった時、一陣の風――否、今度こそ僕の知る灯火(・・)の気配が現れた。



「表不知火――白羽蓮華(しらはれんげ)!」



 ウィルソンと、何かをしたアリシアの術もろとも僕とミーシャの可愛い友だち――カナデ=シラヌイが敵を切り裂いた。



「もぅ! リョカ姉さまと神獣様をイジメないでよぅ! ぷぅぅっ!」



 長身の女性に炎を吐き出したプリマがカナデの肩に戻り、頼もしい精霊使いがアリシアと対峙した。



「……シラヌイって、ウチの()も届かないんだ」



「あたしの大好きな人たちに、一体何をしようとしていた!」



 完全に戦闘モードのカナデに、アリシアが肩を竦ませた。



「シラヌイに出張られるとちょっとウチじゃどうしようもないかなぁ。フェルミナ、ウィルソン、帰るよ」



「待って――」



「カナデ、追わなくて良い!」



 僕の言葉に、カナデが足を止めた。



「さっすが最速の魔王さんは違うねぇ。それじゃあルナ姉さま、ウチは帰るね。また来るけれど、その時は歓迎してね」



 ルナちゃんが彼女を睨みつけるけれど、そんなのどこ吹く風とアリシアは2人を連れて消えて行った。



 夜の帳に(しじま)が被せられて、僕たちは呆然と敵が消えて行った箇所を見つめていたけれど、すでに脅威がなくなったのがわかり、僕は盛大にため息を吐く。



「カナデ、ありがとうね」



 多分命の恩人となったカナデに僕は礼を言うと、彼女ははにかんで振り返った。



「今日可愛い笑顔を見せるって約束したから」



「そっか。うん、カナデは可愛いよ」



 頭と頬を撫でていると、ミーシャも僕の真似してかカナデを撫でまわす。



「何だかよくわからなかったけれど、あたしからも礼を言うわカナデ。あんたバカなだけじゃなかったのね」



「酷いよミーシャぁ――じゃなくて。酷いですわミーシャ、わたくしだってやる時はやるんですわ!」



 普段の調子に戻ったカナデを僕とミーシャが笑っていると、顔を伏せたルナちゃんがトボトボと近寄ってきた。そして僕の腰に抱き着くとそのまま小さく嗚咽を漏らし始めた。



「あ~、とりあえず帰ろうぜ。カナデ、プリマ、お前たちは少しリョカとミーシャについてやってくれない? 具体的に言うと、今日リョカの部屋に泊まりなさい。リョカ、良いわよね?」



「うん、僕は大歓迎だよ。カナデも良い?」



「はいですわ! お泊りとか久し振りで興奮しますわ!」



「はいはい、それじゃあ今日はカナデの好きなものを作ってあげるね。プリマも美味しいご飯を期待していて」



 動かないルナちゃんを僕は抱き上げ、みんなと一緒に寮へと帰るのだった。

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