魔王ちゃんと今日の予定
「先生こんにちは」
「こんにちは」
僕とルナちゃんはミーシャとアヤメちゃんを見送った後、学園内のヘリオス先生の部屋に訪れていた。
昨日のこととこれからのことを話すためであり、先生は僕たちを快く迎えてくれた。
「こんにちはリョカ=ジブリッド、それと月神様、今日も可愛らしいですね」
「ありがとうございます。リョカさんに髪をやってもらったのですよ」
クルリと回るルナちゃんが自慢するように髪を先生に見せびらかした。
今日はルナちゃんの髪を編み込み、一つにまとめたのだけれど、我ながら可愛らしく出来た。そして当然僕も同じような髪型にしており、ついでに服もお揃いにしている。
「まるで姉妹みたいですね」
「本当ですか? 嬉しいです。あ、でもヘリオス先生、月神様はちょっと。一応神性を抑えていますし、誰が聞いているのかわからないので」
「む……いやしかし」
「先生、ルナちゃんって呼んであげると喜びますよ」
「リョカ=ジブリッド、生憎ながら私はこれでも弁えられる大人なのでね、それなりの距離感でいさせてもらうよ」
「僕が弁えてないって言われているような気がするのですが?」
「そう聞こえたのなら自覚があるということなのだろう、歳を重ねながら直していくといい」
するとルナちゃんが人差し指を唇に添えながら思案顔を浮かべ、パッと笑顔が咲いたかと思うと、悪戯っ子な様なニマっとした顔を浮かべた。
「リョカさんはいつも撫でてくれて、いつも優しくて、抱っこしてくれて、暖かくて、わたくしこの距離感が心地よいのです。女神を敬うのが道理とするのであれば、リョカさんとミーシャさんは花丸満点なのですよ」
ルナちゃんがチラとヘリオス先生を見た。僕も鬱陶しいほどわざとらしくチラっ、チラっと先生に視線を投げる。
「……せめてルナ様と呼ばせてください」
「う~ん、もう一声ほしいですが、女神があまり人をイジメては示しが付きませんね。はい、ヘリオス先生、改めてよろしくお願いします」
「ルナちゃん強いなぁ。先生がたじろいでいるの初めて見たかも」
「2人揃うと尚更手が負えなくなりますね。それでリョカ=ジブリッド、今日は今後の予定について話しに来たのだろう?」
僕は人数分のお茶を淹れると、長椅子に腰を下ろした。
「はい、ああそれと先生、僕が倒れた後、しっかりと締めてくれてありがとうございます」
「いや、礼を言うのは私もだよリョカ=ジブリッド、カナデ=シラヌイを救ってくれてありがとう。彼女も、私にとっては大事な生徒です」
僕とルナちゃんは顔を見合わせ、真面目な先生を想って微笑みを浮かべる。
しかしすぐにらしくないと思ったのか、先生は咳払いを1度し、空気を普段通りに戻し、話を始めた。
「学園側も、滅多に見られるものではないと再開を約束してくれましたよ。リョカ=ジブリッドが回復、そして生徒の準備ができ次第最後の試合を行なうようにと」
「僕はもう回復しているんですけれどね、あとはジンギくんとランファちゃん次第かなぁ」
「君から見て、2人はどうですか?」
「瞬殺されますね。まず戦いの基礎が出来ていない。強敵と戦ったことがない。スキルが少ない。まあ挙げだしたらキリがないですけれど、とりあえず僕がフォローに回ろうと思います」
「ふむ、強敵との戦いでの動きを見てもらうという感じだろうか?」
「う~ん、強敵と出会ったのなら戦わないという選択一択なので、そういう見方だと危ない選択をしてしまいそうな子たちが出てくるかもしれないので、なんともですね」
「確かに。まあリョカ=ジブリッドが入ってくれるのなら上位冒険者同士の戦いが見られるわけですし、それはそれで勉強にはなりますね」
「でもそれですと、ジンギくんとランファちゃんの成長が望めないんですよね。出来れば2人には殻を破ってもらいたいですし」
「それは……難しいのではないでしょうか? あの2人は今までずっと逃げ続けてきた。それなのにいきなり戦えと言うのは酷だろう」
「そうなんですけれどね。一応相手はアルマリアですし、何だかんだちゃんとしたギルマスなので、昨日のようなことにはならないはずですけれど、あの幼女も脳筋ですからね」
「アルマリアさん、あの見た目でガイルさんとテッカさんと並んでいますからね。それに意外と派手好きですし」
「やっぱり難しいかなぁ。ソフィアに入ってもらうのも良いかもしれないですけれど、前衛が機能しないとあの子も動けないしなぁ」
「なかなか難しいですね。まあその辺りはリョカ=ジブリッドに任せます。ですので、今日少し2人と話をしておいてくれませんか?」
「……あ~、どうなんでしょう? ジンギくんはともかく、ランファちゃんは完全に僕を避けていますから」
「それを含めてジンギ=セブンスターとランファ=イルミーゼの訓練ですよ。魔王を倒すというのはそれほど過酷なものです。ですから2人には精神面での成長も期待したいです」
と、僕とヘリオス先生が纏めようとしていると、ルナちゃんがおずおずと手を上げた。
「あの、ミーシャさんが候補に挙がらなかったのは何故ですか?」
「メチャクチャにするのと、多分ジンギくんの心に多大な傷を負わせるのがありありと予想できるからですよ」
「そう、でしょうか?」
「あの聖女様がアルマリアとなんて戦ったら、そもそも結界が保てるかわかりませんし、巻き込まれた2人がどうなるのか――と、いうわけで、ミーシャはなしです」
どこか納得いっていないルナちゃんだったけれど、さすがに手加減の仕方を全く知らないミーシャをひよっこと組ませるのはリスクが高すぎるように思う。
「ルナ様の言いたいこともわかりますけれどね。まあそう言うわけだリョカ=ジブリッド、君には今から2人と会話をして、彼らの目的を聞き出すことと、助言をお願いするよ」
「……なんとかやってみます」
満足げに頷いた先生に頭を撫でられ、僕は覚悟を決めてカップのお茶を飲み干すのだった。




