魔王ちゃんと朝の一幕
「う~ん、おはようミーシャ」
「ん、おはよう。体はもう平気?」
「うん、体より頭を使う武器だから昨夜はちょっとフワフワしていたけれど、だいぶ良くなったよ」
昨日、家に帰ってきた僕はミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんの夕食を作った後倒れるように眠りについた。
本当は昨夜の内に話したいこともあったのだけれど、どうにも限界だったようだ。
僕が朝食をテーブルに並べていると、目惚け眼のアヤメちゃんが目を擦りながらやって来て、欠伸をしながら席に着いた。
「おはようアヤメちゃん」
「アヤメ、ちゃんと顔は洗いましたか?」
「ん~……まだぁ」
朝食の準備を手伝ってくれていたルナちゃんが、アヤメちゃんの手を引き、洗面所に向かった。
僕はそんな2柱をホッコリと眺めながら人数分のカップにお茶を注いでいく。
「2人ともかわゆいなぁ」
「こうやって一緒に生活して思ったけれど、ルナってお姉さんっぽいところがあるわよね。アヤメは、うん、結構残念な子よね」
「女神様だぞぅ、ちゃんと敬おうねぇ聖女様」
知ったこっちゃないという風にミーシャが席に座り、お茶を口に運んだ。
そしてミーシャがルナちゃんたちの方に目をやったかと思うと、頬杖を突きながら口を開いた。
「あの子たちも何か思惑があるみたいだけれど、どうにもルナが頑固なのよね」
「ありゃ、ミーシャも気付いた?」
「そりゃあこれだけ長い間女神が1つの場所にとどまっているなんてありえないでしょ」
「まあね~」
「あんたは何か聞いていないの?」
「まったく。けれど……」
僕は甲斐甲斐しくアヤメちゃんの世話をしているルナちゃんの声を聞きながら、何となく彼女の行動で気になったことをミーシャに伝える。
「どうにも守ってくれているみたいなんだよね」
「誰を?」
「僕たち」
ミーシャが呆れたようにため息を吐いた。
本来なら女神さまに守られるなんて名誉、聖女であるなら喜ぶところだぞ幼馴染よ。
「もっと力のない奴を守ってあげなさいよね」
「う~ん、どうなんだろうね。そのルナちゃんたちが敵対している存在が、名指しで僕たちに狙いを定めたのかもよ」
「あたし、いい加減ゆっくりしたいんだけれど」
「そうだね~、僕たち学園に通い始めてから巻き込まれっぱなしだもんねぇ」
そう言ったミーシャだったけれど、口角を上げて好戦的に嗤っており、ゆっくりする気がないことが窺える。
僕はゆっくりとどこかで旅行なんかしたい気分だけれど、暫くは叶わないらしい。
「それで、昨夜は聞けなかったけれど、僕が倒れた後どうなったの?」
「ああ、ヘリオス先生が締めてくれてあの場でいったん終了になったわ。セブンスターとイルミーゼとアルマリアの戦いはまた後日だそうよ」
「おお、まだ続けてくれるようにしてくれたんだ。さすが先生」
「これほど身になる授業はそうそう出来ないって言っていたわよ。まあセブンスターは複雑そうだったけれどね」
ジンギくん、結構小心者な気があるんだよね。ミーシャじゃないけれど、僕もあの子がどうやって殻を破るのかは楽しみではあるし、気が進まないだろうけれどアルマリアと頑張って戦ってほしい。
「それであんたは今日どうするのよ」
「う~ん? そうだなぁ――」
「カナデ?」
「ううん、可愛い顔を見せに来てくれるって言ったから、今回僕からは行かないよ」
「そう、ならあたしも止めておくわ。ガイルと殴り合ってこようかしら」
「それならガイルと一緒にオタクセたちを見てあげてよ。あの子たちはもう少し戦闘圧に慣れた方が良い」
「あたし、教わる側じゃない?」
「ミーシャはガイルとテッカとアルマリアに何を教わるのさ」
「3人の隙、かしらね」
「殴りに行く気満々じゃん」
どや顔で胸を張る幼馴染に僕は頭を抱えると、洗面所からルナちゃんとアヤメちゃんが戻ってきた。
「ま~た物騒な話でもしてんのかよ」
「今日のアヤメはポニーテールですよ。可愛く出来ているでしょうか?」
「はい、とっても可愛く出来ていますよ。ルナちゃんは後で僕が髪やってあげますね」
嬉しそうに喜ぶルナちゃんを抱っこし、席に座らせる。
「アヤメ、今日はあたしに付き合いなさい。オタクセたちをガイルと扱くから、あんたも見たいでしょ」
「おっ、あいつらには結構期待しているのよね。しょうがないわね、今日は付き合ってあげるわっ」
シイタケまなこで言い放つアヤメちゃんがとても可愛く、お昼のお弁当には彼女の好物を入れておこうと、この後用意するメニューを頭の中で組み立てる。
するとルナちゃんが控えめに袖を引っ張ってきたために、僕は彼女の頭を撫でる。
「きゃ~――それでは今日はリョカさんを1人締めですね」
「そうですよ~、じゃあ今日はルナちゃんとデートですね」
「まあっ、それでしたらぜひ、エスコートをお願いしたいですわ」
2人で顔を見合わせて笑っていると、ミーシャとアヤメちゃんが苦虫を噛んだみたいな顔をしていた。
「キラッキラ空間ね」
「……お前らよく恥ずかしげもなくそんな空間生成できるわね」
獣たちにこの可愛い空間はまだ理解出来ないらしい。
僕はルナちゃんと視線を合わせて、2人揃って肩を竦ませるのだった。




