表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/585

魔王ちゃんと傷心の精霊使い

「う~んぅ……んぅ? お?」



 目を開けた僕はベッドに寝かされていることに気が付き、起き上がって辺りに目を向けた。

 ミーシャ、ガイル、テッカ、ソフィア、それにルナちゃんとアヤメちゃんがおり、隣のベッドではこんもりと山が出来ており、頂上でプリマがふみふみしていた。



「おはようリョカ」



「ん、おはよう。どれだけ気を失ってた?」



「もうすぐでご飯時よ」



 僕が倒れたのが14時ほどだったから4時間ほどかな。

 僕は一度山――カナデが布団を被って丸まっているだろうベッドを見て、すぐにテッカを手招いた。



「ん、なんだ――」



「僕の友だちをイジメんなよ」



 そう言って彼の頭を一度はたいた。



「……そうだな、すまなかった。シラヌイ――カナデも、悪かったな」



 一度だけ隣の山がピクと動いたのを確認して、僕はこの場では似つかわしくない空気でキラキラ眼をしている金色炎の勇者に目を向けた。



「で、さっきのなんだ?」



「それにしか興味ないのかよぅこの戦闘狂」



「ああない。この話はテッカの問題で、リョカが解決した。あとはそっちの嬢ちゃんの問題だろ? 俺が出る必要なんてねぇだろ」



 相変わらずさっぱりしているなこの勇者は。と、僕は苦笑いを浮かべて銀色の球体を1つだけ生成した。



「セルネくんが僕だけの信仰で聖剣を作ったって聞いたから、僕も僕の聖剣……魔王だから魔剣って名乗るけれど、これを生成したの」



「お前、世の勇者が発狂するようなことをポンポン仕出かすんじゃねぇよ」



「その聖剣、いや魔剣か。それは治療用か? どんどんと後衛魔王になっていくなお前は」



「んなわきゃぁない。治療というか手術も出来る仕様にしただけ。この魔剣はこの球体の中に入ったもので攻撃方法を変える……まあファンネルみたいなものだよ」



「ふぁんねる?」



「アウトレンジ……相手の射程外から好き勝手出来る近距離から超長距離まで幅広い戦術が取れる武器かな」



「お前、マジで敵になんないでくれよ」



「いや、ガイルとテッカとアルマリアには、僕みたいに戦う相手に慣れといた方が良いだろうから、定期的にけしかけるよ」



「この手の武器は、ガイルが一番苦戦しそうだな」



「もうちっと聖騎士を磨くかね」



 どのように戦うかをイメージしているだろうガイルを見ていると、ミーシャとソフィアが僕のアガートラームをボールのようにして軽く投げ合っており、苦笑いでそちらに目を向ける。



「玩具ではないよ」



「あんたどんどん新しいことをするわね。あたしも何か変わった武器とか持った方が良いのかしら?」



「私もです。テッカさんとの戦いで、自分の足りないところが見えてきましたので、私も武器とかを持ちたいと思っていました」



「おい止めろ、お前らこれ以上変なことになると俺たちの立つ瀬がねぇ。そもそもミーシャはともかく、ソフィアも単体であれだけテッカについていけれただけで異常だぜ?」



「ああ、見事なものだった。最後はあんな風になったが、カナデがしっかりと前衛をこなしていれば俺も危うかったかもしれん。そもそも俺はお前の精神汚染を回避する術がない」



 褒められてうれしいのか、ソフィアが顔を赤らめ、控えめに顔を伏せた。



「そう言えばソフィア、今スキルは幾つ使えるの?」



「最終まで行きましたよ。テッカさんにも使おうとしたのですが……精神汚染も毒も聞く様なのでやめました。それにあんなところで使ったらその、屍の山がですね、その」



 可愛い顔をしてとんでもなくヤバいことを言っているソフィアに、僕はガイルとテッカと顔を見合わせた。



 すると隣で聞いていたミーシャが頬を膨らませており、僕はその可愛い顔を指でつっついた。



「ソフィアも最終まで行ったのね。あたしなんてまだ第4なのに」



「いや、おめぇなんでスキル4つしかねぇのにギフト2つ持ちに追いつけんだよ。成長の余地があり過ぎて普通に怖いんだが」



「ミーシャは知らないところでどんどん強くなるからなぁ」



 すると隣で見ていたアヤメちゃんが心底呆れたように深いため息を吐いたのが見えた。



「リョカ=ジブリッド、お前が活動しだしてから世界の均衡が意味わからないことになっているのよ。本当、歴代で最悪の魔王よ」



「女神も顔を出すほどですからね。ところでリョカさん、そのさっきの聖剣、魔剣なのですが、中にいたのは」



「ああうん」



 僕はガイルたちに目を向け、話そうかどうしようかを迷った。



「あれ、ロイ=ウェンチェスターだろ。ある程度のことはテッカに説明しておいたぜ」



「血冠魔王をも配下に加えるとは何事だお前は」



 呆れたテッカに、首を傾げたソフィアとまたしてもピクと布団を揺らしたカナデ。

 流石に黙っているわけにもいかないかとソフィアとカナデに向けて説明を始める。



「血冠魔王は死んだんだけれど、魂だけは……ロイさんの場合半分なんだけれど、それがクマに宿っていてね」



 僕の説明に理解が及んでいないソフィアだったけれど、ルナちゃんが補足として僕が見せなかった血冠魔王との戦いをルナちゃんが彼女に見せてくれた。



「……そういうことでしたか。なんというか、私ではその、まだ判断が出来ないことですね。ですけれど、リョカさんが選んだのであれば、私は何も言いません」



「ありがとうソフィア。それでそのロイさんがカナデの手術に協力してくれてね。僕じゃあ血を補うことは出来なかったから、すっごく助かったよ」



「血ってそんなに大事なの?」



「血が抜けすぎると人間って死ぬんだよ。だからああやって体を開いたり切ったりする手術には、患者の持っている血以外の血が必要になってくるの。しかも血ってAとかBとか人それぞれで違っていて、同じ血じゃないと駄目なんだよ」



「……難しい」



「つまり、ロイさんがカナデの血と同じ血を提供してくれて、あの子は助かったってこと」



 するとミーシャが僕の腰にかかっていた神官クマを手に取り、それをベッドにおいて頭を下げた。



「あたしの友だちを助けてくれてありがとう。助かったわ」



 すると、普段は動かないロイさんが一度だけミーシャにお辞儀を返した。



 ミーシャからロイさんクマを受け取り、僕は立ち上がる。



「もう良いのか?」



「うん、これ以上ゆっくりしていると夕飯作れなくなっちゃうからね。で……」



 僕が一度カナデに目を向けると、察してくれたガイルとテッカが部屋を出ようとしてくれた。



「あんたに任せるわ」



「はい、リョカさんお願いします」



 ミーシャとソフィアも外に出てくれ、僕は息を吐く。



「それではわたくしたちも……ほらアヤメ、行きますよ」



「え? 俺たち女神よ? もっと干渉する権利が――」



「ありません、こんな場面に女神が出張っても邪魔なだけですよ」



 アヤメちゃんを引きずって行ったルナちゃんに手を振り、僕は移動してそっとカナデが丸まっているベッドにゆっくり腰を下ろした。



 ビクと揺れる布団だったけれど、僕はそっと手を伸ばし頭があるだろう箇所に手を伸ばして撫でてやる。



「カナデもお疲れ様。今日は大変だったね」



「……」



「む~カナデちゃん、リョカお姉さまがポンポンしてくれてるよぅ。顔を出そうよぅ」



「良いよプリマ」



 今カナデがどんな気持ちでいるのか、僕にそれはわからない。だから僕は今から勝手にしゃべるし、彼女の気持ちも無視するかもしれない。

 でも僕は魔王だからね、他人の気持ちなんて関係ない。



 僕はただ、カナデと一緒に笑って世界を過ごしたいだけだ。



「ねえカナデ、僕ね、笑っているカナデが可愛くて大好きよ」



「――」



「いつも空気なんて読まないし、言いたいことはすぐに口から出るし、元気に爛漫に、僕たちの心を明るくしてくれるカナデが可愛くて仕方がないの」



 僕は布団の中に両手を入れる。

 すると体が小さく震えており、頬に手を添えると涙なのか頬が濡れていた。

 僕はそのまま彼女の顔に手を添えて布団越しにその頭を抱き寄せる。



「僕がカナデのこと嫌いになると思った? それともまた傷つけてしまうのを怖がっているだけか。それともどちらもか」



 ついに布団の中から嗚咽が漏れて聞こえてきた。



「本当にバカな子なんだから。ミーシャもソフィアも、セルネくんだってオタクだって、テッカだって、笑っていないカナデに負けるほど弱くはないんだよ」



 僕はプリマを手招き、カナデと一緒に抱き寄せる。



「もちろんプリマだって、カナデが思っているほど弱くなんてないよ。ね?」



「うん、プリマはすっごい精霊なんだよぅ、カナデちゃんがおいたしたらブンってするもん!」



 元気いっぱいに跳ねているプリマに頬笑みを向け、僕は少しだけカナデの頬をつねる。



「それに僕がいる。どんなことが起きても、どれだけの理不尽が起きようとも、僕がいる。魔王舐めんな」



 最後にもう一度、ギュッとカナデを抱きしめて僕は離れる。



「それじゃあプリマ、あとはよろしくね」



「うん。リョカお姉さま、本当にありがとうだよぅ」



 僕は後ろ手に手を振り、部屋から出て行こうとする。



 すると、衣擦れのようなカサという音が鳴り、僕は足を止める。



「リョカは……」



「ん~?」



「リョカ、わたくし――あたしは、また笑っていても良いの?」



「当り前でしょ、カナデの笑顔は可愛いんだからちゃんと笑っていないと駄目だよ。可愛いは万物より優先すべきことなんだから」



 そうして僕は扉に手をかけて部屋から出て行く。



「ちゃんと!」



「……」



「明日には、ちゃんと可愛く笑うから――」



「うん、たくさん撫でちゃる。カナデ、僕は絶対に君を1人になんてしない。だから、遠慮なんてしないでその可愛い笑顔を僕に向けな」



 頷いたような気配を背中で感じ、僕は今度こそ部屋から出て行くのだった。

テッカ=キサラギ


 勇者の剣、風切りのテッカ。第2ギフトは影喰。シラヌイとの確執があり、戦いでは八つ当たりではあったが厳しい面を見せていた。当然そのことを反省しており、どうやって償うかをずっと考えている。しかしカナデが思った以上に強いシラヌイであったために、次は後れを取らないように体を鍛えようと模索中である。

 プリムティスに来てよかったことは、ヘリオスや他の学生など茶飲み仲間が出来たことで、冒険者としてあちこちを飛び回っていた際では得られなかった平和的安寧の時間が出来たことである。



ソフィア=カルタス


 リョカたちと同級生の鍵師。学園ではリョカとミーシャと並び最強の一角とされている。

 鍵師としての能力はあのゲンジ=アキサメをも凌ぐほどで、才能がある。しかもその才能に加え、召喚先の異界がリョカの転生前の世界基準となっており、女神であるルナたちの管轄の外であり、力の制限が外れているために、あり得ないほど強力。

 すでに最終スキルまで習得しており、最終スキルは誘拐された際に習得したもので、それを使った時、敵は全て原型が残らないほどの状態になったという。

 学園に通い始めて良かったことは、リョカやミーシャという目標が出来たこと、自分の成したいことを固められたこと、追い越したい背中が出来たこと。強くなることを望めたことである。



カナデ=シラヌイ


 リョカたちと同級生で精霊使い。いつも笑顔を絶やさない活発な少女で、ミーシャと同じく考えることが苦手であるが決して脳筋というわけではなく、無理なことはしっかりと逃げることも出来る。

 今回、シラヌイという名前が起こした事件が起きたが、本人はあれが何かもわかっておらず、それどころかどうしてあんな技が使えるのかもわかっていない。

 そもそもカナデは、中学以前の記憶がなく、自分がどこをどうしてここに辿り着いたかもわかっていない。が、リョカたちとの出会いもあり、過去は全く気にしない系女子に育った。

 精霊のプリマとは仲が良く、いつも一緒にいる。が、プリマはカナデの元気過ぎる突拍子もない行動にほとほと呆れているけれど、口では色々言いながらも何だかんだ毎回付き合ってボロボロになっている姿をよく目撃されている。

 学園に通ってよかったことは、当然友だちが増えたことと、大好きがたくさん増えたことである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ