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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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聖女ちゃんと救いたいもの

 リョカが集中し始めた。

 目を閉じて何かを思案しているみたいだけれど、カナデのこと考えているのは間違いなく、あたしは幼馴染を邪魔しない程度の殺気をあの精霊使いに投げつける。



 けれどカナデはそれをすんなりと受け流すだけでこちらを見向きもしない。

 普段ならちょっとした殺気を向けるだけで、目を輝かせてあたしに近づいてきたのに、今はその面影もない。



 いや、よくよく考えたら普段からそういうのに対して、好奇心はあったものの恐怖心がなかった。それは彼女がシラヌイだったからかと納得が出来た。



 カナデのことを考える。

 素直な子で、言葉も行動も表情も豊かだ。でも……今のカナデは、どうにも初めて出会った時と少し似ている気がする。

 空っぽな容器に無理矢理何かを詰め込んだような違和感がある。

 昔のカナデは、それこそリョカに自傷行為だと諭される前は無理矢理笑っていたというより、笑顔しか知らないような子だった。

 でもそれも怒っていても笑顔、悲しくても笑顔、何をしても笑顔という酷く歪なものだった。



 あの子はそれを約束だと話してくれた。

 何も知らなかったあの子が、唯一約束のことだけははっきりと口にした。



 笑顔でいてほしい。あなたが笑っていれば、きっと変わるから。



 シラヌイの話を聞いて、以前カナデが話していた約束を思い出した。



 正直、あたしはそんな呪いを残した奴が許せない。



 一体、あたしの友だちに何を背負わせてくれているのかとぶん殴りたい気分だ。



 拳に力がこもるのがわかる。あたしから殺気が漏れているのがわかる。本当に腹が立ってきた。

 カナデを、あたしの友だちを――。



「誰かの都合に巻き込んでんじゃないわよ」



 立ち上がって戦闘圧を放つと周囲の学生たちが泡を吹いてぶっ倒れていく。

 ガイルとアルマリア、アヤメはあたしを引き攣った顔で見ている。

 ルナは嬉しそうに微笑んでいた。



 そして、こちらを見向きもしなかった戦闘中のカナデがテッカから距離をとって戦いを止め、あたしを見た。



「っ! ミーシャ=グリムガント、神獣の加護を受ける聖女、理解不能なスキル使用。脅威度、この場で最も危険な人物として――」



「らしくないしゃべり方をしてるんじゃないわよ! あんたあたしと同じで馬鹿なんだから、自分のことくらい、この拳で決めなさい」



「――」



 テッカとソフィアに背を向け、あたしに向かって飛び掛かってくるカナデ。

 なんだ、こういうところは似ている(・・・・)のね。



 突っ込んできたカナデがリョカの結界に阻まれ、結界と彼女の短剣が火花を上げた。



 あたしはその場に座り込む。



「焦るんじゃないわよ。もしあんたが2人と戦っても尚そのままなら、あたしが相手してあげる。ただし、あたしは2人ほど優しくはないわよ。あたしの友だちはカナデよ、あんたは殺してやるわ。もっとも、あんたがこの場を切り抜けられたらだけれどね」



「ゲートオブクインクェ!」



 ソフィアが召喚した触手付きの丸っこい何かがカナデの脚を掴み、そのまま振り回した。



「まったく……聖女らしい、とは言えんが、戦闘の補助も出来るじゃないかミーシャ。それが本来の聖女の役割だぞ」



 格好つけて笑っているテッカに視線を返し、リョカのようにベッと舌を出して余計なお世話だと挑発する。



「物珍しい分リョカより可憐に見えるな。見た目だけは――『影鏡(かげかがみ)幾閃(いくせん)』」



 影からテッカと背格好が同じ真っ黒な人影が複数顕れた。



「絶影・転」



 途端、神速とも言えるスキルが発動し、影もろともテッカが姿を消し、次の瞬間にはソフィアの出した怪物もろとも切り裂かれたカナデが体中に傷を作りながら宙へと舞った。



 元に戻す方法なんてわからない。けれどとにかくあの子を大人しくしなければどうにもならない。その後のことはリョカに任せれば良い。

 それでも手詰まりなら……あたしが顔面を殴れば良い。聖女の顔面パンチは何にでも効く。

 きっと主もそう言ってくれる。



「……言いませんよ?」



 あたしはルナの肩を掴み、ジッとその目を見つめる。



「――せ、聖女の顔面パンチは、ば、万能? です、よ?」




 青い顔をして震えているアヤメを横目に、あたしは握り拳を作ると再度地面に叩きつけられたカナデに目をやる。



 ふらふらと立ち上がったカナデが一度あたしを睨みつけてきた。

 少しだけ、感情が表に出てきている気がする。もうひと押しだろうか。と、気を緩めていると、カナデの空気が変わった。



「ソフィア、テッカ――」



「裏不知火・夢幻白凪(むげんしらなぎ)



 まただ。

 最初テッカに一瞬で近づいた技らしき何か。それを使って、カナデがまたしてもいつの間にかソフィアの傍に現れた。



 気配なんてあったものではない。本当にいつの間にかそこにいた。



「え――」



 驚くソフィアだったけれど、反応出来ていない。

 カナデの小剣が振りかざされたけれど、風が奔る。



「ソフィア伏せろ!」



 テッカが頭を伏せたソフィアの頭上でカナデの剣を止めた。



「二度は効かん!」



「裏不知火・死行」



 突如剣から手を離したカナデがつんのめったテッカの腹に向けて掌を向けた。



 最初と同じ攻撃、すでに避けられない体勢のテッカが奥歯を噛みしめたように見えた。

 カナデの掌がテッカに触れた。



 テッカの体が浮き上がり、彼の体の動きから衝撃が奔ったことが窺えたけれど、テッカが血を吐き出しながらカナデの手を両手でつかんだ。



「……捉えたぞ。如月流――」



「テッカさん足下!」



 ソフィアの叫び声が響くが、すでに遅い。



 剣を手から離したカナデだったけれど、それはしっかりと脚で掴んでおり、捕まえたのはテッカではなくカナデで、彼女はテッカの腕をしっかりと拘束して足の剣を高く蹴り上げ、さらにもう1本の短剣を脚で掴んだ。



「裏不知火――」



「ここまで読んでいたか。今期のシラヌイは随分と優秀だな」



山全(さんぜん)



 宙の剣がテッカに刃を向けたと同時に、カナデが彼を突き放し脚の剣で切り裂いた。

 上下からくる斬撃に、テッカは背と腹を切られそのまま血を流しながら倒れかかる。



「テッカ!」



 ガイルが飛び出そうとしたけれど、降ってきた剣を手に取ったカナデがテッカに止めを刺そうとしており、すでに間に合わない。

 リョカはと幼馴染に目を向けてみるけれど、まだ動けないのか苦悶の表情を浮かべていた。



 カナデの凶刃がテッカに届く刹那、それが(・・・)カナデの目の前に躍り出た。



「だめぇ!」



 精霊使いの半身とも言えるリョカ曰くキツネの精霊――プリマが悲痛の叫びを上げた。



「アルティニアチェイン」



 大教会を使用、そして瞬時に神獣拳を使い、拳に32連のチャージ――あの子をやらせるわけにはいかない。



「こんなのカナデちゃんじゃないよぅ! カナデちゃんが笑っていないのなら、プリマがここにいる理由はないよぅ!」



 精霊の死というものはわからない。けれどもしここでプリマをカナデが傷つけてしまったら、二度とあの子は戻って来ないような気がする。



 しかしカナデは何の顔色も変えず、そのまま刃を振り下ろした。



 両目を瞑るプリマ、そしてテッカも同じ結論に至ったのか、必死に手を伸ばしていた。



 あたしもガイルも間に合わない。



 ただただ、肉を割く音だけが鳴り響いたのだった。

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