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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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魔王ちゃんと遠い日の不知火

「戦闘空間の展開を確認、身体機能3割低下中、標的を排除するのに問題ないとして活動を開始」



 相変わらず背筋が凍るような冷たい声を発するカナデ。

 彼女が言った戦闘空間とは、戦闘圧をドーム状に展開している物を言っているのだろう。しかしそんな芸当をやってのける人を僕は見たことがない。



 ギフトも使わず、この場にいるガイル、テッカよりも戦闘圧を巧みに操っている。

 これは所謂、間合いというものだろうか? 正直武術には詳しくなく、その辺りのオカルトチックな根性論は得意ではない。



 そしてそんなカナデを見て、ミーシャが動き出そうとしているのがわかった。



「ミーシャ! お前はそこで大人しくしていろ!」



「……あんたボロボロじゃない」



 立ち上がったテッカがミーシャを怒声で止めた。



「お前ではカナデを殺してしまう! ガイルもアルマリアも、リョカもそこで黙って見ていろ!」



「だがテッカ、経験上、その嬢ちゃんは大分ヤバそうだぜ。それに怪我ならリョカが――」



「駄目なんだ! リョカじゃ治せない。いや、それどころか」



 アヤメちゃんの先ほどの話で予想はしていた。

 正直そうでないことを願っていたけれど、多分カナデは、シラヌイは。



「スキルでの治療は出来ない。というか無効化されるんだよね」



 テッカが頷いたことで、ミーシャが信仰を込めた拳を下ろした。



「……リョカ、何とかできないの?」



「ごめん、あのレベルの相手だと、僕も手加減できるかわからない」



 不安そうなミーシャの声に、僕は首を横に振った。

 それに正直、どのような状態であれ、あれはカナデなのだ。あの子に敵意を向けるなんてしたくない。



 だから僕は、今出来ることをするためにソフィアとテッカに向かって信仰を届け、その傷を治した。



「……助かったリョカ」



「ううん、でも」



「任せておけ、それにこれは俺の責任だしな。シラヌイに思うところはあったし、ほぼほぼ八つ当たりではあったが、正直戦場からさっさと引いてもらいたかったからな。強引な手を使ったのが裏目に出たか」



 いつものテッカに戻ったことに安堵はしたけれど、あれはいくらなんでもやり過ぎなために、僕は彼に説教をすることを決めた。

 そして短剣を構えたテッカがカナデと対峙し、細く短く呼吸を繰り返した。



「ソフィアも下がっていろ、お前まで付き合う必要はない」



 するとソフィアが首を横に振ったと思うと、大きなタコを消し、再度鍵を回した。



「ゲートオブドゥオ」



 大量の畜生たちを召喚し、カナデを囲んだ。



「いいえ、まだ状況を理解していませんけれど、カナデさんが異常な状態なのは理解出来ます。カナデさんは、私にとっても大事な人です、あの状態が健全でないというのなら、私は喜んで戦います。それに――」



 カナデがソフィアにも視線を向け、彼女を攻撃対象に含めたのがわかったけれど、そんな視線を受けて尚、鍵師が不敵な笑みを崩さずに鍵を振りかざした。



「生かさない、けれど殺さない。私の得意分野です」



「なんとも、令嬢という枠に抑え込んでおくのがもったいない奴だなお前は」



 出来れば傷つけずに無力化してほしいけれど、そうもいっていられないために、テッカとソフィアを信じることに決めた。



 それじゃあ2人が戦っている間、僕は僕が出来ることを思考する。



 そもそも、カナデのあの状態は一体何なのだろう。

 あれが本性? と、確定するのは少し尚早な気がする。明らかに別人で、まさかの二重人格とも考えたけれど、そう言うのでもない気がする。

 中学からの付き合いだけれど、本当にそう言う気配は微塵もなかったし、これはもしや、僕たちが知っているカナデという存在の問題ではないような気がする。



 今僕に圧倒的に足りない情報は、シラヌイ。きっとカナデの問題というより、シラヌイの問題が関わっていると推測する。



 僕は舞台のカナデが動き出し、テッカと近接戦闘をを始めたカナデを横目に、アヤメちゃんに意識をやる。



「……俺が知っているシラヌイに戻ったわね」



「アヤメちゃんが知っているシラヌイというのは?」



「さっきも言ったけれど、シラヌイに関しては本当に知らないのよ。でもシラヌイにやられた奴ならたくさん知っている。そいつらの目を通してだけれど、シラヌイって言うのはみんなあんな感じだったわ」



「38代も続く家系ってよっぽどだよね?」



「ああ、どこからどこまでが本家の血筋かはわかったものじゃないけどな。1年に数回代替わりすることもあるのよシラヌイって。でもあまり乗り気じゃない奴がカナデの前の代にいたようないなかったような……」



「というかあんた全く役に立たないわね。カナデを助けるためにもう少し頭を捻りなさい」



「ミーシャどうどう」



 アヤメちゃんに食って掛かろうとするミーシャを宥めつつ、僕はもう1柱の女神様に目を向ける。



「ルナちゃんは何か知りませんか?」



「う~ん、私の管轄ではないので、シラヌイの名は聞いたことはあるのですが、アヤメ以上には――いえ、1つ推測出来ることはあるのですが」



「は? 俺の知らないこと? なによそれ」



「アヤメ、10年前に何があったか覚えていますか?」



「10年前? なんかあったかしら」



「カナデさんが何故ああなっているのかわたくしにもわかりませんけれど、カナデさんの年齢から考えて、多分テッカさんが20歳の時にベルギルマを出たのではないでしょうか」



「テッカが20歳の時……あ、魔王のベルギルマ襲撃か!」



「ええ、多手剛腕の怪力魔王」



「ヤマト=ウルシマの襲撃か。なっつかしいな」



「ガイル知ってるの?」



「知ってるも何も、俺が勇者として初めて倒した魔王だ。テッカと2人でな。そいうやぁその時テッカが何か言っていたな」



 僕はガイルの頭をペシペシと叩く。大事なことだから早く思い出してほしいけれど、どうにも希望はない。



「少し失礼します」



 するとルナちゃんがガイルの頭に手をかざし、瞑想した。



「……俺も焼きが回ったか。この場面で、シラヌイを消す好機だったのにな。ですか」



「あっ、あ~思い出した。そういやぁ俺が初めてテッカと共闘した時、魔王の軍勢じゃない奴らと戦っていて、その時若い女が腕に何かを抱いて走り去るのを見たんだよ。そうしたらテッカがそう言って」



「いやそれ絶対カナデでしょ。もしかしてテッカ、その時のこと覚えているのかな」



「いや覚えているだろ。というか今にして思えば、あの時戦った奴がシラヌイか。あの嬢ちゃんを前にして背筋が凍る感覚、あの時も覚えたな」



 するとアヤメちゃんが首を傾げており、僕は彼女に意識を向けた。



「シラヌイが逃げたぁ? それはあり得ないでしょう」



「どうして?」



「シラヌイはシラヌイを道具としか思ってないわ。治療も出来ないし、致命傷のシラヌイを放置して撤退する奴らよ。しかも全員がそれを容認している、瀕死の奴もな」



「いや、俺が見た感想になるが、あの時の女は恰好こそ同じだったが、そこまで冷たそうなやつじゃなかったぜ。テッカに向かって頭下げていたし」



 ガイルとアヤメちゃんが互いに首を傾げてしまい、これ以上の情報は出てこないことを察する。



 今の話を纏めると、シラヌイとは割と極悪非道で、テッカも疎ましく思っており、戦いを仕掛けたけれど、その時にちょうど魔王の襲撃があった。

 そして何らかの理由があり、カナデとカナデの母親らしき人がシラヌイを捨てて国を出て行く。

 シラヌイは非道な集団であるけれど、カナデの母親らしき人はその例外で、そのおかげでカナデは今のような可愛らしい女の子になった。



 そういえば、中学の時のカナデは何も知らないと話していた。もしかして中学に入る前に頭に何らかの衝撃を受けて、記憶がなくなってしまったとかだろうか?

 もしくは心に重大な傷を負ったとか……。



 僕は一度思考を止め、舞台に目をやる。

 そこでは冷たい顔をしたカナデが、テッカと剣戟を繰り広げており、2人の完成された戦闘に客席の学生たちも息を呑んでいた。



 しかしやはりソフィアのサポートは完璧で、テッカが押されるとすぐに畜生たちを差し向け、戦闘のテンポを保っていた。



 あちらは2人に任せても問題ないと確信した。



 さて、では僕はもう1つ考えることがあり、そちらに頭のリソースを割り振ろうとする。



 今現在直面している問題で最も厄介なのは、カナデに治療スキルが利かないということである。

 万が一を考え、何か対策をしておこうと僕は決めた。けれどどうするべきか、あまりぶっつけ本番をしたくはないし、そもそも足りないものが目下1つある。

 それをクリアしないと、正直カナデが怪我をした時に助けられないだろう。



「――ん?」



 すると、腰の辺りから何か違和感を覚え、僕は首を傾げるのだった。

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