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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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魔王ちゃんと知らぬ火

「どうして!」



「……あれは、戦う必要がない」



 激昂するように大声を上げたソフィアに、テッカが冷たいとも感じた声を上げた。



 意識を手放しているカナデをちらと見て、僕は動き出そうとしたけれど、アヤメちゃんに腕を掴まれて止められてしまう。



「カナデ、治療しないと」



「治療班に任せておきなさい」



「僕の方が確実――」



「リョカ=ジブリッド、お前はカナデを治療したことがあるのか?」



「え? いや、どうだったかな。ダンジョンの時は……」



「わたくしが薬草やらの道具を使って治療しました」



「どうして今そんなこと――」



 僕がアヤメちゃんに尋ねようとすると、舞台の方から大きな音が鳴った。



「全てを蹂躙する異界の化け物よ! 私の声を聞け、私の意思を刻め、全ての敵を消し飛ばせ!」



 ソフィアが召喚した第5の扉の化け物が彼女の命令を聞いて、その口から本来なら墨が出るだろうビジュアルから、ビームを射出した。



 テッカが天神を巧みに使いながらそれを躱すためにあちこちに逃げ回っているけれど、僕はふと、苦い顔をしているガイルに目をやった。



「加減、しているとはいえ、らしくねぇな」



「あんなテッカさん初めてですよぅ。あの子、大丈夫でしょうか~?」



「うん、血は流れているけれど致命傷ではないと思う。けど、大分傷ついているから何とかしたいんだけれど」



 僕がアヤメちゃんに目をやると、彼女は顔を逸らした。

 しかしルナちゃんがアヤメちゃんを小突くと、彼女はため息を吐き、ばつの悪そうな顔を浮かべた。



「色々言いたいことがあるのはわかるわ。けど、あまりテッカを責めないであげて。あれもあれで色々考えた結果ああいう行動をとっているのよ」



「そりゃああいつが訳もなく傷つけるとは思っちゃいねぇけどな、それにしたってやり過ぎだぜ」



「あれで済んだのはテッカのおかげでしょ。そもそも、テッカにシラヌイを傷つけることは出来ないわよ」



「あの、アヤメさま、それよりもシラヌイとは何ですか? カナデはとってもいい子ですよ」



 セルネくんの問いにアヤメちゃんが頭を掻いた。



「なあリョカ、お前はエレノーラが動いたことに関して奇跡だと言ったな」



「う、うん」



「俺からしてみりゃあ、シラヌイ……カナデが笑って学園に通っている方が奇跡だと思っているわよ」



「それってどういうことですか?」



「それとセルネ=ルーデル、お前は今、シラヌイとは何かと聞いたわね?」



「は、はい、カナデも俺の友だちです。だから、もし彼女に何かあるのなら、微力ながら力になってあげたいんです。だから知りたい」



 強い意志を乗せたセルネくんの言葉に、ミーシャも頷いていた。しかしアヤメちゃんは首を横に振った。



「どうして」



「いや違う。俺は知らない(・・・・)のよ」



 全員が首を傾げる、ミーシャに至ってはアヤメちゃんに殺気を放ち、胸倉を掴む始末である。



 けれど僕は、先ほどからのアヤメちゃんの言葉から、ある推測をしていた。

 そもそも女神様が、どのような方法で人を区別しているのかは知らないけれど、少なくともルナちゃんがこの間持ってきた鏡のような道具で覗いていないのは確かだろう。

 ならばどうやって人々に神託を下したり、所謂人と女神を繋いでいるのか。それは信仰だろう。



 この世界の住人は誰しもが信仰を持っている。それをパイプにして人々とコンタクトを計っているのではないだろうか。



 ここまでは想像でしかないけれど、つまり女神さまはほとんどの人間を知っているはずであり、しかしそれをわからないと言わせるのであれば、自ずと思いつく結論がある。



「シラヌイって、まさか女神さまの加護って」



「ない。シラヌイは、加護もギフトも捨てた異常者よ。しかも本人に干渉するスキルはほとんど素通り、さっきソフィアがやって見せた精神汚染とかね」



 そこで合点がいく。カナデが精霊使いとしてのギフトを上手く使えないのも、元々がギフトを操れる状態になかったからで、きっとシラヌイという背景が邪魔をしている。



 けれど、それならカナデは何故ギフトを得ることが出来たのだろうか。そう考えて僕は改めてカナデに目を向けるのだけれど。



「――? あれ」



「あ? どうかした」



「いや、カナデの気配が、何か変? というか……気配が消えた」



 僕がカナデの異常を察知した瞬間、隣で話を聞いていたミーシャが突然飛び上がって後ずさり、背後にある客席ごと生徒数人を吹っ飛ばした。



「み、ミーシャ?」



 ミーシャの額には脂汗が浮かんでおり、まるで強敵と対峙したかのような反応で舞台を……カナデがいる箇所を睨みつけていた。



 そして体中に赤いオーラを纏ったと思うと、テッカに向かって口を開いた。




「テッカ! 避けなさい!」



「は?」



 舞台にいるテッカもソフィアも、ミーシャの傍にいた僕もガイルもアルマリアも、女神2柱も聖女の警告に、ワンテンポ遅れて反応した。



 けれど彼女の警告の意味をすぐに理解した。



 それは風とも違う、影とも違う。

 まるで最初からそこにいたかのように、空間を転移したわけでもないにもかかわらず、ごく当然のようにそこにいた。



 気配なんてなかった。風の揺らぎすら感じなかった。まるで世界すら認識していない。

 数十メートルの距離を、ゼロ秒台で歩いた(・・・)かのように全く影響のないほど自然に、彼女はそこにいた。



「な、に?」



 ソフィアの召喚した怪物の触手を刻んでいたテッカが、ゆっくりと顔を下ろし、自身の懐に潜んでいた彼女を、カナデを見ていた。



裏不知火(・・・・)死行(しっこう)



 テッカの懐に入り込んだカナデが、今まで聞いたこともないほどの抑揚のない声で告げた。



 彼女の両手がテッカの腹部に触れ、そっと押し出したのだけれど、それだけやってカナデは一歩、二歩と下がる。



「――っ!」



 しかし次の瞬間、テッカが口から大量の血を吐き出し、その場で跪いた。



 何が起きた。戦闘においてある程度の事柄は察知できる程度の目は持っているつもりだった。

 けれど今カナデがやったことに関しては全く理解が及んでいない。

 いつ攻撃したのか、あの腹部に触れた時、何が起きたのか、僕は理解出来ていなかった。



「おいリョカ、アルマリア、今の見えたか?」



「……ごめん、全然わからない」



「私もですぅ」



 ガイルもアルマリアも、今のカナデに対して脅威を覚えているのか、体に力を込めていた。



「おいアヤメ、あれは一体誰よ(・・)



「いやミーシャ、あれはカナデでしょ?」



「違う。あれは、怪物よ」



 あの聖女様が、怪物と言った。

 血冠魔王にすら怯まなかったミーシャがカナデに敵意を向けている。



「標的、テッカ=キサラギ。キサラギ家の現当主、金色炎の勇者の剣、風切り――任務を阻害する者として、シラヌイ38代目当主がテッカ=キサラギを敵性因子と認定。ただいまより戦闘空間を展開、空間内の敵性反応をすべて排除します」



 冷たい声、笑顔なんて欠片もない無表情。

 感情などないロボットのような、変わり果てた友人に、僕は呆然とする。



「カナデ……いや、シラヌイは、テッカのキサラギと並ぶ。もっともっと古い、ベルギルマの殺し屋一族だ」



 アヤメちゃんの説明に、僕たちは驚きに声も出せなくなるのだった。

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