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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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魔王ちゃんと邪見の精霊使い2

「表不知火――」



 カナデは何故か靴を脱いだ後、鎖鎌を手に持ち、ナイフ、鉤爪などの武器というより、暗器を上空に投げそのまま駆け出して満面の笑顔でテッカに鎖鎌を投げつけ、行動を制限した。



「朧祭り!」



 テッカに接近したと同時に上空の暗器がちょうどカナデの真上に降ってきて、脚でナイフを掴み、切り付けては放り、すぐに手に装着した鉤爪で切り付けては放り、放ったナイフを別の手で持ち切り付け――それを繰り返す連続攻撃、コロコロと攻撃の出所が変わるあの技は異様に躱しにくそうで、曲芸じみたそれにテッカが舌打ちをしたのがわかった。



「……」



 次々と切り傷を作っていくテッカが段々と顔を伏せていき、どうにも奥歯を噛みしめているようだった。

 やはり様子が変である。

 思えばカナデとプリマを除いたベルギルマの関係者の様子が、シラヌイと接してからどうにもおかしい。



 一体シラヌイ……カナデが何だというのか、あの子はいつも笑っていて、言葉が素直で、誰よりも他人を好きになれる素敵な女の子だ。

 僕はカナデをそう評しており、何より彼女は僕の友だちで、ミーシャもソフィアも、セルネくんもオタクたちだってきっと彼女を好いている。



「ん?」



 そんなことを考えていると、舞台から発せられる空気が変わった気がした。



 いや違う。

 空気が止んだ。

 まるで時が止まったかのように凪ぐその風に、僕の額から突然脂汗が流れた。

 体が、心が警告を発した。



 死を連想する空気に、僕は息を吸うのも忘れた。




「おいテッカ!」



 ガイルの声に、僕はハッとして舞台に意識を戻す。



「……如月流疾風一式(・・・・・・・)・風祭」



「ふぇ――」



 テッカが持っていた一対の短刀をカナデの両サイドに投げた瞬間、風が頬を撫でる。

 ただそれだけのことなのだが、その風が確かな実態を以って僕に恐怖を与えた。



 テッカの姿がぶれたと同時に、カナデの背後にいつの間にか移動していた。



 そして再度風が吹いたと思うと、カナデから鮮血が噴き出した。



 客席は口があることも、言葉も忘れてしまったかのようにシンと静まり返り、倒れ伏せたカナデに目をやっていた。



「ガイル、今の」



「テッカの技だ。あいつ、なんでいきなり」



 ガイルも突然の出来事に言葉を失っており、どうにもテッカの真意を察することが出来ない。



「後で医療班にでも治してもらえ。お前はそこで寝ていろ――ん?」



「イヤ、ですわ」



 しかし血まみれになりながらもカナデが立ち上がり、相変らずの笑みを浮かべて武器を構えた。



「……致命傷を避けたか。その年でそれほど不知火を極めているのか」



「なんのこっちゃわからないですけれど、わたくし、ここで負けたくはないんですわ」



 僕とミーシャが安堵の息を吐いたけれど、カナデの言葉にテッカが怒りの表情を浮かべた。



「そうまでして力を手に入れたいのかシラヌイ!」



「……わたくし、あなたが何を言っているのかこれっぽちもわからないですけれど、多分他の誰かに負けても、こうはならないですわ、けれどあなたには、あなたには負けてはいけないと。もし負けてしまったら、きっとわたくしは笑えなくなるから」



「俺が憎いのかシラヌイ」



「いいえ。わたくしが何者かなんてどうでも、いいんですわ。でも、でも――わたくしが目の前にいるのに、わたくしの誰か(・・)を見ているあなたなんかに負けてしまったら、きっと、わたくしは……あたしは、あたしじゃなくなるから」



 血を流しながらも確かに声にしたカナデに、僕たちは呆然とする。

 テッカの変わり様にもそうだけれど、あのいつも変なお嬢様言葉のカナデが真面目に会話をしていることに驚いた。



「何を言っているんだお前は」



「あたしは、あたしはただ、笑っていたいだけ。どんな状況でも、どれだけあたしを傷つける何かが襲ってきたとしても、笑っていたい。それが、約束、だから」



「笑っていたいだと? お前が、シラヌイが笑っていたいだと――ふざけるなよ。お前が、俺たちが、そんな夢を抱いて良いはずがないだろうが!」



 テッカが武器を構え、カナデへの攻撃を再開しようとすると、2人の間に毛玉がすっ飛んできた。

 その毛だま、プリマは威嚇するように鳴き声を上げると炎を吐き、カナデを庇うように立ちふさがった。



「カナデちゃんをイジメないでよぅ! カナデちゃんをイジメるんなら、プリマが許さないんだからぁ!」



 今にも泣き出しそうなプリマの声に、一瞬テッカがたじろいだけれど、すぐに鋭い戦闘圧を放ち、攻撃対象をカナデに定めた。



「如月流疾風二式――」



「六門の五――我が腕を引き千切る修羅の権化、我がためにその身を(いくさ)に沈めろ! 『六つに別れし扉の五(ゲートオブクインクェ)』」



 テッカの正面に、いつか見た巨大なタコのような化け物が召喚された。



「暴れ尽くしなさい!」



 ソフィアの指示に、耳をつんざく様な咆哮を上げたタコがその触手を高速でテッカに向かって放った。

 一体どこに仕舞っていたのか、何十何百の触手がテッカに襲い掛かり、テッカは舌打ちをしながら百壊を召喚、その触手に剣を走らせた。



 そしてソフィアが駆け出し、カナデを救助しようとしたのだけれど――。



「させんよ――『影伝い(かげづたい)(こがらし)』」



「っつっ!」



 傷ついているカナデが傷を舐めているプリマを持ち上げ、遠くへと投げた瞬間、影を伝う風が、カナデを切り裂き、そして風圧で吹き飛ばした。



「あぐっ!」



 舞台と客席の境界の壁に激突したカナデがそのまま意識を失うように、四肢から力がなくなり地へと投げだした。



「お前はそこで寝ていろ、もう戦うな。それが、お前のためだ」



 冷たく言い放つテッカに、僕もミーシャも、彼と一緒のパーティであるガイルとアルマリアも、あまりの出来事に言葉を放てないでいるのだった。

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