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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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魔王ちゃん、鍵師ちゃんの強さを見る

「さて始めようか――と、言いたいところだが、シラヌイはどうした?」



「えっと、その……」



 やる気満々のテッカとは対照的に、顔を逸らして苦笑いのソフィア。

 カナデは確かにマイペースな子だけれど、時間はしっかりと守る子だし、そもそもこの手のお祭り騒ぎには率先して首を突っ込むタイプだ。



 怖気づいたというわけでもないだろうけれど、まさかまだお腹が痛いとこそんな理由だろうか。



「あの子、またバカみたいな理由で遅れているんじゃないかしら?」



「まあ愛嬌だよね。ちょっと待ってて――と、すぐ近くに。というか、そこにいるね」



 控室から舞台までの一本道、その終着点でカナデが壁にもたれかかっていた。



「もぅ! カナデちゃんのバカバカ! どうしてあんなに食べるのよぅ!」



「うぐぅ……だっへ、たくさん食べた方が、元気出るんですわ」



「限度ってものがあるでしょぅ! もうバカバカ!」



 よたよたと歩いてくるカナデに、テッカが頭を抱えていた。



「あ、カナデさん、もう大丈夫ですか?」



「うぃ……だ、だいじょ――おぇぇっ!」



 花も恥じらうなんて言ったら古臭いかもしれないが、女子高生なこの時分でおっさんのような嘔吐きを見たくはなかった。ましてやそれが中学来の友人でクラスメートだと信じたくはないけれど、彼女に関しては終始あんな感じであり、実力は付いてきたはずだけれど、どうにも真剣みが見られない。

 今回の催しを通してカナデにも戦う者としての自覚が芽生えてくれれば良いのだけれどと、僕はカナデくまを生成して癒しの力を使おうとするけれど、そこで気が付く。



「あれ?」



「まったくあの子は――ん、リョカどうかした?」



「いや、カナデのクマがいない」



「いないって言うのは、何処かに行ったってこと?」



「う~ん? そもそもクマになってないっぽい。なんでだろ」



 そこそこ懐かれていると思っていたけれど、あまり歌とかに興味がないのだろうか? 嫌われることをした覚えもないし、どうにもクマになっていないことが引っかかる。



 そうして頭を捻らせていると、テッカが臨戦態勢に入った。



「もう始めるぞ。体調が悪いのならそこで見ていろ」



「申し訳ねえですわ。す、少ししたら突然混ざるですので、お気になさらずですわ」



 呆れていたテッカだったけれど、一瞬だけだけれどカナデを心配げな表情というか、気を遣っているような顔で見たことに気が付き、首を傾げる。



「行くぞソフィア」



「はい、では初手はいただいちゃいますね――六門の壱、我が(かいな)に抱かれし下僕たち、我がためにその身を捧げ、我に仇なす全てを喰らえ。ゲートオブウヌス」



 ポッコリお腹のイカが大量に現れ、ソフィアを守るように陣形を組んだ。



「異界の化け物とはいえ、目の前に存在しているのならそれは命だ、俺で殺せないものではない。天神・韋駄天」



 前傾姿勢になったテッカの姿が影を残して消えた。

 ミーシャと戦った時もそうだったけれど、ただ純粋に速いだけのあのスキル、実は意外に厄介である。

 クレインくんなどの自己強化型とは違い、速いという結果を付与しており、体に与える負担は皆無という破格の性能をしている。

 しかもテッカから聞いた話では、負担がかからないから速さの割に小回りが利き、動きの融通が利く。

 純粋な速度だけであるのならこの国、それどころか世界中と比べてもトップクラスのスピードを誇るだろう。



 もっとも、速さだけであるために、動いた際の衝撃もなければその速さ自体を攻撃にすることは出来ないそうだけれど、それでもあの速度には目を見張るものがあるだろう。



 テッカは宣言通り、次々とイカたちを切り裂いていくのだけれど、ソフィアは慌てもせずに地に落ちて消えて行くイカたちを眺めていた。



「この程度ではないだろう、さっさと力を出せソフィア」



「……線はいずれ点へと至る。追えないほどの速度であろうとも、それには終着点がある」



「なに――」



 テッカが最後のイカを切ろうとした瞬間、そのイカが大きく口(・・・・)を開けた。



「喰らいなさい」



 大口を開けたイカ、というより風船のように膨らんだイカが触手と胴体の境にある口らしき箇所をテッカに向けてまるで壁のようになった口で風斬りを誘い込んだ。



「これは――『瞬華(しゅんか)影牢(かげろう)』」



 イカの口にあわや突撃というところで、テッカがスキルを使用した。

 影から伸びた幾つもの刃がテッカをすり抜けてイカを串刺しにしていく。



「……流石に、あの勇者たちと違って甘くはないか」



「次は逃がしません」



 すでに移動していたソフィアが再度召喚したイカたちをテッカの周囲に控えさせていた。



 先ほどまではフワフワと浮かんで触手を振るっていたイカたちだけれど、今度はソフィアが鍵を持った手を振るうことでしっかりと指示を飛ばしていた。



 触手を使いながら速さで勝るテッカを追い込んでいき、イカの口へと誘導している。



 そんなソフィアの戦い方を、ガイルとアルマリアが興味深そうに見ていた。



「ああされると弱いんだよな俺たち」



「頭のいい相手には基本的に弱いですからね~」



「というかからめ手全般苦手でしょ」



「まあな。だがソフィアは見事なもんだな、あのわけわからん生物一体一体に指示を飛ばせている。実質一対多の集団戦だ」



「テッカさんの苦手な分野ですよね~」



「あいつ、一対一に特化してるからな」



「唯一の救いはソフィアのイカたちが脆いってことだね。攻撃さえ入れば無力化できる、けれど」



「ありゃあ第1スキルだろ? というかあいつ、第1スキルで何体召喚できんだよ」



「最初の時から結構多かったけれど、多分数だけなら第2スキルの方が多いね」



「マジか」



「ほら、使うみたいだよ」



 イカたちを向かわせているソフィアだったけれど、動きに適応し始めたテッカにため息を吐いた。



「これでは届きませんよね――強制閉門。次、六門の弐、(かいな)に縋る畜生たち、救いも忘れたその心、我が為に駒として動け。ゲートオブドゥオ」



 イカたちが一斉に消え、テッカが振った短刀が空を切った。

 そうしてテッカが一息吐こうと息を吐いたのも束の間、ソフィアが新たに開いた門から様々な動物たちが飛び出した。

 その数は30、40にも上り、一気に舞台を覆った。



「厄介な。この数は少し、骨が折れそうだ」



「行きなさい!」



 ソフィアの号令と共に畜生たちがテッカに襲い掛かる。



「影夢・空」



 流石にあの数を相手には出来ないと判断したのだろう。テッカが球を取り出し、それを舞台に叩きつけると煙が上がり、以前ミーシャにも使った存在転置によって姿をくらました。

 けれど、今回ばかりは悪手であると良いざるを得ない。



 まあ仕方ないと言えば仕方のないことだけれど、この世界の住人は私の世界で言う動物たちへの警戒心が少ない。

 魔物という存在がいるから家畜なんて珍しいし、害のない動物のほとんどは人間に保護されるほど弱い個体ばかりで、獣とは程遠い存在。

 ソフィアが呼びだした畜生たちは、彼らにはか弱く映ってもしょうがないけれど、私の世界の動物はそれほど甘くはない。

 人対魔物対動物という世界で生きているわけではなく、人と対峙することを前提に生き残った生物、もしくは進化した生物ばかりである。



「あの数を操りますか~、でもなんだか弱そうな魔物? ばかりですよね~」



「……おいリョカ、アルマリアはこう言ってるが、お前の考えは違うみたいだな」



「相手にしているのは動物だよ。セルネくんちょっとおいで」



「え? 呼んだ」



 ぴょんぴょんとやってきたセルネくんを撫でると、彼のお尻から尻尾が生えてきて、頭には耳が生えてきた。

 耳も尻尾も彼を撫でるとピコピコと動き、機嫌よくしているようだった。



 そんなことをしていると、気配を別に移したテッカに向かって、犬型の怪物が襲い掛かった。



 もちろん本体を。である。



「なにっ!」



「逃がしませんよ」



 テッカはもちろんのこと、ガイルもアルマリアも驚いていた。



「おいおい、あの魔物には探知機能でもついてるのか?」



「テッカさんを捉えられる魔物なんて聞いたことないですよ~」



「ねぇセルネくん、目を瞑ってテッカの位置を指差して」



「え? そんなこと出来るとは思えないけれど……まあやってみる」



 セルネくんは言う通りに目を閉じ、集中し始めた。するとその際に耳がピクピクと動き、鼻をスンスンと鳴らしていた。

 そして彼はおずおずとだけれど、煙の中をあちこち指差した。



「ね?」



「セルネにもわかんのかよ」



「え、あってました――痛い痛いミーシャ痛い! なんで!」



「ミーシャはあれに散々やられてたからね」



 僕はガイルたちにわかるように自分の鼻と耳を指差す。



「確かに気配を読むのならテッカのスキルは強力だけれど、匂いと音を隠せていない。ソフィアが出したあれはね、鼻は人の3000倍……えっと、匂いをかぎわける能力も凄くて、耳も良いの。だから気配を隠しただけじゃすぐに明かされる。ちなみにセルネくんの聖剣の元になっているイメージの動物と似たようなものだから、セルネくんにもそんな能力が付与されている。多分だけれど、感覚強化したクレインくんでも見つけられるね」



「鼻と耳か。それは盲点だった」



「本来なら、一番最初に潰すべき弱点だよ。まあ魔物も知恵があり過ぎて感覚に頼らないのも多いみたいだししょうがないっちゃしょうがないんだけれどね。魔物に文明を与えたのは一体どこの女神さまなんんだろうね」



 僕がチラリとアヤメちゃんに目をやると、頭を抱えていた。



「文明ってお前、知恵を与えたのは俺じゃないわよ。俺は管理しているだけよ」



「そうなんですか?」



「そっ、というか今どき動物の能力でギフトに対抗してくる奴がいるなんて思わないわよ普通」



「ですね、多分本来の門の怪物ならああはいかなかったと思います。嗅覚3000倍ですか、凄く発達した動物が生き残っているのですね」



「絶滅しちゃったのも多いけれどあれは畜生道です、凶悪で駆除された動物も混ざっていると思いますよ」



 顔を引きつらせる面々を余所に、セルネくんを隣に座らせて抱き寄せ、ルナちゃんを膝に乗せて撫でながら僕はテッカとソフィアの戦いに視線を戻すのだった。

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