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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
10章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る2

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魔王ちゃんと鍵師の世界

「よいしょっと」



「おかえりリョカ、あいつらは?」



「ん~、あっちでみんなにちやほらされてるよ」



「そう。で、どうしてエレノーラ?」



 先ほどガイルとオタクセたちの戦いが終わったばかりなのだけれど、すでに舞台には目を閉じたテッカが中央で集中しており、戦いを今か今かと待ちわびていた。

 


 そして僕は客席の最前列にいるミーシャたちと合流し、席に腰を下ろすとエレノーラくまを膝に置いた。



「ああ、別にさっきの舞台にも組み込んでいたんだけれど、声が聞こえなくなる時もあるから、出来るだけアンテナの感度をよくしようとエレノーラを近くに置いてるだけ」



「……わかるように言って」



「エレノーラのスキルで声を視えるようにしているだけだよ」



「なるほど。本当便利ねあんた」



 ミーシャがエレノーラくまを撫でると、エレノーラが身をよじり、気持ちよさそうにしていた。



「さて、テッカは随分とやる気だね」



「まあソフィア相手だしね。正直、ソフィアに関してはガイルもテッカも見てあげる必要がないんじゃない?」



「あの子どんどん強くなっていくからね。でもやっぱり先生は必要だと思うよ。あの子も一応箱の中で育ってきたタイプだから、知っているのと知らないのとじゃ大分差が出る」



 すると、隣で話を聞いていたアルマリアが首を傾げた。



「あのぅ、ソフィアさんってそんなに強いんですかぁ?」



「鍵師としての才能なら、あのクソジジイより上手よ」



「……あのぅ、私は彼女のことをカルタスのご令嬢だと聞いているのですがぁ」



「令嬢が強いといけないのかしら?」



「あ~、いえ、グリムガント家が言うと説得力がすごいですね~」



 どこか釈然としていないアルマリアを傍に引き寄せて撫でていると、ガイルも傍にやってきた。



「強い鍵師っていうのを、俺はゲンジしか知らねぇしな。お手並み拝見と行くか」



 みんながソフィアへの期待を高めていると、舞台に件の鍵師が歩みを進めてきた。



 オタクセのように緊張した面影はなく、普段通りの涼しい顔をして舞台に上がってきたソフィアは一度深くテッカに頭を下げた。



「遅れて申し訳ありません。少し準備というか、その……とにかく、遅れてしまったことを謝罪します」



「いや、俺も急かしたようで悪かったな。だが、どうにも俺もお前と戦えることを楽しみにしていたらしい。俺たちがいない間、随分と活躍していたらしいじゃないか」



「そのような評価がもらえていたのなら、頑張ったかいがありました」



 まさに風を切るような鋭いテッカの殺気を、まるでそよ風のように受け流すソフィア。

 けれど、あの眼鏡の下の可愛らしく佇んでいる瞳には、強者と対峙する挑む者としての決意がしっかりと現れており、力にも溺れず、慢心も欠片もない良い表情をしていた。



「驚いた。ソフィアの奴、あのテッカを前にしても顔色1つ変えねぇのか」



「あの子、一体どんな依頼を受けてきたのかしら?」



「さあ? でもなんか確実に何かをやりとおした顔をしているよね」



「それについては私から説明しましょう」



「あ、先生」



 ヘリオス先生がここにいる人数分の飲み物を手にやって来て、ソフィアに何があったのかを話てくれると言った。



「本人の意向で公にはしていないが、リョカ=ジブリッド、ミーシャ=グリムガントが依頼で町を離れている間、彼女は誘拐されてね」



「大事件じゃないですか!」



「どこのどいつよ、あたしがぶっ潰すわよ」



「いや、その件はすでに解決した。子どもを誘拐してあちこちに売る組織が絡んでいたのだが、ソフィア=カルタスは子ども全員を守り通しただけではなく、組織そのものを1人で壊滅させた」



「子どもを誘拐……」



「ガイル知ってるの?」



「いや、ああまあ、だが俺が知っているのは結構大物だったはずで、それを1人でとなると」



 するとアルマリアが驚いた顔をしており、僕は彼女に目を向ける。



「いえ~、確かあったはずです。私がこっちに帰ってきた時、マナから書類の束を渡されたのですが、私がいない間のことだったのでマナに投げてきたんですけれど~、その中に『パルミラ』壊滅の報告があったはずです」



「いや待て待て、あそこにはウィルソンがいるだろ」



「ウィルソン?」



「ウィルソン=ファンスレター、Aランク冒険者で、腕のいい殺し屋だ。テッカが一度戦ったことがあるが、それなりに負傷していたぜ」



「えっと、ウィルソンはどうだったかなぁ~。ちゃんと報告書を読んでおけばよかったです~」



「そんな相手がいたのですか」



「え? 先生も把握していないの?」



「いや、その……」



 ヘリオス先生が珍しく口ごもっている。僕は詳細を聞こうとジッと見つめると、先生は諦めたように口を開いた。



「わからないのだよリョカ=ジブリッド、ソフィア=カルタスの鍵師としての実力は本物だ。いや、むしろ危険だと言わざるを得ない」



「僕やミーシャより?」



「それは――同等だろう。報告を受けて私も現場へと行ったが、彼女が戦った後、その後に残されていたのはすでに区別がつかなくなった(・・・・・・・・・・)遺体だけだ」



「えっと、ごめんね先生、ちょっと言っていることがわからないんだけれど」



 ヘリオス先生の言葉に、全員が言葉を失っていると、ルナちゃんが腕を引っ張ってきた。



「なぁにルナちゃん?」



「いえ、その、言おうか迷っていたのですが、これで確信が持てました。結論から言うと、ソフィアさんが開けた世界は、わたくしたちの管轄外の世界です」



「え? どういうこと?」



「多分ですが、リョカさんは彼女の世界を知っていますよね?」



「六道でしょ? 死んだ後の世界のことだよね」



 ルナちゃんが首を横に振る。



「やはりですか。リョカさん、鍵師は確かに異界から怪物を召喚します。けれどそれは、この世界に在る異界(・・・・・・・・・)からです。例えば、この世界での死後の世界だったり、人では誰にも入ることの出来ない神の領域だったり、とにかく異界といってもこの世界に在る世界ばかりなのです」



「……あれ、ルナちゃんは六道って」



「もちろん知りません」



 僕は嫌な予感に額から汗を流す。

 そのような例外があったと結論付けるのは簡単だ。けれど違う。この世界でその世界とかかわりを持っているのはおそらく私だけだ。

 ならばソフィアの開いてしまった世界とは、どうして開いてしまったのかを考えて、僕は彼女から顔を逸らす。



「もしかして、僕のせい?」



「えっと……はい。きっと未熟な鍵師であったときに、最も身近に在った世界を開いてしまったせいではないかと」



「あ~それでか、俺もさ、暇だったからギフトを得た後のあんたたちを見ていたんだけれど、あのソフィアって子、鍵師のスキル暴走にしてはおかしかったのよね」



「おかしいというのは?」



「だって暴走ってもっと使用者が傷つくし、もっと手に負えなくなる感じだもの。でもあの時、あんたが関わったとはいえ、被害がまったくなかったじゃない。あれは暴走じゃなくて、知らない世界に呼び出されて怪物が困惑していただけなのよ」



 僕たちの話にまったく付いて来られていない面々を横目に、僕はがっくりとうな垂れる。

 確かにそうだった。暴走と聞いてあの場を収めたけれど、みんなの空気感と被害が合致していなかった記憶がある。

 それじゃあそもそもの話、ソフィアはスキルを暴走させていない? いやそれはこの際言いっこなしにしよう。



 僕は脂汗を流しながら補足してくれたアヤメちゃんをなでなで。



「それで話を戻しますが、そのせいかソフィアさんの召喚した怪物はこの世界の理から外れている可能性がありまして、つまりその」



「本来ならかかるはずのセーフティがないってことかな? だから凄く強力になってしまう」



「はい。彼女の才能ももちろんですが、さらに呼び出す物まで強力だと、ええ、手に負えないですね」



「……史上2人目の女神さまがさじを投げた女の子爆誕」



「いやあんたも含まれているから3人目よ」



 アヤメちゃんの言葉を受け流したのだけれど、もしかして僕は鍵師の傍にいない方が良いのではないだろうか。



「あ、でも最近はそういう世界の揺らぎも落ち着いているので、これ以降そういう鍵師が生まれることはないと思いますよ」



「そっか、良かった」



「いやよくねぇよ。お前の周りにいる奴はおかしい奴ばかりだな――いたたたたっ! ミーシャ止めろ! あんたが一番おかしいのよ! 自覚しろこの不良聖女!」



 ミーシャが無言でアヤメちゃんとジャレているとガイルがジト目を向けてきていた。



「よくわかんなかったが、ま~たお前が絡んでんのか。まあ強い奴が出てくんのは大歓迎だが、少しは自重しろよ」



「……あい、以後気を付けます」



 僕は僕の知らない場所で起きた影響にげんなりしながら舞台に目をやる。

 これも僕の責任だ、もしソフィアになにかあったら全力で助けに入ろうと誓いながら、まだ出てこないもう1人の問題児が早く来てこの空気をどうにかしてくれることを願うのだった。

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