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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
9章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る1

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魔王ちゃんと挑む者と金色炎の勇者との戦いの結末

「――」



 その銀色の毛並みに僕は見入ってしまう。



 この世界には存在しない獣の形、僕が私だった時に持っていたイメージとしては気高い獣で、群れを大事にするなどの面が漫画やアニメではしょっちゅうピックアップされていた。



「なんだあれ、魔物か? いや、見たこともない種類だな」



「似たようなものはいますけれど、あんなに綺麗ではないですよねぇ~」



「魔物じゃねぇな。というかあの勇者、面白いことをするわね」



「……単体の信仰での聖剣顕現、普通なら1人の信仰で出来ることは限られているのですが」



 ルナちゃんがチラリと僕に目を向けていることに気が付き首を傾げる。



「リョカさん、今セルネさんはあなたから抱かれている信仰だけを使って聖剣を顕現させたのです。だからあの形は、あなたが彼に抱いているイメージなのですが、あれは?」



「狼だね。なるほど、納得した。ワンコ、ワンコだと思っていたつもりだったけれど、僕は多少はセルネくんのことを格好良いと思っていたらしいね」



 首を傾げるルナちゃんとアヤメちゃん以外の面々の視線を躱し、僕はセルネくんを見つめる。

 彼は僕に振り返っており、何か言葉を待っているようだった。



 僕は立ち上がり、苦笑いを浮かべながらも顎でガイルを指す。



「頑張れ勇者様、今日はすっごく格好良いよ」



 どことなく照れている様が見て取れる銀色の狼に、僕は声を漏らして笑う。



 そうしてセルネくんが改めて金色炎の勇者と対峙した。



「ま~たあいつか。ったく、とんでもねぇ魔王様だよ。勇者すら夢中にさせちまうっつうのは普通なら恐怖でしかないんだがな」



「……俺もそう思います。けれど、これが意外と心地いいんですよ」



「知ってる」



 勇者2人が互いに笑う。

 けれど次の瞬間にはセルネくんが銀色の空気を残して飛び出した。



「テッカみたいな高速型か? いや、単純な速さだけじゃねぇな」



 ガイルの言う通り、セルネくんはただ速いだけではなかった。

 彼から放出されている銀色の空気が少しの間宙に残っているのだけれど、どうにもそれが足場になるらしく、空中にも一瞬だけ乗ることが出来るみたいで、上も下も右も左も、縦横無尽に駆けて行っていた。



「こりゃあ面倒だな……セルネ!」



 あちこちからくる攻撃をその身に受けながらも、ガイルは怯むことなく笑っていた。そんな彼が大声を上げる。



「お前たちの実力はよくわかった。ったくとんでもねぇよお前たちは。で、お前たちの実力はわかったしあんまり長引かせてもしょうがねぇだろ。だから俺はこの一撃で決めるぜ」



「……」



 ガイルの提案にセルネくんが足を止めた。

 きっと受けるつもりなのだろう。今はまだ、聖剣の力を理解するまでには至っていないから、この機会にどれほどできるのかを確認したいのだろう。

 もちろん彼に驕りはなく、全力を以ってその提案に挑むつもりなのだろう。



 戦いの終わりが近い。

 僕も、ミーシャもテッカも、アルマリアも、ルナちゃんもアヤメちゃんも、見守っている生徒たちも、誰もが息を呑んだ。



「行くぜ」



「全力で――」



「金色の炎を超える者はなし! 全ての悪を燃やし尽くす希望の炎、穿て――これが俺の全開だ! 神気一魂!」



 勇者の最終スキル、血冠魔王との戦いで使用したためにそれなりに威力は落ちているはずだけれど、それでもスキル使用と同時に発生した戦闘圧の大きさから考えて、今のセルネくんでは脅威になるだろう。



 圧倒的なエネルギーが塊となり、それをガイルが殴りつけてセルネくんに飛ばした。



 セルネくんは飛び出し、口に咥えた金色の剣をエネルギーの塊に叩きつけた。

 四本足でしっかりと大地を踏み、エネルギーを剣で止めた。



「んぐぐぐぐ!」



「しっかり踏ん張れよセルネ!」



 徐々に後退していってしまうセルネくんに僕は祈るような気持ちでエールを送る。声には出していないけれど、頑張れと。



 すると隣で見ていたミーシャが立ち上がった。



「あんたそんなもんじゃないでしょ! これから先、まだまだあたしたちと依頼を受けたいのならもう少し根性見せなさい!」



 腕を組んで言い放つミーシャの声援に続くように、周りの生徒たちも次々と頑張れとエールを送り始めた。



「良い勇者だな」



「でしょ? 学園の勇者くんは伊達じゃないんだよ」



 そんな後押しを受けてか、セルネくんの聖剣がさらに輝きを増す。



「ああぁ! 一声喝魂!」



 生命力を回復させたセルネくんが、口から血を流すほどの力でエネルギーを押さえ込んでいる。

 けれどそれだけではあれを突破することは難しいだろう。

 状況をひっくり返すことの出来る何かをセルネくんが思いつかなければならない。でも、一体この状況で――。と、僕が彼を見ていると、金色の剣から金色の粒子が伸びていた。



 そもそも彼本体から発生している銀色の粒子もよくわからない。あれが彼の聖剣の力なのだろうか。



「あぁぁっ! まだ、まだ――こんなところで、折らせはしない!」



 聖剣からどんどん溢れていく金色粒子、それは剣から伸びていき……いや、そうではない。剣から放出されている。

 金色の剣を形成している信仰が金色の粒子になっていると予想する。

 つまり、あれは剣から発生しているのではなく、剣という形を成している物が崩れている。



「もっと、もっと大きく――」



 口に咥えている一般的な剣の大きさをした聖剣が、改めて成形されようとしていた。



 その剣は通常の剣の形を捨て、ガイルの身長すら超える巨大な剣へと姿を変えた。



「セルネ、あんたみたいな戦いをし始めたわね」



「あはは」



 セルネくんが大きくなった剣を思い切り振りきった。

 その瞬間、エネルギーの塊は真っ二つに斬られ、金色炎の信仰はそれぞれに飛び上がり、僕の結界に触れて大爆発を起こした。



「よし!」



 セルネくんが喜びのあまりにその場で遠吠えを上げた。

 その声に会場が湧いた。

 戦いの最中に。なんて野暮なことが頭を過ぎったけれど、嬉しさを爆発させるのは仕方がないことだろう。と――そう思っていた時期が僕にもありました。



 舞台に目を戻すとガイルの姿がそこにはなく、僕は首を傾げたけれど彼の姿がセルネくんの傍に映ったのだけれど、金色炎の顔を見てつい声を漏らす。



「え?」



「すまんセルネ、嘘だ!」



「ほぇ?」



 素っ頓狂な声を上げるセルネくんに、ガイルが拳を打ち付けて吹き飛ばした。



「きゃんっ!」



 壁に直撃したセルネくんの可愛らしい悲鳴を聞きながら、僕はそれを呆然と見つめる。



「きゅぅ~……」



「悪いなセルネ、だがお前たちの飼い主も言っていたぜ。ちょっとズルい方が可愛いってな!」



 聖剣が解除されて目を回しているセルネくんと頭を抱えるテッカとどや顔のおっさん、そしてひどくシンとした会場。

 けれどすぐに破裂するような怒声があちこちからあがった。



「ふざけんなぁ! 誰がおっさんの可愛さなんて求めてるんだよ!」



 僕は私の世界に在った空き缶のようなものをあちこちに生成して、それをガイルに向かって投げた。

 それに倣うように生徒たちもガイルに向かって空き缶を投げる。



「いて、いておい止めろ! 俺は勝者だぜ? そもそもあそこで気を抜く方が――ぬぉおっ! あぶね!」



 ガイルの顔面目掛けて剛速球が飛んでいった。

 一般人が喰らったら間違いなく顔が吹っ飛びミンチになるレベルの威力である。



「てめぇミーシャ殺す気か!」



「クソ勇者、あとで覚悟しておきなさい」



 ミーシャもまた、それなりに怒っているらしい。

 まああんな結末をまさか勇者がするとは思っておらず、イラッとしたのだろう。



 とはいえ、これ以上みんなが怪我しないで良かったと結末はどうあれ、僕は胸をなでおろす。



「すまん、あいつが馬鹿なのを忘れていた」



「ガイルさん、ああいうところありますよね~」



 苦笑いの一行を横目にしていると、ルナちゃんが袖を引っ張ってきた。



「決着がどのような物であれ、とても良い戦いでした」



「だな。おいルナ、タクトとクレインは俺が貰うわよ」



「もう、また勝手に。ですけどリョカさん、これほどまでに女神を熱中させた彼らには相応のものを与えたいので、治療が終わったらでも良いので、連れてきてくださいませんか?」



「はいはいわかりましたよ」



 僕はルナちゃんとアヤメちゃんを撫で、舞台へと降りた。

 そして気絶しているセルネくんを抱えて、オルタくん、タクトくん、クレインくんの傍に行く。



「ガイルもおいで」



「おう、悪いな」



「もぅ、もう少し格好つけられなかったの?」



「これ以上負けるわけにはいかないからな。それにここで負けちまったらこいつらの先生にはなれねぇだろ」



「はいはい」



 客席の生徒たちが、魔王が何をと騒ぎ始めたけれど、僕は大きく息を吸い、この戦いの覚悟と決意に敬意を込めて、それを信仰にして口を開く。



 そしてそれと同時に、スキルを1つ。



「絶慈・アンリミテッドディーバ」



 今この場で傷ついている戦士たちを模したクマたちが現れ、周りでクルクルと踊り出す。

 僕は心を込めて歌う。

 この場にいるオタクセと金色炎の勇者、そしてクマたちに届けるように癒しを届ける。

 歌によって傷を癒していく様に、周りの生徒たちが驚きの表情を浮かべていた。



 すると、僕の膝の上で気を失っていたセルネくんが目を覚まし、ぼんやりとした顔を僕に向けていた。



「……綺麗」



「ん、ありがと」



「へ? え? あ、あ! ああいやその――」



 現実に引き戻されたのか、顔を真っ赤にしたセルネくんがあたふたとしており、立ち上がろうとしたために、僕は手で押さえ込みそのままにさせる。



「まだ無理しちゃだ~め。もうちょっと傷を治してからね」



「は、はひ」



 そうして、オルタくんもタクトくんも、クレインくんも目を覚ます中、僕は歌を唄い続け、ついでに壊れた舞台の再設置をしていくのだった。

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